第三章 科挙



 街を魔物が襲ってからも二週間は、本当に穏やかな日々が続いた。

 俺は直接確認してはいないが、街に毛皮を売りに行っている村人に聞いたところでは、壊されたり火事で燃えた建物も、少しずつ復旧されているそうだ。

 一安心、と言ったところだろう。

「スグ、今日は出かけるぞ」

 その日、朝ごはんを食べた後俺はそう宣言した。

「天羽へいくんですか?」

 スグの予想は外れだった。

「いや、国都に行く」

 弓の国の国都は、天羽から四半日ほど馬を走らせた場所にある。日帰りも十分に可能な距離だ。

「国都に?」

「弟子入りの儀式をするんだ。俺の姉に会いに行く」

 俺がそう言うと、弟子は少し表情を濁らせた。

「天羽を守るのがわたしたちの任務なのでは?」

「国司の命令で街を追い出されたんだ。一日くらい街の近くを離れてもバチは当たるまい。街には烏崎もいる。無能なやつだが、一応剣師様なんだから街は彼に任せれば良い」

 俺が言うと、スグは完全に納得した様子ではなかったが、しかしそれ以上抵抗はしなかった。もしかしたら、師匠として少しは信用されてきたのかもしれない。

「すぐに準備してくれ。昼には着きたいんだ。先を越されたら最悪だからな」


 @


 国都には予定通り昼過ぎにはたどり着いた。

 弓の国の国都は貿易の一大拠点だ。その繁栄は王都に勝るとも劣らない。天羽も栄えた街ではあるが、流石に国都には叶わない。

 たどり着いた街の南側は市場になっていて、普通の街ではなかなか見ないものであふれていた。西方からもたらされたものも多い。

 だが、今日はこの活気あふれた街にはなんの用もない。

 目指すのは街の外れ。

 市場を通り抜けて、街の西側に向かう。

 しばらく歩いていくと、華やかな色に包まれた区画が見えてきた。綺麗に整備された通りは提灯で彩られ、両脇に二階建の家屋が整然と立ち並ぶ。

「……師匠、ここは……」

 おそらく彼女は足を踏み入れたこともないだろう。

 俺たちが訪れたのは――国内でも有数の遊郭である。

 弓の国は貿易の拠点であり人の往来が盛んなこともあって、その遊郭も栄華を極めている。

 今は昼間なので人通りも少ないが、夜になれば毎日がお祭り騒ぎだ。

「こんな綺麗な場所があるんですね」

 とスグはそんな感想を漏らした。遊郭は単なる売春宿ではない。貴族や大商人をはじめとした<文化人>のための場所だ。普通、庶民には――特に賎民には、一生縁のない場所だ。

「とりあえずあんまり目立たないように行こう」

 遊郭は基本的に治安がいいが、決して小さい子供の来る場所ではない。あまり目をつけられないうちに目的地に行くべきだろう。

 前に一度来た記憶を頼りに、その店へと向かう。かなり大きい店なので遠くからでも見分けがつき、迷うことなくたどり着いた。

 遊郭は昼間から営業している――が、流石に利用者は少ない。店の入り口で番をしている男も、暇そうに椅子にべたりと背をつけ座り込んでいた。だが、俺が近づいてくると立ち上がってすり寄ってきた。

