第4話 「バンディラス軍団の襲来」
「皆さん!順番に並んでください!荷物は最少限に抑えて、入り口付近のスター・コンバッツに見せてください!」
「誰か、怪我をした方や重傷患者さんはいませんか?ただ今、回復薬と抗生物質で応急処置を行っております!」
ジュエリーシティの中央大広間施設内では、約2000人以上の民間人であるスター・ノーマル達に溢れていた。
爆発に巻き込まれ重傷を負っている者や、
今何が起きているのか戸惑う者、
不安で泣き出す者、
戦士達に反抗し出す者達等、施設内は大きな騒ぎに見舞われていた。いや、ジュエリーシティだけでなく、各都市の中央大広間施設でも同じ様な現状が起きていた。
「メテオル指揮官!人数が限界です!これ以上民間人をこの施設に入れることは困難です!」
チーム、スター・ワンの戦士が指揮官に現状報告を伝えた。その報告を聞いた指揮官のメテオルは振り向きながら戦士に告げた。
「いいか、ルビル?我々の任務は民間人をここへ避難させ、治療と保護を行うことだ。我々がここで泣き言を言ってしまったら、彼らに申し訳が立たなくなる」
そう言うとメテオルは戦士ルビルの肩を優しく叩き、穏やかな笑顔を見せた。
「だから我々は決して不安や恐怖、絶望に屈してはならない。最終作戦の完了まであともう少しだ。我々なら任務を全うできる!そう信じるんだ!」
「はっはい!了解しました!」
自分の心の中に漂っていた負の感情がメテオル指揮官の温かく、心強い言葉で残らず消え去り、晴れ晴れな気分となったルビルは敬礼をした。
その時、メテオルの背後の空間から突如黒いエネルギーの穴が5つ出現した。
「なっなんだ、これは?!」
ルビルは驚きのあまり声を荒らげた。だが、メテオルはこのエネルギーの穴を17年前の戦場での戦いで見覚えがあった。
「こっこれはまさか、ワープゲートか!?ルビル!すぐにたい......!」
メテオルはルビルに退避命令を出そうとした次の瞬間、ワープゲートと呼ばれた5つのエネルギーの穴から、無数のエナジー弾や銃弾が飛び出しメテオルとルビル、2人の体を激しく撃ち貫いた。2人は叫び声を発することなく、冷たい金属の床に倒れた。
5つのワープゲートからそれぞれ5つの影が見えはじめた。現れたのは5人の侵入者である異星人達だった。侵入者達のリーダー格の男は銃器を手にしながら床に転がっている2つのスター・スペースチームの死体を見下ろしながら呟いた。
「あ~あ、死んでしまったか...。実に呆気ないな」
男のスコープ状の赤い左目が冷たく光った。そこへもう1人の侵入者、両腕が巨大な剣状の武器になっている男がリーダー格の男に不満そうな態度で近寄ってきた。
「おい、シャドウ。アンタが一斉射撃の命令を下したおかげで、俺の出番がなかったじゃないか。俺の能力は近接でしか、発揮できないんだからよ~」
「まぁそう言うなよシルバード、奴等を殺るチャンスは沢山あるんだからな、少しは我慢しろ」
リーダー格の男...シャドウは不満顔のシルバードを宥めた。
「ノイズウェーブ、他の中央施設に侵入した同士達と連絡は取れたか?」
シャドウは左側のワープゲートから出てきた黒いマスクをした蒼い兵士...ノイズウェーブに尋ねた。
「既二敵殲滅作戦始動。我々モ行動を開始すルべきダ」
ノイズが入り混じった彼の独特な声がシャドウの耳に入る。
「そうかそうか、それじゃあ、俺達も始めようか?無価値な機械人形共を全滅させる作戦をよぉ!」
シャドウは有り余った殺意を銃器に込め、全てのスター・スペース星人を抹殺するために前進し始めた。
「バンディラス軍団、奴等を根絶やしにせよッ!!」
-スター・スペースチーム作戦本部-
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
作戦本部内に緊急事態を告げるけたたましいサイレン音が鳴り響く。
『ジュエリーシティ及び、FBシティ並びサンシティにも、バンディラス軍団兵士の生命反応多数感知!』
『現在、ムーンシティにてマーズ指揮官率いるスター・ツーがバンディラス軍団と交戦中!ですが、敵兵士の数が多く救援を求めています!』
『総司令官!メテオル指揮官とマキュリィ指揮官に応答がありません!』
オペレーター達が、作戦司令室からジュエリーシティで交戦中のウィンに現在の戦況を報告していた。
「各都市がバンディラス軍団の襲撃にあっているだと...!」
その時、破壊された民家の陰から自分に向けてエナジーブラスターを構えている最後の敵兵士を目で捉えたウィンはすぐさまエナジーライフルで敵兵士を射撃した。
「オペレーター!奴等はもしや
『はい!敵は初め、FBシティに設立してある武装施設の内部に現れ、そこで管理されてあった武装制御装置を破壊し壁外及び壁内の全ての重機機関砲を無力化し、都市内部からワープゲートを使用したようです』
