くぅーん?

 もー! どうする!?


 討伐隊の張っている結界はとても強固そうに見える。

 少なくとも魔物も手出しができていない。

 もうしばらく……持つよな?


 先によつば達を見つけたいんだが……

 こんなところで時間食ってる場合じゃないしな、けど人として見捨てるのも……


 けど……けどなぁ……


 遠くから様子を見ている分には大丈夫そうに見え…… ん?




 オセ。あの結界どうだ? まだ持つのか?


 結界は濃くなったり薄くなったりと色が変わっており、あまり安定していないように見える。

 さっきまで安定しているように見えたのだが……


〈結界を張っている者の魔力が尽きかけているのだろう。あの様子だともうあまり持たんな〉


 くそ!!


 回復薬だけでも届けないとまずいな。

 

 俺の力ではあの量の魔物にはどうやっても勝てない。

 それどころか魔物一体相手でも無理だ。

 初撃で死ぬ、まである。


 見つかったら最後だな。


 結界は半円形の為回復薬を投げるわけにもいかない、投げたところで弾かれるだろうしな。

 俺が入るしかないか。


 そもそもいきなり俺が現れたらあやしくて討伐隊に攻撃されないか?

 考えろ、考えろ俺……


 …………



 ……



 ……



 よし。


 だめだわ。


 まったく打つ手がない!!

 こんなもんどうしろってんだ? 

 戦闘力も度胸もない俺があの群れから討伐隊を救う、どころかあの場所に行くことすらできないわ。


 せめて…… なんか使い魔的な存在がいればいいのだが


 あ!?


 そういえばココは!?

 あいつも結界の中に入れないか!?

 戻ってココを連れてくるか!


「ワン!!」


「ココ!? 着いてきてたのか!?」


 足元を見るとココが舌を出し、ハァハァいいながら俺を見上げている。

 ちょっと毛が伸びてきたな、毛が邪魔で前が見づらそうだ。


 それにしてもいつの間に!?


〈魔神・プルソンの『気配遮断』だろう。あいつの『気配遮断』は気づくことができない。存在を完全に消す、目の前にいても認識する事ができなくなる程の能力だ。吾輩でも気づかん〉


 オセ! その能力お前にもないの!?


〈ない。あれはプルソンの能力だ。あの能力はほんとにやっかいだぞ。いるはずなのに気づくことができない。何もないと思っている場所から突然攻撃されるのだ。こちらはいる場所を予測して攻撃をせねばならない。単純な能力だが強い〉


 使えねーな!


 とりあえずココに回復薬を運ばせてみようか?

 ココに回復薬をくくりつけたいが、ココは全裸だ。 


 すべてが丸見え状態の大解放スタイル。

 朝でも昼でも晩でも。

 街中だろうが人がいようが関係ない。

 憧れちゃうよな。

 

 どっかの国で一日全裸ディとかないのか?

 こっちの世界ならワンチャンあるよな?

 さっさと仕事を終えて探しに行かないとな。


 なんとなく腰に下げている情なる短剣インプティナイフが反応したように感じる。


 俺の性欲を察知したか。

 優秀な短剣だな。


 とりあえずココに回復薬を運ばせよう。


 近くにある民家の中を漁るとタオルくらいの小汚い布を見つけることができた。

 タンスからパンツやブラも漁りたいが状況が状況だ、我慢した。

 俺は冷静な判断ができる男なのだ。


 よし。


「ココ。聞いてくれ。今からお前にこれを二つくくりつける。」


 回復薬を二本、体力と魔力の回復薬を見せてやる。


「くぅーん?」


 ちょこん。と首をかしげるココ。

 真っ黒のお目目がかわいすぎてやばい。

 黒目がでかいは、イコールかわいいだよな。

 動物がかわいいのは目だと思うぞ俺は。

 黒目がかわいいんだよ黒目が。


 俺はココの背中に小汚い布を巻き中に回復薬を入れる。


「こらこら、はずそうとするな」


 ココは『いやぁ!やめて!!私には夫も子供もいるのっ!!』とでもいいそうなぐらい嫌がる。

 頼むよほんと、お前にかかってるんだからさ。


「これをな、お前にあそこに運んでもらいたい」


 ココを抱き上げて結界を見せる。


 何度も何度も確認させるが……

 わかってんのかこいつは。


「よし、ココ! 行って来い!」


「ワン!!」


 ココは結界のほうに向かって駆け出……さない。


「どうした? ココ、行って来い!!」


 ハァハァ言うだけでまったく動く気配がない。

 どうしたらいいんだ!?


