第1章 正義の戦士集団vs悪の組織軍団
第2話 「星の戦士」
ドオオォォォ.....ン
荒れ果てた大地に響き渡る爆発音。
空を大きく覆いつくしている暗雲とスモッグ。
廃墟となった巨大なビル群の摩天楼。
そして、大地を埋め尽く程の多種多様な死体の山。その中にはこの星の先住民だった者や、この星に侵攻してきた外宇宙からの侵略者が横たわっていた。
まさにこの世の終わりとも言える惨状だった。
「うおおぉぉぉーーー!!!」
向こうの廃墟と化した都市部から大地を震えあげるような大勢の声が響き渡った。
廃墟都市の各地から銃器を抱え、雄叫びを上げながら戦場を駆けて行く者達がいた。
その者達こそがこの星の先住民であり、愛する故郷の星を敵の侵略者達から奪還するために戦いを続けている戦士集団「スター・スペースチーム」だ。
彼らの姿は一見、自立した機械人形に見えるが、彼らにも豊かな人格や心が存在している。
スター・スペースチームの体は白く頑丈なヘルメットや装甲で作られており、さらに身体能力を上げているためこの惨状な戦場でも効率よく戦えるように工夫されている。
「作戦は伝えた通りだ!チームを散開!スター・ツー、スター・ナインは敵の右側!スター・スリー、スター・エイトは敵の左側を攻めろ!他の者達は私に続けえぇぇー!!」
スター・スペースチームの1人の指揮官が力強く命令を下したあと、チームの戦士達はそれぞれの作戦方角に移動し敵がいる前線基地に向かって一斉に駆け出した。
スター・スペースチーム達が向かった前線基地には、重装備を施した敵の侵略者達が大勢待ち構えていた。
その中には左目がスコープ状になっている赤い目をした敵の指揮官がゆっくりと片腕を上にあげ、号令と共に腕を勢いよく降り下ろした。
「バンディラス軍団、アターーック!!」
「うおおおぉぉぉーーー!」
殺意がこもった大音声が響き渡り、外宇宙からの侵略者-悪の組織軍団・「バンディラス軍団」-の兵士達が雪崩れの如く出撃した。
バンディラス軍団の兵士達の姿形はどれも異様な体格をしており、目が複眼となっている者、2つの頭部を持つ者、腕が銃器と一体化している者、全身を機械に改造された者等、様々な異星人の兵士がその姿を現した。
だが、それを目撃したスター・スペースチームの戦士達の目には恐怖や畏れはなく、むしろ自分達の大切な家族や友人、仲間達を殺され、愛する故郷の星を破壊し続ける憎い敵に対する闘争心の焔が燃え上がっていた。
「スター・スペースチーム!奴等に一泡吹かせてやれ!」
「バンディラス軍団!情けは無用、無価値な機械人形共を破壊せよ!」
双方の指揮官が下した命令によって、2つの勢力が激しくぶつかり合う瞬間だった。
鋭く響き合う剣が振り翳される音。
大量に降り注ぐエネルギーの光弾の雨。
敵味方問わず無数に飛び散る血飛沫や響き渡る断末魔。
星を巡る戦争は50年にも及び、どちらかが滅びるまで決して終わることはない。
「うわあッ!」
一人のスター・スペースチームの戦士が敵兵の空爆により大きく吹き飛ばされた。
右足からくる激痛をなんとか耐えながら顔を前方に向けた戦士の目の前には、5人のバンディラス軍団の兵士達が立ちはだかっていた。
その足元には、無惨に体を撃ち抜かれた仲間の戦士達の亡骸が転がっていた。
元仲間達の亡骸、敵兵の歪んだ笑顔。銃口を向けられた戦士には慈悲を乞う気力もなく、ただ死を迎えるのを待つだけだった...。
「ぐわあぁぁ!?」
その声の主は死を覚悟したスター・スペースチームの戦士ではなく、銃口を向けたはずのバンディラス軍団の兵士だった。
どこからか発射されたエネルギーの弾丸-エナジー弾-に頭部を撃ち抜かれた兵士を見て、仲間の兵士達は驚きを隠せずにいた。
「スター・エイト!仲間の救助及び、敵を殲滅せよ!」
声の主である赤の戦士は大勢の戦士達を引き連れ、負傷した戦士の周りにいる兵士達を赤の戦士が瞬く間に右手に持つ剣で斬り倒し、左手に持つ銃で撃ち倒した。
その姿を驚きと尊敬の目で見ていた戦士の前に、赤の戦士はしゃがみ込み声を掛けた。
「君!大丈夫か?すぐローゼに傷を診てもらおう!」
赤の戦士はすぐに駆けつけた桃色の看護員、ローゼに負傷者の傷の手当てを頼み、すぐさま大勢の戦士達を引き連れ、共に最前線に向かった。
