第2話 レモンってフルーツに入るよね?

「はいじゃあ面接はじめますね~」


 コンビニバイトを辞めた翌日。

 異世界バイトにチャレンジすることにした俺は,なぜか市・役・所・にいた。


「え、いきなり面接なんですか?」


 雑誌に,ご応募は市役所まで! って書かれてたから,とりあえず来てみたんだが……


「はい~。気構えてもらっても困りますので,いきなり面接になります~!」


 早々に受付に通され,ヒョロっとした中年男性になされるがまま,面接することになった。


「はぁ……。よろしくお願いします」


「よろしくね~!」


 しかし,気さくというかなんというか。

 若干気味の悪いおっさんだ。

 いや,いい人だとは思うんだが……こういう八方美人そうなタイプは俺は苦手だ。


「まず名前は――佐藤さんね! 高校1年生で,バイト経験はコンビニ。間違いないね!?」


「はい」


「――よし,合格!」


「はやっ!!?」


「すごい数を募集してるからね~。誰だっていいんだよ,ぶっちゃけ」


「は,はぁ……」


 おいおいそれでいいのかよ……異世界のことだから日本は関係ないってか??


「んじゃ,さっそく今から転移してもらいたいんだけどいいかな?」


「はぁ,大丈夫ですが」


「よしきた〜! じゃあ転移の前に何点か質問ね。まず,好きなフルーツはあるかな?」


 なんだその質問。

 特技とか趣味とかじゃなく,好きなフルーツって。


「レモンですかね」


 普段あんまりフルーツは食べない。

 強いて言えば,ビタミンC配合のレモンの飴をよく舐める。


「へぇ〜珍しいね! フルーツって聞いて,そう答えた人は初めてだよ!」


「まあ確かに,そのまま食べる人少ないでしょうし」


「じゃあ次の質問ね~。なりたい職業とかある? やっぱり勇者??」


「あー,まぁどうせなるなら勇者ですかね」


 みなから崇拝されることに憧れてはないが,勇者の方が肩書き的にも給料良さそうだし。


「はいはい,勇者志望ね~。むこうの受付でも聞かれるから,ちゃんと話してね」


 B5程度のざらばん紙に走り書きしていくおっさん。


 その後,趣味や経歴,希望給などいくつかの質問に答える。


「――なるほどなるほど~。んじゃ,次は最後の質問ね。佐藤くん,君は――」


 これまでの陽気な声色とは一転,肌寒さを感じるほどに冷たい声でおっさんは告げた。


「君は,この世の中をどう思っているかい?」


「この世の中,ですか」


 値踏みするかのように怪しく黒光りする二つの目に見つめられる。


 質問の意図はわからないが,俺にはこ・う・答・え・る・こ・と・し・か・出・来・な・い・。


「一度,崩壊してしまえばいいって思います」


「ほぅ?」


 おっさんは特に表情を変えることなく,続きを促す。


「手遅れなんですよ,今の世の中は。何をするにしても。1度リセットして,再出発しないとなんにも出来やしないんです」


 少なくとも俺はこの15年間,そう感じざるを得ない人生を送ってきた。

 国に見放され,家族に見放され,友達に見放され。

 俺は救われない人生を送ってきた。

 民主主義,なんてのは嘘っぱちだ。一部の人間だけが得をしている,独裁的な世の中だ。


「俺ですらそう感じるレベルで今の世の中は終わってる。それに意を唱えず,平然と生きてるヤツらが多すぎるんですよ。文化だからとか,当たり前だとかで,受け容れてるバカばかりだ。――まぁ,かくいう俺も,バカなんですけどね」


「ふふっ――あーいや,失礼。君があまりに真剣に話すものだから,ついね。そんなに睨まないでくれよ」


 と詫びながらも,おっさんは口角を上げたままニヤニヤしている。


 ――どうせこのおっさんも,俺の事をバカにしている。


「なるほどなるほど。そういう君だからこそ,こうなるのか。へぇ――うん,ありがとう。それじゃ転送するけど,何か質問あれば聞いてね~」


 おっさんは立ち上がり,部屋の外に出てなんかのスイッチを押した。


 すると,あちこちから機械音が響き渡り,部屋全体が青白く光り始めた。


「えっ,ちょっ,心の準備ってのがまだ……あぁもう,どうでもいいわ! おっさん,俺は異世界についたら何すればいい!?」


「迎えのものがいるはずだよ~。その人から色々説明を受けてね。まだあるかな~?」


「えっと他には……なんかアイテム貰えたりするのか?」


「ゲームじゃないんだからそんなのないよ~。けどまぁ,一つだけスキルが割り振られるよ。頼みにしといてね~」


 青白い光はやがて身体を包み込み始める。

 身体の感覚が歪み始め,周囲を正しく認識出来ない。


「さーそろそろ時間だね~。――せいぜい生きて帰って来れるように頑張るんだよ~」


「!?? 生きて帰るって,どういう意味だ――」


 おっさんの不吉な言葉の真意を確かめる前に,異世界への転移が始まってしまった。


「――まぁ君にはまた会うことになりそうだが」


 ――俺がこの世で最期に見た光景は,不気味な笑み浮かべ何かを呟くおっさんの姿だった。

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今日から始めよう異世界バイト! 〜時給1250円(高校生歓迎)~ ばくぶしゅ @vukbsh

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