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 二十八歳になった牧野文は新宿駅から電車に乗って、大宮駅で乗り換えをして、北関東にある街を訪ねた。

 季節は冬で、その日は今にも雪が降り出しそうな天気の日だった。


 文は懐かしい思い出とともに、街を歩いて、その街で暮らしているはずの、本当なら文と同じように二十八歳になっているはずの、十六歳でその思い出が止まってしまったままでいる、一人の少女の姿を思い出していた。

 文は小さな公園と、古びた共立高校を見て、それから小さな動物の隠れ家のようなレストランで食事をして、そして、一軒の今は空き家となっている古い家を訪れた。それは赤い屋根の家だった。

 文はその固く玄関の閉ざされた家の前で、少しだけ立ち止まってから、暗い灰色の空を見上げて、そして、また再び一人で歩き出して、最寄りの駅まで移動した。

 そして随分と時間を待ってから、やってきた大宮行きの電車に乗った。


 北関東の街から大宮まで、電車で移動している間、文が電車の窓から見る冬の空からは雪が降ってきた。

 今年の初雪だった。

 その雪の降る景色を見ながら、文はいつものように、その電車の席の上で泣いた。

 初めから、自分が泣くことがわかっていたから、電車はゆっくりと泣けるように、席の決まっている特急列車の切符を買っておいた。

 そうしておいてよかったと思った。

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