もう帰りましょう
「団長!! 魔力が吸われています!!」
騎士の一人が団長に叫ぶように声を上げる。
結界魔術がなかなか組みあがらず結界の展開が遅い。
状況を判断した団長の激が飛ぶ。
「結界魔術の展開は止めるな!! 加護持ちを死守しろ!! 」
討伐隊の行動は速く加護持ちを守るように陣形を展開していく。
弓を持つものは射程に入った魔物から狙いを定めていくが、数本当たったくらいで止まる魔物ではない。
「攻撃魔術部隊!!」
結界を張れない魔術師達がなけなしの魔力で魔術を放つ。
クローディアも魔力を振り絞って風の魔術を放っている。
各種攻撃魔術が魔物の群れに降り注ぎ出鼻を挫くが、魔物の数が多い。
倒れた魔物を乗り越えて次々と魔物が迫ってくる。
「接敵するぞ!! 前衛は迎え撃て!!」
団長を筆頭とした前衛と魔物がぶつかり合う激音が響き渡る。
王国最強部隊と謳われる騎士団は少ない人数にもかかわらず前線を維持する。
冒険者達も健闘しており、連携も取れているがなかなか結界魔術の詠唱が終わらない。
「結界魔術はまだか!?」
「魔力が吸われて魔術の構成に時間がかかってます!!」
加護持ち達は懸命に魔力を紡いでいるが、なかなか結界を張れない。
その間にもローブ姿の者の詠唱は進む。
討伐隊と魔物達の押し合いは拮抗しておりどちらに転ぶか分からない。
ローブ姿の者は笑みを浮かべながら討伐隊を眺めている。
既に魔術の詠唱は終了しているのだろう。
いつでも発動できるように準備された魔力の塊が男の前で不気味に揺れている。
『あれが放たれたら防ぎきれるかわからんぞ!』
団長はスキル『鼓舞』を使いながら号令をかけ続ける。
『鼓舞』された者達は疲れを忘れ気力が沸き上がる。
なんとか前線を維持することはできているが負傷の数が時間と共に増えていく。
「もういいか……」
ローブ姿の者がつぶやくと同時に討伐隊を守るように結界が展開される。
「「「『結界』!!」」」
討伐隊の加護持ち達が張り終わると同時にローブの者が動く
おもむろに結果に向けて手をかざすと詠唱の完了している魔術を発動させる。
「ご自慢の結界、破壊して見せよう……『
煉獄の炎が圧縮された魔術を結界に向けて放つ。
赤黒い魔術の熱波が魔物ごと巻き込み討伐隊の結界に炸裂する。
討伐隊の悲鳴をかき消すように爆音と光、熱波が当たり一面を染め上げる!
=================
爆熱と爆風の跡には数名の立っている者らしき影が見えるだけだ。
「よつば!?」
俺は民家の残骸から飛び出すと一気に爆心地まで走り出す。
「誰か!? 生きてるか!?」
結界は壊されているようだが先頭のやつらが盾になったんだろう。
なんとか全滅は免れているが……
ひどい有様だ。
けっこうな人数が倒れており無事そうなやつがいない。
「おい!! 動けるやつはいないか!?」
〈死んでるやつはいないようだが時間の問題だぞ〉
「よつば!! クローディア!! ナルシッソス!!」
いた!!
ナルシッソスと見慣れない騎士が、よつばとクローディアを守るように倒れている。
意識は……ない。
さっさと回復薬を飲まさないとやばいんじゃないか!?
「おい……」
先頭で討伐隊を守るように立っていた男から声がかかる。
先頭にいて盾になったのだろうその姿はまさに満身創痍だ。
怪我をしていない部分がないのではないだろうか。
ボロボロになってしまっている鎧は鈍く白銀に光っており片腕が……ない。
吹き飛ばされたのか?
あ、違うな…… こいつは…… 団長か!!
「意識があるんですね!?」
「お前は…… なんだ??」
「加護持ち、よつばのパーティメンバーですよ! そんなことよりもこれ!!」
俺は残っていた回復薬をリュックから取り出すと団長に渡す。
「外にいる副団長から預かりました、外の人達は無事ですよ!!」
「そうか……助かる」
意識がはっきりしてないなこのおっさん!?
最前列でまともに盾になったんだ、意識があるだけで十分快挙か?
仕方ない。
とりあえず無理やり口に回復薬をつっこんでやる。
これが女の子だったら口移ししながら乳でも揉んでるところだが。
無理やり口に突っ込んだ回復薬をある程度飲んだところで意識が覚醒したようだ。
少し回復薬が口から洩れていて勿体ない!