敵が画策した強襲にまんまと受けてしまった悔しさが込み上げてくるウィンだったが、すぐに冷静な気持ちに切り替え、作戦本部に指令を伝えた。
「オペレーター!各都市で交戦中のスター・スペースチーム戦士達に至急通信を入れ、中央大広間施設に避難している民間人の防衛とバンディラス軍団の撃退、そして全宇宙船への搭乗の指示を出してくれ!」
『了解!......ウィン総司令官、ご武運を!』
無線装置の通信を切り、戦いに集中するウィンは周りの戦士達に声を上げた。
「スター・スペースチーム達よ!諸君らのおかげで、この辺りの敵兵士を殲滅することができた!これよりエスケイプス・ストラテジーの第2段階を開始する!中央大広間施設に戻り、民間人を宇宙船発射施設の所まで避難誘導させる。万が一、敵兵士が施設を襲撃した際は民間人の搭乗が完了するまで我々が食い止める!戦士達よ!これが最後の戦いだ!星の命と共にあれッ!」
「星の命と共にあれッ!!!」
スター・コンバッツ達は訓練所で教わった掛け声を叫び上げ、闘志を奮い立たせた。ウィン達は急いで中央施設に戻っていった。
ジュエリーシティ中央大広間施設。先に施設に戻ってきたのは、ネプチューン第17番指揮官が率いるスター・エイトだった。
「クリア。敵兵士の生命反応はありません」
ネプチューンの隣には生命反応探知機を手に持っている、前回の奪還作戦から生還してきた赤き戦士、アドムの姿があった。
「よし。全員、ただちに民間人を避難誘導させよ!」
「了解ッ!!」
スター・エイトの10人の戦士達は先に施設の中に走って行った。ネプチューンは歩きながらアドムに話をした。
「アドム、体調は良いのか?昨日の奪還作戦から、あまり休んでいないだろう?」
ネプチューンは、アドムを心配そうに尋ねた。
「はい!大丈夫です!私はこう見えても疲れにくい体質なので」
アドムは指揮官に心配させまいと元気よくアピールした。
「ハハハッ、そうか!だが、あまり無理はするな。お前がそうでもお前の体が壊れてしまったら元も子もないからな」
ネプチューンからの鋭い指摘を受けたアドムは、はははッと苦笑いをこぼした...その時。
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!!」
「来るなーーー!!!」
「たっ助けてえぇぇぇー!!!」
施設の奥から、激しい銃撃音と先程入っていった戦士達の断末魔が響いてきたのだ。その断末魔をはっきりと聞いたネプチューンとアドムの2人は、互いの目を見て頷き、素早く武器を取り出して戦闘態勢に入った。
長い通路を通り抜け、やがて大広間の手前までにたどり着いた。だが大広間は漆黒の闇に包まれていた。2人はエナジーライフルを構えながら大広間に足を踏み入れた。ライフルに取り付けたライトで辺りを見渡しながら慎重に歩き始めた。
「おかしいですね。戦士達はおろか民間人の姿が見当たりません」
アドムはふと疑問を呟いた時、コツッ、アドムの足に何かが当たった。アドムはすぐライトで足元を照らした。
「!!?」
アドムは言葉を失った。彼が見た物とは、血塗れになったスター・スペース星人の頭だった。
「アドム...!」
ネプチューンは小声でアドムを呼んだ。アドムは恐る恐る周りをライトで照らした。周りには、恐らく2000体以上のスター・スペース星人達の死体が転がっていた。
その中には、仲間の戦士達の無惨な姿もあった。どの死体もバラバラに切断され、どの顔も悲痛な表情を作っていた。アドムは叫び声を必死に堪え、意識を集中させ自分を落ち着かせた。
「誰が......なぜこんなことを......」
アドムは怒りに震える声で呟いた。その様子を見たネプチューンは小声で囁いた。
「アドム...私も同じ気持ちだ。だが、戦場では決して弱い心を見せるな。奴等はその隙を突いて必ず我々を殺しに来る」
ネプチューンはゆっくりと腕を上げ、大広間中央付近の暗闇に向かって人差し指を指した。
「気が付かないか?あそこに強い殺気を放つ者がいることを...」
アドムは急いで生命反応探知機を中央付近にかざした。ネプチューン指揮官の言う通り、探知機は強い生命反応を感知していた。すると突然、反応がこちらに向かって動き始めたのだ。
「アドム下がれ、こいつは危険だ」
ネプチューンは、特殊な金属で作られた剣を鞘から抜き出し、両手で持ちながら前に構えた。
「お前はここから退避しろ。奴は私が食い止める!」
アドムはネプチューンの勇ましい闘志を見て、心の中で強く思った。
(そうだッ!自分もスター・スペースチームの一員だ。こんな所で弱気になってどうする?ネプチューン指揮官にこれ以上情けない姿を見せる訳にはいかないッ!)
