第3話 「星の守護者-スター・ガーディアン-」

僅かに生き残ったスター・スペース星人の残された生息圏であり、最後の砦でもある要塞都市「スターシティ」。


スターシティ中央部にそびえ立つ「メテオタワー」が都市のシンボルになっており、スターシティの周りに巨大な壁を築き上げ都市全体を取り囲んでいる。

巨大な壁の至るところにバンディラス軍団の侵攻を防ぐため、高出力のエナジー弾を装填している重機機関砲が設備されている。


突如、外宇宙からの侵略者バンディラス軍団の侵攻を受け、長い戦いの末、圧倒的に不利となり数が減り続けているスター・スペース星人にとって、このスターシティが希望の光でもあった。


スターシティ内にあるスター・スペースチーム作戦本部、都市の各地域の治安状態や壁外の監視映像を管理するモニター室にて、1人のスター・スペース星人がいた。多くの功績を持ち、全てのスター・スペースチームを束ねている最高総司令官。


その者の名はウィン。またの名は「星の守護者-スター・ガーディアン-」。


「民間人......スター・ノーマルの生活に支障は出ていないか?」


ウィンはモニター映像の観察をする1人の部下に現状を尋ねた。


「はい。現在スター・ノーマルの生活環境及び、食糧と飲料水・抗生物質の備蓄、発電所の安定化、エネルギーの増産率、都市の治安状態等、幸いにもグリーンゾーンに治まっています」


ウィンは部下からの良い報告を聞き笑みを浮かべたが、直ぐに真剣な表情に変わり手元にある前日の戦況報告書に目を通した。

しばらく、報告書を見たウィンは突然、左拳を自分のデスクに叩きつけた。


情報やデータ類を収集している部下達はその大きく響き渡る音に驚き、ウィンの方へ振り向いた。唇を噛み締めながらも落ち着きを取り戻したウィンは、ゆっくりと椅子から立ち上がり冷静な表情で報告書を読み始めた。


「...第208回...星奪還作戦の戦果報告...。作戦に参戦した戦士の数は約150名。当時の奪還作戦指揮官は、アイン第26番隊隊長。

作戦内容は、過去に敵の技術施設を襲撃した際に奪取した装備品の1つであるアイロン・ウォールを全戦士に装備させ、この性能を使って、『目的地である敵の前線基地にまで特攻し、敵兵士を残らず殲滅し基地を確保する』というものだった。

作戦当日、廃墟と化したコメットシティに前線基地を設けているバンディラス軍団に向かって、アイン指揮官率いるスター・スペースチームによる特攻作戦が開始された。

敵に対し、スター・スペースチームは優勢であった。

しかし、戦況は一転。

突如敵のワープゲートが出現。そこから指揮官らしき3人の敵影と、大量のスラウグハターで構成された奇襲攻撃部隊が現れ、チームは多大な被害を受けたのみならず、アイン指揮官を筆頭に約120人以上の戦士が死亡及び行方不明になり、生き残り帰還した戦士の数は30人にも満たなかった...。よって今回の作戦も、我々の敗北により終了した...。以上が報告書の内容だ」


ウィンは報告書を読み終えると、静かに着席した。


最高総司令官からの報告レポートを聞いた6人の部下達は、作戦が失敗した驚きと大勢の仲間達が殺されたことで怒る者や、多くの死者を哀れみ嘆く者等、1人1人の反応は様々だった。


誰もが口を開かず、室内が静寂に包まれたその時、ウィン総司令官がデスクに手をつき勢いよく立ち上がり、意を決したような表情で部下達の顔を見渡した。


「諸君、至急全スター・スペースチームの戦士...スター・コンバッツ達をジュエリーシティに呼び集めてくれ。それともう1つ、全てのスター・ノーマル達にも伝えられるように緊急生放送の手配をしてくれ。......これより、最終作戦『エスケイプス・ストラテジー』の準備に取り掛かる」


ウィンが発した言葉に部下達は一斉にざわつきはじめた。


「エスケイプス・ストラテジーですって!?」


「まさか、本当に実行されるのか?」


部下達の不安そうな声が飛び交う中、ウィンは力強い声で部下達に指示を出した。


「全てのスター・スペース星人に伝えるべく、これより最終作戦会議を開催する!時刻は本日の午後10時!場所はジュエリーシティのスタードームだ!速やかに全戦士及び民間人に電子メッセージで伝達しろッ!」


「りょ...了解!!」


6人の部下達はそれぞれの持ち場に急いで戻り、コンソールの上に指を走らせ電子メッセージを作成し始めた。ウィンはメッセージを急速に作成する部下達の後ろ姿を見つめ、小声で呟いた。


「皆...すまない...」


エスケイプス・ストラテジーとは、その名の通り「脱出作戦」を意味しており、スター・スペースチームがバンディラス軍団によって大打撃を受け、修繕不可能な状態にまで追いやられた時、最終作戦として実行される。

内容は、多くの戦士-スター・コンバッツ-達が民間人であるスター・ノーマル達を安全に避難誘導させ、シティの各所で整備してある巨大な宇宙船に乗り込ませ、星から脱出させるという前例にない大規模な作戦だ。


