孤独な放送室
TEN3
行動の意味
「あぁ、クソッたれ」
俺は吐き捨てる。
俺がいるデパートはSCPに分類され、異常性は、放送がかかる度に人又は団体が俺の事を忘れるという異常性だ。俺はそのデパートの内部調査で駆り出された。
例えば――
「〜〜〜さん(俺)、親戚の皆さんがお待ちでした」
クソ。今ので俺の親戚は俺の事を忘れやがった。最初は、俺の事を忘れてくれるなんて最高だなとか思っていたけど、生きる理由が削ぎ落とされている様な気分だ。
「〜〜〜さん、被害者の皆さんがお待ちでした」
クソ。恨んでいてもいいから忘れないでくれ。
「4階の調査を終了する」
俺を管理している財団に報告し、4階の調査を終えて放送室に向かう。
「それにしても放送の仕事なんか子供がやるなよ」
この放送の声は無機質だが少女の声だ。声が少女の声だと違和感がある。
「〜〜〜さん、友人の皆さんがお待ちでした」
はっ。……もう誰が俺の事を覚えているんだろうな。
俺は放送室の前に着きドアノブを捻り引くが開かない。
「〜〜〜さん、家族の皆さんがお待ちでした」
「おい、ここを開けろ」
返事は沈黙。だがノックをすると掠れた声が返ってくる。
「……早く逃げて」
「お前、こんな所に閉じこもって辛くないのか?」
「……逃げて。まだ間に合う。早く、逃げて」
「無理だな。残念ながら俺は自由の身じゃないんでね」
「早くして!私と同じ事になっちゃう」
「私と同じ?」
俺は疑問に思う。
「私は、私はこのデパートの最後の迷子なの」
「……そうか、なら早く家に帰らないとな」
「いいから!私だけでいいの!お願いだから早く!早く逃げて!!手遅れになる前に!」
「ガキがこんな仕事すんな。大人の俺に任せろ」
「〜〜〜さん、財団の皆さんがお待ちでした」
俺は微笑む。
「なぁ、本当の事を言えよ」
「……いいから。……お願い」
「ガキならガキらしく正直になれ」
「……助、けて」
少女の声が漏れる。
鍵が開く音がした。
正直怖い。
まぁ、でもな――
「俺は今まで沢山の人を殺してきた死刑囚だ。だけどもう誰も俺の事を覚えちゃいない。だから――
ドアを開ける。
「代わりにお前で償わせてもらう」
俺は笑顔で話しかける。
「よう、お嬢ちゃん。」
&
入り口に待ち構えていた警備員に少女は保護された。
少女の素性を調べ家族の元に送り届けたが家族は少女の事を覚えていなかった。
デパート放送の声が死刑囚の声に変化した。
そして、少女を救いデパートの映像を録画した英雄を覚えている者は誰一人いなかった。
孤独な放送室 TEN3 @tidagh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます