俺ら、スカイランナーズ 十一話

 書類の内容に歓喜の声があがった。

 「やったぞ!」思わずガッツポーズをする。「みんなで琵琶湖に行くぞ!」

 完全に作業どころではないテンションになり、広重も打ち上げをしたいと言い出して大学近くの居酒屋を予約していた。俺も学生課にも急いで伝えに言った。

 「おお、良かったじゃん! じゃあテレビで見れるってこと?」

 「ちゃんと飛べば……、ですが」

 「飛ばしてね」

 「頑張ります!」

 「また職員でも伝えておくね」

 「はい、ありがとうございます」

 学生課を後にする時、梅中さんがなかなかの声量で「人力エアーレースにうちのクラブが通った」と叫んだのが聞こえた。少し恥ずかしいのでせめて俺が建物から出てからにしてほしかった。


 飲み屋でも店主が祝ってくれて、フライトポテトとサラダをサービスしてくれた。多分井戸が言ったんだと思う。予約したのも彼だと言っていた。本当にこれだけ影響力があるんだな、と自覚する。

 「しかし後にも引けなくなったな」栗坂が盛り上がる後輩らを見ながら言ってきた。「完成させないといけないし、それからテストフライトもあるんだぞ」

 「分かってる。でもこれで落選だったりしたらチームとしてのモチベーションも下がるだろうしひとまずは良かったよ」

 住平が横から会話に割り込んでくる。

 「スケジュールやばいんですか?」

 「というよりも作るのが初めてだからどんな感じが良いのか分からない、という感じ。他のチームの話もきいてるけど、細かい作業の進捗具合までは入ってきてないしな」

 広重は減量と体力作りのために酒を控えてソフトドリンクだけを飲んでいるはずだが何故か一番酔っているように見えた。良くわからない事を言っては笑っている。

 「本当に飲んでいないのか」

 「飲んでないっす」彼ははっきりとした呂律で答えた。「初出場で優勝する気でいるんで!」

 「頼むぞ」色んな意味を込めて言った。

 「任せてくださいよ!」そう言ってまたさっきのテンションに戻る。

 必死の表情で汗水を垂らしながらトレーニングをしているが、弱みや辛さを口にしている事が無い気がする。部員それぞれに苦労しているが、それでもやはりパイロットのトレーニングがいちばん過酷で精神的にかかる負荷も部内でいちばん大きいはずだ。

 もしかしたらああいったキャラも作っているのではないかと考えた。

 「急に深刻な顔してどうした?」栗坂が気にかけてきた。

 自身で思っていた以上に考え込んでいるように見えたらしい。

 「栗坂は広重と二人きりで飯とかあるか?」

 「いや、ない。何か心配事?」

 「酒も飲まずにあのテンションになってるのがちょっと気になってな。ちょっとした弱音とかも聞いたことがないから」

 「そういえば」

 「たまってないかな、と思って」

 「今度は三人で飯でも行くか、最近は後輩らも一緒ばかりだったし」

 「いいな、行こう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る