アドムはネプチューンの隣に並び、右手には剣を、左手には銃を構え自分の持つ闘志を表現した。
「指揮官、私はもう弱き心を見せません。共に戦います!」
ネプチューンはマスクの下で嬉しそうに笑みをこぼした。2人のスター・エイト戦士は向かって来る敵に対し、臨戦態勢を執った。そして遂に、暗闇から大勢の民間人と10人の戦士達を皆殺しにした憎きバンディラス軍団の兵士が姿を現した。
その時、突然施設の非常用電源が再稼働し、大広間の大型ライトが点灯した。急な光が目に入り込み、2人は咄嗟に片手で光を遮った。それと同時に、聞き覚えのない声が大広間に響き渡った。
「おやおや、まだ血を流していない者た血(達)がいますね」
アドムとネプチューンは反射的にその声の主に目を向けた。2人は初めて敵の姿を見た瞬間、自分の目を疑った。
その者の体には、何千人のスター・スペース星人を切り裂いた証拠と言える血痕がべったりと付着していた。鎌状の右手には大量の血液が滴り落ちており、左手には武器を握ったまま切断された仲間の戦士の片腕を掴んでいた。
その血塗れの兵士は、深々とお辞儀をしながら自己紹介を始めた。
「おっと、自己紹介がまだでしたね。私の名はブラックド。バンディラス軍団の幹部の1人を務めています」
丁寧な口調で自分の名を名乗ったブラックドだが、その体から発している禍々しいオーラをアドムとネプチューンは感じ取っていた。
「いやはや、私はとにかく血を見るのが好きでして、相手を斬って斬って切り刻むことで大量の血液が噴き出しますよね。私はあの光景を見るのが一番大好きなのですよ」
そう言いながらブラックドは、右手から滴り落ちる血液を綺麗に舐め取った。
異常な様子を醸し出している相手にネプチューンとアドムは、ジリジリと間合いを見計らいながらブラックドの周りに遠くから立ち並んだ。そしてネプチューンはバンディラス軍団の幹部に尋ねた。
「貴様、何故我々スター・コンバッツ戦士だけでなく、民間人であるスター・ノーマル達も皆殺しにしたのだ?」
自分の右側に立っているスター・スペース星人の質問に、ブラックドは呆気なく答えた。
「えぇ、私た血(達)の今作戦は全スター・スペース星人の殲滅です。私が担当することになったのがここ、ジュエリーシティ中央大広間施設。他にも私の仲間た血(達)が各都市の中央施設に向かっている頃でしょう」
ブラックドは辺りに散乱してある死体を見渡して、話しを続けた。
「まぁ今回の作戦も、私好みの作戦ですがね。私はこの体に他者の大量の血液を浴びることが何よりも快感を感じるのでしてね」
仲間の戦士達や民間人の命を平然と奪った者の素っ気ない返答に、怒りに震えるネプチューンは静かに剣を鞘に戻した直後、急にブラックドに向かって走り出した。
「!?しっ指揮官!何をッ!?止まってください!」
敵の左側に立っているアドムの声も届かず、ネプチューンは敵の懐に狙いを定めた瞬間再び剣を抜き出し、ブラックドの上半身と下半身を真っ二つに斬った。
ブラックドの左手から仲間の戦士の腕が落ちた。それと同時に上半身も少しずつずり落ち始めた。
「やっ、殺ったか?」
ネプチューンはすぐさまブラックドの方に振り向いた。だが、ネプチューンは驚きの表情を作った。そこに立っていたのはブラックド本人ではなく、ブラックドの形状を保っていた血粒の塊だった。音を立てながら崩れ落ちた血粒人形を見ながらネプチューンは考えた。
(ばっ馬鹿な!確かに奴を目で捉えていた!手応えもあった!では何故?まさか最初から私達と喋っていたのは偽物だったと言うのか?!)
