第四章 叛逆


<第四章 叛逆>


 剣師以上の武人が広間に集められ、大将が現在の状況を説明し始めた。

「二日前、突の軍勢が現れ塩山城を支配した」

 その言葉を聞いて武人たちは息を飲んだ。

 弓の国の塩山は、王朝の繁栄を支える最重要拠点。

 もし塩山を失えば王朝は確実に滅亡する。

 塩がなければ人間は生きていくことができない。そして海を持たない王朝が、塩を手に入れる唯一の方法が塩山だ。それを失えば、燕から塩を輸入するしかなくなるが、そうなれば我々は燕の属国になるしかない。王様から平民に到るまで燕で奴隷になることになろう。

「弓の国の常駐軍は壊滅状態。武人も全員やられたそうだ」

 塩山は王朝にとって最重要拠点。それゆえ千人の一般兵に、武人五人以上が常駐して塩山を守っている。

 それが全滅とは……

「しかも、敵は数十人の一般兵と、たった一人の武人だそうだ」

「たったそれだけで塩山を奪ったと言うのですか」

「その通りだ」

 敵は文字通り一騎当千の極めて強力な武人と言うことになる。

 おそらく今この場に集まった武人の多くが、「頼むから自分だけはそいつと戦うことのないように」と祈っていることだろう。

「今後の対応については、太政官と、近衛府・武衛府・衛士府の各大将で話し合って決める。今すぐの出動はないが、皆も心して置くように」

 それで緊急の打ち合わせは終了した。

「本当に大変なことになったな」

 とゴウが話しかけてくる。

「ええ、全くです」

 大きな声では言えないが、今この国は弱体化している。

 先の大戦の傷が癒えきっていない上に、広がった領土のせいで兵力も分散されている。今すぐに大軍を編成して弓の国へ送ることは難しいだろう。

 ……いや、待てよ。

 ひょっとしてこれは絶好の機会なのではないか。

 捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこのことだ。

 敵は一人の武人だと言う。と言うことは、そいつを倒してしまえば、塩山を奪還できるということだ。

 そして、俺はかつて弓の国に長い間駐在した経験がある。塩山城じゃ俺にとっては庭のようなものだ。忍び込むことも容易にできる。

 俺は会議が終わった後、すぐさま大将のもとへと行き直訴する。

「大将」

「なんだ」

「塩山城の奪還を私に任せてもらえませんか」

「討伐隊に入りたいと、そう言うことか? だが、まだ武衛府が討伐隊を出すと決まったわけじゃない。場合によっては近衛府が出る場合もあるんだ」

「いえ、そうではありません。私と弟子の二人だけで奪還してみせます。それなら準備もいらないし、リスクもないでしょう」

 俺が言うと、大将は怪訝な表情を浮かべた。

「たった二人で城を奪還するだと?」

「ええ。塩山城のことは知り尽くしています。それに敵の兵隊が少ないなら、大将の首をとればそれで城を取り返せる」

 だが、大将は首を縦には降らなかった。

「今回は慎重に慎重を重ねる必要がある。お前が勝手に死ぬのは構わないが、それで何か取り返しのつかないことになったら王朝が滅びる。十分に作戦を練るのが先決だ」

「しかし、突の軍勢が城を支配してしまえば手遅れになりますよ。作戦を練っている間に、先に俺が城に潜入します」

「ダメだ。とにかく、今は待て」

 と大将は有無を言わさないと言わんばかりに、その場を立ち去った。

 取り残された俺に、ゴウが声をかけてくる。

「お前、これ以上功績をあげる気か」

「当たり前でしょう。王朝の危機は俺の機会ですよ」

「全く、罰当たりなやつだ」

「大将のやつ、仲間に誰かに仕事を任して自分の派閥を強化しようって魂胆ですよ」

 大将は反王女派閥。王女派の俺に仕事を任せて手柄を奪われてくないと。

 こりゃ、俺に仕事が回ってくることはなさそうだ。


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 それから五日が過ぎたが、一向に武人や兵隊を送ると言う話は出てこなかった。

 このままでは本当に手遅れるになりかねないと、一刻も早く討伐隊を送るように大将に直訴する者もいたが、しかし大将は「調整中だ」の一点張りだった。

「一体どう言うつもりですかね。このままだと本当に手遅れになりますよ」

 書類仕事をするゴウに言うと、「全くその通りだな」と返ってくる。

「手柄を取られたくない、と言うならわかりますが、誰も送り込まずに沈黙するとは。一体どんな意図があるんですか」

「それが、どうも右大臣から圧力があったみたいだ」

 とゴウが言う。

「何ですって?」

「俺も又聞きしただけだがな。どうやら政治で解決しようとしてるらしい。ほら、右大臣は燕にコネがあるだろ」

 それを聞いて、ピンと来た。

「なるほど、そういうことか。燕の圧力で塩山を取り返して、それで自分の手柄にしようってことですか」

 全く卑劣なやつだ。

「だけど、燕が協力しますかね? もし手を貸してくれなかったら、手柄どころか王朝が滅びるってのに……いや、待てよ、まさかそもそも全て右大臣の自作自演?」

 俺が言うとゴウは「あくまで噂だ」と言う。だが、自作自演と言う説を否定はしなかった。

「まぁ俺にはどうすることもできないさ。そうそう、俺は明日から単山国に行くからな」

「師匠が? 何でまた」

「反乱の兆しがあるそうだ。状況を探り、場合によっては事態を収束せよとのお達しだ」

 単山は先の大戦で平定した遊牧民族の国だ。確かに前から反乱があるのではないかと危惧されていた。

「しかし少将自ら出向くとは」

 普通次官ともなれば自ら任務につく機会は少なくなるものだが。

「衛士府はこれ以上人員を避けないそうだ。それであの辺りに詳しい俺に白羽の矢がたったわけだ」

 ゴウは出世こそしないが、頼られているのは間違い無い。……都合よく使われている、と言う言葉が適切かもしれないが。

「さぁ、おしゃべりは終わりだ。俺は午後には任務に向かうからな」

「もう老体なんですから、気をつけてくださいよ」

「バカ言え。まだまだ現役だ」


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 仕事を終えて自宅へ帰る。

 玄関にスグの靴はない。どうやら稽古にでも出ているのかもしれない。

 スグが科挙を辞退したあの日から、俺たちはほとんど口を聞いていなかった。

 あちらから謝ってくる気配はない。

 となればここはひとつ俺が大人として歩み寄るべきなのだろうが、まだ行動には起こしていない。少しずつ怒りも薄れてきたが、大金を意味なく失った事実と、スグが俺の善意を踏みにじったことへの憤りは完全には消えていなかった。

