なるべく急ぎで頼む!
俺は『身体変化』という能力が使える事を説明した。
身体の一部を変化させて、短剣程度の武器を作れること、防具に身体変化を這わせればその強度を上げることが出来ることを説明した。
魔神オセが体の中にいる事の説明は省いた。
なんかめんどくさいし、そんなものがいるなんて証明のしようもない。
そもそも魔神が信仰されている世界だ。
その魔神の一人が俺の中にいる、だなんてこの世界の人はどう思うのだろうか?
クローディアはアホだから気にしていないし、ナルシッソスは現場で見てたわけだから納得いっているだろうが。
まぁ、ココの中に魔神プルソンがいるって言っちゃってるんだけどな。
そんなのもう覚えていないだろう。
覚えていたとしても信じてないんじゃないか?
可愛らしくて卑猥な犬なだけで、特に能力もないし、見せてもいない。
「と、いうわけでとっさにガントレットに『身体変化』を這わせて防いだって事だよ」
俺は実際にガントレットへ『身体変化』を這わせて見せてやる。
俺の体力と引き換えに両腕に装備したガントレットが黒く染まっていく。
あぁん。 疲れる。
「うお! それが『身体変化』か! すごいな陽介!!」
アルバートは大げさに驚く。
俺の黒く染まったガントレットを、まるで汚くて臭いモノでも触るように恐る恐るつついている。
別に臭くないぞ!?
うんこでもないしな!!
「陽介さん、それはいったいどういった仕組みなんですか?」
ローラも不思議そうに俺のガントレットを見ている。
前のめりになって見つめるもんだから俺も前のめりだ。
「俺もよくわかってないんだけど。すごく疲れるから何度も連発はできないし、まったくなにもない状態から創り出すのはとにかく疲れる。とにかく疲れる能力なんだ。」
「…… とにかく疲れるって事がわかりました。それにしても『索敵』といい、『身体変化』といい、変わった能力を持ってますね。魔力がないのと関係があるのでしょうか?」
身体が変化するのはそこだけじゃないぜ?
俺の下半身の一部もそりゃあご立派な……
やめておこう。
とりあえず魔力がない事と『索敵』『身体変化』、つまりオセの能力との関係はまったくない、とは言えないか。
魔力がないせいでオセは俺の身体を乗っ取れなかったんだしな。
そこだけは魔力がないことに感謝だ。
「どうなんだろうな? 俺としては『索敵』も『身体変化』もいらないから魔力が欲しかったよ。魔術を使ってみたかったよ」
この世界では当たり前な灯りを点けることすらできない。
とにかく不便だ。
そんな話をしながら休憩時間は過ぎ去っていった。
======
さらに二日後。
予定では『魔殺』の拠点に着いている予定日だ。
予定日のはずなんだが……
まだ『魔殺』の拠点らしき場所は遠そうだ。
地図上で見てもまだだいぶ距離がある。
今日中に着くかも微妙だ。
すでによつば達討伐隊は到着してしまっているだろうか?
予定日に来ないとほんっと焦るよな。
彼女に「予定日なのに来てない」なんて言われたらどうする?
焦りすぎて血尿が出そうだ。
まぁ俺レベルになると、言われたことなんてまったくないし彼女がいた覚えもない。
まったく理不尽な世の中だ。
俺の予定日に来ないのは通販ぐらいだ。
馬車の御者をしているアルバートに声をかける。
「アルバート! あとどれくらいで着きそう?」
「あぁ、このペースだと深夜になりそうだな……」
「討伐隊はもう着いちゃうよね?」
「おそらくな」
これはどう判断したらいい?
討伐隊の戦力なら『悪魔殺』に勝てるんだよな?
勝てるならむしろ、邪魔にならないように後から着くほうがいいのか?
けどリトアはオスカーを封印するって言ってたもんな。
討伐隊がオスカーを仕留める前に合流しないとまずいか……
オスカーを倒したら倒したやつの精神を乗っ取る、とか、そもそも殺せない、とか、なんかわかんないけどすごい事が起こっても不思議はない。
「なるべく急ぎで頼む!」
「分かってるさ! 封印しないとだめなんだよな、悪いヤツを」
うん、アルバートはなんとなくわかってる感じだな。
まぁ上出来だろう。
脳筋だしな、二つの単語を覚えたんだ、褒めてあげよう。
「そういうことだ、良くできました」
気持ち機嫌の良くなったアルバートは改めて馬に鞭を入れる。
鞭に反応した馬はさらに速度を速める。
加速に身体が持っていかれそうだ。
到着予定は深夜か……
気持ちだけが焦るが仕方ない。
よつば達、討伐隊の到着が遅れているのを願うだけだ。
クローディア辺りが何か問題を起こして魔物に囲まれて壊滅寸前に……
なっていたらやばいな。
そこまでの問題じゃなくてもいい、半日くらい足止めされてくれ。
そう祈りながら先を急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます