第6話 「故郷《ほし》を棄てる者達」

ウィン最高総司令官が率いる増援部隊が到着した事で戦意の勢いを増すスター・スペースチームの戦士達に、バンディラス軍団の兵士達はたじろぎ始めていた。

そんな兵士達にシャドウは大声で言い放った。


「お前ら、何たじろいているんだ!あんなのただの脅しだッ!奴等を根絶やしにするんだッ!バンディラス軍団、迎え撃てーーッ!」


シャドウの号令の下、バンディラス軍団兵士達は殺意を露にし、雄叫びを上げた。


戦意を糧とするスター・スペースチームと、殺意を糧とするバンディラス軍団、再び戦いが混じり合う2つの勢力。

スター・スペースチームvsバンディラス軍団の全面対決が始まったのだ。


戦いは先程までバンディラス軍団の方が優勢だったが、応戦しに来たウィン総司令官率いる増援部隊によりスター・スペースチームに好機な戦況が傾き始めた。


「キアノス!怪我はないか?」


戦乱の最中、アドムは親友であるキアノスのもとに駆け寄った。

キアノスは、シャドウとの戦闘により武器を失ってしまったが、身に纏う水の鎧と内なる闘志の心は健在だった。


「あ...ああ、大丈夫だ。けどよ、もう少し早く来てくれたら、2人でアイツを倒せたんだけどな」


キアノスは少し皮肉を言いながら、自分に手を差し伸べたアドムの手をしっかりと握り返した。


「ハハッ、そうかもな。それと、見た限り武器が破損してしまったようだな、丁度予備の刀身が残っていたんだ。これと破損した刀身を取り替えろ」


「......ありがとよ、ダチ公」


キアノスは照れくさそうに笑いながらアドムから予備の刀身を受け取った。


そんな2人に向かって剣を装備した2体のスラウグハターが走ってきた。スラウグハター達の剣がアドム達に迫ってくる。

しかし、アドムは左手に持つエナジーライフルでスラウグハターの頭部を撃ち抜き、キアノスは接近してきたもう1体のスラウグハターの額へ剣を突き立て、そのまま一気に体を左右真っ二つに切り裂いた。


今ここに赤と青、2人の特殊能力者スター・アクティビティが揃ったのだ。


ウィンは群がるバンディラス軍団兵士達を凪ぎ倒しながら、無線装置を使ってスター・スペースチームに命令を下した。


「諸君、聞いてくれ!ジュピター率いるスター・フォーが負傷した戦士達を宇宙船ナオスに退避させている間、我々はヴィーナス率いるスター・ファイブと共に彼等が退避するまで、ここでバンディラス軍団を迎え撃つんだ!」


『了解ッ!』


ウィンからの無線を聞いたスター・スペースチーム達は一斉に返事をした。


「お前達聞いたか!総司令官の命令だ、何としてでもここを死守するぞ!!」


同じくウィンからの無線を聞いたスター・ファイブの指揮官ヴィーナスは、部下達に号令を掛け速やかにスター・フォー達の援護に向かった。


遂に、エスケイプス・ストラテジーの作戦は最終段階に入ったのだ!