「ようこそ、旦那様」

「小部屋を一つ頼む。空いてるな?」

「ええ、もちろんでございます」

「それから、芸妓は――セイを」

「セイですか? 旦那様、セイは<高い>ですが、大丈夫ですか?」

「ああわかってる。これでも役人だから、金の心配はするな」

「承知しました。すぐに案内します」

 と門番自ら、部屋へ案内してくれる。

 通された部屋は六畳ほどの部屋。畳が敷き詰められていて、机の前には座布団が置かれている。村で寝泊まりしている粗末な小屋とは天と地ほどの差がある。

「セイに準備をさせます。しばらくお待ちを」

 そう言って、門番は襖を閉めて部屋を出て行く。

 スグは、物珍しそうに畳を撫でていた。

「畳は初めてか?」

「お屋敷で見たことはありますが……座ったのは初めてです」

 しばらくすると、廊下からかすかに足音が聞こえてきた。さすがは剣士の端くれ、スグもそれを感じ取って、座り直す。

「失礼します」

 澄んだ声が聞こえて、少ししてから襖が開いた。

 現れたのは、この世のものとは思えぬほどの美女だった。長い髪を丁寧に結い上げ、淡い青色を基調とした絹の着物に身を包んでいる。

「リュウ」

 俺の顔を見ると、遊女――俺の姉であるセイは顔を綻ばせた。

「姉さん」

 俺は立ち上がって、そして姉を抱きしめる。

 長いこと――と言っても本当は一瞬なのだろうが――無言で俺たちはお互いの存在をかみしめるように抱き合った。

 そして少ししてから身を引いて、姉の顔に目を向ける。

「本当に久しぶり」

「前回会ったのは、リュウが王女様に絹を賜った時でしたね」

「ずいぶん前のことだ。体感としてはあっという間でしたが」

 と、姉さんは俺の脇にいる弟子の姿を見た。

 俺は今日来た理由を説明する。

「今日は弟子を連れてきました」

 俺がいうと姉さんは笑った。

「とうとう弟子を取ったんですね」

 と姉さんはスグにやわらかい眼差しを向けて聞いた。

「私はセイ。リュウの姉です。あなたの名前は何というのですか」

 スグは少し緊張した様子で答える。

「スグと申します」

「これからよろしくね」

 スグは言葉なくただ頷いた。

「さぁ、とりあえず座りましょう」

 三人でテーブルを囲んで座る。

「二十歳にならないと弟子を取れないと聞いていましたが、もしかして私は知らない間に弟に年齢を追い抜かれて妹になっていましたか?」

 と姉さんがそんな冗談を言う。

「剣師になったんです。それで特別に弟子を取れることになりました」

「剣師に!? これはこれは……まさかそのようなお方とはつゆ知らずに、これまでの無礼をお許しください」

 姉さんはわざとらしく頭を下げる。

「もう、からかうのはやめてくださいよ」

「剣師になられたのであれば、これからは毎月だって来れますね」

「バカ言うなよ。小役人とは言わないけど、貴族じゃないんだから」

 遊郭は金持ちのための場所だ。こうして昼間に数時間会うのでさえ、俺の三ヶ月分の俸禄をはたく必要があったのだ。

「それに……俺はもっともっと出世するよ」

 それ以上は言わなかったが、姉さんはそれを聞いて安らかな笑みを浮かべた。


 @


 楽しい時間はすぐに過ぎ去る。あっという間に夕方になり、俺は惜しみながら姉と別れた。

 姉さんにとっては、ここからが本当の一日だ。

 これから姉さんが、どこの馬の骨とも知らない男の相手をすると思うと気が狂ってしまいそうだった。

 ――だが、それを嘆いていても仕方がない。今は姉さんを救うために一日でも早く出世することを考えなければ。

「遊女のことを悪く言って……本当にごめんなさい」

 帰り道、村が近づいて来たところで、スグが伏目がちに謝って来た。前に「奢られるのは遊女と同じ」と言ったことを気にしているようだ。

「別に気にしてないさ」

 スグのことを気遣ってそう言っているのではなく、本当に忘れかけていた。

「今日は姉さんにお前を紹介できてよかったよ」

 俺が一人前になったことを姉に説明できたのは本当に嬉しかった。他の誰より姉に認めてもらうことが俺の喜びだ。

「門番も言ってたとおり、姉さんは上級遊女だ。会うにはバカみたいな金がいる。だからなかなか会えないんだ。会えるのは、出世した時だけ」

 と、しばらくの沈黙の後、スグは遠慮がちに訊いて来る。

「セイさんは、師匠の本当のお姉さんなんですか」

「ああ。正真正銘、姉弟だよ。父も母も同じ」

 答えると、スグはさらに問いを重ねる。

「お姉さんだけが賤民なんですか?」

 それは当然の疑問だろう。

 普通、親が賎民なら子供も賎民。姉弟で身分が違うなんて普通はない。

 俺たちの場合はちょっと訳ありだ。 

「姉さんはわけあって賤民に落とされたんだ」

 俺がそう言うとスグが息を飲んだのがわかった。

 ――身分が落ちるのは、罪を犯したときだけだからだ。

「お前は弟子だから言っておく」

 この少女に、俺の全てを打ち明けることにした。

 この秘密を、自ら誰かに打ち明けるのは初めてだった。この二週間悩んで、彼女にならこの秘密を打ち明けてもいいと思ったのだ。

 俺は少し息をついてから、そしてその事実を告げた。

「俺の本当の親父は国賊として処刑された」

 俺が言うと、スグが息を飲んだ。

 国賊――つまり国王への叛逆を企んだ者。

 国王に背くこと。それはこの国においてもっともと重たい罪だ。

 王に背けば、罰せられるのは本人だけではない。その家族にも罰は及ぶ。

「もちろん冤罪だ。だが、その罪が晴れることはなかった。それで父さんは処刑。母さんと姉さんは奴婢になった。母さんは鉱山の奴婢になってすぐに死んだよ。俺だけはもともと養子に出されていたから助かった」

