第7話ー終点ー

勇者リュートの追跡を一旦振り切ることに成功したヴァンザント。


馬車で邸宅に戻ると私兵と街を守る警備兵に応援を要請した。




続々と兵隊がヴァンザントの大邸宅に集まり、塀の外側を何重にも取り囲む。




邸宅の2階の窓から兵の警備状況を眺める奴隷商人ヴァンザント。




「ぬううう…こんな人数では相手にならん!」




冷や汗をかきながら焦った様子で身を震わせる。








邸宅の外では 兵士たちがバタバタと走り回っている。


指揮官が大声をあげて指示している。


駆け付けた警備兵は増え続け、今や1000人近くに膨れ上がっていた。




「さっさと動け 間抜けども!賊が来るぞ!そこ 隊列を崩すな!」




一番外側に並んでいる兵士同士がうすら笑いを浮かべながら小声でしゃべっている。




「はぁあ うちのご主人様も気が小させえんだよなぁ。誰だか知らねえけど賊ごときに全員集合なんかいらねえだろうに」




「ああ 今日は休暇だっていうのに召集しやがって…あのブタめ」




「おいおい ブタはねえだろ(笑)」




「じゃあ ブー助だ」




「勝手に名前をつけるなよ ヴァンザント様って言えよ ははは」




「もしくはブー太郎でもいい」




「やめろって くくく…」




「現れたぞー」




コボルトのメリディエンが2階の窓から乗り出して叫んだ。


邸宅の正面の通りから男が歩いてくる。


兵士たちは一斉に男を注視する。




「なんだ ありゃ?ただの市民じゃねえか」




「あれが 敵なのか?」




リュートを初めて見る警備の者たちは、一様に気が抜けたようだ。




「あんな 普通の男1人に俺たちは集められたのかよ」




「俺なら片手でブッ飛ばせるぜ へへへ」




皆口々に感想を言い合い、誰もがリュートが勇者で恐ろしい力を持っているとは到底思えないようだった。




リュートが正面玄関の前に近づく。




警備兵が二人で槍を構えてリュートを阻む。




「ここはヴァンザント様の邸宅だ!誰だか知らんが立ち入りは許されておらん!帰れ!」




「えっと でも こちらも用があって来たので…」




もう一人の兵士がいきなりリュートの顔面を殴った。




「わかったか!怪我しないうちに…ぅいってぇえ!」




殴ったほうの手を抱えてうずくまる。




「おい!貴様 何をする!」




「え? いいえ な…何も」




戸惑うリュートだったが、兵士に危害を加えたと勘違いされたようだ。




「えい!」




兵士が持っていた槍をリュートめがけて振り下ろす。




「あ ちょっと!」




リュートがとっさに槍の穂先を右手で払った。


槍は兵士の手を離れて ギュンギュンと回転しながら超高速で斜めに飛び、横に並んでいた兵士の首を跳ね飛ばした。




「あぶ!」




「すぺっ!」




「しゃびっ!」




音だか声だかわからないモノを発しながら十数人の兵士の身体と頭は分断され、槍は邸宅の外壁を深くえぐりこんで止まった。



十数人の仲間の胴体の首の『切れ目』からは二筋の血が勢いよく空に向かってほとばしっている。


その様子を見ながら他の兵士たちは、少しの間動けずにいた。


指揮官らしき男が叫ぶ。




「敵だ!構えろ!」




はっとしたように兵たちが槍を構える。




「ああ 今のはわざとじゃないんです。ご ごめんなさい。槍を払おうとしただけで…」




「た 隊列を組みなおせ!警戒態勢!」




兵士たちが敵意と怯えが混ざったような顔でリュートに対峙する。


それを見てリュートは諦めたようにため息をつく。




「はぁ しょうがないですねぇ あんまり時間かけたくないもので…すみません」




そう言うとリュートは10歩ほど後ずさりして、兵士たちから距離をとった。




「に 逃がさんぞ!貴様 ヴァンザント様の私兵を殺しておいて生きて帰れると お 思うなぁ!」




指揮官の男は精いっぱいの声を張り上げるが、明らかに腰がひけているのがわかる。




「こうしてこうして こうだったかな」




勇者リュートは両手を組み合わせいる。




「ああ そうかコレだ!|爆ぜろ!下級火玉魔法ファイアーボール」




印をむすんで呪文を唱える。




地震かと思わせるような地響きと、太陽がもう一つ現れたのかというほどの光、そして大爆発が起きた。


山火事でももう少し控えめであろうというくらいの大きく大量の炎が燃えて上空へ立ち昇っている。




今までそこに居たはずの約1000人のヴァンザントの兵たちと、外壁と邸宅の前にある豪奢な庭は跡形もなくなっていた。


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