くるぞ!!
「それは!? 副団長の|
騎士達がざわつくが冒険者達は何がなんだか分からない様子だ。
改めて見渡すと騎士は九名、冒険者達は十名いる。
みな慢心相違、ボロボロに疲れ果てているのがわかる。
特に結界を張っているのは加護持ちの冒険者なのだろう、疲労の色が濃い。
「とりあえず信用してくださいよ! これ! 結界張ってるそこの男性に渡してください!」
俺はさっそくリュックから回復薬を取り出す。
全部は渡せないよな。
体力と魔力の回復薬を一本づつ、騎士に渡す。
俺は倹約家なのだ。
「それは! 助かる。どうやら本当に副団長から預かっているようだな。疑ってすまない。状況が状況だけにかんべんしてくれ。それで状況はどうなっているんだ?」
「こっちが聞きたいですよ、私が知っているのは結界で分断された後続部隊、副団長がいたところは無事でしたよ。魔物との戦闘はあったようですが。そっちはどういう状況なんですか?他のメンバーは?」
オセ、確かもう一つ魔物に囲まれている気配があるんだよな?
〈ある。 この様子だとそっちも結界を張っているだろうな〉
「こちらは分断されたあと挟撃を受け、さらに部隊は分断されてしまった。私達はパーティ単位で小隊としているんだが、ここには五小隊がいた」
五小隊がいた、か。
過去形ということは何名かはやられてしまったのだろう。
結界内の空気は重い。
結局俺は何ができるのだろう。
安心させてやる事ができるのか?
安心させてやる、ってどうしたら?
俺つええ!なんてないから安心なんぞできないだろう。
俺の槍さばきを見たら絶望して自ら命を絶ちかねない。
おっぱいでも揉むしかないな。
揉みたいおっぱいを探してみるものの、そもそも女性がいない事に気付いた。
こんな場所に要はないな。
寄って損したまである。
結界については魔力の回復薬が一本あるだけでだいぶ持つようだ。といってもせいぜい数時間、ということだが、それでも騙し騙し維持してもらおう。
男ならなんとかしろ。
結局解決するにはボスを倒さないとだめだな。
騎士の話では団長は必ずボスを倒す、と信じているようだ。
もっと回復薬を渡すべきだと思ったが断られた。今結界内にいるメンバーは怪我人が多く加勢に行っても足手まといになるだけ、回復薬は団長達のところに届け有効活用してくれ、と言われた。こっちだって余裕のある状況じゃないだろうに。
断られると渡したくなるな。
まったく。
「とりあえず私は他の部隊を探してきます」
「当てはあるのか?」
「ちょっと高性能な『索敵』が使えるんですよ。ここもそれでわかりましたからね」
意外そうな顔をした騎士だったが、俺の返答には安心してくれたようだ。
「団長達を見つけてこれを届けてきますよ」
そう言ってリュックを指指す。
「そうか。頼んだぞ」
本当に大丈夫だろうか。
この結界に残っている隊員はみなボロボロのボロだ。
傷ついていない箇所を探すのが難しいぞ。
なるべくはやくこの状況をどうにかしないとまずいな。
オセ! 次にいくぞ!!
〈ああ。 今度は北だ〉
北って言われてもわからん。
俺の方向感覚を舐めるなよ?
〈……山に向かって進め〉
さっそくリュックを背負いなおすと魔物が戻ってくる前に結界を抜ける。
小隊も場所を変えるようで、村の中で守りやすい場所に陣を取るようだ。
何にせよ魔物に囲まれている状況よりはかなりいいだろう。
来たかいはあったな。
さっそくオセの誘導にあわせて走り始める。
よつば達は無事だろうか。
案外ボスを追い詰めていないだろうか。
状況がまったく読めない。
不安だけが募る。
オセの誘導にしたがって魔物を回避しながら走り続ける。
けっこう走ったが、まだ着かないのか?
〈もうすぐだ、そのまま直進したら見える建物の前だな〉
あの建物か。
走る先に四階建ての大きな建物が見える。
〈まずい、すぐにそこの民家の中に入れ。 身を屈めろ〉
なに!?
〈早くしたほうがいいぞ〉
とりあえず言われた通りに民家の中に入り身を屈める。
魔物か?
俺をこんな人気のないところに連れ込んで何する気!?
身体目的だろオセ!
一瞬後
とてつもない爆音と光、熱波が周囲を埋め尽くす!
辺り一帯を埋め尽くすような光で何も見えない。
まだ距離はあったはずなのに熱と爆風で空気がちりちりと悲鳴を上げている。
オセェェ!! 何事だ!?
〈結界に高位魔術を放ったやつがいるな。結界が破壊されているぞ〉
え!? よつばは!?
