いってきます

 あれ!?


 なんで!? 結界に触れなかった!?

 ってか、すり抜けたのか!?


 どうやら結界の中に入ってしまったらしい。

 

 周りを見渡すと寂れた村、って感じだ。


 黒い球体型の結界に覆われていたはずだが、どうやら陽の光は通っているようだ。

 結界が村全体を覆っているのがわかる。


「中に入っちゃったな!?」


〈やはりな・・・・・〉


「どういうことだよ!?」


〈お前には魔力がない。結界にも種類があるが、基本的には魔力を感知して反応、拒絶・遮断をするものなのだが、お前は魔力がないので反応しなかったのだろう。そもそも生物であれば必ず魔力があるのだ〉


 そういうことなの!?


 だったら剣とかさ、砲撃とかの物理的なものまで通らないのはなぜ?

 

〈どんなモノにも魔力があるのだ〉


 だったら俺の装備はなぜよ!?

 俺の装備だってこの世界で買ったものあるよ?

 ガントレットとかさ。


〈お前に触れている事で巻き込まれているんだろう〉


 ってことは!? あの副団長とお手手繋いで入ってきたらいいのか?

 

 いや、それはだめだ。

 俺はホモじゃないからな。

 ローラちゃんにしよう。

 

 お手手を繋いだだけじゃだめかもしれない。

 裸で抱き合ってなら入れるはずだ、きっとそうだ。

 入れなかったらチューも加えよう。

 ドキドキがムネムネしてきた。


 とりあえず、周囲を見渡すと近くに魔物はいないようだ。


 オセ! よつば達の反応はあるか!?


〈まずは外のやつらに何も言わなくていいのか?〉


 あ、そうか。

  

 いったん結界の外に出る事にする。

 俺が結界の中から戻ってくると副団長と仲間達が驚いていた。


「陽介!! お前なんで結界の中に入れるんだよ!?」


 アルバートが掴みかかってくるので説明してやる。


「どうやら魔力のない俺には結界が反応しなかったみたいなんだ」


「魔力のない人間なんているのだな……」


 そんな人間に出会ったのは初めてなのだろう。副団長は俺を興味深そうに見て呟く。


「カンテラの灯りすら点けられず、水すら出せない、火も起こせない。不便な事が多いですがこんなときに役に立つとは思ってませんでしたよ」


 それから俺は結界の内部、門の周辺には魔物も討伐隊もいなかったこと、俺はこれから中に入って状況を確認してくる事を伝えた。


「ちょっと行って来ます、あ。もしかしたらみんなも俺と一緒に行けるかもしれません。」


 俺はローラに手を差し出す。


「ローラ! お手手を繋いで。 一緒に結界に入ってみよう」


 ローラは少し躊躇いながらも俺の手を取る。

 ふざけている場合じゃないからな。

 クンクンすりすりしたいけどやめておいて、ニギニギだけにしておく。


 ローラはニギニギされているのには気づいているが無言だ。

 状況が状況だし許してくれているのだろう。

 よし、乳も揉んでみるか。


〈はやく行け〉


 まさかオセに突っ込まれるとは。


 ローラの手を取って結界に再度入ってみるが、ローラがどうしてもすり抜けない。

 手を離すと俺だけすり抜ける。

 ローラだけが結界に拒まれている。


 そんな状態だった。


「だめですね……」


 仕方ないな。

 じゃあ全裸で抱き合おうか、と言いたかったがそんな雰囲気じゃない。

 俺だって空気は読めるのだ。


 ローラの裸を他の男になんて見せたくないしな。


 やっぱり俺だけで行くしかないか……





 寂しすぎて怖いんですけど!!

 俺の不安を察したのか、副団長が言う。


「待て陽介。お前は戦闘できるのか?」


「戦闘は…… 得意じゃありませんね。 なのでなるべくこそこそしてますよ」


「そうか。だったら持っていけ」


 そう言うと副団長は荷物から液体の入った小瓶を二本取り出すと俺に向けて放ってくる。


「おっと。 これは何ですか?」


「品質の高い回復薬だ。騎士達は常に一本以上持つ事になっている。青い液体のほうは回復薬、赤い液体のほうは魔力の回復薬だ」

 

 副団長は周りの騎士からも回復薬を回収し俺に渡してくれる。

 青の回復薬が三本、赤が二本。

 大切にリュックにしまう。


「ありがとうございます! 助かります!」


 この回復薬・・・・・

 結界通れないとかないよな!?


〈まぁ大丈夫だろう〉


 通れなかったら帰るぞ?


〈好きにしろ〉


 突っ込んでくれよ。



「装備も渡したいのだが、重い甲冑では邪魔になるだろう。サイズの問題もあるしな。慣れた装備でいることは大切だ。あとはこれだな」


 そう言って腰に下げた短剣を俺に投げる副団長。

 すぐに物を投げるなよ!?