 加えて、王朝が危機に陥っていることに気を取られていたというのもあった。

 そう。今は塩山の方が大事だ。

 何としても塩山を奪還して功績をあげたい。

 だが、正攻法でせめても、政治が絡んでいる以上、俺が塩山に派遣される可能性は極めて低い。

 ……こうなったら、王女に直訴するか。王女の口添えがあれば、大将も流石に動かざるを得ないだろう。

 いや、だが王女と右大臣がいがみ合えば、王女の立場が危うくなる。そうなれば必然俺も連座だ。ここで功績をあげても、あとで困ることになりかねない。

 やはり今回は諦めるのがいいのか……。

 と思案していると、

「おい、白河リュウはいるか!!」

 突然玄関からそんな声が聞こえてきた。

 ……何事だ。

 扉を開けると、五人ほどの男たちが現れる。全員、近衛府の武人だ。

 全員、厳かで冷たい目を俺に向けている。

「何の用だ?」

 聞くと、思ってもみない返事が返ってきた。

「白河リュウ、お前を王朝への反逆罪で逮捕する」

 聞き間違いかと思った。だが、次の瞬間、二人の男に両腕を掴まれる。

「おい、待て。人違いだろ?」

 だが、俺の問いかけに対して、武人たちは答えず、有無を言わさず連れ出される。

 


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 俺は近衛の連中によって、宮中に連れていかれる。

 状況が全く掴めなかった。逮捕される言われなど全くない。

 逮捕されるにしても、なぜ検非違使ではなく、近衛府に捕まる? 近衛府の連中が出てくるのは――王朝への叛逆を企てた時だけだ。

「おい、俺が何の罪を犯したってんだよ」

 両腕を掴む男たちに問いかけても、口さえ聞いてはくれない。

 沈黙の末たどり着いたのは――宮中の中でももっとも関わり合いたくない――裁きの広場だった。

「おい、待てって。冗談だろ?」

 門の前で、俺は渾身の力で立ち止まって、広場に入ることを拒否した。

 裁きの広場は、決して罪の有無を判断するための場所ではない。国家に対して叛逆を企てた者を、情報を吐き出させたり、自白させるための場所だ。

 ここは入ったら最後。この門は地獄への入り口で、入れば五体満足で出てくることはできない。

 今までここに連れていかれた人間は何人も見て来たが、出て来た人間はほとんど見たことがない。

 そして、そこに俺は無理やり入らされる。

 壁に囲まれた家二軒分ほどの空間。正面には、屋根のついた台があり椅子が置かれている。そこには近衛府の中将と少将、それに烏崎の姿があった。

 右端には井戸、左端には拷問のための道具が置かれている。

 そして広場の真ん中には椅子が三つ。右端はすでに男がくくりつけられていた――

 俺は隣の椅子に座らされ、手足を縛られる。

 ――見ると、隣に座っている男の服は血だらけで、閉じたまぶたの隙間から血を流していた。

 思わず、目を背ける。

 と、後ろから複数の足音がした。思いっきり首を回すと、そこには連行されてくる弟子の姿があった。

「スグ!」

 彼女は困惑の表情を浮かべていた――ここがどんな場所なのかは知らないはずだ。

 スグも俺と同様に椅子に縛り付けられる。

 俺は台から見下ろす中将に問いかける。

「おいおい、なぜ俺がこんなところに縛り付けられなきゃいけない?」

「黙れ下郎」

 一喝される。

「お前たちは、突に機密情報を漏らした」

 それが俺たちの<罪>のようだ。

 この場に連れてこられたことは、既に俺たちの有罪は確定していることを意味する。

「おいおい待てって。何の証拠があって」

 俺が言うと、中将は「証拠はいくつもある」と言った。

「その男はお前に命令されたと自白した。また、お前がその男に機密情報の書かれた巻物を渡しているところを目撃した者もいる」

 寝耳に水とはこのことだ。隣で血を流しているその男とは面識もない。

「塩山城がいとも簡単に攻略されたのも、貴様が流した情報のおかげだろう」

「バカな。俺がそんなことをして何の意味があるって言うんです?」

 俺が聞くと、烏崎が鼻で笑いながら言う。

「突で将軍にしてもらえるそうじゃないか。赤眼の弟子共々歓迎されよう」

 動悸が止まらない。

 どうやら本当に俺たちの有罪は固まっているらしい。

 それが意味するのは――死だ。

「この場はお前たちの罪を裁くためにあるのではない。あとは貴様らが罪を認めるだけだ」 

「だから、俺が情報を流したりするわけないだろう」

 腹の底からそう叫ぶが、中将は鼻で笑う。

「誰しもその椅子に座ればシラを切るものだ」

 ――このあと、俺たちがどんな目に合うかはよく知っっている。

 王朝では、例えどれだけ証拠が揃っていても、原則として本人の自白がなければ刑を執行されることはない。

 だが、もちろん認めなければ許してもらえるなんてことはない。

 自白をしなければ、自白をするまで痛めつけられるだけだ。

 自白をすれば死刑。しなければ死ぬまで拷問を受ける。どちらにせよ待っているのは死だけだ。

 中将が目配せすると、烏崎は左手の棚に鞭を取りに行く。

 そして俺は複数の男たちに囲まれ、台の上にうつ伏せにさせられる。

 見上げると、鞭を持った烏崎が俺を見下ろしていた。その顔はこれまで見たことがないほど興奮しているように見えた。

「やれ」

 と中将が言うと、烏崎が視界から消える。

 そして、空を切る軽い音ののち、背中を鞭が斬った。

「――ッ!」

 堪え難い痛みに声を漏らす。

 そして続けざまに鞭が振るわれる。

「あぁぁッ」

 そしてもう一度。

 燃える裂ける様な痛み。

 そしてさらにもう三度叩かれる。

「あぁぁぁl」

 最後は今までよりも力が入っていた。

 そして次の瞬間、烏崎がしゃがみこみ俺の目を見た。

「さぁ、罪を認めるんだ」

「何を……認めるんだ。俺は何もしてないんだ」

 そう言うと――烏崎は笑みを浮かべた。そして立ち上がり、再び鞭を振るった。

 鞭打ちに使われる鞭は、皮膚を破らない様に節目が削られている。それゆえに簡単には命を奪わずになんども叩くことができるのだ。

 それからさらに数度叩かれる。

 そして、烏崎は鞭を振るう手を休めた。と。安心したのも束の間、烏崎の踵が俺の手首を踏みつけた。

「あがぁぁぁ」

 骨が折れた感覚。

「さすがは卑しい身分で剣師になっただけのことはあるな。痛みには慣れていると見える」

 と、烏崎は俺から離れて行く。

 その先には――スグがいた。

「子供が叩かれるところを見る方が堪えるだろう」

「待ってくれ」

 痛みが襲う中、振り絞る様に叫ぶ。

 だが、烏崎にはそれが逆効果だったらしい。部下に命じてスグを床に押さえつけさせる。

 スグは蒼白な表情を浮かべ、その唇が震えていた。

「この蛮人め!」

 烏崎が、剣を振るうのと同じ速度で鞭を振るった。

「あぐッ……」

 悲鳴さえ上がらなかった。

「おい、頼む。やめてくれ」

 俺が言うと、烏崎は満面の笑みでこちらを見た。

 もう一度、鞭を振るう。

「  ッ!」

 もはや声にもならないうめき声。よだれを垂らしながら、歯を食いしばり、痛みに耐えるスグの姿が、両目に焼きついた。

「頼む辞めてくれ。そいつは絶対に関係ないんだ」

 だが、俺の声などないかの様に、烏崎はもう一度、 

「さぁ、罪を認めて王様へ謝れ」

 そしてもう一度鞭を振るった。

「私が!」

 さらにもう一度。

「やりましたと!」

 さらにもう一度。そこでスグは気を失った。

 気を失った人間を叩いても意味がない。だから烏崎は部下から桶を受け取り、スグの横顔に向けて水を浴びせた。その勢いにスグは次の瞬間に勢いよく目を覚ます。

 そしてもう一度鞭を持つ。

「待ってくれ。烏崎……」

 俺が振り絞る様に言うと、烏崎がニヤリとしてこちらを見た。

「どうした?」

「その子は……悪くない」

 そう言うと、ゆっくりこちらに歩いてくる。

「じゃぁ、誰が悪いんだ?」

 そう訪ねてくる。その問いに答えれば、この地獄は終わる。

 どうせ、叩かれ続けて死ぬか、それとも首を切られて死ぬかの違いだけだ。

 だから――

 俺は口を開き、全ての罪を認めようとした。

 だが、その時。

「貴様ら!」

 体を貫かれたように錯覚させるほど鋭い声が、広場に響く。

 声の主は――王女だった。

 普段温厚な王女が、今は怒髪天に衝く形相だった。

 俺たちのすぐ近くまでやってきて、烏崎を怒鳴りつけた。

「直ちに二人を解放せよ」

 中将と烏崎は、王女が突然現れたことに困惑の表情を浮かべている。

「しかし、王女様、この男たちは国を売った大罪人です。証拠も上がっています」

 だが、

「よく聞け。王命である!」

 王女のその言葉に、中将たちが目を剥いた。

 お付きの武官が巻物を差し出し、王女がそれを読み上げる。

「剣師白河リュウと研修生スグの罪について、王室が再度検証を行う。それまでの間、二人は自宅謹慎とする」


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 俺とスグは医者の診察と治療を受けてから自宅へと運ばれた。

 スグは内出血はあったが、大怪我はおっていなかった。

 一方、俺の左手首は骨が折れてた。

 武人たるもの、怪我は日常茶飯事だ。だから痛みはなんてことない。

 だが、それ以上に怒りが治らなかった。そこらじゅうのものを斬り倒したい衝動に駆られる。

 王子派の連中にとって俺が邪魔者なのはわかっていたが、まさかこうも露骨に潰しにかかってくるとは思いもしなかった。

 宮中では決して珍しいことではないが、自分だけは例外なのではないかという都合のいい考えがあったのだ。

 これからどうなるか。

 王女様が助けてくださったからには、流石に一方的に処刑されたりはしない……と信じたいところだが、しかし確証はない。王族でさえ――時には王であっても――殺されてしまうことがあるのが宮中という場所だ。


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 自宅で謹慎すること二日間、宮中からはなんの連絡もなく、飯屋からご飯が届けられる時以外は、誰とも会うことなく時間が過ぎ去った。

 だが、三日目の昼、突然自宅に近衛府の武人が現れた。一瞬警戒したが、王女様お付きの武人だった。

「王女様から伝言です。まだ戦っている途中だが、絶対に無実にするから信じて待っていろと」

 王女様の力強い言葉を聞いて少し安心した。

 だが、隣でスグが相変わらず固い顔をしていた。

「あの、それで塩山はどうなりましたか?」

 自分の首がかかっている時に、街の心配かと呆れかけたが、しかし彼女にとっては故郷だから無理もないかと思い直す。家族はいないと言っていたが、顔なじみの人間はいるだろう。

「進展はありません。王女様は、今すぐに兵を動かせと進言していますが、大将たちが首を縦に振りません。大臣の味方をするつもりでしょう」

 それを聞いて、スグは表情を歪めた。だが、悪いことに話はそれで終わりではなかった。

「逃げ延びてきた者たちの証言なのですが、一般人が殺されているという話も」

 その言葉を聞いて、スグが息を飲んだ。

 余計なことを言うなと心の中で舌打ちした。武官はスグが塩山の出身だと言うことを知らないから、親切心で教えてくれているのだろうが、そんなことを聞けばスグが動揺するのは目に見えている。

「……それは、本当ですか」

 スグが聞き返すと、武人は「ええ。残念ながら」と答える、

「王様様のお力で早く兵を送ることはできないんですか?」

「どの府の大将も右大臣の味方ですからね。いくら王様でも、右大臣や大将全員が否と言えば、お口出しするのは難しいかと」

 それは最もだろう。いくら王様とて、文官の頂点である右大臣、武官の頂点である大将、その両方を敵に回せば立場が危うくなりかねない。

「もちろん、王女様も黙っていた訳ではありません。民が殺されていると王様と大将たちに直訴しましたが、大将たちは聞く耳を持たずです。このままでは王女様と重鎮たちの溝は深まるばかりです」

 そう言ってから近衛府の武人は宮廷へと帰っていった。

 その後ろ姿を見送るスグは、拳を硬く握りしめていました。

 それを見て俺は嫌な予感がした。

 そして、その予感は的中した。

「わたしが助けに行きます!」

 それがさも当然のことだと言わんばかりに宣言する彼女。

 だがそれは、大罪を犯すということだ。

「バカ言うな。謹慎中だぞ? しかも王命だ。もし俺たちがこの家を出て勝手にどこかに行ったら王命に背くことになる。ただでは済まないぞ」

 王命に逆らえば、役人なら官位剥奪の上追放。平民なら奴婢に身分を落とされるし、賎民なら死罪だ。

 他人を助けていました、なんてそんな言い訳はもちろん許されない。

 ――だが、彼女の正義の天秤には、はなっから自分の命など乗っていない。

「わたしが育った場所です。家族同然の人々がいます。わたしが戦わないと」

 スグは誰より正義を重んじる。だが、今回は単なる親切心だけではない。自分の故郷を、友人たちを守りたいと言う思いが彼女を駆り立てているのだ。

「相手は城を占拠しているんだぞ。どうやって戦うんだ。まさか正面から乗り込むのか」

 俺が問いかけると――彼女は意外な言葉を発した。

「城に潜入する秘密の抜け道を知っています」

「……なんだと?」

 驚いて言葉に詰まる。

「使われなくなった坑道から、城の倉庫に出る隠し通路があるんです。そこを辿れば、戦わずに城の中に入れます。それで直接相手の大将を倒します」

 確かに、塩山から城の中に入る隠し通路は存在する。だが、

「なぜお前がその道を知っている?」

 あの隠し通路は、限られた人間しか知らない重要機密だ。それをなぜ賎民の少女が知っているのか。

 だが、俺の問いに対して、彼女は答えなかった。

「師匠は残ってください。わたしの故郷はわたしが守ります」

 と、そう言って剣を持ち、袋に提灯を入れて――いとも簡単に家を飛び出した。

 足が一歩前に出るが、見えない何かに囚われて、それ以上進むことができなかった。

 ――この家を一歩でも出れば、王命に背くことになるのだから。


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 彼女が出ていってから一刻が過ぎ去った。俺は玄関の前で一歩も動けないでいた。

 俺の父親は、王への反逆罪で処刑された。

 両目をくり抜かれ、手足を折られて数日間張り付けにされて殺された。その惨たらしい最後は、今も脳裏を離れない。

 女様は俺たちを窮地から救ってくださったが、もし謹慎せよとの王命を破ればただでは済まない。

 ――最悪、父親と同じ道をたどるやもしれない。

 そうなれば、自分が死ぬだけでは済まない。不幸な姉は――俺の唯一の肉親は、一生囚われの身だ。

 だから考えるまでもない。

 ――子供一人の命がどうした。自分や姉の命を投げ打ってまで、他人のために危険を犯す必要がどこにある?

