ふへえええ!?

 なるべく魔物に近づかないように距離を取りつつやり過ごす。

 魔物の姿はまだ見えていないが馬車が邪魔だ。

 見つかった場合には逃げ切れるだろうか。


〈この距離なら問題ない。このままおとなしくしていろ〉


 オセがそういうなら大丈夫だろう。

 俺達は馬車を止め静かにしておく。

 馬車はもうこの辺において置くか?


〈魔物はどうやらお前達の目指す拠点の方向へ向かっているようだぞ〉


 え。まじかよ。もう馬車とはお別れだな。


「みんな、魔物はどうやら拠点に向かっているようなんだよ。馬車はここで放置して徒歩で向かわないか?」


 レジーナはそれを聞いて答える。


「拠点に向かってんならしょうがないね。馬車は置いておいて馬は逃がそうか。こっからは魔物の追跡かな。陽介頼める?」


「もちろん。距離を取りながら追いかけよう」


 俺達は馬車から必要な荷物を取り出すと馬を放した。

 縛り付けていたら魔物に襲われたときに逃げられないもんな。

 それじゃかわいそうだ。

 馬車には荷物がまだ残っているため、回収できるなら回収したいが仕方ない。

 

 俺達は距離を保ちながら魔物を追いかけていく。

 一時間以上は追いかけただろうか。

 しばらく追跡すると、ふいに森が終わり開けた場所に出る。

 魔物から見つかりやすくなっちゃうな。

 そんな心配をしていたがそこに見えたのは……





「ど、どういう状況だ!?」




 魔殺の拠点であろう場所は村だと聞いていた。 

 門はあるのだが、門しかない。

 

 門しかないのだ。


 正確には、門と…… 球体??

 村全体が黒い球体で覆われており、まるで結界だ。


 この中によつば達はいるのか!?


「みんな! 村の外に騎士団がいるぞ!」


 アルバートがそう言うと村の周辺に陣取る騎士団を指差す。

 騎士団は俺達が追ってきた魔物をすでに討伐しており、周囲の警戒をしているようだ。


 レジーナは状況を判断すると声を上げる。


「よし、みんな! まずは騎士団に話を聞くよ! この結界がなんなのかはわからないけどリトア達の話をしておいたほうが良さそうだね」


 レジーナはそういうと腕輪に魔力を籠め始める。

 アルバートとローラも同じように魔力を籠めているのがわかる。

 うっすらとにぶく腕輪は光りだす。

 さっそくリトア達に連絡をしているのだろう。

 どう考えても状況はよくない。


 俺達が騎士団に近づくより先にあっちから騎士が近づいてくる。


「あなた達! ここは危険です。魔術に耐性のある魔物がいるので引き返したほうがいいですよ」


 騎士はとても疲れているように見える。

 鎧はあちこち汚れ、破損している箇所もあるくらいだ。

 鎧の破損状況から激しい戦闘があったことが予想される。


 レジーナは代表して答える。


「私達は加勢に来たんだ。魔殺の話は知っている。魔殺のボスを封印しに来たんだ」


「どういうことですか?」

 

 レジーナはリトアの事を含めてこれまでのいきさつを説明する。

 だいたいの内容は騎士も把握しているようだが、封印する話は初耳のようだ。


「そのリトア、という少年は聞き覚えがないですが。とりあえず副団長のところまで案内しましょう」


 俺達は騎士に続いて村の近くまで歩く。

 よつば達は・・・・・・・どこだ!?

 近づくにつれて心臓の鼓動が早くなる。

 ざっと見た感じ・・・・・・百名もいない。


 その半数、五十名くらいしかいないように見えるんだが・・・・・


 集まっている討伐隊の顔を確認していくがよつばもクローディアも、ついでにナルシッソスの顔もな。

 どこいってんだ!?


 まさか……やられた!? 全員が!?


 そういえば、副騎士団長のところに案内するってことは団長どこだ!?

 団長はかなり強そうなやつだったぞ?

 

 俺が内心あせっているうちに副騎士団長の元へ着く。

 副騎士団長はカードナーと名乗った。

 歴戦の戦士を思われる雰囲気を全身にまとっておりこの人もかなり強そうだ。


 レジーナはさっそくリトアの事、魔殺のボスは死霊魔術を使うので普通に倒したのでは何があるか分からない事を伝える。


 そんな事はもういい。

 今の状況はなんだ!?