-そして、時刻は午後10時を指した-


スターシティの数ある都市の中でも一段と光り輝く街、ジュエリーシティ。

その街中のひとつに大きなドーム状の建造物、スタードームがあった。その建物内にある会場には大勢のスター・スペース星人達が集まっていた。

中には緊急生中継の撮影のため、大掛かりな機材を持った報道陣も駆けつけていた。


「ねぇ、さっき届いた緊急メッセージ見た?」


「あぁ見た見た!何でも大規模な作戦を発表するらしい」


「友達から聞いたんだけど、この前の作戦で、戦場に行って帰ってきた戦士の数は30人も足りなかったんだって!」


「嘘だろッ!?そのバンディラス軍団ってのはそんなに強いのか!?」


会場で囁かれている話し声の中にはそのような声も聞こえた。その囁き声はすぐそばで警備を担当している3人の戦士達にとってあまり良い気分はしなかった。


「クソッ、あの野郎共、俺達のことをただの捨て駒だと思っているのか?ちょっと引っ張り出してキツいお灸を据えてやろうかッ!?」


「おいおい落ち着けよ。あんな奴を相手にしたってこの戦いが終わるわけないだろ。まぁ、俺も少々腹が立つが...」


「シッ!静かにッ!始まるみたいだぞ」


会場の奥から1人歩いてくる者が見えた。全スター・スペースチームの総司令官であり、全てのスター・スペース星人の想いと希望を背負う星の守護者、ウィンだ。

彼の姿を見てスター・スペース星人達は大歓声を上げる。

会場に集まった者達を見渡したウィンは片手を上に挙げ、大歓声を上げる観衆を静めた。ここにいる全員の注目が、檀上の一人の戦士に向けられる。


「スタードーム会場にお集まり頂いた皆様!我々スター・スペースチームが伝達した電子メッセージを視読し、当会場に出向いてくださったことを誠に感謝します!早速、今回発表する作戦の説明を始めますが、その前に我らの愛する美しき星、スター・スペース星の話をさせて頂きます」


ウィンが深々と頭を下げると同時に、天井から巨大なモニターが降ろされ、モニターには昔の資料から取り出したスター・スペース星の映像が映し出されていた。


「我らの星スター・スペースは、昔は沢山の自然に彩られ、多くの動物達が生息していた。そして豊かなエネルギー資源によって、我々の世界はより平和になった!」


その光景を見た観衆は再び歓声を上げた。


「......だが50年前、我々の平和は突然奪われた...!外宇宙からやって来た悪の組織軍団バンディラス軍団の侵略によって、我々スター・スペース星人の総人口10割の内、約7割の無実な者達が虐殺された!!」


ウィンは怒りに震える拳を高々く上げ、さらに演説を続けた。


「我々は恐怖と絶望の淵に迫られた。だがしかし、我々は決意した!我々は負けない!我々は戦うのだと!そして、奴等に対抗するために設立したのが、勇敢なる星の戦士集団『スター・スペースチーム』なのだ!!!」


ウィンの激しい演説と同時に、モニターの画面はスター・スペース星からスター・スペースチームのシンボルマークに切り替わった。


「我々は自らの体を戦闘用にアップグレードし、敵の施設から奪い取った装備品や武器を使いこなすようになり、ようやく奴等と対等に戦える程の戦力を手に入れた!」



「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」


ドーム全体を揺るがす程の観衆の大音声が響き渡る。

だが、観衆が大きな歓声を上げる中、急にウィンは少し暗い表情を作り、高く上げていた腕を力なく下ろした。


「......しかし、バンディラス軍団が持つ軍事力やテクノロジーは我々が思っていたよりも強力で遥かに進んでいた...。我々の科学技術の粋を集め、奪還作戦を実行し続けてきたが、良い戦果はあまり...いや、ほとんど得ることはなかった......」