〈犬には難しかったな〉


 くそ!!なんならできるんだよ!!


「ココ!? 頼むよ!! あそこに行くだけでいいんだ、帰ってきたらいっぱい撫でてあげるから!!頼むよ!!」


「くぅーん?」


「なんで!? お前運ぶくらいできないの!? なんならできるのよ!!」


 ジーーーーーッと見つめてくるココ。

 だめだ、まったくわかってない。

 もっとコミュニケーションを取れるようにしておくんだった!


 俺が心底後悔していると、ココはおもむろに全身をぶるるるんっ!!と震わす。


「ファファファファーーーン!!!」

 

 ファンファーレ!?

 爆音がココから飛び出してくる!

 これ、プルソンの能力のひとつのやつだな!?


 爆音のファンファーレは止まる事無く鳴り響いている。

 まずい、周囲の魔物が集まってくるだろ!!


〈くるぞ。結界側に左から回り込むように走れ〉


 もおおおおおおお!!!


 さっそくココは『気配遮断』を使ったのか、見つけることができない。

 ただただファンファーレの音だけが止まることなく鳴り響いている。

 

 なんだよ!!

 

 とりあえずオセの誘導通りに走り出すが、俺が走るとファンファーレが追ってくる!!


 かんべんしてや!!!!!!!!!


 ココ着いてきてるじゃん!!


 見えないけど!!!


 なんなんこれ!?


 ファンファーレが追ってくるぅぅぅぅ!


 どうせココは見つからないんだから、その辺にお座りしてろや! 


 あ!


 俺はリュックから携帯用干し肉を取り出し地面に置く。

 干し肉が浮いてココがかぶりついているのがわかる。


 よし!!


 ココを囮に結界に向かうぞ!


〈そうだな。プルソンなら大丈夫だろう〉


 ココ? 改めファンファーレを置き去りにして結界へ走り出す。

 大きく回りこんで結界に近づいたので多少時間はかかったがどうやら魔物はファンファーレにひきつけられているようだ。


 目の前に結界が迫る。

 

「おーい! たすけに……」


 俺は助けに来たのか!?

 なにもできないのに……

 まぁいっか。


 結界の前に現れた俺を見て中の連中が驚いているのがわかる。

 視線が痛い。 

 そりゃそうだよなぁ。なんて説明しようか。


 とりあえず両手を上げて攻撃の意思のないことをアピール。

 そのまま結界の中に入る。


「なんだお前は!? どうやって結界に入ってきた!?」


 リーダーなのだろう騎士が俺に向けてとっさに槍を構える。

 今にも攻撃してきそうな勢いだ。


「待ってください! 私は陽介、味方です!! 討伐隊の様子を見に来ました!」


「なんだと!? それを証明できるのか!」


 証明だと!? そんなものできないぞ!?

 めんどくさいやつだ!

 さては、童貞だな!?

 細かいこと気にしやがって!


「加護持ち、よつばのパーティメンバーだったんですよ! 『聖神の寵愛』の!! パーティ名は偉大なるクローディアです。 こんな名前のパーティ一つしかないでしょ!!」


「よつば殿のパーティメンバーだと? お前のようなやつはいなかったと記憶しているぞ?」


「置いていかれましたからね!! 俺は!!」


〈その短剣でも見せたらどうだ?〉


 おおお! それだ!!


「これを見てくださいよ! 副団長からもらったんですよ!?」


 俺は腰に下げていた情なる短剣インプティナイフを見せる。


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