 それが俺の出自の秘密。

 決して知られてはいけない事実だ。

 もし他人に知られればただでは済まない。

「お前は大将になりたいと言ったな」

 俺がそう言うとスグは頷いた。

「俺も大将になりたい」

 初めてスグと会った日、彼女は最も卑しい身分にも関わらず、大将軍になりたいと言った。

 その大それた夢想を誰もが笑ったが、俺だけは笑えなかった。

 なぜなら、平民である俺も、やはり大将を目指していたから。

「大将になるのが、姉さんを救い出す唯一の方法だからだ」

 遊女は囚われの身。解放するには大金を積まないといけない。

「身分も、コネもない俺が姉さんを救い出すには将軍に――大貴族になるしかないんだ」

 それは、俺が剣を握る、ただ一つの目的。

 だがそれを叶えるのは並大抵のことじゃない。なにせ、平民や下級貴族が大将になった例は一つとしてないのだから。

「ここまで順調に出世してきたけど、大将になるにはまだまだ足りない。もっともっと大きな、国を救うような手柄を立てないと駄目だ。だからお前に力を貸して欲しいんだ」

 俺が言うと、スグは小さく頷いた。そして笑みを浮かべて言った。

「力を貸すのはもちろんですが……」

「ですが……?」

「わたしが先に大将になるかもしれません。その時は恨まないでください」

 その言葉を聞いて、思わず声をあげて笑った。

 これは一本取られた。

「なるほど、確かに、その可能性はあるわけだ。その時は一つ贔屓にしてくれ」


 @


 翌日、朝ごはんを食べ終わった頃、賎民の村にまたして馬車の音が鳴り響いた。

 もしかしてと思って外に出ると、そこにはやはり烏崎がいた。

「やぁ、おはよう」

 今日は従者と二人で来たようで、弟子は連れていない。

「なんだ朝から」

 不機嫌なのをあえて隠さずにそう言うと、烏崎は下品な笑みを浮かべた。

「お前に伝えなければいけないことがあってな。わざわざこうして来てやったと言うわけだ」

 先の魔物の襲来の際には、殺されそうになったところを助けてやったはずだが、そのことに対するお礼の気持ちは一寸たりともないらしい。

「ほら」

 烏崎は俺に巻物を二つ渡してきた。

 何かと思って、まず一つを開ける。

 それは臨時の科挙が行われることを伝えるものだった。

「二週間後か」

「お互い健闘を祈ろうじゃないか」

 ……当然、わざわざ科挙が行われることを俺に伝えるために、賎民の村に足を運んだわけではあるまい。

 となると、彼女がここに来た理由は、もう一つの巻物に書かれているはずだ。

 開くと、武衛府からの手紙だった。

 読み上げていくと、そこには――理不尽な内容が書かれていた。

「おい、嘘だろ」

 そんなバカな話があるか

「一体どうしたんですか?」

 と、スグが聞いてくる。

「俺たちの任務は、科挙の二日前まで続くらしい」

「!?」

「なんでも新しく天羽に常駐する武人が見つかったが、その着任が科挙の二日前になるそうだ。だからそこまでは残れと。……急いで帰ればギリギリ科挙は受けられるが……」

 普通、科挙を受ける弟子がいる場合、もう少し余裕を持って都に帰ることを許されるものだ。

「いやぁ、君も運が悪いね。でも、後任の都合じゃ仕方ないね。民の命には代えられないからねぇ」

 と烏崎は煽ってくる。この口ぶりだと、

「まさか、お前は先に帰るのか」

 俺が聞くと、烏崎は「何を当たり前のことを」と満面の笑みを浮かべた。

「大切な弟子の科挙なんだぞ? 師匠としてそれを第一に考えるのは当たり前じゃないか」

 クソが。

「それじゃぁ、せいぜい私がいなくなった後、しっかりと街を守ってくれたまえ。まぁ、相変わらず街の中には入れてもらえないと思うけど」 

 と、烏崎は手をひらひらさせてから馬車に乗り込み、村を離れて行った。

 全く理不尽な話だ。

 だが、命令は命令だ。受け入れるしかない。

「何、試験が受けられなくなるわけじゃないさ。お前の力があれば、少々旅で疲れてたって余裕で試験を突破できる」


 @


 試験の三日前の夜、ようやく後任の武人が街に現れた。

 それでようやく俺たちはお役御免。

 翌朝、太陽が登りきる前に村を出た。

「飛ばすぞ」

「はい」

 街までは二日。試験まで余裕はない。万が一到着が遅れれば、試験を受けることはできない。

 俺たちは、都への道を全速力で駆け抜けた。

 最低限の休息で、ひたすら無駄口も叩かずに、馬を走らせる。

「ちょっと待ってください」

 突然、スグが馬を止めた。

「なんだ」 

「あそこ、みてください」

 スグの細い人差し指が指す先に目をやると、黒い煙が数本見えた。

「何かあったんじゃないですか」

 確かにちょっと不自然ではあった。この辺りには大きな街はなく、あるのは小さな村だけだ。普通に風呂を沸かしたり、飯を炊いているにしては、煙が大きい。

「確かにそうだけど、時間がない」

 俺が言うと、スグは険しい表情を浮かべて言った。

「距離的に大したことないです。様子を見るだけ見に行きましょう」

「おいおい、何言ってんだ」

 舌打ちする。

 こいつ、どこまでお人好しなんだ。

「火事でもあったんだろう。剣で火事は止められない。俺たちにはどうしようもないさ。先を急ごう」

 俺がそう言っても、スグは煙をまっすぐ見たままだった。

「嫌な予感がするんです」

「おいおい、試験まで時間がないんだぞ?」

「あそこまで行くだけなら、まだ間に合います」

 確かに、あそこに行って帰るだけなら間に合う。だが、それは本当に「行って帰るだけ」ならの話だ。

 もし何か足止めを食らったら、試験には絶対に間に合わない。もし誰かがそこで困っていたとして、それを助けている時間はないのだ。

 逆に、何も不幸が起きてなかったとしたら、単に時間の無駄になる。

 どちらでも俺たちが得することはないのだ。

「行きましょう」

 だが、スグの意思は変わらない。

「おいおい、マジかよ」

 と、スグは俺が渋るのを無視して、馬を煙の方へ走らせた。

 ――全く、どこまでバカなんだ、こいつは。


 @


 煙の出どころへ近づいて行くと、貧相な村が現れた。

「武人様だ!」

 馬に乗り、帯刀した俺たちを見ると、数人の村人たちは歓喜して俺たちに寄ってきた。

「ようやく助けにきてくださったんだ!」

 住民たちを見ると、皆瞳が赤い。どうやら赤眼の村のようだ。

「煙を見て来たんですが、何かあったんですか?」

 スグが聞くと、一人の村人が答える。

「魔物が襲ってくるんです。火を恐れるようので、村の周りで薪をして追い払ってはいますが。何人か殺されてしまいました」

「役所へ助けは求めたんですか?」

 スグが聞くと、村人は「もちろんですよ!」声を荒らげて言った。

「ですが、今は兵隊も武人も出払っていて、我々を助ける余裕がないから待てと言われました」

 ……確かに、先の大戦のせいで武人も兵隊も足りていないのは、どこでも一緒だ。街を守っている人員から人を割けばなんとかなるはずだが、卑しい人間のために街を危険に晒すことはできないと国司が考えてもおかしくはない。

「魔物はどんなやつですか? どれくらいいますか?」

「腐った狼です。村を襲ったのは五匹ほどでしたが、多分山の方にはもっといると思います」

「それは……今までよく武人も兵士もいない中戦ってきましたね」

 スグが言うと、村人はその手を握って言った。

「しかし、本当に助かった! 村にあった薪はほとんど燃やし尽くしてしまって、今日にも尽きるところだったんです。森に燃えるものを取りに行った若い者もいましたが殺されてしまいました。助けが来なきゃ、我々はみんな魔物の夕飯になっているところでしたよ!」

 俺は心の中で大きく舌打ちした。

 今まさに魔物に襲われているという話ならば、秒殺で倒して都へ向かえばよかった。

 だが死狼は群で断続的に襲ってくる。もし仮に村人を守るとすれば、一日か二日間ここで張り込まないといけない。

「安心してください、わたしたちが倒しますから」

 ――それが当然だというような真っ直ぐな口調でスグが言った。

「おい、バカなこと言うな。科挙はどうするんだ」

 俺が言うと、

「魔物に襲われている人たちを放ってはおけません。民を救うのが武人の仕事ではないのですか」

「科挙は待ってくれない。ちょっと民を救っていたんですが私のために再試験をしてもらえませんか、なんてそんなの通らないぞ」

「わかってます。でも、わたしは人を助けるために武人になるんです。それなのに困っている人を放って試験を受けになんていけません」

 ……スグとはわずかに一ヶ月の付き合いだが、彼女の性格は完璧にわかっていた。人を助けるためなら、自分がどれだけ損をしたって構わない。そう言う性格なのだ。

 俺がどれだけ口で言って聞かせても、彼女が村人を放っておくことはないだろう。

「わかった。じゃあ、俺が魔物を片付けておくだから、お前は先に都に行け」

 科挙は師匠不在でも受けられる。赤眼のスグを都で一人にするのは不安だったが、この状況では方法はそれしかない。

 これが間違いなく最善の案だ。

 だが――

「怪我をしている師匠だけ残していくわけにはいきません」

「なんだと?」

「腕、まだ完璧には治ってないでしょ?」

 スグが言うように、こないだの戦いで折れた腕は、まだ完治していない。

「大丈夫だ。俺は片手だけでも戦える。実際、ここまで片手で手綱を握ってきたんだぞ?」

「馬に乗るのと、魔物と戦うのとは違います」

「弟子のくせに、師匠の心配なんて十年早いぞ。とにかく、命令だ。いますぐ都にいけ」

 だが、スグは俺の言うことを聞く気など毛頭ないようだった。

「とにかく、わたしはここに残ります」

 本当に、どこまでバカなんだ。あまりのバカっぷりに呆れてしまう。

「……科挙は、身分の低いお前が身を立てる唯一の方法なんだぞ」

 それは、今まで卑しい身分のせいで苦労を強いられてきたことを思い出せと言う最後の通告だった。

 だが、スグの心が変わることはなかった。

「試験なんていつでも受けられます。でも、人を救うことは今しかできません」


 @


 結局、村の近くにいる死狼を全て片付けるのに、一日半かかった。

 村人からは感謝されたが、そんなもの俺の人生にはなんの価値もない。

 大急ぎで都へと馬を走らせたが、当然のように試験は終了していた。

「事情があったんだ。試験を受けさせてくれ」

 科挙の運営を担当する役人に詰め寄った。もし要求されば、金もあるだけ積む予定だった。だが、

「武人なら知っているでしょう。事情があっても一人だけ特別扱いはできませんよ」

「どうせ、魔物を使った試験だ。追加試験をするのに何か準備がいるわけじゃないだろ?」

「できるかできないかではなく、決まりなんです」

 いかにも王宮の役人らしくお堅いやつだった。

「武人不足なんだ。優秀な人材は喉から手が出るほど欲しいだろ。俺の弟子はそこらへんの剣師よりはるかに強いんだぞ?」

 俺が言うと、男は首を振った。

「確かにそうですが、今回の試験はかなりの豊作でした。身分の低い者にも門戸を開いた結果かなり優秀な人材がたくさん集まりましたから。だから追加で試験をする必要はないです。いくら人手不足でも俸禄には限りがありますからね」

 ダメだ、埒が明かない。

 こんな下級役人と話していても時間の無駄だ。こうなったら王女様にでも頼むか……

 と、策を考えていると、横からスグが俺の袖を引っ張ってきた。

「師匠ありがとうございます。でももういいです」

 そこには試験を受けられないことへの悲しみは少しも感じられなかった。

「試験は二年後にもあります。二年くらいどうってことないです」

「バカいうな。お前がよくても俺は良くない」

 まだ諦めるのは早い。

「もっと上の奴に話して、絶対に再試験をさせるぞ」

 俺が言うと、スグは複雑そうな表情を浮かべていた。

 こうなったらもう意地だった。



 それから武衛府の上の人間に掛け合ったが、いずれも答えは否だった。

 無駄とわかっていたが、最後には中将にまで直訴したが、もちろん却下された。そもそも中将は生粋の貴族至上主義者で、反王女派だ。赤眼を弟子にしていて、しかも王女と親しい俺の言うことなど聞いてくれるはずもない。