 俺が今やるべきことはただ一つ――この場に残り、自分の無実が晴れるのを待つことだけだ。

 ――そんなことはわかっている。

 だが――

 脳裏に焼き付いて離れない。

 助けた村人に泥を投げつけられた時の悲しそうな顔。

 団子を食べる時の幸せそうな顔

 科挙を投げ出して村人を救うと言い放った時のまっすぐな顔。

 考えれば考えるほど、頭の中を支配するのは、あの美しい瞳を持った少女のことだ。

 他人のためなら自分をどれだけ犠牲にしたって構わないという、どこまでも純粋な少女。そんな彼女は、しかも俺の弟子なのだ。

 このままでは彼女は王命に背いた罪で死罪になる。

 いや、その前に敵に殺されてしまうかもしれない。

 弟子を救わなければと言う思いと、王命に背くことへの恐怖が、せめぎ合う。

 そして俺はギリギリのところで決断を下した。


 @


 スグは馬を走らせ、塩山へと向かった。普通なら馬を使っても1日半はかかる道だったが、それを彼女はほとんど休むことなく走って、半日で駆け抜けた。

 向かったのは占拠されている城から少し離れたところにある塩山の麓。

 目当ての場所は、現在使われている坑道のちょうど反対側。幸い、そこへ向かうまで、誰とも遭遇することはなかった。

 荒れ果てた坑道の入り口。かつてはここから塩を掘っていたが、岩盤に遮られて採掘できなくなり、今は放置されている。

 スグは家から持って来た提灯に火を灯して坑道へと足を踏み入れた。足元に気をつけながら暗闇を進んでいく。

 まっすぐな道を百歩ほど歩き、分かれ道にぶつかる。スグは記憶を頼りに左へ曲がった。

 かつてここに来たのは、四年も前。だが、あの頃の記憶はいまだに鮮明に残っていた。

 そして、曲がりくねった道をしばらく行くと、壁際に木の扉がついた部屋を発見する。

 ――ここだ。

 脇に掘られた小さな穴で、かつては鉱山を支配して役人の休憩屋だった場所だ。

 扉を引くと、ギイと鈍い音を立てる。

 部屋の壁は木の板で覆われている。スグは壁の板の枚数を数えていく。

「一、二、三、四、五……ここだ」

 スグは木板でできた壁の切れ目に剣の切っ先を差し込んだ。そしてテコのように力を加えると、数枚の板がバカっと地面に落ちた。

 その先には、ちょうどスグの身長くらいの穴があった。

 ――この隠し通路は、スグにとっては、全てが終わり、そして始まった場所だった。

 小さい頃、スグは塩山で働いていた。

 そして七歳のとき、街を突の軍勢が襲う事件が起きた。兵隊たちが敵と戦っていたが、スグのような赤眼を守ってくれる人はどこにもいなかった。

 そんな時、一人の武人のがスグを助けてくれた。

 ここに隠れていなさいと、この秘密の抜け道を教えてくれたのだ。

 おかげでスグは助かった。 

 後で知ったのだが、その通路は高級役人しか知らない極秘の通路だったらしく、それをスグにバラした武人は罰を受けて、僻地に左遷されたらしい。

 だからその武人とは二度と会うことができなかった。もはや顔もよくは覚えていないが――スグにとっては生きるための目標だ。

 あの人のように、自分を顧みずに、人々をのことを救う武人になりたい。

 そしてとうとうその時が来たと思った。あの時スグを助けた武人のように、今度は自分が人々を、故郷の人たちを助けたい。

 その固い意志を持って、狭い通路を一歩一歩進む。

 それから十分ほど歩いていくと、やがて木の板でできた壁に突き当たる。壁に耳を当てて向こう側の様子を伺うが、物音はしなかった。それで安心して板を外す。今度は内側からなので、少し強めに押すだけで外れた。

 ――現れたのは倉庫だった。地下にあるので灯りは無い。

 どこかカビ臭い部屋には、椅子や机が無造作に置かれていた。

 灯りに照らされた範囲に階段がが見える。登って行くとその先に扉。再び外の様子を伺うと、やはり物音一つしなかった。

 扉を押すと、しばらく使っていなかったのか、鈍い音がした。

 そして一瞬眩しさに若干のめまいを覚えた。

 塩山城の敷地に出たのだ。

 スグは提灯の火を消して階段に置いてから、扉を閉めた。

 城の中は閑散としていた。ほとんど音もしない。

 ひとまず、周囲をも見渡して、一番大きな建物に向かうことにした。確か、あれは平時なら国司がいる建物だったはず。

 道を歩いて行くと、建物の入口には守衛が二人。格好が倭のものではなく、遊牧民族のそれだった。

「何者だ!」

 スグの姿に気がつくと、二人は剣を同時に抜いた。

 だが、彼らが剣を振りかざす前に、スグが一気に距離を詰め、剣を峰斬りかかり一人を手早く気絶させる。

 そして返す刀で、二人目にも斬りかかる――だが、今度はさらに手加減し、気絶させる代わりに地面に押さえつける。

「大将はどこにいますか」

 首に剣を突きつけながら言うと、守衛はあっさり白状した。

「……天守閣の下の……広場にいる」

 その答えを聞き出したところで、首筋を殴って気を失わせる、

 天守閣は城内の西方にある。西国が攻めてこないかを見渡すためだ。高くそびえ立っているので、迷うことはない。

 歩いて行くと、すぐに広場が見つかった。

 その中心で一人の男が座していた。手の甲を膝の上にのせ、目をつぶっていた。

 護衛はいなかった。まるで広場に溶け込んでいるような、そんな印象だった。

 だが、スグに気がつきその瞳を開けた瞬間、その視線の鋭さにスグは思わず後ずさりしそうになる。

 粗末な麻の衣装に身を包んだ巨男。

 目つきが特徴的な男だった。決してこちらに明確な敵意を向けているわけではない。だが、鋭く磨かれた刃物が、例え意思を持たずともわずかな光に反射してその鋭さを誇示するように、もし斬りかかれば忽ち斬り返してくるだろうという恐怖を感じさせる。