他の戦士より一際凄まじい戦闘能力を魅せた赤の戦士...。負傷した戦士は彼に対して助けてくれた恩と強い憧れの念を抱いていた。
「あの...、先程の方は一体?」
戦士は傷の治療をしてくれているローゼ看護員に尋ねた。その質問にローゼは優しい笑顔で答えた。
「えっ?あぁ、あの人ね!彼の名はアドム。仲間を絶対に見捨てない人よ」
アドム...。その名前を聞いた戦士は驚きの表情を見せた。
「えッ!?彼があの......?!」
白いヘルメットと装甲に赤を強調させたパーツを付け加え、誰よりも熱い正義の志と仲間を思う心を併せ持つ勇敢な戦士。
彼の名はアドム、スター・スペースチームの1つスター・エイトのチームリーダーである。
アドムは、両手に持つ剣と銃を器用に使い分けながら最前線で戦い、仲間達と共に敵陣を着実に攻め続けている。
その鬼の如く猛々たる姿を目撃したバンディラス軍団の兵士達からは、「赭鬼-あかおに-のアドム」と呼ばれ恐れられていた。
「なッ、何だこいつは!?」
「離れろ!こいつは赭鬼のアドムだ!!」
アドムの姿を見た途端、バンディラス軍団の兵士達は蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
「何が赭鬼のアドムだ!奴もそこら辺の雑魚戦士と同じだろ。野郎共!奴等を撃ち殺してしまえ!」
中にはアドム達を撃ち殺そうと銃を構え始めた兵士達もいたが、アドムは敵の動きを咄嗟に察知し、仲間の戦士達に合図を掛けた。
「スター・エイト!直ちにアイロン・ウォールを展開せよ!」
チームの戦士達は直ぐに腹部のポケットから小さな球体を取りだしスイッチを押した。
「野郎共!撃て-!」
それと同時に敵の銃弾が雨のように降り注ぎアドム達に命中した。
だが、その銃弾が1つもアドム達の体を貫通することはなかった。それどころか、銃弾はアドム達の手前のところで瞬時に消滅したのだ。
その現象に驚きを隠せないバンディラス軍団兵士達。そして今度はスター・スペースチーム戦士達による大量の連続射撃によって、バンディラス軍団兵士達はたちまち蜂の巣にされた。
アイロン・ウォールとは、過去にスター・スペースチームが敵の技術施設を襲撃した際に奪取した、魔術と科学技術を融合して作られた装備品の1つ。普段は小さな球体の形をした装置だが、所持者がスイッチを押すことで半透明の球体型シールドが発生し、所持者を包み込むように展開させることができる。その防御力は技術者の間ではまさに「戦場の奇跡」と呼ばれており、連続射撃や爆弾の爆発威力を無効化することができる。しかしその反面、持続力が低く長時間衝撃を受け続けると、装置が故障しシールドが消滅してしまう恐れがある。
優勢な戦いを繰り広げているスター・エイト。だがアドムは、ふと何かの気配を感じ取りその足を止めた。その様子を見たスター・エイトの副リーダーであり、アドムの親友であるキアノスは不思議そうに尋ねた。
「どうしたんだアドム?敵の前線基地はもう少しだぞ」
だがアドムは動かなかった。全神経を視覚と聴覚に集中させ、辺りの様子を探った。そしてアドムは後ろのキアノスを含む、6人の仲間達に向かって静かに合図を送りこう伝えた。
「全員、後ろの物陰に隠れろ。敵が多数隠れている」
次の瞬間、突如前方の瓦礫から敵兵の待ち伏せ部隊が現れ、アドム達に銃口を向けた。そして、エナジーブラスターで一斉に撃ち始めた。
アドム達5人は素早くアイロン・ウォールを展開したためエナジー弾を受けずに済んだが、アイロン・ウォールの展開が遅れてしまった2人の戦士は、その射撃により頭や急所を撃ち貫かれた。
「全員!直ちに物陰に退避しろッ!」
アドムの命令に従い残りの戦士達は急いで物陰に隠れた。だが、アドム、キアノスを除く3人の戦士達が背後からエナジー弾を受けてしまい倒れ込んでしまった。2人は負傷した3人を何とか物陰に避難させた。
「アイン指揮官、こちらアドム!敵の第3、第4陣を突破。しかし現在敵の奇襲攻撃を受け、足止めされています!至急救援を!」
アドムは無線装置に向かって叫んだ。
「既にこちらの戦士2人は殺られ、3人が負傷しました!至急救援を送ってください!」
アドムは頭部と一体化したヘルメットに内蔵された無線装置に向かって救援を求めた。
すると、『ピー...ガガガ...』無線装置に通信が繋がった音が聞こえ始めた。