「……こうなったら」

 正直、この手は絶対に使いたくなかったが。

 自宅に帰って、貯金の額を確認する。

 武人になってから、無駄遣いはほとんどせず質素に暮らしてきたから、下級役人にしてはそれなりのお金が溜まっていた。もちろん、姉さんを遊郭から買い取るには程遠い金額だが。

 これだけであれば……なんとかなるだろう。

 俺は金貨を握りしめて、武衛府へと向かった。


 @


 一週間後。

 武衛府へ向かうと、師匠のゴウが俺とスグの元へやってきた。

「おい、聞いたか」

 その顔を見て、もうなんの話なのか検討はついたが、知らないふりをして聞き返す。

「何かあったんですか」

「科挙だけどな、三人辞退者が出たから、追加の試験が行われる」

「本当ですか!?」

 俺はわざとらしく言う。

「ああ」

「そんなことあるんですね」

「全く理解できないよな。辞退するくらいなら科挙なんて受けなきゃいいのに」

 ……俺は胸をなでおろした。

 これで追加の試験が行われなかったら、気が狂うところだった。

「試験を受けられるぞ」

 スグは信じられないという表情を浮かべて、それからこれまで見たことがないほどの顔を崩した。なんだ、あんなかたくなになっていたのに、本当は科挙を受けたいんじゃないか。

 喜ぶ弟子の姿を見てこちらまで嬉しくなった。

「やはり神様は見てくれているのですね」

 そんなことを言うので、「神様は目の前にいるぞ」と言いたい気分だった。もちろんそんなことを言ったら、彼女は試験を辞退するだろうから、死んでも言わないが。

 三人は勝手に辞退したのではない。金と引き換えに辞退したのだ。俺は貧しい受験者に金をやるから試験を辞退してくれと言ったのだ。そうすれば一年分の俸禄以上の金を今すぐに払ってやると。それまで溜め込んでいた有り金を全て注ぎ込むことになったが……結果良ければ全て吉田。

 ……とにかく、よかった。

 懐は寒くなったが、スグが武人になってくれれば全部チャラだ。

 

 @


 再試験は、一週間後に行われることになった。

 試験の内容は先に行われたものと全く同じで、前回試験に落ちたものも試験を受けることができる。

「試験はものすごく単純だ。闘技場で魔物と戦う。魔物の強さは全部で四段階で、一番弱い奴から順番に戦って、どこまで倒せたかで競う。もちろん他の受験者次第だが、基本的に第二段階の魔物を倒せれば九割合格。第三段階の魔物が倒せれば確実に合格できる。俺は第三段階まで倒した。烏崎は第二段階。あいつの弟子のユキも第二段階までだ」

 俺が説明すると、スグはある意味当然の質問をしてくる。

「第四段階を倒した人はいないんですか」

「一人もいない。多分、並みの武人でも倒せないだろうな」

 以前、第四段階の強さを知らないで挑んだバカがいたが、そいつは死にかけた。結局後遺症が残って武人にはなれなかった。第三段階まで行ったら時点で確実に武人になれるのに、バカなことをしたものだ。

「とりあえず、第三段階まで倒したら、そこで止めろ。第二段階でも合格の可能性はあるから、もし無理だと思ったらそこでやめてもいい。命が最優先だ」

「わかりました」

「お前の実力なら確実に合格できるから、慌てずに一週間ゆっくり休んで休息して備えてくれ」


 @


 それからスグは、身体が鈍らないように最低限の稽古をして日々を過ごした。

 そして、いよいよ明日が科挙本番。

 ――試験に合格する自信は十分にあった。それに体調も万全だ。

 いつものように、合計三百回の素振りをこなす。これで稽古はおしまい。あとは明日に備えて休むだけだ。

 汗をぬぐい、稽古道具を片付ける。

 すると、突然後ろから声をかけられた。

 声の主に、スグは驚く。

「烏崎……様」

 師匠であるリュウの宿敵、烏崎。

 スグは、貴族に対して特に恨みがあるわけではなかったが、今まで自分と師匠を散々敵視してきた人間なので警戒心はあった。

 だが、今日は彼女の様子がいつもと違うことに気が付いた。いつもは見下してくる彼女が、今日は穏やかな笑みを浮かべていた。

「スグ、ちょっとだけいいかな」

「はい、何でしょうか」

「今日はお礼を言いにきた」

 突然の言葉にスグは困惑する。

「お礼、ですか」

「ああ。こないだの天馬での戦いの時、弟子を助けてくれたそうじゃないか」

 スグは記憶を遡る。確かに倒れていた御堂ユキを建物の影に運びはしたが、あれは改めてお礼を言われるほどのことではない気がした。

「それに、私自身も、甲冑の男にやられかけていた。君がいなきゃ、私は今頃死んでいただろう。戦いの直後は、私もちょっと混乱していたんだ。でもよくよく考えてみたら、君は命の恩人だと気が付いたんだ。だから本当にありがとう」

 と、烏崎は勢いよく頭を垂れた。

 官位を持つ貴族が、卑しい赤眼の少女に頭を下げる様は、なかなかみられない光景だった。

「いや、そんな、やめてください」

 突然のことにスグは混乱する。彼女の人生の中で、貴族に頭を下げられたことなどなかったから、どうしていいかわからなかった。

「……当たり前のことをしただけです」

「いや、君は命の恩人だ」

 烏崎のまっすぐな瞳を見て、スグは彼女に持っていた苦手意識が消えていくのを感じた。

「それで、これは本当に些細なものなのだが……」

 と、烏崎は右手に持っていた包みを差し出した。

「……これは?」

「団子だよ。砂糖を使っているから甘いぞ。口に合うといいのだが」

「いや、そんな高いものいただけません」

「まぁまぁ。もう作らせてしまったのだから、受け取ってほしい。私は甘いものは苦手だから、君に貰ってもらえないなら、その辺に捨てることになる。さぁさぁ受け取ってくれ」