これが女の子ならペロペロしているところだが。
おっさんじゃなんにも出来ないな。
回復薬代を後で請求しよう。
「はぁ、はぁ…… 助かった、だが残りは治療魔術を使える魔術師に与えてくれ! 急げ!!」
体力だけは回復したであろう団長はさっそく指示を出してくる。
魔術師…… 恰好から判断するか。
まずはよつばとクローディアだ、この二人は優先させてもらう。
「ナルシッソス! 飲め!! 口開けろ!」
とりあえず団長の飲み残しを口に突っ込んでおく。
ナルシッソスはホモみたいなものだからいいだろう。
団長のよだれとかご褒美だろ。
よつばとクローディアも意識がないようだが死んでは…… いないよな……
せっかくだからひと揉み乳でも揉みたいところだが場所と時をわきまえよう。
俺は紳士なのだ。
〈大丈夫だな。 それよりもこの魔術を放ったやつはいいのか?〉
あ! そうだよな!?
諸悪の根源は少し先にいるローブの男だろう。
黒い、臭そうなローブに顔を半分隠しにやにやと笑っているようだ。
団長は
さっさとよつばとクローディアを起こすか!!
回復薬を二種類とも二人に飲ませる。
起こす前にちょっと揉んでおこうかと思ったが、意識のない時に揉んでもつまらないだろう。
恥じらいがみたいのだ俺は。
体力の回復薬を飲ませると二人の意識が戻った。
「先輩!? バカ!!!! なんでここにいるんですか!! ここ危ないんですよ!?」
「おお!? 陽介ボーイ!? チェリーのままか!?」
「最初に言うセリフがそれかよ!? 俺の事追いていきやがって!! さっさと飲み干せ!」
よつばは状況を即座に判断したのだろう、残りの回復薬を飲み干しさっそく手あたり次第に治療魔術をかけていく。
クローディアは半分程飲んだところで飲むのをやめて他の魔術師の口に注いでいる。
ちゃんと自分の役割を瞬時に判断しているな。
賢いやつらだ。
とりあえずひと揉みしようとしたが、状況を判断して止めておいた俺と同じくらいには賢い。
俺は回復薬をリュックから全部出すとクローディアに渡す。
「これを任せた! どの隊員が治療魔術使えるとか、よくわからん!」
「うむ! 任せれたゾ!」
あと俺に出来る事は…………
あいつだよな。
少し先にいるローブの男は徐々に体制を立て直しつつある俺達を見てにやにやするばかりだ。
まったくなんでそんなに余裕なんだ?
まだあの規模の魔術が使えるってのか?
〈どうだろうな。ただ魔力はまだ半分は残っているぞ〉
げ、ってことはまだ打てる可能性あるよな。
後方を見ると意識を討伐隊のほとんどは意識を取り戻したようだが、戦えそうにはない。
隊長はなにやらブツブツと詠唱をしているようだが……
「『
詠唱を終えた団長がに剣を左手に構え突っ込んでいく。
何も変わってなくないか?
その魔術はなんだ?
〈よく見ろ。 あいつは左腕が無かったんだぞ?〉
おお!? 確かに!
左腕があるぞ!?
よく見ると左腕があるし、左手に剣を持っている。
団長は魔力で作った腕に剣を持ちあっという間にローブの男との距離を詰める。
まだ距離は多少あるのだが、団長は左手に持った剣を袈裟懸けに振り下ろす!
団長の魔力で出来た腕は距離を一気に詰めてローブの男に襲い掛かる。
遠隔操作の腕!?
剣はローブの男に当たる前に結界のようなものに弾かれてしまうが、魔力の腕は何度も繰り返し襲い掛かっている。
上、横からはもちろん背後、下からもくる斬撃だ。
全方位をガードしていなければ防ぎきることは難しいだろう。
団長はそれくらいは予想していたのだろう。
右手にも剣を持ちローブの男に斬りかかっている。
二刀流? なのか? これは。
斬撃が結界に弾かれる音だけが虚しく響くも他に打つ手もない。
ローブの男は口を開く。
「……つまらないな……」
団長は自分の右手に持っている剣に魔力を這わせているが、まったくローブの男の結界を破れる気配がない。
だめだろこれ!?
これもう詰んだ? 詰んでますよね!?
だめだ、もう撤退しようぜ撤退!!!
団長に言わなきゃ!!
「団長!! もう帰りましょう!! 撤退ですよ!! こんなとこにいるだけ無駄ですよ!!」
団長に俺の声は届かないようだ、一心不乱に二刀流の剣を振り続けている。
まったく聞いてねえな!?
「もう俺らだけで帰りますからね!? 後から文句言わないでくださいよ!!」
さっさと帰ろう!!
さっさとおうちに帰ってでんぐり返しでもして寝るぞ!!
討伐隊を見渡すとだいぶ意識が回復している者が増えてきている。
魔術師の内数名はさっそく詠唱を初めておりどうやらやる気満々だ。
アホかこいつら!
「皆さん!! もう帰りましょう!? あんなん相手にするだけ無駄ですよ!! 」
騎士団の一人が俺の声に反応する。
「ここで引いたらあいつはまた国民を襲い続けるぞ! 引けるか!!」
「なにそれ中二!? アホか!! そんなんかっこよくねーからな!? さっさと引いてまた後で対策考えろよ!! 」
「黙ってみてろ!!」
何をだよ!?
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