「cresc. molto80」の異世界への扉
カチリ
私はポストの中に差し込まれていた宅配便の通知書を見て、宅配ボックスのキーを解除する。
この一瞬は、子供の頃のクリスマスや誕生日の日の様にワクワクする。
キィ
存外、軽い音を立てて、金庫の様な扉は重々しく開く。
が、突如、開いた扉の向こうから
強烈な光が!
乱反射する光の束が私の目を射る。
私は、咄嗟に片腕を顔の前に出して、光から逃れようとした。
ギュイィ〜ン
ギュギュギュギュッ ギュイィ〜〜〜〜ン
ドドン!
突然、炸裂するエレキギターとドラムの音。
「へ?」
何?このロックな重低音は…
呆然とする私の目の前の宅配ボックスの中には
ライトを浴びて立つ
黒のサングラスに革ジャンを纏った
如何にもロックなギター、ベース、ドラムスの三人の爺さんと
慌てふためくおじさんが
「は!」
我に返った私は、即座に扉を閉めた。
バタン!
息を整え、周囲を見渡す。
あり溢れたマンションのエントランスだ。
既に陽は落ち、辺りには夜の帳が降りている。
街灯の青白い明かりが等間隔にボッと灯り、そこだけ昼間の世界を模して浮かんでいる。
どこからか、人の声が聞こえ、犬の鳴き声がする。
まだ淡い闇に急に光が射し、軽いエンジン音の自動車が走って消えていった。
落ち着け。
通常、宅配ボックスの中に人は居ない。
万一いるとしたら、それは…多分、ストレスのなせる技だ。
恐る恐るもう一度宅配ボックスの、小豆色の扉を開ける。
自分の正気を確かめるために。
「Hey! シェケナべ …」
バン!
「あ、こんばんは〜。今お帰りかぃ?」
「あ、管理人さん、どうも、こんばんはぁ〜」
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「いえ!大丈夫です!」
「そうなの?じゃあね」
「は〜い。どうもぉ〜」
私は背中に宅配ボックスを隠して(隠れては居ない)管理人のオバさんが通り過ぎるのを見送った。
ついでに下の下の階の大学生が、友達と共にエレベーターへ向かうのも見送る。
不、審、そうな顔wwww
その間に私は今自分が見た物を、頭の中で整理する。
普通、人は宅配ボックスの中でライブを開きますか→はい・いいえ→いいえ
もし、開いているとしたら、それはリアルですか→はい・いいえ→いいえ
い、異世界?
ああ、なんだ異世界か…
カクヨム読者の私はニヤリと笑って、ゆっくりとその扉を開く。
眼を射抜く、無遠慮なスポットライト
耳を擘く炸裂する、ちょっと遅れたテンポのドラムの音
「ロッケンロール!」
今は亡き内田裕也氏もびっくりなイカれた御老人達が、拳を振り上げる。
「ロッケン・ロー!」
私も拳を振り上げる。
綿のコートを棚引かせ、黒いリュックサックを背負い、エントランスで仁王立ちになったまま、片手を振り上げ私は宅配ボックスの中に吸い込まれた。
設定だけで笑える
さあ!あなたもナウなじい様達のライブと遺産相続に参加しよう!
一ページにつき、二回は、顔を強張らせて彼らの言葉を反芻しようぜ、Hey!Hey!Hey!
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889915560
夏の足音が聞こえる、まったりとした宵にピッタリな、ビールとおつまみの似合う本作を私は勧める。
シェケナベーベ!
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