 と、烏崎は無理やりスグの手をとって、包みを渡す。

「……本当にいいんですか」

 スグが聞き返すと、烏崎は笑顔で頷いた。

「もちろんだよ」

 最初は遠慮したスグだったが、烏崎の目を見るうち、素直に好意を受け取ることにした。

「では、ありがたくいただきます」

「ああ、味は保証する。それを食べて、明日の試験、頑張ってくれ。陰ながら応援しているよ」

「はい、頑張ります」

「健闘を祈る」


 @


 ――いよいよ科挙の当日。

 俺はいつもより遅く目を覚ました。

 昨日の夜はなかなか寝付けなかったのだ。別に自分の試験ってわけじゃないのに。試験を受ける本人より気持ちが高ぶっているらしい。

 寝坊で試験に遅刻、なんてことになったら最悪だが、幸い試験は午後からなのでこれくらいの寝坊は許容範囲だ。

 自分が立てる以外の物音はしないので、どうやらスグもまだ寝ているらしい。

 隣の部屋で寝ているであろうスグを起こさないように抜き足差し足で部屋を出て、井戸から水を汲み、顔を洗い、水を飲む。

 冷水で目も覚めたところで、着替えるために部屋に帰る――

 と、そのとき。さっきは気がつかなかった音に気が付いた。

 うめき声のような、そんなものが聞こえたのだ。

 ――音はスグの寝室からしている。

「おい、スグ? 起きてるのか?」

 声をかけるが返事がなかった。

 不審に思って、部屋の扉を開ける――

 光に照らされたスグの顔を見て異変に気がつく。

「おい!?」

 スグは顔を赤くしてゼエゼエと息をしていた。一目で熱を出しているとわかった。

 慌てて駆け寄り、額に手を当てると、びっくりするくらいの高熱だった。

「おい、大丈夫か!?」

 返事はなかった。意識が朦朧としているようだった。

 頭が真っ白になる。科挙どころか、命が危ないと思った。

「ちょっと待て、今すぐ医者を呼ぶから」

 俺は慌てて家を飛び出し、一番近くの医者のところまで行く。患者を見ていた医者の手を無理やり引っ張った。

「おい、うちに来てくれ」

「ちょっと! 患者は他にもいるんですが!」

「一刻を争うんだ!」

 渋る医者をそう怒鳴りつける。俺の形相があまりに怖かったからか、医者は黙って付いてきた。

 家に着くと、医者がスグの横に座り、脈を診る。そしてしばらく肢体をさすったり観察したあと、突然医者は驚きの声をあげた。

「これは……」

「なんだ? どうした?」

「……これは明らかに毒です。多分、きのこでしょうな」

「なんだと? 毒!?」

「食事に紛れ込んだのか、あるいは誰かに盛られたのか、わかりませんが……やはり、間違いない。きのこの毒です」

「バカな。そんなはずはない。この一週間食事は三食ずっと俺と同じものを食べていたんだ。もし毒をられたんなら、俺にも症状が出るはずだ」

「とにかく、確実に毒です。ただ幸い原因はわかるので、解読すれば命は助かりますよ」

「ああ、そうだ。誰に毒を盛られたかなんてどうでもいい。とにかく今すぐ薬を飲ませてくれ!」

「では薬を煎じます」

 医者は薬を煎じるために養生所に戻った。俺はスグを背負って、その後に付いて行く。

「大丈夫だぞ。すぐによくなるからな」


 @


 それから解毒薬を飲ませ、二時間ほどである程度の熱は下がった。医者の言うように毒だったのだ。

 朝は意識が朦朧としていたが、それも回復した。

「とりあえず、解毒はしました。それに熱を抑える薬も。ちゃんと効いてます」

 医者がそう言って俺はようやく息をつく。

「ああ、ありがとう。よかった……」

「三日もすれば元気になりますよ」

 医者の言葉に胸をなでおろすとともに、スグが試験を受けられないことに憤りを感じた。

 スグが一人でにきのこを食べたりするわけがない。誰かに毒を盛られたのだ。

 ……毒を盛った人間を突き止めたらただでは置かないと心に誓う。

「あの……」

 とそれまで黙っていたスグが俺に喋り掛けてきた。

「今、何時ですか」

「今? 巳の刻だが……」

 俺が言うと、スグはホッとした表情を浮かべる。

「よかった……試験には間に合いそうですね」

 その言葉を聞いて俺はギョッとする。

「……なに?」

 俺は言葉を失う。

 すると横で聞いていた医者が「試験?」と聞いてくる。

「科挙があるんです」

 とスグが答える。

「科挙と言うと……まさか、武人の?」

 医者が俺の驚きを代弁してくれる。

「ええ。試験は午の刻からなんです」

 スグがそう言って、のろのろと立ち上がる。

 と、医者もバッと立ち上がって慌てたように言う。

「まさか、その体で魔物と戦う気ですか?」

「ええ。お医者様のおかげでなんとかなりそうです」

 バカなのはよく知っていたが、ここまでバカだとは。

「いいか、科挙で戦う魔物は、普通の武人でも気を抜いたら死んじまうくらい強いんだ。そんな体で戦えるか」

 俺が言うと、スグは首を振った。

「こんな体だからこそ、戦わないと。だって、そうでしょう。武人が、体調が悪いからって言って敵から逃げ出しますか?」

「いい加減にしろ。いくらお前でもその体で戦うのは無理だ。だいたいお前も言ってたじゃないか。科挙は次もあるんだ」

「戦うと決めたら戦わないと」

「頼む、今日くらい俺の言うことを聞いてくれよ」

 だが、スグの瞳はまっすぐ前を向く。

「今日逃げたら、多分次も逃げます」

 こうなったらテコでも動かないのがスグと言う人間だ。そのことはもう嫌という程わかっている。

 言葉でどれだけ言って聞かせても無駄だろう。

「心配してくれてありがとうございます。本当に無理だと思ったらその時点で棄権しますから」


 @


 結局、スグには試験を受けさせるだけ受けさせることにした。

 もちろん最後まで試験を受けさせる気はない。少しでも苦戦した時点で、迷わずに止めに入るつもりだ。

 試験会場へ向かうスグの足取りは、それなりにしっかりしていた。

「本当に大丈夫か?」

 無駄とわかっていて、そう聞くが、スグは即答する。

「ええ、すっかり元気です」

 そう言うが、とても強大な魔物と戦えるような状態ではないはずだ。うなされるほどではないにせよ、熱は下がりきってない。医者は、薬がもたらす副作用で倦怠感とめまいもあると言っていた。歩くことさえ辛いはずだと。