「チィ、奴等いい気になりやがって!これじゃあ、俺のメンツが丸潰れじゃないか!」


シャドウは悪態をつきながら、接戦してきたスター・コンバッツ達を次々と切り裂いていった。

先程まで、自分の優秀な指揮能力で敵をほぼ壊滅寸前にまで追い詰めていたのに、突然の敵の増援部隊が現れ、戦況が変わったことにシャドウは苛立ちを隠せていなかった。


「このままじゃ、あのお方に見捨てられる確率が増えるだけだぞ。どうにか戦果を上げないとな......うん?」


シャドウはふと、ある人物を目で捉えた。そこには多くの功績を持ち、全てのスター・スペースチームを束ねている最高総司令官、ウィンの姿があった。

ウィンは自分の周りを取り囲むバンディラス軍団の兵士達に対し、威厳とした口調で話始めた。


「愚かなる悪魔の下僕達よ......、私は今もう一度貴様達を殲滅するため、この手に剣を握り締めた。決して無傷で済むと思うな...!」


ウィンのただならぬ戦意にバンディラス軍団の兵士達はたじろぐが、剣先をウィンの方に向けた。


「なっ何を、相手はたったの1人だ!何を怯える!?バンディラス軍団、殺れー!!」


1人の兵士の掛け声により、他の兵士達は一斉にウィンの方へ突撃してきた。

だがウィンは依然として冷静さを保ち、ゆっくりと剣を構えながら一言呟いた。


「アタックアビリティ...周斬流星群シュウザンリュウセイグン!」


ウィンが攻撃能力のコード(技名)を唱え、高らかに剣を振りかざすと、ウィンの周りに無数のエネルギーの刃が出現した。

そのエネルギー刃はバンディラス軍団の兵士達の方へ方向転換して、1人1人に狙いを定めて、一斉に射出された。


大量のエネルギー刃は、ウィンを取り囲んでいたバンディラス軍団兵士達をたちまちのうちに切り刻み、細かい肉片に変えてしまった。


後に残ったのは静かに佇んでいるウィンと、周りには無数のバンディラス軍団兵士達の無惨な肉片だけだった。


その一部始終を遠くで眺めていたシャドウは、あまりの驚きで一言しか喋れなかった。


「.........マジかよ」


-宇宙船ナオス船内・第26番格納庫-


「くそ!、イッテェ...!」


格納庫には、先にナオスに退避したジュピター達スター・フォーが負傷した戦士達の応急処置を行っていた。


「皆さん!救急部隊が駆けつけました!負傷者を見せてください!」


声の主...桃色のスター・スペース星人、ローゼ看護員が救急メンバーを引き連れて格納庫にやって来た。


ローゼ達の手には大量の医療器具や薬品等が入っている救急箱を持っていた。


「こっちだ!先に右側に運び終えた戦士達を診てやってくれ!」


ジュピターはローゼ達に負傷した戦士達の所に案内し、治療を頼んだ。


宇宙船の入口ハッチから、最後の負傷者を背負っているスター・コンバッツの戦士が息を切らしながら、遅れてやって来た。


「だっ、誰か!誰かこの方の手当てをッ!早くしないと手遅れになってしまいます!」


その声を聞いたローゼは、治療をしている患者を他の看護員に頼んで、急いで戦士の方に駆け寄った。


「君ッ!その人をあっちまで運べる?急いで治療をするからッ!」


ローゼと戦士は左端の空いているスペースに向かい、負傷した戦士を安静に寝かせた。


「チェストアーマーの傷口が酷いわね...。すぐにストッピングアゲントで止血をしないとッ!君、この布で傷口を塞いでてッ!」


戦士はローゼに手渡された布をすぐさま負傷者の胸の傷口に押し当てた。

その間にローゼは、救急箱からいくつかの医療器具と薬品を取り出した。

治療を手際良くこなしているローゼの腕前を見て戦士は目を丸くした。

ローゼは治療を進めながら自己紹介を始めた。


「前にも会ったけど、あの時はちゃんと自己紹介をしていなかったね。アタシはローゼ。君は?」


「えっ?前にも......あっ!!」


戦士は最初きょとんとした表情をつくったが、すぐにこの人は前に自分を助けてくれたチームのうちの1人だと思い出した。


「そう、前に君はアドムに助けられた事があったでしょ?君の名前は?」


ローゼは治療を終え、戦士の方へ顔を向けた。

戦士は少し戸惑った表情を見せたが、落ち着いて自己紹介をし始めた。


「はっはいッ!自分はスター・フォーの...」


その時、外から凄まじい爆音が発生し、2人の会話を遮った。

戦士はすぐに入口ハッチの方に顔を向け、真剣な表情を作った。


「まずい...、スター・ファイブ達の援護をしなければ...!」


そう呟くと戦士は、エナジーライフルを構え急いで入口の方へ駆け出した。

ローゼは突然の出来事に状況が掴めず、戦士の背中を黙って見ることしか出来なかった。


「ローゼさん!急いでこちらに来てください!」


ローゼは部下の看護員の声に反応し、すぐに元の担当に戻った。


-宇宙船ナオス・入口ハッチ前-


「全スター・スペースチーム!今だ!ナオスに搭乗するんだッ!」


