第5話 「スター・アビリティ」

アビリティとは...。

民間人スター・ノーマルがスター・コンバッツ戦士へと、体の構造を改造することで稀に体得する特殊能力の総称である。

アビリティには様々な能力が確認されており、現在では

攻撃重視の能力「アタックアビリティ」、

防御重視の能力「ディフェンスアビリティ」、

魔術による能力「マジカルアビリティ」、

能力自体の変化「アビリティチェンジ」等、多数の能力が確認されている。


特殊能力を体得したスター・コンバッツ達のことを周りは「スター・アビリティ」と呼んでいるケースがある。


バンディラス軍団にも様々な能力を扱う者達が存在するが、その力量は不明である。


「まさかアドムが、スター・アビリティだったとは...!」


ネプチューンは目の前に立っている炎の鎧を纏う赤き戦士が特殊能力者だと確信し、改めて驚かされた。アドムの体から発せられる赤熱の炎はまるで、彼の内なる感情が解き放ったかのようだった。


スター・スペースチームの戦士、赭鬼あかおにのアドムと、バンディラス軍団の幹部、血に餓えた血粒の紳士ブラックドは互いを睨み合いながら距離を保ち、攻撃の機会を窺っていた。


その時、施設の外で大爆発が起こった。その爆音はまるで、2人の戦いのベルが鳴り響くかのようだった。


アドムとブラックドは剣を持ち構えながら互いに向かって同時に走り出した。

そして、アドムのスター・ソードと、ブラックドの血粒のブラッドブレードが、ガキンッ!と鋭い音を発ててぶつかり合った。


2人の力量はほぼ同じであった。アドムはスター・ソードを両手で構えながら必死の攻防戦を繰り広げていた。

それに対し、左手でブラッドブレードを持ちながらブラックドは常に余裕のある表情を絶えなかった。


「何ですか?スター・アビリティと言う者た血(達)はもう少し強いと聞いていましたが、そんなことはありませんでしたね。ではそろそろ、あなたの生き血を貰いましょうか?!」


そう言うとブラックドは空いていた鎌状の右手を振りかざし、アドムの首を切断しようとした。だがアドムは、すんでの所で左手を剣の柄から離してブラックドの右手首を掴んだ。

そしてアドムはすかさずスター・ソードを降り下ろし、今度はブラックドの右腕を切り落とした。


「なっ、何!?」


ブラックドは自分の右腕を切断された驚きと憤りで混乱していた。バンディラス軍団の幹部の1人である自分がこんな深手を負わされたことにブラックドは戸惑いを隠せていなかった。


アドムはそんなブラックドに向かって追撃を仕掛けてきた。ブラックドは漸く冷静さを取り戻し、ブラッドブレードでアドムの剣技を何とか防いだ。


「私の腕を切り落としたこと、誉めてあげましょうアドム。しかし、この程度で私が不利になると思ったら大間血がい(違い)ですよ!」


ブラックドはアドムをネプチューンがいる後方にまで蹴り飛ばした。


アドムは直ぐにブラックドの方へ視線を向けると、なんとブラックドの右腕の傷口から大量の血粒が溢れだし、一瞬にして元の右腕の形状に構成したのだ。


「この様に、損傷した部分に血粒エネルギーを集中させれば元通りに生え変わるのですよ。先程は、少し取り乱してしまいましたがね」


ブラックドの驚異的な再生能力にネプチューンは驚いたが、それに反してアドムは冷静だった。


「やはり、幹部だけあってそう簡単には倒れないか......んッ?」


アドムは遠くから聞こえてきた大勢の足音に気がついた。

それは突然の救難信号を感知し、急いでこの施設に駆けつけてきた、全スター・スペースチーム最高総司令官ウィン率いるスター・コンバッツの一団だった。


「アドム!ネプチューン!無事か?......ねっネプチューン!お前、腕がッ!」


ウィンはすぐさま2人の元に駆け寄り現況を尋ねた。そして、ネプチューンが重傷を負っていることに気がついた。


「総司令官、お待ちしていました。腕は、アドムが応急処置をしてくれたので、大事には至っておりません」


「そっそうか。アドム、ネプチューン、よく踏ん張ってくれたな。後は我々に任せろッ!」


他のスター・コンバッツの戦士達は、辺りに転がっている無数の亡骸を見て息を呑んだ。だが直ぐに、エナジーライフルを目の前にいるバンディラス軍団の幹部に向かって構え直した。


「バンディラス軍団!直ちに降参しろッ!この大人数では、さすがのお前も勝ち目ないだろう!」


そんなウィンの警告に、やはりブラックドは余裕のある表情を変えなかった。


「いえいえ、寧ろ感謝しますよ総司令官殿。ここまで大勢の生き血を用意してくれたのですから」


ブラックドのゾッとする様な笑顔を見て、戦士達の手元は微かに震えていた。


「さぁーーて、まずはどなたからの生き血を貰いま...」


その時、ブラックドの左腕の通信機から1本の通信が入った。


『おい吸血幹部!いつまで油を売っているつもりだ!お前が担当しているジュエリーシティ中央施設の殲滅作戦はどうなんだ?こっちはほとんど壊滅させたぞ!』

    

「あぁ、シャドウですか。ご心配なく、こ血(ち)らも大方敵を殲滅させましたよ。今は少しスター・スペース血(チ)ームの方々と遊んでいただけです」


『遊んでいた!?そんな暇があるなら、さっさと各地の宇宙船発射施設を攻撃しろッ!奴等、でっかい宇宙船にぞろぞろと乗り込んで何かをしでかすらしいぞ!必死こいて宇宙船を守っていやがる!俺達の方は大した反撃を受けていないが、お前も早くそいつらを皆殺しにして、そこから撤退してこっちの加勢をしろッ!通信終了!』


シャドウからの連絡を受けたブラックドは、アドム達の方に目を向けた。


「やれやれ、仕方ありませんね。しかし、楽しみは後で取っておいたほうが良いですね。ではまた、お会いしましょう」


そう言うとブラックドは、左手からエナジー弾を発射して施設の天井に大穴を空けた。


「総員、一斉射撃ぃーー!」


ウィンの号令を聞いた戦士達は一斉にブラックドに向けてレーザー光線を発射した。だが、ブラックドが作り出した血粒の防壁により光線は防がれてしまった。天井に空いた穴からブラックドは、宇宙船発射施設の方角へと飛び去っていった。


「クソッ!奴が向かった先は発射施設の方か!?宇宙船まで破壊されたら、もう我々に為す術がない!」


ウィンは少し焦りを感じていた。そこへアドムが駆け寄って来て冷静に伝えた。


「総司令官。現在は船の防御シールドが稼動しているため何とか持ちこたえています。我々も至急発射施設へと向かうべきです!」


アドムの正論を聞いたウィンは強く頷き、スター・コンバッツ達に再び号令を掛けた。


「総員!敵が言っていた通り、奴等は我々の脱出船に攻撃を仕掛け始めた!あの船は我々の最後の希望だ!もし船が破壊され、この最終作戦が失敗に終われば、今まで死んでいった仲間達の努力と意思が無駄になってしまう。いやッ!そんなことはさせない!何としてでも奴等の攻撃を阻止しなくてはならない!」


そう言うとウィンは右拳を高々く上げ、大声で叫んだ。


「諸君、これが最後の敬礼だ!星の命と共にあれ!」


「星の命と共にあれ!」


アドムとネプチューン、他のスター・コンバッツ戦士達は敬礼をし、この最終作戦に全てを掛けた。

そして、ウィン達は急いで宇宙船発射施設まで駆け出した。


-ジュエリーシティ第8番宇宙船発射施設-


膨大な費用と年月を費やして造り出した巨大脱出船「ナオス」。

船内には約50000人以上にも及ぶスター・スペース星人の民間人、スター・ノーマル達が乗り込まれていた。搭乗した者達のほとんどはこれからの出来事に不安な表情を見せていた。