 だが、それでもスグは一歩一歩会場へと向かった。

 試験会場の武闘場にたどり着くと、すでに他の受験者やその師匠、そして試験官の武人のたちが集合していた。

 受験者の待合室へスグを送り出し、俺は武人専用の観戦席へと向かう――その途中、試験には関係ないはずの烏崎の姿を見つける。

 目があうと、烏崎は一瞬驚いた表情を浮かべた。それは本当に一瞬だったが、しかしそれで俺には全てがわかった。

 スグに毒を盛ったのはこいつだ。

 次の瞬間、俺は腰から剣と抜き烏崎の首に突きつけた。

 周囲から悲鳴が上がった。

「おい、なんの真似だ」

 烏崎が睨んでくる。

「それはこっちの台詞だ。毒を盛るなんて、卑劣にもほどがあるぞ」

 俺が言うと、烏崎はふっと笑って「なんのことだ?」と白を切る。

 首元に剣を突きつけられているにも関わらず余裕なのは、俺が大衆の面前で斬るはずがないとわかっているからか。

「とぼけても無駄だ」

「なんだ、お前の弟子は毒を盛られたのか。それは大変だな。大事な科挙だって言うのに」

 当然のことだが、烏崎があっさり罪を認めるはずもなかった。

 ……もちろん、俺もこいつを今この場で殺すつもりはない。

「ただでは済まさないからな」

 剣をさやに戻し、踵を返して観戦席へ向かう。

 今は制裁よりも、スグの心配だ。


 @


「王女様の御成!」

 試験の開始直前、突然野太い声が武闘場に鳴り響いた。

 入り口から現れたのは、間違いなく王女様その人だった。

「お、王女様!」

 試験を監督する中将が驚きの表情を浮かべながら擦り寄る。

「突然、このようなところにいらっしゃって。どうされたのですか?」

 尋ねると、王女は笑みを浮かべた。

「科挙の実技試験がが行われると聞きました。少し時間ができたので、この国の未来を守る人々がどのような者たちか見物したいと思いまして」

「まさか王女様がいらっしゃるとは思わず、席も準備しておりませんが……」

「構わない。その辺に座って見ます」

 と、王女はおもむろに見学席の一角に腰を下ろす。

「私には一切構わず、試験をはじめてください」

「……は、はぁ」

 中将は突然のことに少し動揺していたが、しかし王女が何も要求はしてこないとわかると、試験の開始を宣言する。

「それでは、これより武人登用の科挙を始める」

 今回の受験者は総勢十名。本試験で不合格になったものが大半だったが、しかし彼らの腕前もなかなかのもので、例年であれば余裕で試験に合格したであろう猛者も多かった。

 初めの三人目は、第一段階を軽々突破し、第二段階でも善戦した。

 そして四人目は第二段階を突破。さらに彼は第三段階の魔物とも善戦した。五分も対等に戦い、いくらか傷までつけて見せたのだ。

 そして五人目もなんと第二段階を突破。

 ……スグには第二段階を倒せば合格の可能性があると言ったが、どうやら今年はそうではないらしい。

 賎民にも門戸を開いたことで優秀な人材が集まったと聞いていたが、まさかここまでとは。

 そのあとの六人目と七人目はどうにも不甲斐ないやつだったが、次の八人目も第二段階を突破。さらに九人目も第二段階を倒してしまった。

 ――合格の枠は最高で三つ。

 第三段階まで倒したものが一人、第二段階を突破したものは多数。

 つまりスグが合格するには第二段階を倒すことが最低条件になる。

 ――だがスグの場合、それだけでは不合格だ。彼女にはまだ言っていないが、実は後日筆記試験が行われる。読み書きができない彼女は確実に零点だ。

 筆記の配点は大きくないので、実技試験で他を圧倒すれば合格は確実だったが……ここまで優秀な者が集まっているとそうもいかない。

 筆記の分を巻き返すには、第三段階を倒さないといけない。

 ――万全でも合格は難しいだろう。

 あわよくばと思ったが、どうやら今年の合格は不可能らしい。

「受験番号十番、スグ!」

 と高らかに名前が呼ばれ、スグが武闘場に姿を現す。

 その足取りは確かだった。とても今朝まで高熱にうなされていたようには見えない。

 だが、命を賭けた戦いでは一瞬の隙も許されない。万全ではない状態で果たして無事戦い抜くことができるか――

 俺は席の最前列に立ち、危なくなったらいつでも助けに入る準備をした。

 頼むから無事に乗り切ってくれ――

 スグは鞘から剣を抜き、正中線に構える。

 そして、反対側の入り口にある檻が解放される。

 中から一匹目の魔物、死狼が出てきた。

 こないだ赤眼の村で戦った奴より数倍大きい種類だ。しかもすばしっこさも兼ね備えている。ちょっと腕に自信があるくらいでは勝てない。

 死せる狼は、低く吠え、そして一目散にスグに向かって駆け出し――飛びかかった。

 避ける隙を与えない――

 いや。スグは避ける気などさらさらなかった。

 向かってる狼に向かって、真正面から同じだけの速度で斬りかかる。次の瞬間、剣が狼を真っ二つにしていた。

 ――見ていた者たちが――俺を含めて息を飲む。

 スグの瞳には、確かに鋭い闘志が宿っていた。

 止めに入ろうと思っていたが。

 今のスグの瞳は、もし止めに入れば、俺でさえ斬られてしまうのではないかと錯覚するほど鋭かった。

 続けて、二匹目の魔物が放たれる。

 今度は巨大なトカゲだ。狼ほど素早さはないが、石のように硬い鱗に覆われている。下手に剣を突きつければ折れてしまうだろう。

 自分の三倍はあろうかという魔物を相手に、けれどスグは一切ひるまなかった。

 その紅色の瞳でトカゲをひと睨みし、そしてやはり正面切って戦いを挑む。

 その圧倒的な殺気を前に、凶暴なトカゲも怯んだようで、斬りかかってくるスグにまっすぐ向き合わず、その硬い側面をぶつけるようにして体当たりをしてきた。

 だが、スグは岩のような鱗にまっすぐ剣を突き立てる。

「――撃砕!」

 次の瞬間、剣はトカゲの鱗を突き破り、そのままその肢体を武闘場の壁まで吹き飛ばした。

 トカゲの死体は緑色の血を壁に塗りたくりながら壁を伝って地面に落ちた。

「嘘だろ」

 見ていた武人が口々に言った。

 他の受験者たちも魔物を倒したとはいえ、ここまで圧倒はしていない。それなのにスグは文字通り瞬殺して見せたのだから、当然の反応と言える。

 だが――ここからはこれまでとはちょっとレベルが違う。

 次の魔物は、死体を加工して作られた武者だ。燕国で作られた鋼鉄の鎧と剣を装備している。

 ――それが一度に五人。

 死人ゆえの怪力を持った五人が、同時に襲ってくるのだ。下手をすると一瞬で殺されてしまう。

 俺は固唾を飲んで見守る。

 武者たちが駆け出した。その動きは死体とは思えぬほ速い。

 そして一斉にスグに斬りかかる――

 会場にいる誰もが、次の瞬間少女が切り裂かれると思った。

 だが、一人だけそうは思わない人間がいた。

 ――襲われている少女本人だ。

 スグは、武者の動きを見切っていた。

 同時に襲いかかってくるといっても、完璧に同時に四方から襲いかかってくるわけではない。死者にそこまでの統率力はない。

 最初に飛び込んできた武者の剣を避けながらその腹を一刀両断。さらに続く二人の首をを返す刀でまとめて斬り飛ばす。

 そして、地面を蹴り、少し遅れてやってきたもう二人を今度は串刺しにする。

 ――神業という他なかった。会場にいる誰もが息を飲んでいた。

 少なくともスグの強さを知っている俺からすれば、驚くべき結果ではない。

 だが、今彼女は熱にうなされているのだ。それなのにいつも通りの強さを発揮しているその精神力には言葉がでない。

 そして、わずかな沈黙。魔物を檻から出す係の武人は、本当に次の魔物を出していいのか困惑しているのだ。それまで第四段階の檻は、準備こそされていたがしかし放れたことはなかった。

 だが、スグの殺気が扉に向かい――その目を見て武人は戦うことを所望しているのだ確信する。

 そして、いよいよその扉が開け放たれた。

 第四段階の魔物はやはり生ける屍。

 だが、さっきの武者とはわけが違う。

 厳かに檻から出てきたのは、袴を来た長髪の男――の屍だ。

 こいつは先の戦争で殺された突の国の武人を元にして作られている。つまり元武人、というわけだ。

 たたでさえ武人ゆえに高い戦闘能力を持っているにも関わらず、今は死人となったおかげで恐れや制限というものがない。それゆえ、体にどれだけのダメージがあろうとも力の限り動き続ける。