「すいません! 今の状況を教えてくれませんか!? 私の仲間が討伐隊に参加したはずなんですが!」


 俺は話の区切りを見つけて即座に言葉を差し込む。

 副団長は言いづらそうにしているが口を開いた。


「私達は正午過ぎに攻撃を開始した。村の南門に配置された魔物を撃破。そのまま村へ侵入したわけだが、そこで問題が起きた。」


 門にいた魔物はわりとあっさり倒したのか?まぁいい。

 

「それで!?」


「団長を先頭に騎士団、冒険者、そして最後尾に私率いる騎士団で進軍したんだが、ちょうど半分ぐらいが村に侵入したときに」


 副団長は村を指差す。


「この結界だ。討伐隊は分断されてしまった」


「な!? 先頭のやつらは無事なんですか!?」


「結界のせいで中の状況がまるでわからない」


 村を覆う結界は黒く濃い。

 中はまったく見えない。


 近づくこともできないのか!?


「私達は分断された。分断された後周囲に潜ませていたのであろう魔物達に囲まれ襲撃を受けた。幸いにも『加護』持ちを分散して配置していたので対応はできたが、中の状況まではわからん」


「なんかの魔術でこの結界壊したりできないんですか!?」


「いろいろと試したさ。魔術に物理、砲撃を使っても壊す事はできなかった。現状打つ手がない。しかし、お前達の話すリトア、というやつが来たらこの結界をどうにかできるかもしれんな」


 リトアは封印するといっていた。

 こんな結界の話はしていなかった。

 対応なんてできるかわからない。


「陽介さん……」


 ローラが声をかけてくれるが苦笑いしかできない。

 後方の討伐隊が襲われたって事はもちろん前方の討伐隊も襲われているだろう。

 こんな派手な結界を作れるやつまでいるんだ、もしかしたらもうよつば達は……


 嫌な想像しかできない。


 副団長や仲間の視線を感じるがどうしようもない。

 どうする!?

 

 オセ!! 頼む、なんかいい手はないか!?


〈結界か。吾輩に魔力さえあればこんなものどうとでもなるが現状では無理だ。まぁまずはどんな性質か見てやるから近づけ〉


 よし! なんとかできる手を考えてくれよ!!


「とりあえず結界を見てきます! 何かできるかもしれない」


「あぁ、それはかまわん。周囲の魔物は片付いているから門までは安全だ」


 俺達はさっそく門に近づく。

 副団長も暇なのか、一緒についてきた。


 門は内側が黒い結界で覆われておりまるで黒い壁だ。

 高さはいったいどれくらいだろうか。

 けっこう高いところまで結界があるように見える。


 オセ!どう!? なんかわかった!?


〈ふむ。 死霊結界か。よほど魔力を集めたと見える。この結界は強固なんだが、長くは持つまい〉


 お!? そうなの!? どれくらい!?


〈二日ほどだろう〉


 はああ!?!?!? 十分長いわ!!

 その間に討伐隊の男は魔物のエサに、女はみんな陵辱されてるわ!!


 俺が結界を見てオセと脳内会議をしている様子が不気味だったのか、哀れるような目で副団長が声をかけてくる。


「おい、大丈夫か?」


「大丈夫です、それよりもこれは死霊結界のようです。二日程で消えるでしょう」


 俺の言葉に周囲がどよめく。


「ほう!? よくわかるな。 お前の名はなんという?」


 名乗る意味あるか!?


「陽介です。ちょっと魔術に詳しいだけですよ」


 オセがね。俺はぜんぜん知らんけど。


「二日後の結界が解けるときに備えるしかないという事か」


 それでも希望が見えてきたのだろう。副団長の目に力が戻るのを感じる。

 この人も中の人達が心配だったんだな。


〈おい。 結界に触れ〉


 結界に触る? そういえば結界ってなんだんだ?

 目の前に見える黒い結界は壁のように見える。

 触ったらどんな感触なんだろう?

 ひんやり? それともびりびりする?


 なんか怖い。


〈いいから触れ。もっと詳しい情報がわかるかもしれんぞ〉


 そういうことなら仕方ないか。

 

 俺は恐る恐る、うんこでも触るかのごとくそーっと人差し指を伸ばす。

 俺が結界に触ろうとしている様子を見てローラが言う。


「陽介さん。結界は基本的に壁のようなものですよ。おそらくこの結界も壁のようなものです。触ってもそんなに怖くないですよ」


 そういってローラは結界にペタペタと触れる。

 ほんとに壁を触っているようで、別にびりびりはしなそうだ。

 安心した。


「なんだ。単なる壁みたいなものなのか」


 だったら話は早い。さっさとオセに見てもらおう。


 俺は指を引っ込めると結界に勢いよく手を伸ばす。


「ふへえええ!?」


 俺の手は結界をすり抜け、バランスを崩した俺は結界側に倒れこんでしまった。



「「「陽介!?!?」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る