彼等を守るためスター・スペースチームの戦士、スター・コンバッツ達が必死になってバンディラス軍団と戦っていた。

施設の各所では大規模なバンディラス軍団の一斉強襲が繰り広げられ、それは前日の星奪還作戦を超える規模で行われ、50年前の「悪魔の進軍」に匹敵する大掛かりなものであった。


「ぐわあああぁぁぁぁぁ!!腕が、腕がッ!」


『こちら、第32番部隊!現在敵の奇襲によって5人の戦士が射殺されました!至急増援をッ!!』


「スター・フォー、スター・ファイブ!ジュピター指揮官とヴィーナス指揮官についていき、右側から攻めてくる敵兵士を迎え撃てッ!」


『これ以上、奴等をこの施設に入れさせるな!』


スター・スペースチームの戦況は悪戦苦闘に見舞われていた。彼等の運命は、この場でバンディラス軍団に殺されるか、ナオスに搭乗して無事に星から脱出できるかの2択に迫られていた。


そんなスター・スペースチームを上空から満足げに見下す者がいた、今作戦の強襲攻撃指揮官であり、バンディラス軍団のNo.2、シャドウである。


「良いぞ良いぞ。残りの奴等は30%くらいだな。そう言えば以前、無線カメラで観察したあの赤いスター・スペース星人の姿が見当たらないな...、知らない間に殺られちまったかな?まっ別にどうでもいいがな!」


上機嫌に笑うシャドウ、そこへ1人の兵士が飛んできた。


「いやはやシャドウ、遅くなってしまい申し訳ありません」


丁寧な口調で近寄ってくる者、自分と同じバンディラス軍団の幹部の1人、ブラックドである。


「やっときたかブラックド、お前がやって来る間に、俺の指揮でほとんどの敵が死んだんだぜ。すごいだろ」


シャドウは自信に満ち溢れた表情で、自分の戦績を自慢した。


「そうですか。それは何よりです。しかし、今作戦のリーダーを務めるのは良いのですが、貴方もそろそろ戦いに戻られた方が良いのでは?」


「わかったわかったよ。全くノリが悪い奴だな」


呆れるように言いながらシャドウは、降下しながら戦場へ向かって行った。

シャドウの後ろ姿を見送った後、ブラックドは小さく呟いた。


「いいえ、もう少ししたら、鬼がやって来ますので今から楽しみです...」


-第8番宇宙船発射施設・南ゲート付近-


「くっ...皆!頑張って踏ん張るんだッ!」


スター・スペース星人の宇宙船発射施設が大規模なバンディラス軍団の襲撃を受ける中、スター・コンバッツの1人キアノスが必死に指示をだす。しかし満身創痍の彼らは今までにないほどの苦戦を強いられていた。


「キアノス!敵が多すぎる!民間人は各地のナオスに全員乗り込んだと言う知らせが入った。ここは防御シールドが守ってくれる、我々も船に乗り込もう!」


スター・コンバッツの戦士がキアノスに最善の策を提案をする。


「駄目だッ!アドムやウィン総司令官、ネプチューン指揮官達がまだ戻ってきていない!彼等が戻ってくるまで耐えるんだ!」


キアノスは戦士の言葉を振り払い、満身創痍の体を引きずりながらも左手に持つライフルのグリップを握り締め、闘志を奮い立たせた。

キアノスは内蔵コンピューター、S-Cに指令をだした。


「S-C、アビリティチェンジ...水鎧スイガイを発動!アドム達が戻ってくるまでここを死守するぞッ!」


キアノスがコンピューターに指令をだした直後、身体から水のベールが出現し、たちまちキアノスの体を包み込んだ。澄み切った水のベールは強固な鎧に形成し、キアノスの体は煌めく水の鎧により美しく光っていた。


