今日から始めよう異世界バイト! 〜時給1250円(高校生歓迎)~
ばくぶしゅ
第1話 おばちゃんからもらった梅おにぎりはいつもよりちょっと酸っぱかった。
――時は金なり。タイムイズマネー。
アメリカ合衆国建国の父と謳われる,ベンジャミン・フランクリンにより記された言葉だ。時間を浪費することがどれだけ人生を無駄にしているかを説いた一説だが,そんなこと俺が知ったことじゃない。
時間は金と同等だ。そう覚えてればいいんだろ?
だがしかし! 俺はこの言葉に反抗する!
時が金だと?? ふざけるな!! 時間は金なんかに変えられないだろ! 時間こそ正義だ!!
……え? 本来の意味と一緒じゃねえかって?? 勘のいいガキは嫌いだよ。
まぁともかく。俺は時間を無駄にしている人間が好きじゃない。
そもそも,無駄な時間なんてないのかもしれないが,最近の輩は時間を浪費しすぎだ。アルバイトだの社畜だの,んなことよりもっと有意義な時間の使い方があるだろう??
……などと考えふける,高一の春先でのコンビニバイトの休憩時間。時給800円でほぼ毎日働いている。
惨めだろう?? 死んだ方がマシだよなぁ!? 笑いたきゃ笑え!!
かくいう俺は現代病の重度感染者。やることがないから,ただバイトをするヒビを過ごしている。
「すまん佐藤。レジ並んでるから,休憩早めにあがって対応してくれ」
「ういっす」
バックオフィスにあった『今の君に満足してる!? 始めよう,新たなる人生!! ~異世界召喚編~』とかいう三流雑誌のせいで,よく分からんことを考えてしまった。
「次にお待ちのお客様,こちらへどうぞ」
――新たなる人生,ねぇ。
そもそも今の人生すら,なんもやれてないのに,ニューゲームしたところで大した意味もないだろ。
「……ねぇねぇ,最近の若い子って,やっぱり異世界バイトに興味あるの?」
「はぁ,自分はそこまでですけど。周りのヤツとかは春休み中に行くとか言ってましたね」
「あら,そうなのね。 おばちゃんはよく分からないんだけど,うちの娘も今週末から異世界に行くとかで張り切っちゃってて。高橋さんや鈴木さんは大丈夫だ~って言ってるんだけど,異世界って危険なんでしょう? 不安で不安で辞めさせたいんだけど,どうしたらいいかしら……」
「はぁ,大変ですね」
こういったおばちゃんには,適当に相槌を打つくらいがちょうどいい。たかがバイトであまりエネルギーは使いたくない。
しかし『異世界』 か。
最近はどこもかしこもそればかりだな。
ネットの自作小説流行を皮切りに栄えた異世界系ファンタジーは,数年前にどこ〇もドアの開発していたアホな科学者が,間違って異世界の扉を開いたことで現実となってしまった。
ツッコミどころしかない。
ど〇でもドアを開発しようとしてる時点で意味不明だが,なぜその結果がワクワクファンタジーに繋がるのだろうか。
「……あらやだ,話しすぎちゃったわ! これ,おばちゃんからのお詫びね。バイト終わりにでも食べてちょうだい!」
梅おにぎり(税込110円)をもらった。ごめんおばちゃん。半分くらい….…いや,ほとんど聞いてなかった。
その後もレジ打ちをしながら,色々と考えてみる。
そもそも,異世界に通じたからといって,たった数年でバイト出来るほどになってていいのか。そこに伴う危険性だとか,環境への影響とか分かってるんだろうか。
例えば,俺のバイトのシフト。最近はコンビニでバイトする若者が減ったせいで,ほぼ毎日働くハメになっている。まぁ,嫌ならやめればいいんだが……。
人手不足とか叫んでる一方で,異世界に人間を送り込んでるんだから元も子もない。
バカだろ,国会。
とはいえ。
「……行ってみるか,異世界」
興味ないわけじゃない,異世界ファンタジー。
だってさ??
なろう系っていうんだっけ??
俺ら中高生の間で流行ってる,小説投稿サイトによくある作品。
俺みたいないっぱしの学生が,異世界行ったら俺TUEEEEかつハーレムで美少女とイチャイチャ。
最高じゃねえか!!!
「店長。俺,バイト辞めますわ」
思い立ったが吉日。
店長には申し訳ないが,おれは苦渋の思いでバイトを辞める決断を
「お、そうか。元気でな」
する……って、えぇ…………。
「いやいや、あっさりしすぎでしょ!!?」
「あん? なんだお前,自分にそんな価値があると思ってんのか? たかだかバイトなんだからよ,いてもいなくてもどうだっていいんだよ」
「さ、さいですか……」
「おう。分かったらさっさと出ていきな」
こうして俺は,半ば追い出される形でバイト戦士から学生ニートへと転職した。
……まじめにやってみるか,異世界バイト。
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