20 木漏れ日
木漏れ日
あなたとわたしの暖かな、一時の思い出。……温もり。
日差し。優しい風。あなたの手の温もり。
そんなものを、わたしはときどき思い出した。
あなたとの思い出は、私にとって、眩しい光のようなものだった。暗い夜に差し込む光。
……月の光?
……ううん。それはきっと太陽の光だった。
私はね、加奈ちゃん。
あなたのことを思い出すとき、いつも木漏れ日を思い出すの。
二人で手をつないでさ、学園の緑の木々の間を歩いて、そこに差し込む、太陽の光の中で、木漏れ日の中で、私たちは二人で、ちょっとだけ人生をさぼってお昼寝をするの。
そんなことをね、私はね、加奈ちゃん。
あなたの思い出とともに、今も思い出すんだよ。
加奈ちゃん。
私は加奈ちゃんのことが大好きだった。
……ずっと、ずっと、あなたのことが大好きだった。
涙を流しながら、牧野文は思う。
奥山加奈のことを。
二人の消えてしまった、幸福な時間のことを。
そして、取り返しのつかない過去のことを。
文はずっと泣いている。
ずっと、ずっと泣いている。
やがて電車の中から、物語の視点は暗い空の中に移動する。
……ばいばい、文ちゃん。私と友達になってくれて本当にどうもありがとう。
誰かがそこから、電車の中にいる泣いている牧野文に、懐かしい声で、そう言ったような気がした。
結局、それから牧野文と奥山加奈はもう二度と再会することはなかった。
でも、牧野文は生涯、おばあちゃんになっても奥山加奈のことを最後まで忘れなかった。
木漏れ日 終わり
木漏れ日 雨世界 @amesekai
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