討伐隊 

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 王都を出発して丁度十日目、正午。


 コモンドール王国の誇る騎士団、第二騎士団・団長シュナウザーが率いる総勢百名の討伐隊は予定通り『魔殺』の拠点目前まで迫っていた。


「全体止まれ! 作戦の確認をする! 」


 団長のシュナウザーが号令をかける。

 

 今回の討伐隊は連携の取れている冒険者パーティは無理に解体せず、人数の少ないパーティには騎士団が配置される形になっている。

 よつば達のパーティは三名のため、魔術の教育係をしていた三十路のミンティア、それから騎士が二名加わり六名のパーティ、小隊となる。


「よつばさん、疲れてませんか? 大丈夫ですか?」


 よつばに声をかけたのは、よつばのパーティに配属された騎士・キール・プロンコだ。

 キールは第二騎士団に配属されて九年。今年で二十四歳となる青年だ。

 貴族出身の騎士であり、見た目も実力も、家柄も申し分ない。 

 キールはよつばを一目見た時から気にかけていた。


「大丈夫ですよ、馬車に乗っていただけですし」


 戸惑いつつも笑顔で返答するよつば。

 同じパーティに配属されてから会話する機会が増えた。

 

 キールともう一人の騎士はトルクだ。

 トルクは冒険者からの転職組の騎士で、騎士にしては規律にうるさくない。

 そんなトルクだからか、性根の軽いキールとは馬があうようで一緒にいることが多い。


 よつばの小隊が戦闘時の確認をしていると偵察に行っていた部隊が戻ってきたようだ。






 「偵察隊からの情報だ!」


 団長シュナウザーが偵察隊の持ち帰った情報を部隊に説明する。



 戻ってきた偵察隊によると魔殺の拠点は北側が山に面した小さな村。 

 数年前から村民の流出が続き、現在は捨てられていた村でそこに住み着いているようだ。

 

 入口は二つ。南と西に簡素な門がありそれぞれに黒い魔物が配置してある。

 魔物の統率は取れており村を守るように辺りを周回しており、村の中まで侵入した偵察部隊の情報によると、村の中心にある大きな屋敷におそらくリーダーがいるであろうとの事。


「偵察隊からの情報は以上だ。目標は村の中心の屋敷、操っているであろう者を捕獲、または討伐することが最終目標だ。相手の魔術がどんな魔術かがわからん。操っている者を倒せば済む話なのか、そうではないのか。 残党が近くの村や町を襲うのは避けなければならない。なるべく取りこぼしのないよう殲滅戦で行くぞ!」


 団長シュナウザーは続ける


「今回の鍵は『加護』持ちといかに連携するかだ。情報によると加護持ちがいるだけで魔物に魔術が通用するようになるらしい。各小隊に『加護』持ちを配置してある。あまり加護持ちから離れるな。かつ、死守しろ。部隊は物理編成、魔術は支援・中級以上の魔術で攻撃。質問はあるか?」


 各部隊がそれぞれ配置を確認する。

 どの小隊にも騎士がいるので、基本的な動きは騎士に従うことになる。

 よつば達の小隊ではキールがリーダーだ。

 

「では、よつばさん、皆さん、装備の確認をお願いします」


「わらわにも名指しせい! ひとまとめにしよってからに!!」


 クローディアは憤慨している。

 それはそうだ。何かとよつばよつばよつばと、よつば中心の話しかしないキール。世界の中心は自分だと疑っていないクローディアがおもしろいはずもない。


「クローディア。やきもちはかわいいけど、もう少し大人になってからだね」


 キールは朗らかに笑いながらクローディアに言い聞かせるように言う。

 その言い方がさらにクローディアの怒りゲージをグングン伸ばす。


 ブチィィッと、何かが切れる音と共にクローディアの詠唱が始まる


「このガキ!! ケツに魔術をぶちこんでやるゾ!!」


 クローディアはありったけの魔力を籠めた詠唱を続ける


「クーちゃん!? 待って待って!! ほらキールさん!! 謝って!! 」


 慌てたよつばが止めに入るも


「それくらいの魔術なら防いで見せますから、大丈夫ですよ」


 二コリとさわやかに微笑むキールがさらにクローディアの魔力を高める。


「なんにも大丈夫じゃないですよ!? 作戦前にバカなことしないでください!!」


「わらわを見くびったこと、あの世で後悔するがいいゾ!」


「殺す気なの!?」


 いよいよ詠唱が終わり魔術の発動が迫る


「わかった! クーちゃんにいいモノあげるから!!」


 いいモノ、に反応したクローディアは魔術の発動を待機させる。


「ほんとか? かなりいいものか?」


 疑いの目をよつばに向けつつも期待しているのがわかる。


「すごくいいもの!! キールの家って貴族だからきっとすごくいいものあるよ!! 全部持って帰ろう!」


「よつばさん!? 家に来てくれるんですか!?」


 そこかよ! ナルシッソスは我関せず心の中でつっこむ。


 キールは、家のものが根こそぎ持っていかれることよりもよつばが家に来ることが嬉しいようだ。

 そんな同僚をトルクはため息をつきながら見ている。

 いつもの事なのだろう。


 一揉めありながらも装備の確認、陣形の確認を済ませていく。


 キールは仕切り直す。


「それでは改めて確認します。 前衛は私、トルク、ナルシッソスさん。後衛によつばさん、クローディア、ミンティア。 基本的には前衛で殲滅していきますので後衛は支援魔術での援護を中心にお願いします」