 危ないでしょうが!!


「これは?」


 周りの騎士が驚いた顔をしている所を見ると、だいぶ値打ちものなんだろう。


「俺のとっておきだ。名を『情なる短剣インプティナイフ』という。持ち主の感情に合わせて能力が増す短剣だ。」


 すごいな。俺の強い性欲に反応したら最強になるんじゃないか?


「これは、どういった感情に反応する短剣なんですか?」


「感情ならなんでも良い。人の持つ感情の高ぶりに反応し切れ味と強度が増す。陽介は槍を使うようだが、これなら腰に下げておけばいいだろう」


 そういうと革製のベルトまでくれた。

 至れり尽くせりだな。


 それでもやっぱり一人でなんて寂しすぎるし不安だな。


 隣にいたローラが不安そうな眼差しで見つめてくる。

 さっきの柔らかいお手手の感触が蘇る。

 さっそく『情なる短剣インプティナイフ』と下半身が反応しそうだ。



「陽介さん、無理はしないでくださいね。しっかり『索敵』して安全を一番に考えてくださいね」


「もちろん。俺は臆病者なんだ。安心してくれ」


 俺の返答にレジーナ達も笑ってくれる。

 準備は整ったな。

 装備品を改めてチェック。

 

 リュックには回復薬、食料、水筒には水。

 鉄の槍にガントレット。

 『身体変化』も十分使える体力がある。

 腰にはもらった短剣だ。

 これまで無から短剣を『身体変化』させていたが、これからはこれも使えるな。

 

 一つ深呼吸。

 期待されているこの感覚。

 テンションが上がるな。


「いってきます」


 俺はみんなに見送られながら結界の中に再度踏み込んだ。






 

 中の様子は先ほどと変わっていない。

 まぁそりゃそうか。

 ほんとさっき入ったばかりだもんな。

 さっそく探しにいくか。

 おそらく町の中心とかボスがいそうな場所にいるんじゃないか?

  

 オセ! よつば達はどこにいる?


〈・・・・・・・・反応はない、が〉


 え!? どういう事だ!?

 まさか全滅!?


 一瞬で血の気が引き足が震えだす。


 死んだのか!?

 遅かった!?

 誰のせいだ!?


 嘘だろ!? 

 誰かの反応はないのかよ!!


〈落ち着け。話は最後まで聞け。魔物はいる〉


 魔物なんてどうでもいいだろ!!


〈聞け。魔物が集まっている場所が二ヵ所あり、取り囲んでいるようだ。おそらく結界だろう。討伐隊とやらは結界を張ったのだろう〉


 結界を張ってる? そこにいけばよつば達がいるのか?


〈わからん。可能性はある。結界のせいで吾輩も探すことができぬ〉


 魔物に襲われて防御の為に結界を張ったのか?

 それならそこに行くしかないだろう。


 オセ! 場所を案内してくれ、なるべく急ぎつつ安全なルートを頼む!


〈しょうがないな。目の前の道を真っ直ぐ進め。近くに魔物の気配はない〉


 目の前の道を見るとほんとうに何もない。

 寂れている廃村はなんとなくそこにあるだけで恐怖を感じてしまう。

 オセが索敵してくれていても不気味さは変わらない。

 

 そんな事考えてる場合でもないか……

 俺は歩くのをやめる理由を探すのを辞めることにし、よつば達がいるであろう場所に走る。


〈そのまま直進、次の角を左だ〉


 オセに誘導されるがままに村を駆け抜ける。

 誘導に従うに連れて真新しい矢、血の跡に焦げた壁、戦闘の跡が増えてくる。


 討伐隊の激しい戦闘の跡、血痕を見る度に不安になってしまう。

 よつばやクローディアは怪我をしてないよな?






 十分程は走っただろうか?


〈もうすぐだ。ここからは歩け。そこの角を曲がれば魔物が見えるだろう〉


 着いたか!!

 

 歩きながら息を整える。

 ボロボロの民家の影から様子を伺うと……


 いたな。

 あれが結界か?


 覗いた先には小規模で半透明な結界が張られていた。

 中が透けて見えており、人がいるのがわかる。

 結界はあまり大きくなく、中に十名程度の人がいるようだがここからでは良く見えない。

 

 周りには様々な種類の魔物がいるが、十体ほどではないだろうか?

 これなら中のやつらで勝てないのか?


 オセ! 見えるか? よつば達はいるか?


〈ふむ…… どうやらここは外れのようだ。次に行くぞ〉


 いないのか。

 かと言ってこれ、無視していいのか?

 

〈知らん〉


 くそ!!

 こんな状況想像してなかったよ!!

 ひとまとまりにいろよなマジで!!

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