ウィンはスター・フォー達が全ての負傷者を宇宙船に退避させた事を確認すると、再び無線装置でスター・スペースチームに命令を下した。


「了解しました、ウィン総司令官!」


ウィンの命令にいち早く答え、あらかた敵を殲滅したアドムは、キアノスと他の戦士達と共に宇宙船ナオスに乗り込もうとした。


遠くでスター・コンバッツを皆殺しにしたシャドウは、スター・スペースチーム達の行動を見てハッと気がついた。


「まさか奴等、この星から脱出する気かッ!?そうはさせるか!バンディラス軍団、奴等を一人残らず皆殺しにせよッ!」


シャドウは残りの軍団兵士に号令を掛けた後、胸部の通信機に手をあて各地区で戦っている同胞達に連絡をした。


「全てのバンディラス軍団兵士達に告ぐッ!スター・スペース星人共は、あの宇宙船でこの星から脱出する気だ!何としてでも奴等を皆殺しにするんだ!」


大声で通信機に連絡を入れたシャドウに他の幹部達から応答が入った。


『こチラノイズウェーブ、スでに遅イ。コちらデ全てノ敵が宇宙船二乗り込んダ』


『こちらシルバードだ!おいシャドウッ!あの時は簡単に奴等を根絶やしにせよとかほざいていたが、全然できていねぇじゃねぇか!!』


『こちらブラックドです。暇だったので他の発射施設に向かいましたが、宇宙船から発せられる防御シールドに阻まれて中に侵入する事が出来ません』


幹部達からの応答に苛立ちを見せるシャドウは、キッとアドムの方へ目を向けた。


「少なからず...、あの赭鬼あかおにのアドムを殺れば、俺の戦果は上がるかもな......」


そう言うとすぐに、アドムに狙いを定めた左目から無数のエナジー弾が発射された。

赤いエネルギーの弾丸は高速で空中を飛び、一気にアドムに集中砲火しようと迫ってきた。


「!?、アドム!」


先に宇宙船に乗り込んだキアノスがふと異変に気づき、アドムに手を伸ばした。

キアノスのただならぬ声を聞き、すぐに状況を察知したアドムは急いでポケットからアイロン・ウォールを取りだして展開しようとしたが、無数のエナジー弾は容赦なくアドムの周りに降り注いだ。


「アドムーーーッ!」


キアノスは声にならない叫び声を上げた。


「ヒャハハハーーー!どうだ?あの量なら避けられるはずがないッ!」


シャドウは勝ち誇った笑い声を上げた。だが、その笑い声もすぐに止まり、シャドウは驚愕な表情を作った。

シャドウの視線の先には、大型の盾スター・シールドを展開し、アドムを大量のエナジー弾から守ってくれたウィンの姿があった。

ウィンはシャドウを睨みつけると、瞬時にエナジーライフルの銃口をシャドウに向け、トリガーを引きレーザー光線を発射した。

レーザー光線はシャドウの左肩に見事に命中した。


「ぐッ!?ぐわああああぁぁぁぁぁ!!」


シャドウは激しい痛みにのたうち回った。


アドムは自分の体の無事を確認し、ウィンの方に顔を向けた。


「......ウィン総司令官、ありがとうございます!」


アドムはウィンに感謝の言葉を述べたが、ウィンはアドムの方に顔を向かず、1つの命令を下した。


「アドム、これは最後の命令だ。残りの者達がナオスに搭乗するまで、私はここで奴等の足止めをする。お前も早く乗り込むんだ」


アドムはその命令で言葉を失った。

自分達がナオスに搭乗するため、総司令官を置いていけと言うのか!?

そんな馬鹿げた話しがあるか!

アドムはすぐに命令に反論しようとしたが、ウィンの次の言葉に遮られた。


「アドム、何故お前にこの事を話すかわかるか?私の命はもう長くない、だからこそ信頼できるお前にこの事を話しておきたいのだ」


ウィンはそう言うとゆっくりとアドムの方に振り向き、戦闘マスクを解除して笑顔を見せた。


「これからの全てのスター・スペース星人の次期指導者は、アドム、お前だ」


その言葉に、アドムはしばらく動けなかった。

この状況で、総司令官は何を言っているんだ?

私が......次期指導者?


アドムが動けない中、向こうで怒りに震えるシャドウが、スラウグハター達に号令を掛け、大勢のスラウグハターが一斉にアドム達の方へ突撃してきた。


大勢のスラウグハターを迎え撃つウィン。


アドムは後方からやって来たキアノス達に担がれ、宇宙船ナオスに運ばれた。


「全員乗ったぞー!離陸しろーッ!」


キアノスが大声で報告し、入口ハッチを閉じるボタンを押した。


警報音が鳴り響きゆっくりとハッチが閉じるなか、アドムは船の外で無数の敵と戦っているウィンを最後まで目が離せなかった。


入口ハッチが完全に閉まり、大型エンジンが稼働し轟音を響かせながら、宇宙船ナオスはゆっくりと地面から離れた。


エンジンの噴出も大きくなり、やがて大気圏を突破し宇宙空間に到達した。


多くの命を乗せた巨大な宇宙船は彼等を次なる希望へと運ぶため、広大な宇宙を進んで行った。

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