『ピー...ガガガ...。こ...ら...アイ......官だ!電ぱ...しょ...害が酷く...よく...き取れない。ん?...何...だあ...は?.........。うっうわ...ああぁぁ...ぁ!!!』
アイン指揮官の謎の断末魔が響いた後、通信は途絶えた。
「お...おいアドム、今の声は何なんだ?」
同じく無線通信を聞いたキアノスの声は少し震えていた。彼もアドムと同じく強い正義の志を持つ戦士であり、戦いで大切な仲間達が傷付き、失うことは十分に理解している。先程の通信で信頼していた指揮官の尋常ではない声を聞き、キアノスの顔色はすっかり青ざめていた。
アドムは現状何が起きているのか必死に思考回路を働かした。そして1つの結論にたどり着き、アドムは悔しそうな表情を浮かべながらもキアノスに話した。
「キアノス...。どうやら私達は、まんまと敵の誘導作戦に掛かってしまったらしい」
アドムの結論に、キアノスや3人の負傷者達は言葉が出なかった。先程まで、自分達が優勢な戦況下にあったのにも関わらず、今回の作戦の最初から既に、バンディラス軍団の手のひらに踊らされたと言うことに気がつかされたのだ。
その時、突然アドムの無線装置から通信が入ってきた。それは、彼らをさらなる絶望へ陥れるに十分な内容だった。
『ピー...ガガガ...。応答せ...。こち...ら、スター...スペー...チーム...作戦本部...。こちらで...アイ...指揮官及び...多数の...チー...の死亡...が確認された...。今作戦に...多大...な被害が確...されたし...。全チーム...は今作...を放棄し...直ち...退却せ...よ...』
作戦本部からの通信を聞いたアドム達は茫然としていた。
「い...嫌だ...。俺は...ここで死にたくない!」負傷した戦士の1人が這いずるように物陰から出ようとした。
「おい、やめろ!今は危なーーー...!」
キアノスの言葉も虚しく、敵のセンサーに引っ掛かってしまった戦士は敵が射撃したエナジー弾によって、頭部を丸ごと撃ち砕かれてしまった。
「クソッ!俺達の最期はここかよ!」
もはやここから離脱することは絶望的だと思い始めたキアノスに、アドムは1つの作戦を伝えた。
「キアノス、これは少し無茶な作戦だが聞いて欲しい。この作戦は......」
アドムから作戦を聞いたキアノスはかなり驚いた表情を作ったが、信頼し合える長年のパートナーであり親友である男の言葉を信じ、キアノスは力強く頷いた。
アドム達が隠れている物陰に向けてエナジーブラスターを構えているのは、約13体程の人数で隊列を組んでおり、冷たい金属の体で作られた殺戮の量産兵、スラウグハター達である。標的であるスター・スペースチームを抹殺する他、指揮官や幹部達が下す命令には忠実にこなすようにプログラミングされている。
「こちら、B-7704地点の奇襲攻撃部隊です。現在敵の兵士約3人を射殺し、残り4人が生存中。これより障害物を粉砕し、残りの敵兵士をしゃ...」
スラウグハターの1人が通信ユニットを使って指揮官に戦況報告を行っている最中に、突如物陰から身を乗り出したスター・スペースチームの戦士、アドムが愛用のライフル銃、E-S・Lガンを構え、レーザー光線に切り替え射撃、戦況報告中のスラウグハターの頭部を見事に撃ち抜いた。
続けてレーザー光線から散弾に切り替えたアドムは、広範囲のスラウグハター達に向かって銃の引き金を引いた。
無数の散弾が多くのスラウグハターの体を撃ち抜いた。残りのスラウグハター達もエナジーブラスターをアドムに向けて一斉射撃した。しかし、アドムは事前にアイロン・ウォールを展開していたおかげで、敵のエナジー弾を無効化し蜂の巣にならずに済んだ。
「キアノス!今のうちだ!退却するぞ!」
アドムが自らアイロン・ウォールで盾となり敵を射撃している間に、キアノスが負傷した2人の戦士を担いで戦場から撤退する。
2人の戦士はこの作戦を聞かされた時、自殺行為だッ!と反対したが、
「大切な仲間を見捨てるくらいなら、自ら盾となって助け出す方がマシだ!」
とチームリーダーであるアドムの少し頑固だが彼らしい言葉に完敗し、この作戦を実行した。
(全く...。本当に危なっかしい作戦だなぁ。だが、絶対に帰ってこいよ、ダチ公!)
