第7話 「少女が生きる世界」

沢山の星々が宝石のように光輝く広大な宇宙。


その中に、青く輝く星が1つあった。


その星の名は地球。表面の大半が水で出来た生命に満ち溢れた美しい星だ。



この地球にも多くの生物が存在しており、中でも「人間」と呼ばれる知的生命体が数多く暮らしている。


彼らは、自分達が暮らしている地球の事を「水の惑星」と呼んでいる。



-西暦2022年 日本・東京-



日本の現在の時刻は午後21時半。夜空には既に満天の星達が光輝いていた。


日本の世界最大級の首都である東京の街は夜にも関わらず、多くの街灯に照らされ真昼のように賑わいていた。


仕事帰りをしている人、友達と楽しくはしゃいでいる人等、様々な人達が行き通っていた。



―東京 目黒区・自由ヶ丘―



数多くの家々が立ち並んでいる自由ヶ丘。


夜も遅く、通りを歩く人も少ない。


その内の一軒に「緋藤」と書かれた表札が掛けられていた。


すると、その家の2階にあるベランダの戸が、ガラガラと音を立てながら開いた。


部屋から出てきたのは、赤色のパジャマ姿を着た1人の少女だった。



少女の名前は、緋藤奈々恵あかふじ ななえ。どこにでもいるごく普通の中学生だが、奈々恵は同級生より少し大人っぽい女の子に見られていた。



今夜も熱気が立ち込める自室に耐えきれず、外の涼しい風に当たろうとベランダに出てきたのだ。


奈々恵はベランダに置かれた折り畳み式の椅子にもたれ掛かった。



「はぁ~~~、もぅ暑いッ!このまま部屋にいたらもう少しで蒸しパンになるとこだった!」



季節は夏の中頃であり、今は夏休みだ。


正直、奈々恵はあまり夏が好きではない。


昼間はジリジリと暑いし、夜も蒸し暑い。


だが、そんな夏の季節でも幸い楽しい事がいくつかある。



奥多摩町に住んでいる祖母と祖父がいる実家に家族で遊びに行き、川遊びしたり、花火で遊んだりする等、奈々恵は自然の中で遊ぶ事が大好きだ。



もう一つ楽しみな事は、毎年の7月14日は奈々恵の誕生日であり、今年は14歳を迎える年だった。


そして、今日は誕生日の前日なのだ。



腕を上に上げ、軽くストレッチをしながら奈々恵は、明日の誕生日の事を考えていた。



「さぁ~って、明日はどうしようかな~?明日は早めに宿題を少し終わらせて、後はどんな過ごし方をしようかな~?」



奈々恵はふと、薄暗い夜空を見上げた。


奈々恵は星空も大好きだ。悲しい事や辛い事が起きたときは、決まって星空を見る事にしているのだ。


だが、今夜は違っていた。


奈々恵は椅子から立ち上がり、目を瞑り、胸の前に両手を合わせた。



「どうか、今年の誕生日も素敵な日になりますように♪」



奈々恵は星空に向かって願い事と呟く中、1階から母の声が聞こえてきた。



「奈々恵~~、もうすぐ22時よ。そろそろ寝なさ~い」



「はぁ~い、お母さん!」



奈々恵はベランダから部屋に戻ると、電灯を消灯して、自分のベッドに入った。


明日の誕生日を夢見ながら、奈々恵は深い眠りについた。



奈々恵が眠りについた同じ頃、家の遥か上空の夜空から1つの巨大な火球が墜落してきたのだ。だが地上の人々は誰1人それに気づく事がなく、普段通りの生活をしていた。



その巨大な火球は猛スピードで落下速度を増し、やがて東京湾に着水した。


広大な海が火球と化した謎の物体を見る間に飲み込んでいき、あっという間に物体は深い海の底に沈んでいった。


後に残ったのは、夜の海の静かな波の音だけになった。



―翌日 午前7:05―



夏の朝の鋭い日差しが奈々恵の部屋に差し込み、その陽光に奈々恵は目を覚ました。


1つ小さなあくびをした後、ハッと表情を変えた。



(そうだ!今日は私の誕生日だ!)



奈々恵はすぐにベッドから飛び起き、部屋から出て階段を掛け下り、リビングに来た。



「お母さん!お父さん!おはよう!」



奈々恵の元気な挨拶を聞き、テーブルの上で新聞紙を読んでいる父親......緋藤和彦あかふじ かずひこは顔を奈々恵の方に振り向き、穏やかな笑顔を見せた。



「おはよう奈々恵。何だ?今日は随分と早起きじゃないか」



「あなた、今日は奈々恵の誕生日ですよ」



「あぁッ!そうだったな。もうそんな日になったのか、早いものだ」



キッチンの奥から奈々恵の母親......緋藤恵子あかふじ えこが、奈々恵達の朝食を運んできた。


綺麗にバターが塗られたトーストに、朝の眠気覚ましに最適なカフェオレが食卓に置かれ、奈々恵は椅子に座り、両手を合わせて、いただきます!と嬉しそうに言った。



朝食が済み、テレビに報道されている朝のニュース番組を見ながら奈々恵は、和彦に話しかけた。



「ねぇねぇお父さん、提案があるんだけど...、午前中に夏休みの宿題を少しするからさ、午後の時間は皆でどこかに出掛けようよ!」



すると、その言葉を待っていたかのように和彦は奈々恵の方に顔を振り向き、少し頷いた。



「いいだろう!ちゃんと宿題をやるなら、今日は凄い所に連れていってやろう!」



「凄い所ッ!?」



奈々恵はテーブルに身を乗り出して嬉しそうに目を輝かせた。



「ああッ、普通の人は絶対に行けない場所だぞ。楽しみにしておいてくれ!」



和彦は右目でウインクした後、コップに注がれたコーヒーを口に運んだ。



父の言葉を聞いた奈々恵は、頭から興奮の煙が吹き出すような感覚を感じざるを得なかった。



「わかった!!ちゃんと宿題を済ますから、絶対に凄い所に連れていってよね!!」



そう言うと奈々恵は急いで階段をかけあがり、自分の部屋に戻っていった。



パジャマを急いで脱ぎ、タンスから自分のお気に入りな水色の上着と黒のズボンを選び、着々と着替え始めた。


最後に、去年の誕生日に友達からプレゼントしてくれた赤のリボンを胸元に着けた。



「さぁ~てと!今からだいたい10時までくらいかな?さっさと終わらせちゃお!」



奈々恵は、自分の机に向かった後椅子に座り、黙々と夏休みの課題に集中した。



―3時間後 午前10:14―



「ふぃ~~~ッ!少しはできたかな?」



両腕を上にあげ、体をリラックスさせながら、奈々恵はふとベランダの窓から空を眺めた。


雲1つなく快晴な青空の上に雀が2羽飛び回っていた。


家の外の通路には、小さな女の子連れの親子が楽しそうに歩いている。


いつも通りの穏やかな日常の風景を嬉しく思い、奈々恵は頬を赤らめながら呟いた。



「今日は素敵な1日になりそッ♪」

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