 いくらなんでも、あれはヤバイ。

 なにせ科挙受験者であれを倒せたものはいないのだから。

 ――止めなければ。

 そう思ったが――やはり、スグの瞳を――赤い殺気が宿った瞳を見たら、動くことができなかった。

 武人としての本能がそうさせる。無用な手助けは、彼女の剣士としての誇りを汚すことになる。

 ――今回ばかりは、先に動いたのは魔物の方だった。

 一気に間合いを詰め、斬りかかる。

 甲高い音が鳴り響く。歯を食いしばったのはスグの方だけだった。見ているだけでも、男の放つ剣圧が感じ取れる。

 魔物が押し切りスグは数歩後退させられる。その隙にさらにもう一つ、重たい一撃。

 例え刃に直接触れずとも、その衝撃は体を突き刺す。いくらスグが敵の攻撃を先読みしても、痛みを消すことはできない。

 さらに、男は剣を振り切ったついでとばかりに回し蹴りを飛ばす。スグは寸でのところで避けるが、もし直撃していれば即死だったろう。

 スグが剣を正中線に構え直す――隙を与えず、すぐさま次の攻撃。

 そして、次の瞬間、魔物は普通の剣戟では決着がつかないことを、本能的に悟ったのだろう。

 ――男の刃が光に包まれる。

「……リュウサイ」

 一刀流、第三の形、龍砕。決して難しい技ではない。だが、失うものがない者が放てばその威力は絶大だ――

 スグも地面を蹴って、その技を真っ向から迎え撃つ。だが、剣がぶつかったそのわずか後、幼い少女の体が後方に吹き飛ばされ、地面の上を滑っていく。

 少しの間、スグは立ち上がることができず、地面に倒れ込んだままだった。

 だが、少女がまだ生きていることを感知死せる武人は、再びその剣に光を宿す。

「……ガンカク!」

 マズい。あれは一刀流の上級形だ。威力は天流乱星にも勝るとも劣らない。もし受けそこなえば、スグの体は肉片と化すだろう。

 もはや誰もが少女の命は潰えたと思ったが――

「――撃砕!」

 その赤い瞳が光る。

 そして次の瞬間、赤色と銀色が交錯した。

 空気を震わせ、周囲の地面をえぐり飛ばす剣圧――

 長い拮抗ののち、競り勝ったのは――赤い瞳の少女だった。

 魔物の持っていた剣を真っ二つに切り裂き、そのまま胴体を斜めに振り斬る――

 濁った血が吹き、動く屍は単なる屍に戻った。

 残心をとり動かないスグ。

 観客たちは圧倒されて言葉がない。

 ――だが次の瞬間、その沈黙を破るように、スグの小さな手のひらから剣の柄が滑り落ち、カランという音を立てた。そのまま前のめりに地面に倒れる。

「スグ!」

 俺は慌てて飛び出し、スグの元に駆け寄る。

「おい、大丈夫か!」

 抱きかかえると、幸い息はあった。気を失っているだけのようだった。

「おい、医者! 医者を呼べ!」


 @


 医者の診断では、命に別状はないので心配はいらないとのことだった。毒そのものは完璧に解読されていて、熱もこれから下がっていくだろうということだった。

「しかし、毒を飲まされた状態で戦うとは。大の男でも普通は動けませんよ」

「ええ、大したものです」

 安らかに眠るその寝顔を見ていると、とても魔物を倒した剣士には見えないが、しかし彼女はそれを成し遂げたのだ。まさか熱を出した状態で、誰も倒したことがない第四段階の魔物を倒すとは。

 全くどこまで規格外なのか。

 俺はその小さい肩を一度撫でてから、そして部屋から出る。

 そばにいたいと思ったが、邪魔になっては悪いと思ったのだ。

 武闘場に戻ると、すでに受験者たちは解散していたが、武人たちはまだ残っていた。その理由は単純で、王女が席に座っていたからだ。

 ――王女と目線が合う。

「弟子は大丈夫でしたか」

 王女は俺にそう声をかけてきた。

「ええ、気を失っているだけです。医官も大丈夫だと申しております」

「それはよかった」

 と王女は笑みを見せる。

「しかし、そなたの弟子は本当にすごいですね。とても少女のそれとは思えない剣戟でした」

「恐れ入ります」

「身分を問わず門戸を開けば優秀な人材が集まるとは確信していましたが、まさかここまでとは思いもしませんでした。本当に素晴らしいです。このことは王様にもお伝えします」

「恐れ入ります。スグも喜ぶことでしょう」

「まずは武官からと始めて見ましたたが、文官も身分を問わず募集することにしましょう」

 王女の言葉を聞いていた貴族たちがギョッとして息を飲むのがわかった。大した力もないのに身分だけで地位を得てきた貴族からすれば、自分たちの全てを否定されているようなものだろう。

「最近、突(とつ)の動きが盛んになってきて、王様共々気を揉んでいましたが、彼女のように優秀な人間がいれば我が王朝も安泰です」


 @


 三日後。スグは順調に回復し、医者の見立て通りすっかり元気になった。

「二次試験に間に合って本当に良かった」

 実技試験では他のものを圧倒したスグだったが、試験はこれで終わりではない。

 これから二次試験の筆記試験を控えているのだ。と言っても、配点はわずかで、実技試験の優位が覆るようなことはない。どちらかというと合格後の配属などを決める際に活用されるという色合いが強い。

「名前だけ書いて、すぐに帰っていいからな」

 スグは――別に彼女に限った話ではなく身分が低い人間の多くがそうだが――文字の読み書きができない。だから最初から筆記試験は捨てるつもりだった。

 実技試験が圧倒的だったので、名前を書きさえすれば合格は間違いないだろう。

「まぁ、武人になったら文字を読まないといけない場面が出てくるから、別に勉強はしないといけないが……とりあえず今日は気楽にやれ」

「はい」

 スグは元気に頷いた。


 @

 

 俺はスグを連れて試験会場へ向かった。

 試験は武衛府の一角で行われる。追加試験の前に規定の成績を納めた者たちも一緒に試験を受ける。なので会場には当然のように烏崎と弟子の御堂ユキの姿もあった。

 俺は奴とは目線を合わせず、黙って受付を済ませる。

 スグに試験の後は一人でまっすぐ家に帰るように伝える。

「ちょっと事務仕事をこなしてから帰る。夕飯は豪華にパァッとやろう」

 そう伝えると、スグは笑みを見せた。

 その後、烏崎が部屋を出たのを確認してから俺も部屋を出る。と、部屋を出ると烏崎が廊下の柱にもたれかかって待ち伏せしていた。

「おたくの弟子、文字書けるのか?」

 煽ってくるが、無視を決め込んでその場を去る。

「なんだ、つれない奴だな」


 @


「ええ、ちょっと手違いで準備までしばらく時間がかかるので、試験は未の刻から始めるものとする」

 試験を担当する武人が受験者たちにそう告げた。

 スグはそれまで気を張っていた他の受験者たちの気が緩むのを感じた。そして多くの者が荷物から書物を取り出して、勉強を始めた。

 しかしスグは勉強する書物もないので、手持ち無沙汰になる。

 と、隣に座っている御堂ユキも、スグと同じように手持ち無沙汰にしていた。もっとも彼女の場合は万全なので今更詰め込む必要がない、といったところだろうか。

 同世代ではあったが、ユキは貴族で、スグは賎民。普通に生きていれば一生話すこともない間柄だ。それゆえスグは話しかけることもせず、黙って机の木の模様を眺めていた。

 だが、突然ユキの方から話しかけてくる。

「それにして、卑しい人間は、やることも卑しいのね」

 突然そんなことを言ってくる。

「……なんのことですか」

 スグが聞き返すと、ユキは鼻で笑った。

「とぼけたって無駄よ。知ってるんだから」

「だから、何をですか?」

「お金で一次試験の合格者を辞退させたことに決まってるでしょ」

「え?」

 それはスグにとって晴天の霹靂だった。

「賄賂なんてほんとに汚い」

「……賄賂?」

 と、スグは本気でなんのことかわからずに聞き返す。その顔色をみて、ユキも、スグがその事実を知らなかったことを悟った。

「なんだ。知らなかったんですね。でもよく考えてみなさいよ。科挙は立身出世の唯一の手段なのよ。それを受けに来て、試験に合格したのに辞退するバカな人がいると思う? しかも三人も」

「そんな……でも、そんなこと」

「そう思うなら、辞退した人に確認してくれば? 都の近くにいるわよ。名前、教えてあげようか?」


 @


 事務仕事は嫌いだが、今日だけは力が入る。

 早く終わらせて、家に帰って、スグの合格を祝わなければいけないからだ。

「おいおい、どうした。そんなに力を込めて筆を握るお前は初めてみたぞ」

 俺の様子をみていたゴウが笑う。だが俺は気にもとめずに筆を動かす。

「邪魔しないでください。俺は今日めちゃくちゃ急いでるんです」

「そうかそうか」

 武官と言えども。役人は役人。毎日剣を振うだけが仕事ではない。特に王宮にいるときは、それなりに書類仕事もあるのだ。しかし、この一週間スグの試験のことで手いっぱいで、仕事を溜め込んでいた。だから今は箱いっぱいに巻物が溜まっている。しかも明日までには片付けなければいけないものだ。

「しかし、完全に親バカだな」

 とゴウに茶化された。


 @


 書類仕事をなんとか片付けた頃には、日はすっかり暮れていた。

 机の上を片付けることもせず、書き終えた書類をゴウの机に置いて、帰路につく。

 遅くなってしまった。スグはお腹をすかせて待っているだろうと思うと、以前と早足になった。

 だが、そんな彼を、ちょうど通りかかったゴウが呼び止めた。

「ちょっと待て」

「なんですか師匠。俺急いでるんです」

「いや、スグの試験のことなんだが」

 と、ゴウの口からスグの名前が出たところで、俺は立ち止まった。

「何かあったんですか?」

「それが、スグが試験を辞退したそうなんだ」

「……なに?」

 俺は驚きすぎて目眩を覚えた。

「辞退? なんで?」

「いやわからん。だが、試験を受ける前に監督官に申し出て、試験をそもそも受けてないらしい」

 意味がわらからない。名前さえ書けば合格するのに試験を辞退するなんて。一体何が起きたんだ。

 ふと頭をよぎったの――もしかして烏崎にでも脅されたか? じゃなきゃ試験を辞退するはずがない。

「今スグはどこに?」

「それは知らないが、多分武衛府にはいないぞ」

 俺は何も言わず、走り出した。寄り道をするような場所はないはずなので、多分自宅に戻っているはずだ。


 @


 息を切らして自宅に戻ると、玄関にスグの小さな靴を発見した。ひとまず家には帰ってきているようだ。

「おい、スグ、一体どういうことだ!」

 そう言いながら部屋に入ると、スグは部屋の隅で静かに座っていた。

 その顔に笑みはなかった。

 そして俺を認識すると、その赤い瞳で俺を睨みつけた。普段からは考えられないほど、憎悪のこもった目つきだった。

「聞きました。賄賂で他の受験者を辞退させたって」

「……何?」

「御堂さんが辞退した人たちは賄賂を渡されたっていうから。それで辞退した人たちに話を聞きにいったら、確かにお金を渡されたって」

 俺は心の中で舌打ちする。そもそもなんであの野郎がそのことを知ってんだ。

「だが、それがどうした。そんなことより、なんで試験を辞退したんだ」

 聞くと、スグは理由を答えた。

「賄賂で合格するなんて、絶対にいけないことです」

 頭が痛くなった。彼女が曲がった事が嫌いなのは知っていたが、しかしまさか試験を辞退するなんて。

「バカなこと言うな。お前は実力がある。確かにお金は渡したが、受け取った奴らはみんな家が貧しい賎民だ。お金があれば、今すぐに家族を楽にさせてあげられるんだ。武人になったところでいますぐに金持ちになれるわけじゃないんだからな。お前は試験を受けられる。あいつらは貧しい家を助けられる。お互いに幸せじゃないか」

 だが、スグは俺の言葉を聞く気などないらしい。

「汚いことをして武人になっても何の意味もありません」

「汚いことだと? 俺はお前のためにやってやってるのに。俺は貯金をはたいたんだぞ?」

「わたしは賄賂を積んで試験を受けさせて欲しいなんて一言も言ってません」

 思わず舌打ちする。

「バカも大概にしろ」

 だが、それ以上スグが何かを言うことはなかった。

 とてつもない無力感に襲われた。


 @


 翌朝、俺は武衛府にいき、真っ先に試験を監督する役人のところへ向かった。

「頼む。辞退を取り下げさせてくれ」

 俺が言うと、役人は冷たい視線を向けてきた。

「本人が武人になる気がないと言うんです。無理やり試験を受けさせることはできませにんよ」

「違うんだ、本人は武人になりたいんだよ。ただちょっとした誤解があって」

「それで、どうしろって言うんです。また試験をやり直せとでも?」

「実技試験の成績がよかったのは知ってるだろ? 筆記はゼロ点扱いでいいから、頼むから選考に入れてくれ」

「もう、無茶言わないでください。前も言いましたが無理なものは無理ですから」

「頼む。考え直してくれ」

「……邪魔ですから。出て行ってください」

 懇願虚しく、俺は無理やり部屋を追い出される。

「チクショウ」

 次の科挙は二年後だ。それまで待つなんて馬鹿げてる。スグには一刻も早く出世してもらわないと困る。

 なんとかこの状況を覆す方法はないか……。

 だがいい案は浮かばない。また金でなんとかしたいところだが、もう蓄えも残っていないのだ。

 と、地団駄を踏んでいると、声をかけられる。

「おい、大変だぞ」

 声の主は師匠のゴウだ。

「なんですか。今、俺はそれどころじゃないんです」

 だが、

「それどころじゃない? 王朝の危機よりも大変なことがあるのか?」

「王朝の危機?」

「ああ、その通りだ」

「そりゃ一体どう言う……」

「塩山が突に占拠されたんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る