第20話 発見

 辺りに注意を払いつつ、外に出た。まずは自分一人だけで。誘拐犯の一味のアジトが近くにあるかもしれないのだ。嫌な想像をすると、偶然、連中と鉢合わせするのが最悪なパターンだろう。そんな最悪になる可能性を少しでも低めたい。

 とは言え、何に警戒していいのか今ひとつ判然としない。似顔絵こそあるが、マスクでもされていたらすぐには気付けないだろう。漫画や特撮ヒーロー物みたいに、全身黒で決めた輩が昼日中から住宅街をうろちょろしてくれてりゃ、助かるんだが、そんなことはあり得まい。連中が四人だけかどうかも確定はしていないし。もし第五の人物がいたら、お手上げだ。強いて言うなら、今の俺自身みたいななりの人物こそ、最も警戒すべき相手じゃないかと思えてくる。平日の午後、大の大人が何かを探してうろついている訳だから。

 が、結局のところ、危険はないあるいは極めて低いと判断した。

 節子の言うように、アジトで人が死ぬような事態が起きたのなら、事後処理――遺体を隠す――に駆けずり回っているか、さっさと逃げ出すかの二択だと思う。なので、アジトの真ん前でもない限り、ばかみたいに警戒心を高めなくてもいいだろう。

 問題は、そのアジトの正確な場所を掴むには、せつこの記憶を頼るしかないってことだが。俺一人が探索して、見た物を映像にして車へと飛ばせる機器でもあればいいんだが、あいにくと所有していない。携帯端末がもう一台あれば、何とかなったかもしれないが、昨日の今日でそこまで気が回らなかった。

 ここまで来て愚痴っても仕方がない。安全だと信じ、節子を車外に出すとしよう。幸い、人通りはさっきからほとんどない。

「いいか。もしもその危ない連中がいたら知らせるんだぞ。おまえは背中に隠れるか、走って逃げるかを自分で判断する。いいな?」

「分かったけど、戦うっていう選択肢はなし?」

「ない」

「だよねー。――あ」

 分かっていた風に笑った節子の顔つきが一変する。真剣そのもので、しかも獲物の存在に気付いた猫のようにも見える。家並みその他の風景プラス匂いでぴんと来るものがあったようだ。

「何か思い出したみたいだな」

 邪魔をしないよう、それだけ声を掛ける。節子はうんともすんとも言わず、緩い坂道を少し登ると、住宅街の一角にある細い路地に入った。黙ってついていく。

 歩いたのは十分足らずか。角に来る度に立ち止まって、方向を定めてから何度か曲がって、ある一軒家の前に出た。少し離れた位置からその建物を指差し、節子が小声でしかし明言する。

「ここで間違いないと思う」

「根拠を聞こう」

「やっぱり、匂いが決め手。花の香りだけじゃなく、よく知らないけれども色んな匂いが混じっていて、その混ざり具合って言えばいいのかな。匂いの感じがまったく同じ……気がする」

「なるほど。念のために聞く。何軒か並んでいるが、どうしてあの家だと思うんだ?」

 一軒家と言ってもぽつんと建っている訳ではない。多少の間隔を置いてはいるが、戸建て住宅がいくつも並んでいた。


 続く

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Sarai 小石原淳 @koIshiara-Jun

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