 城を守っていた手練れの武人をいとも簡単に殺してしまったというが、それも納得だった。男が内に秘める殺気は、常人のそれとは比べ物にならないからだ。

 今まで対峙してきたどんな人間よりも強い。

 ――だが、殺意には慣れっこだ。

 どんなに鋭い殺気であっても、ちゃんと<視>れる。

 確かにそれは恐怖を肌で感じるほどの鋭さだったが、しかし直視できるのであれば、対峙することはできる。

「私を討ちに来たのか」

 その言葉に、スグは答えず、代わりに剣を鞘から振り抜いた。

 援軍を呼ばれたら勝ち目はない。

 その前にけりをつける。

 様子見はなし。

 最初の一撃で決める。

 剣をグッと握りを半身とともに後ろに引いて、剣の切っ先を敵に合わせる。

 スグが持つ唯一にして最強の形――撃砕の構え。

 それに対して、男は立ち上がり、スッと剣を抜いて構えた。

 脳裏に、彼の殺気が――次に取る行動が映像として浮かぶ。スグの一撃を、正面から受け止める気だで、何かの形を使う気はないようだ。

 ――小さい女の子と見くびっているのだろうか。

 次の瞬間、スグは体の軸は通したまま力を抜く。水が落ちるように腰を落としその力を、推進の力に変えても大きく一歩を踏み出した。 

 そしてそこから全力で地面を蹴り上げて。

 一直線に敵へと向かう。

「――撃砕!」

 守りは捨てて、己の全てを剣の切っ先に込める。敵の反撃が事前にわかるからこそできる捨て身の一撃。

 そして予想通り、男は剣をさっと引いて、スグの一撃を迎え撃つ。

 スグの最強の一撃が、男の何気ない一閃と交錯する。

 一気に突き抜ける――はずだった。

 だが次の瞬間、途方も無い衝撃がスグを襲った。男の剣は、スグの剣と真正面からぶつかり――結果、全ての重みがスグの体に跳ね返ってきた。

 ――一体どういうこと……

 スグは単純な攻撃力――重さにおいて、自分の一撃は世界一だと自負していた。

 それなのに男は真正面から受け止めて、そして跳ね返したのだ。

「軽いな」

「!?」

「それで終わりなら――悪いことは言わない、去れ。無駄な殺生はしたくない」

 最強の一撃を軽々跳ね返されて、一瞬呆然としたが、まだ負けた訳じゃない。

 確かに圧倒的な剣圧だったが、まさか体自体が鉄でできている訳ではあるまい。剣戟をかいくぐって、刃を肢体に叩き込めばいい。

 剣戟は大の得意だ。

 スグはもう一度切っ先をまっすぐ向けて、そして地面を蹴った。

 今度は上段から切り込む。それに対する男の動きは読めていた。

 男は攻撃へと転じてきた。殺気は丸見え。簡単に読みきれる――

 だが、

「……ッ!」

 圧を受け止められなかった。

 まるで木の葉でも払うように、軽く跳ね飛ばされ、地面に放り出される。

 形でさえない、ただ無造作に剣を振るっただけ。だがそれに対してスグは手も足も出なかった。

 たった一人で城を落としたという話が本当なのだと、ようやく理解した。

 剣を握るようになってからは初めて感じる恐怖感。それをなんとか打ち消そうと、再び柄を強く握りしめ、男へと向かっていく。

「警告はしたが」

 スグの直線的な攻撃を、男は堂々と迎え撃つ。

 今度は力が拮抗した。肌で感じた生命の危機が、スグの剣の重みを増させたのだろう。

 だが対等だったのはわずかの間。次の瞬間、男は地面を軽く踏みつけて、その力でスグの剣を撥ねとばす。そして姿勢が崩れて粘りが効かない状態の彼女に、もう一度剣を振るった。

 後方に大きく飛ばされ、再び地面に叩きつけられる。

 すぐに立ち上がることができなかった。

 目線を男に向けると、ゆっくりこちらに向かって歩いてきていた。

 慌てて立ち上がって構えようと思ったとき――ようやく剣を持っていないことに気が付いた。

 視界が男の影に覆われる。その表情にはなんの感情も見られなかった。アリでも踏みつけるように、スグに剣を降ろそうとしている。

 その瞬間、スグは生まれて初めて死を覚悟した。

 悔いの残る人生だった。あの日助けてもらったこの命で誰かを救いたかった。

 目をつぶり、その時を待つ。

 だが、次の瞬間。

 突然、予想していなかった殺気を感じた。

「天流、乱星!」 

 青い光が閃いた。

 男は立ち止まり、自分に向けられたその斬撃を受け止める。

 殺気の主は見慣れた武人。

 ――師匠の姿がそこにあった。


 @


 真っ先に俺の目に飛び込んで来たのは、地面に平伏し、今まさに剣を振り下ろされようとしている弟子の姿だった。

 次の瞬間、俺は音が響くがごとき速さで駆け抜けた。

「天流、乱星!」

 全くの不意打ち。男に迎撃の体制を取られる前に俺の攻撃が襲いかかる。

 だが、男は反射的に剣を盾にして、真正面から俺の攻撃を防いでみせた。その固さに驚く。

 男は一歩後ずさりした後、姿勢を立て直すべく、後方に跳躍した。

 警戒は解かずに地面を見ると、スグが驚いた表情でこちらを見ていた。

「師匠……なんで」

「そりゃこっちのセリフだよ」

 それだけ言って、そして向き直る――

 ――俺は男の顔を見て、その正体に気がつく。

「お前は――」

 男の顔を――その目つきを見て、古い記憶が一瞬で呼び起こされた。

 ――剣城の王。

 忘れるはずもない。

 かつて、<王宮一の武人>だった師匠を軽々倒して、その片目を奪った張本人だ。その時、俺も師匠とともに戦ったのでその強さは身を持って知っている。

 手練れの武人を軽々倒したった一人で城を落とした男とは一体どんな奴だと思ったが。なるほど、剣城の王であれば納得だ。

 ――そして、相手が剣城の王だとわかった今。

 俺が取るべき行動はたった一つしかない。

「待ってくれ」

 大将の首を取り、その手柄で謹慎の王命を破った大罪を償う――というのが当初の計画だったが。

 計画変更だ。

 ――こいつ相手には、今の俺でも絶対に勝てない。

「俺は戦いにきた訳じゃないんだ」

 俺が言うと、男は無表情のまま、少しだけ眉を曲げた。

「俺はこのガキを連れて、そのままこの場を去る。だから見逃してくれ」

 剣城の王は俺の言葉を聞いて、一瞬、失望の表情を浮かべたが、それ以上の感情は見せなかった。

 だが、次の瞬間、声をあげたのはスグだった。

「バカなこと言わないでください! 街の人が苦しんでいるんです。それなのに逃げ出すんですか!?」

「バカはお前の方だ。こいつは俺らごときが勝てる相手じゃない。命を捨てる気か」

「怪我人には無理かもしれませんが、わたしは別です。師匠はそこで見学しててください」

 そう言って、スグは地面から剣を拾い上げ王に斬りかかる。

 いつもよりも、一歩大きく踏み込んだ、力の限りの斬撃。

 それを、剣城の王は的確に捌く。子供に組手の稽古をつけてやるような、そんな軽さだった。一見して本気を出していないとわかる。

 スグもそのことはちゃんとわかっているだろう。

「決して悪くはないが――」

 王は呟く。そして次の瞬間、反撃に出た。

 たった一撃。だが、それは絶望的に重たい――

 どの角度で、どんな間合いで斬りかかってくるか、全てわかる。だが、それでも受けきれない。

 剛直な一撃。スグは剣で受け止めるが、その衝撃が全て彼女の小さな体を襲う。とっさに受けきれないと判断したスグは切りぬけように男の向こう側に回る。

 間合いを取り、再び剣城の王に向かい合うスグ。だが、もはやその腕に剣をまともに振るう力は残されていない。

 そして――男はただならぬ空気を漂わせた。

 間違いない。形を放つ気だ。

 剣一歩であれだけの技を放つ男の形なんて食らったら、絶対に耐えきれない。

「クソが!」

 俺は男が形を放つ前に、一直線に飛び込んで斬りかかった。

「――撃砕ッ!」

 渾身の力で、俺が知りうる限り最強の一撃を放つ。

 だが――

「その技は意味がない」

 男は軽々と俺の一撃を振り払った。

 俺の全てをかけた一撃が、全く通用しなかった。

「クソッ!」

 止まったら一瞬で殺される、そんな恐怖心があった。に跳ね返されるとわかっていても次々斬りかっていく。

 だがどれだけ打ち込んでも全く響かない。

 ――圧倒的に強い。

 奴と初めて対峙したのは六年も前。それから俺も稽古に励んできた。そして今では剣師にまで上り詰めた。

 だが、それでもこいつとの距離は全く縮んでいなかった。

 ――俺がこんな負け戦をするとは。

 俺が平民ながら剣師にまで出世できたのは、勝てる勝負を見つけてそれだけに挑んできたからだ。

 それなのに、今俺は絶対に勝てない相手と剣を交えている。

「久しぶりにいい稽古になったが――もう十分だ」

 そう言って、剣城の王は剣を振りかぶった。次の瞬間、剣が突然周囲の空気を吸い込み始めた。

 俺の肢体を風が撫でていく。

 恐怖心以外の全てを飲み込むようだった。

 そして、王はそれを振り下ろす。

「――剣天剛破」

 耳を擘く超高温があたりを揺らした。

 そして次の瞬間、波状に広がったかまいたちが襲いかかってきた。

 無色のそれは、しかし光をも歪ませて、その存在を知らしめる。

 ――これは受けきることもできない。わかってはいるが、後ろにはスグがいるから逃げることもできない。

「――伝地!」

 避けることはできない。

 返り討ちにすることもできない。

 であれば、唯一できることは、受け流すことだけだ。

 自らの存在の線を極限まで薄く鋭くして、敵の攻撃を受け流す柔流の最終奥義。

 身中に構えた剣が、波動を切り裂いて、天地東西に受け流す。

 だが。奴の攻撃は密度が高く、そして数十秒に渡って襲いかかってきた。とても全てを受け流すことはできなかった。

 受け流しきれなかった攻撃が、俺の肢体を切り裂いていく。

 無限にも思える衝撃がようやく終わったとき、踏ん張りが行き場を失って、俺は地面に倒れ込んだ。

「……まさか、この技を受けて死なない人間がいるとはな」

 そう呟いたのが聞こえた。そして男の足音がゆっくり近づいてきた。

「師匠! 逃げてください!」

 幼い声が響いた。

 もちろん、そうしたいのは山々だ。

 もうそんなことできやしない。

 俺はありったけの力を振り絞って立ち上がり、

「クソ!」

 そう叫びながらもう一度撃砕を放つ。

 だがもはやそれは意味をなさなかった。男は俺の剣の側面を回し蹴りで叩き飛ばす。

 もはやお前ごときに武器を使う必要はないと、そんな言葉を投げかけられているのだ。

「もういいです! 師匠! 逃げてください!」

 弟子からようやくそんなお許しがでる。

 でも。

 俺は今になってわかったことが二つある。

 一つは――スグ(こいつ)が正真正銘の馬鹿だということ。

 本当に短い付き合いだが、それでもハッキリわかった。こいつは自分の命なんて軽々投げ出して、他人を救おうとする。自分以外の誰かが救ってくれるはずだなんて考え、コイツには微塵もない。絶対に自分の力で――自分の力だけでどうにかしようとする。

 だからこいつが敵から逃げることなんてありえない。

「お前……本当にバカだよな」

 自分のことなんてこれっぽちも考えない。その行動で、自分がどんな不利益を被るかその計算がこれっぽちもできない。

 だから救いようがない。こいつには何を言ってもダメなのだ。

 ――そして、わかったことがもう一つ。

 俺も、コイツを見捨てて逃げるなんてできない。

 赤眼の卑しい子供。しかもバカみたいに無鉄砲な、自殺志望としか思えないガキだ。そんな奴、いくら弟子だからって助けてやる義理はない。

 だが、それでももう引けなかった。

「クソッ!」

 これが最後。次の一撃で必ず倒すと決意して、体中から力を集めて、そして男に斬りかかる。

 だが、それでもその攻撃はいとも簡単にあしらわれる。

「師匠はお姉さんを救うんでしょ! 家族のために逃げてください!」

 俺が戦う理由を作った張本人が、今更そんなことを叫ぶ。

「――バカ言え。お前も……家族だろ」

 男は冷めきった目で俺たちを見る。

 そうだ、バカだよ。

 絶対勝てないのに戦うなんて。

「――お前がバカなのはよくわかった。だから……俺もバカになってやる」

 そう宣言してから、全てを忘れてただ一心不乱に渾身の撃砕を放つ。

「――ッ!」

 今度は少しだけ響いた。男のまゆが少し動いてそれがわかった。

 だが、反撃に男が放った一撃に体が耐えきれずよろける。

「久しぶりにいい稽古になった。だが、もう飽きてきたな。終わりにしよう」

 男はそう宣言し、距離を取った。

 ――またあの形を放つ気だ。

 もうあの技を受け止めることはできない――。

 と、スグは地面から立ち上がり、俺の脇に歩いてきた。

「師匠だけじゃあいつに勝てません。――わたしだけでも」

「そうだよ。今更が気がついたか」

 男がそれまでとは比べ物にならないほどの殺気を放つ。宣言通り、本当に全てを終わらせる気だ。

「――だから、師匠の力を貸してください」

 その言葉は、もしかしたら弟子が初めて俺を頼った瞬間かもしれない。

「ああ」

 ――ずっと考えていた。

 武術は対話。

 組手でも、二人が真剣に向き合えば、それぞれが持っている以上の力が出る。

 同じことが、形でもあるはずだ。

 形は、何も一人で生み出すとは限らない。

 二人で生み出す形があったっていいじゃないか。

「前に話した<共鳴の理論>覚えてるか?」

 俺が聞くとスグは小さく頷いた。

 完璧に強調した二人の武術が高みに登る。それが共鳴の理論だ。

「俺とお前で、完璧に共鳴した<撃砕>を放つ。そうすれば、もしかしたらあいつの攻撃を破れるかもしれない」

 それが、この絶望的な状況の中でたったひとつ俺たちに残された道。

 一と一が合わさって百になる。

 もちろん普通ならば不可能だ。だが、俺たちなら――<星読みの眼>をもつスグと、<守りのリュウ>ならば、あるいは可能かもしれない。

「お前には俺の殺気が見える。

 俺はお前の技を模倣できる。

 だから、俺とお前なら完璧に共鳴した形を放てるかもしれない」

 俺が言うと、スグは頷いて、そして前を見て剣を構えた。

 ――こちらを睨む剣城の王。全てを終わらせることを決意したのだ。

 再び奴の剣が、周囲の空気を吸い込んでいく。

 その攻撃は絶望的な一撃。

「――剣天剛破」

 それに対して、俺とスグは、何も言わずとも、自然と間を合わせることが出来た。

 ――剣城の王が、剣を振り下ろす。次の瞬間、再び高音が俺たちの耳を突き抜けて、波動が地面を切り裂く。

 だがそれにひるむことなく――

 体重を落とし――

 そして地面を蹴り上げた――

 突然、時間の流れが変わった。世界から音は消え去り、全ての瞬間が精緻に感じられた。

 砂を巻き上げ、光を捻じ曲げ、津波のように押し寄せてくる波。

 ――俺たちは一直線にそこに飛び込んでいく。

 不思議と恐怖心はなかった。

 ――これまで生きてきた人生の全てを、ただの一撃に込める。


「「撃砕――――」」


 そして、突き出した剣の切っ先が、波動の前面に触れる――

 衝撃はなかった。

 まるで絹に針をさすように、俺たちの剣は波動を貫いていく。やがて波動を突き抜けて視界がひらけた。

 見えたのは、驚愕に歪んた王の顔。

 そして、俺たちの一閃は王の肢体をまっすぐ切り抜けた。


「「――響!」」


 切り抜け、残心――。

 その瞬間、俺とスグの身体は、確かに一つに繋がっていた。 

 そして、それが解けた瞬間、時間の流れが早くなり、背後で鼓膜を破りそうなほどの爆裂音が鳴り響いた。

 振り返らずとも、殺気は感じない。「斬った」という確信もあった。

 だから俺は息を大きく吐いて、息を整えてから、ゆっくり振り返った。

 胴体を真っ二つに切られ、地面に転がる剣城の王の死体。

 絶対に勝てないと思った強大な男だったが――俺たちは勝ったのだ。

 それを確認した瞬間、全身の力が抜けて、剣の柄が手から転がり落ちる。次に足が上半身を支えきれなくなって、膝をつきそのまま頰から地面に倒れこむ。

 土埃を嫌って反射的に瞼が閉じた。

 そして再び目を開けた時、隣には同じように転がり込んだスグの顔があった。

「――やったんだ」

 俺が言うと、スグは疲れ切った表情で、しかしほんの少しだけ笑みを浮かべて返した。

「師匠……」

 と、スグは安らかな顔を浮かべた。

「わたし、思い出しました」

「何を?」

「6年前に、塩山城が襲われた時、わたしを助けてくれたのは師匠だったんですね」

 一瞬、なんのことを言っているのかと思ったが……

「襲われていたわたしに、秘密の抜け道を教えてくれて、城から逃がしてくれました」

 そこまで言われて、全てが繋がった。

 なぜスグが、塩山の坑道と塩山城をつなぐ秘密の通路の存在を知っていたいのか。答えは単純で、俺が教えていたのだ。

「お前があの時の女の子だったんだ」

 顔までは覚えていなかったが――あの出来事はもちろん覚えている。

 俺が武人になったばかりのころ。師匠とともに弓の国を守っていたときに、城が敵に襲われたたことがあった。

 その時、城の中で働いていた女の子を助けた。城と塩山をつなぐ秘密の抜け道を彼女に教えて、城から逃したのだ。

 少女を救うために秘密を道を教えた。

 だが、通路の存在は限られた人間しか知らない重要機密で、それをバラした俺は罪を問われ、鞭打ちの罰を受けた。

 俺は民を助けただけなのに、それで罰せられた。だから俺にとってはあまりに苦い思い出で、思い出すことさえ嫌だった。

 だが、

「あの時、わたしは武人になろうって思ったんです」

 と、スグはその小さな手を伸ばし、俺の手を掴んだ。

 彼女にそう言われて、俺はスッと肩の荷が落ちた気がした。

 六年越しに、「お前のしたことは間違っていなかった」と、そう言ってもらえたのだ。


 @


 俺たちは城の門から外に出て、城を遠目に眺めていた軍のところへ行き、剣城の王を倒したことを伝えた。

 逃げようかとも考えたが、一生逃げ切ることはできないと思った。例え自首しても、俺が全ての罪をかぶれば命だけは助かるの可能性は十分にあるはずだ。

 俺たちは二日かけて王宮へと連行され、別々の牢に入れられた。

 そして翌日、外に連れ出された。

 なんのためかは告げられなかった。

 ただ、スグも同じく牢屋から出され、二人並んで歩かされる。

 ――連れて行かれたのは、王宮の広場だった。

 武の間と呼ばれる場所で、近衛・武衛・衛士府の行事で使われる広場だった。

 そこには各府の大将と中将、そして一部の剣師が集まっていた。

 一体これから何が起こるのか皆目検討がつかなかった。

 俺とスグは広場の中央に連れていかれる。そしてそこで縄を解かれる。

 俺たちを見つめる武人たちの顔色は様々だった。冷たい目線を向けてくる者も入れば、怪訝な表情を浮かべている者もいる。

 ――と、次の瞬間。

「王女様の御成」

 野太い声が鳴り響く。

 そして広場にお付きの武人と女官を引き連れて王女が入ってきた。

 俺たちは慌てて頭を下げる。

「剣師白河リュウ。そしてその弟子のスグ」

 呼びかけられる。俺たちは黙って王女の言葉を聞く。

「あなたたちにかけられていた、叛逆の嫌疑は晴れました」

 その言葉を聞いて俺は胸をなでおろす。

「しかし」

 と王女は厳しい口調で続ける。

「そなたたちは、謹慎せよとの王命を破りました。間違いありませんね」

 それは否定しようがない。

「――はい、王女様。間違いございません」

 下を向いたままそう返事をする。だが、その後、事前に用意していた言葉をのべる。

「全ては私の命令でした。スグは、あくまで師匠である私の命令に従っただけです」

 王命に逆らうことは言うまでもなく大罪だ。

 貴族なら官位剥奪の上追放。

 平民なら奴婢に身分を落とされて鉱山に送られる。

 ――賎民なら死罪。

 最低でもそれは免れない。

 つまり、もし赤眼であるスグが罰を受けるとしたら、死罪なのだ。だから、俺は自分が全ての罪をかぶることに決めていた。

 俺はこれでも官位を持つ役人の端くれ。城を奪還した功績と合わせれば、死罪は免れるだろうと思ったのだ。

「王命に背いた罪はあまりに大きいです。その罰を与えねばなりません。信賞必罰。それが新しい王朝のルールなのですから」

 厳かに王女は言う。

「はい、王女様。甘んじて罰は受けます」

 俺が言うと、王女は付き人から受け取った巻物を開き、一瞬間をあけて――俺への罪を読み上げる。

「――王命である。白河リュウ」

 俺は頭を垂れてそれを聞く。

「なんじの官位を剥奪し、都から追放する」

 その言葉を聞いて、俺は胸をなでおろした。

 死罪は免れた。

 武人になってから幾多の戦いに身を投じて積み上げてきたものが全て失われ、将軍になって姉さんを救う道は閉ざされた。それは悔しいが、しかし人々を守るために戦ったのだ。そこに後悔はない。

