6月6日(木) 19時48分 教室




結局、どうやって返事をしていいのかわからないまま時間だけが過ぎてしまった。

一応毎日返事を書いた封筒は机の中にいれてある。


2通目の手紙以降、彼女から手紙が届くことはなかったし、机の中の手紙がなくなることはなかった。

そんなある日、僕は先生の用事で遅くまで学校に残っていた。

一応こう見えても生徒会の手伝いをしていたりと、それなりに先生からの信頼も厚い。


教室に戻って帰り支度をしていて、ふと違和感に気づいた。


手紙が……ない。


もしかしたら彼女が取りに来るかもと思い机の中、教科書の一番上に置いていた手紙がなくなっていた。


「返事……読んでくれるのかな……」

僕は、そう小さな声で呟いてからふと疑問に感じた。


教室の時計を見ると、時刻は19時48分。

僕が先生に呼ばれたのは18時30分頃だったはず。その頃にはもう学校にはほとんど生徒はいなかった。

運動部が僅かに部活をしていて、校内には……文化部の生徒はいたのだろうか?


僕は彼女は定時制課程の学生ではないかと思っていたんだけど、今日は定時制の授業はない日だ。


となると、同じ学校の誰か……

それもこの時間まで学校にいる部活をしている人物……


いや……やめとこう。

彼女は僕と直接会うのが恥ずかしいからこうして手紙を書いてきたんだから。


考えればキリがない。

僕は教科書を鞄に放り込んで教室を出ようとして……


「ん?いい匂いが……あれ?気のせいかな?」


ふと、教室にいい匂いが漂っていたように感じたけど改めて嗅いでみてもその正体は分からなかった。


「……匂わない……か」


何だったんだろう?

今、確かに何か……とてもいい香りがしたような気がしたんだけど。


もしかしたら彼女の残り香だったんだろうか?


僕はそんな風に思いながら教室を後にした。

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机中の恋文 揣 仁希(低浮上) @hakariniki

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