〈……結界はない。魔術の余波で周囲の環境がみだれており読めん〉
くそ!! 敵は魔物まで巻き込んで吹き飛ばしたのかよ!
周囲の民家はほぼ壊滅状態だ。
爆発の中心地に目をやると辛うじて立っている者が数名見える。
くそ!!
== 少し前 ========================
はぁはぁはぁ……
よつばだけじゃない、周りにいる全員が肩で息をしており体力の残っている者がいない。
摩殺の拠点に進撃した討伐隊は門をくぐって早々に結界で分断された。
結界内に残された討伐隊はさらに魔物の挟撃を受け、散り散りになってしまった。
いったいどれくらい分断されたのだろうか。
状況を察した団長がいち早く突破口を開く為に指揮を執り突破。
団長に続いて討伐隊の大部分は抜けたように見えた。
討伐隊は魔物の追撃を受けながらも倒し続け、気づけば村の中心地にたどり着いていた。
騎士達がパーティメンバーの状況確認をしている。
「よつばさん、大丈夫ですか!」
「はい…… なんとか」
キールはさっそくよつばに声をかける。
なんとかキールの小隊は全員無事であり、クローディアもナルシッソスも生きている。
いつもはうるさいクローディアも騒ぎ出す元気もなく息を整えることに集中している。
よつばは疑問に思った事を口にする。
「それにしても、あの魔物はなんなんですかね」
魔物と交戦していると魔力の減りが速いのを感じているよつば。
他のメンバーもそれは感じだようだ。
「どうやら魔力が吸われているような感覚です。一部の魔物にその能力があるのでしょう」
キールもそれなりに戦闘経験はあるが、初めての感覚だ。
たまに見えるオーガほどもある巨体の魔物が魔力を吸っているのを感じる。
加護持ちがいるおかげなのか、攻撃も魔術も通じてはいるが、いかんせん数が多い。
加護持ちから離れてしまったらどうなるのだろう。
ここにくるまでにほとんどのメンバーが回復薬を使ってしまっている。
消耗戦はできない。
クローディアは持っていた最後の魔力回復薬を半分飲むと残り半分をよつばに渡す。
「これを飲むんじゃ、お前が倒れた時のことを考えると寒気がするゾ」
クローディアもずっと魔術を使いっぱなしだ。
魔術のなくなったクローディアは無力になることは自分でもわかっているが、それでも加護持ちの能力の重要さはわかる。
よつばは申し訳なさそうな顔をしているだけで受け取らない。
「加護持ちがいなかったらもっとひどい有様になるじゃろ。わらわは賢い。おまえの重要さはわかっておるし、魔力なんてなくても蹴りがある!さあ、飲め」
シュシュ!っと風を斬るような蹴りが炸裂、するわけもなくへなちょこな蹴りの素振りをみせるクローディア。
「よつばさん、あなたが倒れたら総崩れしてもおかしくない。明らかに加護持ちの近くによると、魔物はこの状況で魔術が効かなくなったらより厳しい状況になってしまいます。どうか」
いつになくキールが騎士らしい口調でよつばに語り掛ける。
「……わかりました。ありがとうくーちゃん」
よつばがちょうど回復薬を飲み終わると
『全員聞いてくれ! ここからが正念場だ! いっきに元凶を叩きこの戦いを終わらせる!!』
団長の声が響き渡ると討伐隊に目に見えて活気が復活する。
団長のスキル『鼓舞』が発動したのだ。
『総員、死ぬな! 最後は俺が必ず元凶を倒す!! いくぞ!!』
「「「「「「「おおおおお!!!!」」」」」」
士気の上がった討伐隊は団長を戦闘に隊列を組み直す。
総勢二十二名。
討伐隊が村の中心にある屋敷に着くと今回の首謀者であろう者が魔物を引き連れ出迎えている。
百はいるであろう多種多様な魔物の数々。
それぞれが黒い影でもまとっているかのように全身が闇の色に染まっている
「語る口はあるか!! コモンドール王国・第二騎士団・団長シュナウザーだ!! 国内での襲撃事件の犯人はお前らだな?」
魔物達からの反応はないかと思われたが一人の黒いローブ姿の者が前にでる。
明らかに正気を維持できている様子はない。
目には瞳がなく生気が感じられない。
「質のいい魔力が集まっているな。お前達から回収させてもらおう」
ローブの姿の者はニヤニヤと笑いながら討伐隊に手を向けると詠唱を始めると同時に魔物達が一斉に討伐隊に襲い掛かる。
周囲の空気の質が明らかに変わる。
異変を察知した団長の動きは速かったが遅れを取る。
「くるぞ!! とにかく結界を張れ!!」
討伐隊の魔術師は魔術障壁を、加護持ちは結界魔術を詠唱するが、魔力が異常に失われていくのがわかる。
「魔力を吸われてる!?」
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