 命が助かっただけでも万々歳だ。生きていれば機会も巡ってこよう。

「また、研修生で、白河の弟子であるスグについては、師匠の命令に従っただけだが、王命に背いたその罪は大きい。それゆえ研修生の資格を剥奪の上追放。また、科挙を受ける資格を未来永劫剥奪するものとする」

 例えば師匠の命令であろうとも王命に逆らうことは大罪で、重たい罰を受けることが多い。それを思えば、全く無傷と言っていい内容だ。

 もちろんスグの武人になるという夢は絶たれてしまったが――

「皆の者」

 と王女が広場に集まった武人たちに語りかける。

「信賞必罰。それが王朝のルールだ。肝に銘じよ」

「――はい、王女様」

 そう言って武人たちが頭を下げる。

 その後、広場はしばしの沈黙に包まれる。

 だが、次の瞬間、誰も予想していなかったことを王女が宣言する。

「今日皆に集まってもらったのは、何もこの男たちの罪を問うためでは無い。別の目的がある」

 集まった武人たちが突然のことに困惑するのが伝わってくる。

 一体何が起こるのか――

「王命により、明日、臨時の除目を行う。その内容を伝えるので心して聞け」

 その言葉に武人たちが息を飲んだ。

 除目は役人の昇格や降格を発表する行事だ。

 普段は春と秋の二回、儀式として盛大に行われるが、特別な事情があれば小規模に発表のみが行われることもある。

 だが春の除目が目前に迫っている今、わざわざ臨時の除目を行うということは、それに値するだけの何かがあるということだ。

 そして、この場に集まった多くの武人たちは直近で何か功績をあげたわけでも無い。となれば、必然予想されるのは降格――

「まずは、棍中将。そして烏崎剣師」

 王女は、それまでにもまして低い声で言う。

 突然名指して呼ばれ、二人は困惑した表情を浮かべながら、前に歩み出た。

「元剣師白河リュウと、その弟子のスグの嫌疑を検証した結果、取り調べの中でそなたたちが両名に対して極めて不平等な判断を下したことがわかった。無罪の者を、推測で有罪にしたその罪は大きい」

 その言葉を聞いた瞬間、二人は言葉を失い、ただ哀れな瞳で王女を見上げた。だが、二人が許しを請う前に王女は宣言する。

「それゆえ、棍中将は正五位に、烏崎剣師は従六位に降格とする」

 予想外の出来事だった。確かに烏崎たちは俺たちへの理不尽なことをしたが、王宮では珍しいことではない。無罪の者を有罪にしたことが直接の原因で降格されることはほとんどない。彼らにしてみればまさに青天の霹靂だろう。

「お、王女様! 私たちはあくまで証言に基づいて裁いただけで……」

 と、無謀にも食い下がる少将。降格に対して異議を申し立てるなど本来あってはならないことだが、突然のことに混乱しているのだろう。これまでトントン拍子で昇格して、将来大将になる可能性だってあったのに、突然降格を告げられたのだから、無理もないかもしれない。

 だが、王女は怒気をにじませた低い声で言う。

「証言をした男が、賄賂で証言したことはすでに調べがついている」

 王女のその言葉で、少将は観念して黙った。

 烏崎は硬く歯を食いしばりながら、王女の代わりに地面を睨みつけている。

 再び、広場が沈黙に包まれる。

 と、お付きの武人が王女に別の巻物を手渡した。

 まだ降格があるのかと、広場にいた武人たちの顔がこわばる。

 だが、呼ばれたのは誰も予想していなかった人物だった――

「白河リュウ」

 突然名前を呼ばれ、俺は思わず返事をすることも忘れて女王様を見上げた。

「そなたは王命を破った。その罪は大きい。しかし、一方で、この国の最重要拠点である塩山城を奪回したのもそなただ」

 言葉を失い、ただ王女を見上げる。

「かつて塩山城を王朝にもたらしたものは平民ながら貴族として取り立てられた。それほどに塩山は我が王朝にとって重要な場所だ。それゆえに――」

 ――王女の言葉に意識が吸い寄せられる。

「白河リュウ、そなたを正五位、近衛府少将に任命する」

 広場にいたすべての者が息を飲んだ。

 少将の地位は、平民には決して手の届かない貴族の地位だ。しかも、近衛府の少将は王様の住む清涼殿に昇殿を許される<殿上人>。最上級の貴族にのみ許された特権を得るのだ。

「また、塩山の奪還においては、その弟子のスグの功績も大きい。それゆえ、従九位武人に任命する」

 この王朝が始まって以来初めて、賎民が――しかも赤眼が武人になったのだ。

 スグは驚きのあまり、どんな表情を浮かべていいのかわからないと言う風だった。

 武人になることを夢見て稽古を重ねてきて、しかしその夢が破れたと思った、その直後に突然夢が叶ったのだ。

 と、驚く俺たちに、王女は優しい笑みを浮かべて言った。

「信賞必罰。そう言ったはずですよ」


 @


 翌日はよく晴れた日だった。

「よく似合うじゃないか」

 緑色の礼服に身を包んだスグを見て、俺は素直にそう言った。もともと整った顔立ちをしているから様になっている。

「歩きにくいです……」

「そうだな。転ばない様にしろよ」

 俺たちが礼服に着替えたのは、臨時で行われる除目に出るためだ。昨日王女の口から俺たちの任官を告げられていたが、今日は正式な儀式として任命を受けるのだ。

 と、控え室に師匠のゴウが入ってきた。単山国での任務から帰ってきたのだ。

「おいおい、俺がいない間にことが二転三転したそうじゃないか」

 ゴウは笑いながら言った。

「二転三転、なんてもんじゃなかったですよ。地獄を見ました」

「だが、最終的には、お前は少将様になったわけだ。とうとう追いつかれたな」

 そう。ゴウの地位は少将。俺も少将にになったので、これで同列ということになる。しかも俺は近衛府でゴウは武衛府。同格だが、実際的には俺の方がより重要な地位に付いている。

「これからもう師匠とは呼ばないですね」

 俺が言うとゴウは「こいつ」と拳をあげて殴るふりをした。

「しかし、このままだと本当にお前が大将になっちまうかもな」

「そうなるつもりです」

 平民が殿上人になることなどできない。

 赤眼が武人になることなどできない。

 この王朝ではそれが当たり前のことだった。だが、俺とスグはその常識を覆して見せたのだ。

 だから大将にだってなれるだろう。

「さて、じゃぁ行こうか」

 スグにそう言うと、彼女は緊張した面持ちで頷いた。

 そして俺たちは並んで歩き出し、王女が待つ広場へと向かって行くのだった。


(おわり)


 

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赤眼の王道 アメカワ・リーチ@ラノベ作家 @tmnorwork

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