キアノスは親友の実力を信じ、戦士達を担ぎながら戦場から撤退した。
着実にスラウグハター達を撃ち倒し、残り7体にまで減らすことができたアドム。そこへ体内に内蔵されているコンピューター、「S-C」から警報が出された。
『警告。アイロン・ウォールの持続力が60%まで低下。至急アイロン・ウォールの展開を中断せよ』
アドムは素早く瓦礫に身を隠し、装置のスイッチをオフに切り替えた。そして、キアノス達が遠くの安全地帯まで撤退したことを確認し、安堵のため息を吐いた。
「やれやれ、作戦はなんとか成功したな。......そろそろ潮時だな。」
アドムは腹部のポケットから1つの手榴弾を取り出した。
それを間近まで迫っていたスラウグハター達に向けて放り投げた。
手榴弾は敵の足元に転がった途端、大きな爆発を起こした。さらには、爆発に巻き込まれなかった者達には強力な電磁波が流れ込み、視覚センサーや運動機能等を一時的に麻痺させた。
「て...キきキき...、は...排除じょジョ...スル...」
敵が思うように動けなくなったことを確認した後、アドムは急いでその場を離れた。
その一部始終を空中に留まっている監視ロボットを通して、手に持つ無線カメラで観察していたバンディラス軍団の1人の指揮官が呟いた。
「フッ、中々面白い戦いが観れた。暇潰しには丁度いいかもな」
-数時間後-
スラウグハター達の攻撃をなんとか振り切ったアドムはキアノス達と無事合流し、安全地帯にある1つの廃墟の中で身を休んでいた。アドムが廃墟の近辺を巡回している間に、キアノスが負傷した2人の戦士の応急処置をしていた。
「キアノス、この辺りは異常なかったよ。バンディラス軍団もこんな廃墟群には興味ないだろうな」
アドムはその辺りで拾った石を弄りながら戻ってきた。
「さて!他のチームもスターシティに帰還している頃だろう。そろそろぐっすり寝ている2人を起こしてくれ、キアノス。......ん?キアノス、どうした?」
いつもならキアノスの良い返事が返ってくる筈なのに、キアノス本人はただ黙っていた。
「キアノスどうした?どこか具合が悪いのか?」
アドムはそっと彼の顔を見た。そして、はっと気がついた。
キアノスの目から、涙が流れていることを。
「アドム...、すまない...。もう少し早く診ていれば...」
キアノスは、既に冷たくなっていた2人の戦士の手を強く握っていた。
彼にとってこの2人は、訓練所で知り合ったかけがえのない仲間だったからだ。
友を2人同時に失う心の傷はそう簡単に癒えるものではなかった。
アドムは、静かにキアノスの傍らに座り込み、動かなくなった2人の戦士の名前を言い始めた。
「タイヤン、モーント...。我らの同志よ。君達の魂、アニマボルの光は、残された我らに生き抜く強い希望と、敵を討ち滅ぼす強い力を授けてくれる。君達が持った正義の志は、我らの力の糧になる。戦士達よ、星の命と共にあれ」
アドムは手に持っている石に小型のエナジーナイフを使って、スター・スペースチームのシンボルマークを刻み込み、戦士達の前に供えた。
「キアノス、行こう」
アドムは黙って座り込んでいるキアノスに声を掛け、装備品を持って出口に向かった。手に持つ剣の柄を強く握り締めながら。
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