とっておき
討伐隊の連中は俺の「帰ろう!!」も無視して詠唱を始めている。
中には帰りたいやつだっているだろうに、集団心理って怖いな。
それにしたっていったい何をする気だ!?
こんな状況でできる事なんてないだろ!?
さっさと帰ろうぜ!?
討伐隊の魔術師、騎士まで含めて魔術を使えるやつは詠唱をしているようだ。
どんな魔術を使っても、あいつの結界のようなものに阻まれるんじゃないか?
見てなかったのかよ。
団長はローブの男の結界に両手で切りつけまくっている。
片方の手は魔術の手だけどな。
まるで演舞でもしているように美しい軌跡を残しながら舞い踊っているようだ。
……なんか……魔方陣のようにも見えるな??
〈正解だ。あれは術式魔術だな。魔方陣を使う事で通常魔術よりも威力・効果を高めることができる。あの男は魔力の腕を介して魔法陣を描いている〉
そういうことか!
あの魔法陣が完成したらあいつの結界を壊せるのか?
〈どうだろうな〉
団長がローブの男に斬りつけながらも描いている魔法陣も完成が近いようだ。
虚空に魔力で描いている魔法陣。
なんかちょっとかっこいいぞ!?
プロジェクションマッピング的な!?
今時だな団長!!
あまりにも今時な魔法陣にびびったのだろう、ローブ男の表情はわからないが詠唱を始めているようだ。
騎士団の一人が団長に向かって叫ぶ
「団長ォォォォ!! いけます!!」
「おう!! いくぞ!! ありったけの魔力を込めろ!! 」
魔術の発動準備に入ったのだろう。あたりの空気が変わったような気がする。
なんとなく。わからんけども。
魔力がないからよくわからんが、詠唱に加わっていないやつらを見ると驚愕の表情をしているからきっとそうだ。
すごい事がおこる!!
俺もこの流れに乗って驚愕したフリしておくか。
俺は空気が読める男なのだ。
団長が描いた魔法陣が稲妻のような輝きを見せる。
立体的な文字が浮かび上がる神秘的な光景。
なんか綺麗だな。
騎士団の詠唱に呼応するように魔法陣が絶頂に達する!
「「「
まさに槌、ハンマーと呼称するにふさわしい、5階建てのビルくらいはあるんじゃないかと思うほどのでかい光の槌が魔法陣の上に現れる。
まさに破壊用だ、これはあのローブ男も結界ごとぺしゃんこだな。
ローブ男乙だわ。
これは無理。でかくですげー!ぐらいの感想しかでないレベル。
魔術の槌は雷のような轟音を上げながらローブ男の結界にぶち当たる!!
結界と魔術の槌がせめぎ合う音が鳴り響き、余波で注意に落雷のようなものが落ちる。
しばらくせめぎ合っていた魔術のハンマーと結界だが、ハンマーが押しているのだろう。
結界は徐々に地面にめり込んきている。
ひと際光を上げたかと思うとハンマーが爆散する!!!
……………
これはぶっ壊してやったんじゃないか!?
こんなんイチコロやろ!
安全確認の ヨシッ!! して帰ろうか!!
魔術の槌の跡地の地面は抉れておりここからではローブ男が見えない。
団長も膝をつきもう動けないようだから代わりに俺が見てきてやろう。
まったく世話のかかる団長だ。
俺は抉られてクレーターのようになっている場所に近づくと穴の様子を見た。
……
まじかよ……
ローブ男はなんともないようだ。
結界はまだあるようだし、特に怪我をしている様子も見れない。
俺が覗き見しているのに気づいたんだろう。
ローブ男は俺に気付くとこちらに歩きだした。
どうなってんだあいつは!!
〈魔力を食ったな。回復しているぞ〉
マジか!?
こんなん絶対無理ですやん! もう騎士団の取っておきの取っておきだったんだろあれ。
もうだめだ!
「団長!! 生きてます!! むしろ魔力が回復しているようです!! 帰りましょう!!」
「なんだと!? 魔術はだめか!! 仕方ないっ!! 」
団長もさすがに諦めたか、気力を振り絞って立ち上がると討伐隊に指示を飛ばす。
「撤退だ!! いったん引くぞ!!」
団長の声はめちゃめちゃ通り指示は討伐隊へしっかり届いているようだ。
俺は団長に肩を貸してやると討伐隊の位置まで戻る。
討伐隊の疲労は濃い。
このまま無事に帰れるとは……思えない。
一番元気なのが俺だぞ?
そして次に元気なのはクローディアだろう。
腰に手を当てて仁王立ちで現場の様子を伺っている様はまるで現場監督だ。
こいつが団長じゃないよな?
本当の団長が声を上げる
「冒険者と加護持ちを先頭に撤退!撤退指揮はグルド、最後尾は俺と第一、第二隊だ!すまないな!!」
指示を受け迅速に撤退準備をする討伐隊だが、冒険者のほうが撤退慣れしているのだろう、すぐにでも走り出しそうだ。
けど、こいつら結界どうする気だ?
外に出れんのか?
世の中には色々な性癖がありすぎて異世界で異世界~異世界転移にクレーム有り! あいちゃん @ai-chan
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