「バンディラス軍団!我々は決して全滅などしない!斬られるか、撃たれたい奴は前に出ろッ!」


水鎧スイガイを身に纏ったキアノスの気迫に周囲の敵兵士達は圧倒される。


その時、突如上空から大量のエナジー弾が降り注ぎスター・コンバッツ達を襲う。

そのエネルギーの弾丸を発射した者...シャドウはゆっくりと地面に着地し、キアノスの前に立ちふさがり不敵に笑う。


「いいだろう。このシャドウ様が直々に貴様を切り裂き、撃ち殺してやろうではないか」


シャドウがそう言った直後、彼のスコープ状の左目からエナジー弾が放たれキアノスに向かって飛んできた。

しかしキアノスはすぐさま右手で剣を鞘から抜き出し、迫り来るエナジー弾を素早く降り下ろした剣で両断した。

両断され爆発したエナジー弾の爆煙が周りに立ち込み、2人の姿が見えなくなった。


すると、ガキンッ!と言う鋭い金属音が辺りに響いた。両軍の者達は、何が起こった?と思い煙の方へ凝視した。やがて煙が晴れ、現在の戦況が確認できた。

なんと、既にキアノスとシャドウが互いの武器をぶつけ合い睨み合っていたのだ。


キアノスは水流を纏ったスター・ソードを、シャドウは硬質化し鋭利な形状となった両腕の指を何度も何度もぶつけ合い、凄まじい接戦を繰り広げる。

2人の激しさを増す戦い様を見た両軍の者達は目が離せなかった。


「ハッハー!中々の腕前だなスター・スペース星人!久々に楽しいぞ!」


シャドウは、自分とほぼ互角の実力を持つ相手に称賛をかけた。


「...貴様も、敵にしては勿体無い実力だな、...だが!」


キアノスはシャドウの巧みな指使いを咄嗟にかわし、下へしゃがみ込むと同時に左手に持つエナジーライフルの銃口をシャドウの胸部へと突き付けた。


「これで止めを刺すことができるが、どうする?今の内に降伏するか?」


キアノスは、ライフルのトリガーに指を掛けようとした。しかし。


「フッフッフッ」


シャドウは自分の胸部に銃口を向けられているのにも関わらず、笑いをこぼしたのだ。


「甘いなスター・スペース星人よ...。今の内に降伏するのは、貴様らの方だぁー!」


そう言うとシャドウは硬質化した右指を降り下ろし、ライフルの銃身を細かく切り落とした。

銃を失ったキアノスだったが直ぐにスター・ソードに持ち直し、シャドウに飛び掛かった。だがシャドウは両手の鋭い指と左目から放つエナジー弾を駆使しキアノスを追い詰める。


シャドウの度重なる攻撃を受け続けた結果、とうとうキアノスのスター・ソードの刀身が砕けてしてしまった。

武器を無くしたキアノスに、シャドウは人差し指をキアノスの首元に近付け、傷をつけようとした。


「安心しろ、痛みを与えず直ぐに殺してやるよ。他の部下や民間人共も後からやって来るだろうよ」


シャドウはゆっくりと右腕を振り上げた。キアノスは静かに目を閉じ、自分の最期を心の中で悟った。


(ここが...俺の最期の場所か...。悪いなアドム、先に向こうで待ってるぜ...)


その時、シャドウの足元に向かってレーザー光線が放たれた。


「だっ誰だ!?誰が撃ちやがった!?」


突然の攻撃に驚いたシャドウは光線が発射された方へ顔を向けた。


キアノスも何が起こったと思い顔を上げた。

両者が視線を向けた先には、数十人のスター・コンバッツ達が南ゲートに集結していたのだ。そして、その先頭に立っていたのは......。


「きっ...貴様は、あの時の...」


「あ...アドムッ!!」


「キアノス、皆、遅れてすまなかった!」


右手にエナジーライフルを抱え、キアノス達を安心させる様な笑顔を見せる者...スター・コンバッツの1人アドムが大声で呼び掛けた。

そして、アドムの側で並んで立っている総司令官のウィンも、アドムに負けないくらいの大声で、後ろにいるスター・コンバッツ達に命令を下した。


「全スター・コンバッツの諸君!敵に情けなどいらん!ここにいる全ての敵兵士を殲滅しナオスに搭乗する!これが最後の戦いだッ!」


ウィンは拳を振り上げ、再び叫んだ。


「スター・スペースチーム、アターーック!!」

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