第8話ー開始ー
ヴァンザント邸の庭と外壁、警備兵1000人あまりを下級火球魔法(ファイアーボール)で爆炎で焼き尽くした勇者リュート。
ヴァンザント邸の全面部分は炎さらされ延焼していたが、建物自体はダメージは少なかった。
奴隷商人のヴァンザントとメリディエンはその邸宅の一室で、慌てて金や宝石などを袋に詰めている。
「もう 終わりだ!はやく詰めろ!逃げるぞ」
「しかし、どこに逃げれば?」
「知るか!あの化け物の来ないどこかだよ!」
「お取込み中すみません お お話があるんですが…」
部屋の入口の扉のところにリュートが立っていた。
「うわああああああああ」
「出たああああぁああぁ」
部屋にいた二人は絶叫する。
「ああぁ!ごめんなさい ごめんなさい!驚かせてしまって」
驚いた二人の反応にリュートも慌てている。
「く 来るな!こっち来るなぁ!」
「あああ お助けください!どうか命だけはお助けください!」
「あ あのぅ ルジャー=アウフマンさんからですね…」
「金か?金がほしいならいくらでもやるぞ ほら!そこにゴールドが詰まったカバンがある!そ それを持って行け!な?」
「ああああー ご慈悲を 神様 どうかこの小さき愚か者になにとぞご慈悲を賜りますようお願いもうしあげますーー!」
「あ だから依頼をもらいまして…」
「それとも 女か?女なら い 今すぐ用意させるぞ?どんなのがいい?スレンダーか?巨乳か?あ!幼女か?」
二人ともにリュートの話を遮るようにバラバラな発言を続ける。
話が進められずリュートは困惑している。
おもむろにメリディエンがハッとしたように
「あ あの私は関係ないですよね?その依頼に私は含まれていないのでは?」
コボルトのメリディエンがリュートに懇願するように尋ねる。
急な問いかけに戸惑うリュート。
「えーっと? ああ そ そうですね…復讐依頼にはヴァンザントさんしか名前が書いてない…っぽいですね…」
「へへ でしたら私めはここらで失礼さしていただいて…」
「おい!ちょ ちょっと待て!お前一人だけ逃げる気か!!」
「……」
引きつった愛想笑いを顔に張り付かせながらメリディエンが部屋の奥の扉へ向かう。
ヴァンザントがすぐに後を追って摑みかかる。
「いてて!な 何を!?」
「ふざけるな 貴様!下僕のくせに主人を見捨てるとはどういうことだ!」
「は 離れて!痛い痛い…痛いっつーの!痛えだろ このやろう!」
メリディエンが背後からしがみついているヴァンザントの顔面へ肘打ちを挿れる。
「ぶひっ」
当たった衝撃で、ヴァンザントのたっぷりとした頬の肉がぶるっと揺れる。
鼻っ柱に命中したことで、鼻血がしたたる。
「こ このぉ!裏切りものめがぁ!」
ヴァンザントはメリディエンから手を離さない。
メリディエンの肩口へ噛み付いた。
「メチメチィ」という歯が肉に食い込んでいく音がする。
「ぎゃあああ!ヤメーーー!」
「ムググググー!」
歯が肉にさらに入っていく。
血が溢れてくる。
「コンチクショウ!」
メリディエンが振り返る形で、噛み付いているヴァンザントの左目に右手の親指を突っ込んだ。
「ヌチュッ」っという濡れた柔らかいものが凹んだ時の音がする。
「んぱハァーン」
ヴァンザントが奇声を発しながら噛んでいた口を離す。
後ろによろけて尻もちをついた。
メリィディエンが痛みと焦りで、手足をちぐはぐに動かして逃げようとする。
しかし、混乱しているせいか普通に歩くほどの速度しか出なかった。
「ふざけんなぁーーー!こんの くされ妖怪野郎がぁああ」
叫びながらヴァンザントはナイフを両手で構えてメリディエンめがけて体当たりするようにぶつかっていく。
メリディエンは当たる刹那、体を反転させて避けようとした。
だが動きは鈍く避けきれず、左のわき腹にナイフが突き刺さった。
「ぐえ!」
「死ねえ!しぃねぇえ!」
憎悪と狂気で醜く歪むヴァンザントの顔。鼻から血を 左目からは血とドロッとした半透明の液体を流している。
苦痛で歯を食いしばり、怒りの形相のメリディエン。
肩の肉はほとんどえぐれて一部骨が見え、左のわき腹にはナイフが突き立てられ二人の動きに合わせてジュブジュブと傷口が広がり血が服を染めていく。
「ジェイクサル毒の爪よ マザール焼け ジョグジョグラスル肉を腐らせカパドゥアル悲鳴を吸え…」
メリィディエンが呪文を唱えて右手の爪をヴァンザントの首に掴むようにして突き刺す。
肉が焼ける音がして患部が黒い色に染まっていく。
「うぎいいいいい」
「ぬん!ぬん!ぬぅん!」
しばらくもみ合う二人。
ヴァンザントがナイフを一度引き抜いて、メリディエンのみぞおち辺りを2度3度と刺す。
「あぴぃ あう ああ…」
メリディエンの体から力が抜けていく。
口から血を吐いてヴァンザントの体にもたれるようにしながらズルズルと倒れこむ。
ヴァンザントも持っていた血まみれのナイフを取り落とし、わずかの間呆然と立ち尽くしていた。
ガクンと膝から崩れ落ちて床に突っ伏した。
暗い部屋。
ちょっとした広間で天井も高いが灯は いくつかのランプとロウソクがあるだけなので、その広さの全容は判別できない。
「目覚めよ 覚醒魔法(インフェ)」
リュートが魔法を使う。
ヴァンザントとメリディエンが魔法の効果で、目を覚ます。
「…んあ?な なんだ?」
「…う うう ここは…?」
二人ともに見覚えのない場所で目覚めたことで状況が把握できてないようだった。
「ここは地下墓地カタコンベです。大きな街の地下にはこういう使われてない古代の墓地が多いんですよ」
「あ!お前は!」
ヴァンザントは目の前に立つ男が勇者リュートだと気づいて、戦慄しのけぞった。
「な なんだ!?これ 動けないぞ」
「ああ!縛られてる!んん?は 裸だ!」
メリディエンが気づいたが、二人は鉄製の椅子に荒縄で縛られている。
そして、二人ともに全裸にされていた。
「あ あの お二人で、喧嘩してしまっていたんですが…」
そこまでリュートが言うとヴァンザントが思い出したようで
「あ そうだ!貴様よくも主人を」
「も もういいでしょうが、そのことは!…あれ?」
「なんだ?」
「傷がない!あれ?私のほうも!?」
リュートが落ち着いた様子で口をひらく。
「お二人は喧嘩の末に一度死んでしまったので、この不死鳥薬で蘇らせたんです」
リュートは手に持った液体の入った小瓶を見せた。
「じゃ じゃあ 助けてくれるという…」
リュートは微笑みながらヴァンザントの言葉をさえぎる。
「勝手に死なれてしまうと復讐依頼が果たせませんからね」
ヴァンザントとメリディエンは息を飲んだ。
わざわざ生き返らせ傷を治癒させてからでも、殺そうとする目の前の男。その狂気の矛先が自分たちに向いていると感じたら、自然と身を震わさずにいられなかった。
依頼状に目を落としながら ロウソクの横に置かれている拷問器具の一つずつを撫でるように触れていく。
「あ そうそう!そちらの方メリディエンさんでしたよね?依頼の中にあなたのことも書かれていました。動けなくなった奴隷だった依頼人を『肉捨て場』と呼ばれる谷底へ捨てて来るように指示したのはあなただと書いてあります」
「い いや それは…」
「依頼人であるルジャー氏はそこに捨てられてからも這い出して、そのまま20キロ先の集落まで片手片足で這っていったそうです。生死の境をさまよったようですが、なんとか命を繋げると、あなたたちへ復讐を誓った。で 僕がその依頼を受けたってことです」
「ま まて そんなのは我らだけが、悪いわけではないだろう。そもそも街の人間も奴隷の闘いを見て喜んでいたのだ!そうだ やるなら皆もやるべきだ!不平等であろう!?」
「そそそそうだ 卑怯だぞ!それに強いものがか弱いものをいじめていいのか!?」
リュートは拷問器具眺めている。
「え!? ああ ごめんなさい聞いてなかった!別のこと考えていて…えーっと じゃあ まず脚から取っちゃいますね」
二人の抗議は届かずリュートの中で始まってしまったようだ。
「依頼状の最後には『早く殺してくれと懇願するほどに苦しめて欲しい』と書いてあります。ではよろしくお願いいたします」
転生して魔王を倒したけど、クズが多すぎるので復讐代行屋をやります。by必殺勇者 @daimonji2019
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