第3話 お姉さまからの手紙
姉の
「お母さま、はやく読んで! ねえ、なんて書いてあるの?」
「はいはい、そんなに急かさないで。」
母は手紙を受け取ると、居住まいを正して背筋を伸ばし、うやうやしく手紙を開いた。
「じゃあ、読ませていただきますので、詮子もお
「お姉さまのお手紙を聞くのに、お行儀良くするの?」
「超子さまは帝に
「ふぅん」
なんだかヘンなの。お姉さまはお姉さまなのに。
と思ったけれど、とにかくお手紙のなかみを早く知りたかった詮子は、素直に母に従った。
母は、こほん、と小さく
無事に、入内しました。ここでは、入内した女性ひとりにひとつずつ建物が与えられます。多くの女性たちが女房として私に仕えてくれています。私は、帝の妻の1人であるとともに、この殿舎の
昨夜は、はじめて帝のもとに呼ばれました。ふつうのお家では、殿方のほうから女性の家に訪ねてくださるのだけれど、宮廷では帝が私たちの殿舎にお越しくださることもあれば、私たち女性が帝の住む
はじめて入った清涼殿は、それはそれは立派な建物で、
はじめてお目にかかった帝は、
まちがいなく、昨晩のわたくしは、世界でいちばん幸せな女性でした。
夜が明ける、少し前に、帝のもとを出て自分の殿舎に帰ってきました。うしろを追うように、帝からのお
ああ、詮子! 宮廷には、幸せがつまっています。あなたもいつか入内して、この幸せを味わってください。
読み終わったお母さまと詮子は、顔をみあわせた。超子の幸せ熱に浮かされたのか、2人の顔も上気していた。詮子は、
「すごい! すごい! お姉さま。お幸せなのね!!」
「帝は、とても美しいお方なのね!!」
「せいりょうでん って、帝のお住まい? すごく
「ああ、すてきだわ。うらやましいわ。」
「お姉さま、また
お母さまは、そんな詮子をニコニコしながら見つめていた。お母さまもまた、嬉しそうだった。
年の瀬が近づくと、詮子は、里下りしてくる超子をいよいよ心待ちにするようになる。
「ねえ、お姉さまは、いつ帰っていらっしゃるの? 近ごろ、お手紙が
正月を前にはしゃぐ詮子に、お母さまは言った。
「年末年始になると、宮廷はきっと目の回るような忙しさなのよ。ゆっくりお手紙を書く余裕もないのではないかしら。身体をこわしていないと良いけれど。心配なことね。」
「せめて、お
「お姉さまは、このお家にお戻りになるの?」
「お姉さまではなく、女御さまよ。女御さまは、
「えー! このお家に戻ってきてほしいー! お姉さま・・・じゃなかった、女御さまのお里は、このお家よ。お父さまのお家になんて、入内前に少しお住まいになっただけじゃない。」
「それでも、女御さまのご実家は、お父さまの住む東三条邸ということになっているから、あちらに帰らなければならないのよ。わかってちょうだいね、詮子」
正月、八歳になった詮子は、新年のご挨拶に、と、東三条邸に里下りをしていた超子を訪ねた。詮子は、超子の土産話を本当に楽しみにしていた。だから、わくわくしながら女御・超子を訪ねたのだった。
「お姉さま、明けましておめでとうございます!」
「詮子、おめでとうございます。どう? お母さまは、お元気? 道長は、少し大きくなったかしら」
新年の
「お姉さま、どうなさったの? 宮廷で、いじめられたの?」
「大丈夫よ。幸せに暮らしているわ。帝も・・・とても・・・ステキなお方だし。」
あれほど待ちわびた
そこへ、父の兼家が訪れた。
「
「新年おめでとうございます。わざわざご
びっくりした。
たしかに、入内して女御となった姉に、父が敬語を使わねばならないことは
しかし、ほんの数ヶ月で、この姉の、父に対するよそよそしさは何なのだ? 姉は、自分と違って、こんなに
いったい、二人の間に何があったというのだろう。
詮子は、一生懸命考えた。そして、はたと思い至った。もしかして、姉の笑顔を
母を泣かせるだけでなく、大好きな姉をも不幸にしているのかと思うと、詮子はますます父のことが
平安絵巻~この夢咲くや~詮子編 和泉やよい @officemaiko
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