ウィンは込み上げてくる感情を必死に堪え、深呼吸をした後、厳格な表情に変えた。


「あぁ...、暗い話をしてしまい申し訳ない。ではこれより、作戦の説明をさせて頂きます」


ウィンの表情はさっきまでの暗い表情とは打って変わり、最高総司令官らしい厳格のある表情に戻った。

観衆は彼の演説に黙って聞き耳を立て続けた。


「今回説明させて頂く作戦の…」


その時、凄まじい爆発音と地面の揺れがウィンの演説を遮った。

会場内に警報ランプがけたたましく鳴り響く。


「ウィン総司令官、ご無事ですか!?」


「なっなんだ?、何が起きた?!」


ウィンは駆けつけてきた3人の戦士達に状況を尋ねた。


「わっわかりません!会場の外を警備しているチームからも、応答がありません!」


1人の戦士から報告を受けたウィンは周りの状況を確認した。突如として起こった出来事に会場内は混乱状態に陥っていた。


「キャー!今の音何ー?!」


「聞きゃわかるだろッ!爆発した音だろッ!」


「とにかくこの会場から出るぞ!」


逃げ惑う観衆が我も我もと出口に向かって押し寄せた。

出口ではスター・コンバッツ達が観衆を宥め、慎重に外へ誘導させていた。


「どうか押さないでください!割り込みもせず、1人ずつ外に出てください!」


観衆を上手く誘導している様子を見届けたウィンに、突如作戦本部から通信が入った。


『総司令官!応答願います!』


ウィンの無線装置から、オペレーターの慌てた声が聞こえた。


「私だ!至急現在の状況を報告せよッ!」


『はっはい!先程発生した爆発は、総司令官達が滞在しているジュエリーシティで5ヶ所確認されました!爆発した場所にはスター・スペースチーム作戦支援施設がありました』


「なんだって!?」


全チームの武器や補給品等が大量に保管してある作戦支援施設が、同時に5ヶ所爆発したという報告にウィンは我が耳を疑った。


「このタイミングで我々の支援施設が爆発した...?オペレーター!至急爆発した原因を探ってくれ!それと、周辺の被害状況も知りたい」


『了解!ただ今情報を収集しています、しばらくお待ちを.........』


数分後、オペレーターから再び通信が入った。


『総司令官!原因が判明しました。爆発は自然に発生したものではなく、何者かによる爆破だとわかりました!施設内に無数の爆弾が仕掛けられ、犯人は起爆装置を遠隔操作して施設を爆破させたのだと思われます!それと、周辺の被害状況ですが...、爆発に巻き込まれた民間人の数は約50人以上、建物は10棟以上に上りました......』


オペレーターからの報告を聞いたウィンは50年前に起きた戦い、突如現れたバンディラス軍団との第1大戦「悪魔の進軍」を思い出した。


「今回起きた何者かによる施設の爆破、50年前の世界中で起きた侵略攻撃と状況が似ている...。単なる偶然か?いや...まさか!?」


ウィンは、以前スター・スペースチームを壊滅寸前にまで追い詰め、恐ろしい程の破壊力を持ち、バンディラス軍団の頂点に君臨する1人の邪悪な存在を思い浮かべていた。だがウィンは嫌な予感を払い、今為すべきことを考え、そして1つの決断を下した。


「オペレーター。戦士達が観衆を全員外に連れ出した後こう伝達してくれ、これより今作戦の内容を発表すると...」


数十分後、スタードーム内の観衆を全員外に連れ出した後、ウィンはドームの前で総勢900人のスター・コンバッツと彼らを統率する9人の指揮官を整列させ命令を下した。


「予想外の出来事により、今作戦の内容をこのような形で発表することになってしまったが、心して聞いてほしい」


ウィンは一度大きく息を吸い込み、多くの戦士達にも聞こえる程の大声で発した。


「これより全スター・スペースチームによる最終作戦、エスケイプス・ストラテジーを実行に移す!」


その作戦名を聞いた途端、驚いた表情を浮かべ始める戦士達にウィンは演説を続ける。


「当然、チームに入団した諸君らはこの最終作戦の内容を理解している筈だ。50年以上も続くこの戦いによって、我らスター・スペース星人の数は急速に激減し、今や絶滅の危機に瀕している。私は、これを防ぐために最終作戦を実行に移そうと考えた」


ウィンはポケットから電子地図を取り出し、それを大きく表示させて最終作戦の説明を始めた。


「まず第1にこの爆破事件を起こした犯人を捜索・射殺及び、多くの民間人を各都市の中央大広間施設に避難させ、そこで負傷した者がいれば応急処置を執るように。第2、避難した民間人の確認が終わり次第、すぐさま各都市に整備してある宇宙船に民間人と共に乗り込め。宇宙船には既に、食糧等の大量の物資が積み込まれている。第3、全ての宇宙船の発射準備が整い次第離陸し、この星から脱出する、以上が作戦だ!」


最終作戦を聞き終えた多くの戦士の内、1人の戦士が震える声でウィンに尋ねた。


「じ...自分達は...この星を、故郷を...棄てるのですか?」


「そうだ」


ウィンは冷静な顔で戦士の質問に答えた。


「自分達は...この戦いに...敗けたのですか?」


「そうだ......。残念ながら、我々は敗けた」


ウィンの言葉に戦士達は再び驚きを隠せずにいた。

だがウィンは、急に鬼気迫る顔で話し、演説を徐々に加速し始めた。


「永きに渡りスター・スペース星を統括してきた王政が滅び去った後も、我々は星のため、種族のため、平和のために戦い続けてきた!だが、スター・スペースチームが劣勢化し敗北の時が目の前に迫ってきたのだ。もはや選択の余地はない!これ以上尊き命が消えてしまうのは防がなくてはならない!我々は生き続けなくてはならない!生き延びるのだッ!これより、エスケイプス・ストラテジーを実行するッ!!!」


「オオオオオオォォォォォォ!!!」


最高総司令官の号令と共に戦士達から歓声と怒号が轟く。今ここに、全スター・スペース星人の生死と未来を懸けた最後の作戦が始まったのだ。

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