「ふん。 わらわの魔術でぶち飛ばしてやるのじゃ!」


「それはここぞ、と言うときまでとっておきましょう」


 加護持ちがいることで敵には魔術が効くようになるが、実際に戦ってみるまでは慎重にいく方針だ。

 無駄な魔力を使ってしまっては肝心な時に役立てない。

 特に魔術師は魔力がなくなれば総じてお荷物になることが多い。

 騎士団所属のミンティアは武器も使えるが、クローディアは魔力がなければうるさいだけの小娘だ。


「とっておきか!! それはいいゾ!」


 クローディアはご満悦だ。

 

 村までの侵入は騎士団で構成された部隊を先頭に、二陣。三陣に冒険者との混合隊、最後に騎士団の部隊で構成されている。

 南門から侵入し、殲滅しながら村の中心を目指す。


 総勢百名の討伐隊だ。

 騎士団の中でも戦闘に長けた者を選りすぐって集めた今回の討伐部隊。

 作戦の成功を誰もが疑っていない。

 

 正午を少し過ぎた時。

 討伐隊の進軍が開始された。




====


 

 正午が過ぎ、日が少し傾いてきている。

 俺達は魔殺の拠点を目指して馬車を急がせていた。

 アルバートと馬の頑張りでだいぶ早く進んでいるようだ。


「アルバート、あとどれくらいで着きそう?」


「ほんとこの会話何度目だよ。あと一時間くらいだろうな」


 一時間。

 はやいのか遅いのか。

 討伐隊はもう攻撃を開始しただろうか?

 クローディア辺りがなんか問題でも起こして攻撃が遅れたりしていないだろうか。


 着いた頃にはもう何事もなく決着が着いていればよし、そうでなければ急ぎリトア達に封印してもらわないとな。


 あいつらもちゃんと来てるんだよな?

 

 様々な不安で心臓の鼓動が速くなっているのを感じる。

 まるで合コン前のドキドキだ。


 どんな女の子がくるのか。

 かわいいかな、どうかな。

 美人系かな?

 どんな仕事してるのかな。



 そんな事よりも。



 俺は気に入られるだろうか。

 ちゃんと素敵なモテトークができるだろうか。

 失礼のないように盛り上げていきたいし、面白い男だと思われたい。



 そんな事よりも。



 ワンチャンできるかな!?

 ワンチャンの場合!?

 どこにいけばいいんだ!?

 近くの休憩できる所いけばいいのか!?

 相手の家とか!?

 俺の家で!?

 どうしよう!?

 どこで卒業したらいいの!?



 うまくできるかな!?


 そんな心境だ。


「陽介さん、大丈夫ですよ。コモンドール王国の騎士団は強いです。きっと大丈夫ですよ」


 ローラは俺の不安を察して声をかけてくれる。

 俺の今一番の不安は、うまくできるかどうかだ。

 討伐隊の事なんぞ忘れていた。


「そうだよな。大丈夫大丈夫。イメージトレーニングはばっちりだし、動画の予習も毎日欠かしてなかったからな」


「??」


 ローラの頭から疑問符が飛び出しているのがわかる。

 余計な事は考えないでおこう。


〈おい。前方に二体の気配。おそらく『魔殺』とやらの魔物だろう〉


 !?


 ついに来たか。

 俺達には『加護』持ちがいない。

 戦士のレジーナとアルバート、そして『指導者』の俺に『治療術師』のローラ。

 

 物理編成ではあるが…… 大丈夫かな……


 正直レジーナとアルバートの腕にかかっているぞ。

 

「みんな、このまま直進するとおそらく『魔殺』の魔物に出会う。俺達に『加護』持ちがいないから物理で押していくしかない。どうする?」


 レジーナは答える。


「うーん。なるべく相手にはしたくないね。本番はこれからだし、やっぱり『加護』持ちがいないのは心配だよ。陽介のおかげで先に気付けてるのは大きいけど、やり過ごせそうならやり過ごそう」


 腕を組んで悩むレジーナ。

 レジーナが腕を組むと巨乳が寄せて上げられて凄い事になる。

 巨乳が三倍増しになる。

 なるべく悩ましておこう。


 とりあえずやり過ごすことについては反対意見のある者はいない。

 

 こんなところに魔物がいるってことはまだ討伐隊は攻撃を開始していないのか?

 どうなってるんだ?


 俺の心配と視線はローラの無言の圧力を感じ吹き飛ばされた。

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