彼女が部屋を出てから僕はすることがなく、ただ床に寝転がり天井を見上げていた。

こうしているとなんだか少し、幸せとまでは言わないが心の中がふわっとした気持ちの良いものに包まれたような気持ちになる。頭の中に邪悪なものは何もない。しかしそれと同時になぜかあの男とのことを思い出していた。嫌だと思えばそれ以上思い出すことはなかっただろうが僕はそのまま脳の動きに従っていった。


 あの人と僕は、最初は大学内で僕が一方的にたまに見かける程度でそれ以上の関わりはなにもなかった。といっても僕はあの人をとりまいているなんだか分からないオーラのようなものに無意識に惹かれていて見かけるたびになぜか僕の目はあの人の姿を追ってしまっていた。

そしてある日、彼と僕は出会った。それは大学内ではなく僕がよく行くカフェの中であった。そのカフェは大学から2駅ほどしか離れていないため同じ大学の人と会うことは多い。しかし彼と出会うというのは偶然としか言いようがない。

席もお互いカウンターで右を向くと一人で座っている彼が見える。しかし、彼をじっと見ていれば店員にも彼にも不審に思われてしまうのではないかと僕はただ前を向いて頼んだコーヒーを少しずつすするしかなかった。彼はというとおなかが減っていたのかケチャップがかかったオムライスをパクパクと食べていた。

僕は悩んでいた。

これは神さまがくれたチャンスなのではないか、今このチャンスを使って話しかけるべきなのではないかと。

普段、僕は知らない人に自分から誰かに話しかけるような積極的な性格ではないのだが意を決して話しかけようと席を立った時、同じタイミングで彼も席を立ってしまった。

そしてそのまま会計の場所へ行ってしまった。

僕は緊張がとけてなぜだか安堵してしまったが同時に話せなかった自分の無力さに情けなくなってしまった。

僕は席に座り直し、まだ少し残っているコーヒーをすすった。すると急に横から声がした。その声は しずかに「おいで」といった。僕は驚きながら声のした方に顔を向ける。


そこには光をまとった彼がいた。

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