6
千歳が沙織のいる全寮制の学校にやってきてからしばらくして、千歳と鏡が学校の食堂で大喧嘩をした。
いつかはこうなるのではないかと沙織はずっと心配していたのだけど、その心配がついに当たってしまった。
きっかけは些細なことだった。
でも、その本当の原因はもっと、沙織の思い知ることもできないような、根の深いところにある、二人の心の奥に溜まりに溜まったいろんな感情の爆発だった。
最初に手を出したのは鏡だった。
二人は取っ組み合いの末に床の上に転がった。そして、千歳が鏡の体の上にまたがって、そのまま鏡の顔を思いっきり殴ろうとした。
その鏡の手を紬は必死になって、押さえつけていた。
「沙織!! あなたも二人を止めるのを手伝って!」
紬がそう言って、ずっと人形のように固まったまま、二人の喧嘩の様子を見つめていた沙織は、はっとなって、「二人ともやめてよ!!」と言って、千歳と鏡の喧嘩の仲裁に入った。
それからすぐに「どうしたの!! なんの騒ぎなんですか!?」と言って、シスターの格好をした学校の先生たちが大勢で、食堂の中にやってきた。
そして、取っ組み合いの喧嘩をしている千歳と鏡の姿を見て、事情を察した先生たちは千歳と鏡に自分たちについてくるように言い付けると、あとの生徒達には壊れてしまった食堂の片付けと、それが終わったあとは生徒たちそれぞれが自分たちの部屋に戻るようにいいつけて、二人を連れて食堂から出て行った。
沙織は食堂の片付けをして、それから紬と一緒に自分たちの家である寄宿舎に戻ることにした。
「……二人の喧嘩の原因はなんだったんだろう?」
その帰り道で、沙織は紬にそう言った。
「喧嘩の原因? そんなのたった一つのことに決まっているでしょ?」と紬は言った。
「それはなに?」
沙織は言う。
「君だよ」
沙織を見ながら、紬は答える。
「私?」
沙織は紬と鏡の部屋のドアの前で立ち止まる。
「そう。それ以外にはないよ。二人はね、沙織のことを巡って喧嘩をしたんだよ。まるで中世の貴族の息子たちが、自分たちの愛とプライドを守るために、お互いに命をかけて決闘をするみたいにね」とにっこりと笑って沙織に言った。
それから紬は「じゃあ、そういうことで」と言って、廊下に沙織を残して、一人で自分の部屋の中に入って行った。
……私のために? 二人が?
一人になったあとも、沙織は少しの間、そのまま誰もいなくなった廊下の上に、ぼんやりとした表情をして、立っていた。
白いカラス 雨世界 @amesekai
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