あと1年の境界線
「ねぇ、すき。」
あの頃はずっと、雨が降っていたような気がする。
さらさらと、梅雨の時期のように生ぬるい、どんよりとした、黒いような白のような、混ざりあった影が蠢いていた。
「大人になったらな。」
とあの人は言った。その言葉が私には眩しくて、あと少しで触れることが出来るのに、どうしても、触れない。
あの人はきっと知っていた。
だから私はあの日、罪をおかした。
あの人は、私を汚いものでも落とすようにゴシゴシとその口元を拭っていた。
私の中の混ざりあった影は、圧倒的に黒に近づき、雨は止まず、ぼたぼたと、私の中に流れ込んだのを覚えている。
あと1年、待っていれば陽のあたる場所に私だって、きっと行けたはずなのに。
ショートショートショート 春野 秋 @akiharuno
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