すると、自分の背後から凄まじい殺気を感じたネプチューンは、咄嗟に右手で剣を構え背後の敵に向かって降り下ろした。
だが、ネプチューンの剣は背後にいたブラックドの脳天には届かなかった。
「どうでしたか?私が持つ『チェンジスキル』
ブラックドは鎌状の右手で相手の剣技を受け止めた後、左手から大量の血粒を溢れさせ、瞬時に凝固させ剣の形に構成した。その剣を目の前にいるスター・コンバッツの右腕に突き刺し、彼の右腕を切り落とした。
苦痛の表情を浮かべるネプチューンは、素早くブラックドから距離を外した。それに対しブラックドは切り落としたネプチューンの右腕を拾い上げ、傷口から滴り落ちてきた流血を美味しそうに啜り始めた。
「指揮官!うっ腕が...!」
アドムはネプチューンの側に駆け寄り、彼の右腕の状態に驚きながらも止血作業を開始した。
「アドム...すまない。私は無謀にも敵の言葉に感化され、奴の懐に接近してしまった......」
ネプチューンは痛みに耐えながらアドムに頭を下げた。アドムは止血作業を進めながら彼に言い返した。
「本当ですよ!下手したら今度は指揮官が殺られてしまうかと思いましたよ。...ですが、指揮官のおかげで奴の攻撃法がわかりました」
「なっ何だと...!?」
アドムは少し頷くと急に立ち上がり、ブラックドの方へ歩みだした。
「ネプチューン指揮官、腕の止血作業は終わりました。先程救難信号を発信したので、他のチームがあと数分後こちらに向かってくるでしょう。その間次は私が、奴を食い止めます!」
ネプチューンはアドムの行動に驚き、彼を制止しようとすかさず左腕を伸ばすが、右腕の傷が痛みだしその場にしゃがみこんでしまった。
「やっやめろアドム!敵の能力をわかっているようだが、奴は危険だ!私達2人が太刀打ちできる相手ではない!」
だがアドムは、ネプチューンの方に顔を振り向くと、なんと笑顔を見せた。この危険な状況下にも関わらずアドムの表情は柔らかく、その笑顔を見たネプチューンは不思議な安心感に包まれるかのようだった。
「大丈夫ですよ指揮官。必ず戻ってきますから」
アドムはそう告げると両手に武器を強く握り締め、視線をブラックドの方へ向けた。その目は大切な指揮官であるネプチューンを傷付けたことと、大勢のスター・スペース星人を虐殺した憎き敵に対する厳格な眼差しだった。
「貴様を倒す前に私も自己紹介をしておこう。私はスター・スペースチーム、スター・エイトのチームリーダー、アドム!」
そう言うとアドムは左手に構えたエナジーライフルの引き金を引き、銃口からレーザー光線が発射された。
しかしブラックドはレーザー光線を軽々とかわし、今度はアドムを斬り殺そうと彼に向かって真っ直ぐに突進して来たのだ。
アドムは静かにライフルを背中に背負い、右手に持った剣-スターソード-の柄を両手で強く握り締めた。
迫り来る敵に対しアドムの姿勢や態度は冷静そのものだった。
「銃をやめて今度は剣で立血(ち)向かいますか?良いでしょう。あなたの血を1滴残らず奪うのに変わりありませんがねッ!」
ブラックドは勢いよくジャンプし、鎌状の右手と左手に持つ血粒の剣による二刀流でアドムに向かって急降下してきた。
「さぁ!!あなたの頭部から一刀両断して、そこから降り注ぐ血の雨が私の血から(力)の糧になるでしょう!」
「あっ、アドムッ!!」
ネプチューンの叫びが辺りに響き渡る。
ブラックドの剣がアドムの頭頂部に届く寸前、不思議な現象が起きた。
突如、アドムの体から炎が噴き出したのだ!
その炎はブラックドの血粒の剣を一瞬にして蒸発させ、奴の体を焼き焦がそうとした。
だがブラックドは、大量の血粒による防御壁を作り出したことで軽い火傷だけで済み、すぐ後ろに後退した。
「!!?なっ何ですか、今のは!?」
ブラックドは突然の出来事に戸惑いを隠せなかった。
ネプチューンもまるで奇跡を見ているかのような表情でアドムを見つめていた。
「アドム、その姿は...まさか!」
ネプチューンはアドムの姿を見て、確信した。
アドムも元は、民間人であるスター・ノーマルの1人だったが、激化するバンディラス軍団との戦争をきっかけに、戦闘能力に特化したスター・コンバッツの改造を受けていた。
それと同時に、アドムは特殊能力を体得することができたのだ。
アドムは、燃え盛る自分の体を見て呟いた。
「この能力を発動させるのは今回が初めてだったが、どうやら成功したみたいだな。『アビリティチェンジ』...
その名の通り、炎の鎧を身に纏ったアドムは同じく炎に包まれたスターソードを振りかざし、戦意に満ちた眼差しをブラックドに向けるとこう告げた。
「ブラックド...いや、バンディラス軍団の幹部よ。我々スター・スペース星人の最後の切り札を見せてやろう!!」
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