第6話ー死の追跡ー
リュートのターゲットとなった奴隷商人ヴァンザントは馬車で逃げ出した。
レクソンの都は夕暮れ時になり、にぎわっていた。
あちこちに商店や酒場がたちならび買い物客や酔客が道にあふれかえっていた。
そんな中をヴァンザントの乗った馬車が狂ったような速さで駆け抜けていく。
「どけどけ!轢くぞ!ボォケー!」
御者の隣に座ったコボルトのメリディエンがゆく道にいる人々に怒鳴る。
突っ込んでくる馬車を見ると皆おどろいて、道の端に避ける。
「おい!もっと飛ばせ!来るぞ!」
ヴァンザントが客室から御者と部下のコボルトに向かって叫ぶ。
馬車の後方で小さな叫び声が聞こえる。
ヴァンザントはすかさず振り向く。
路地から露天の商品を跳ね飛ばしながら人間が現れる。
「き 来た!速く逃げろ逃げろ!」
勇者リュートは凄まじい速さで走って馬車を追っている。
馬車が通った後に散乱した障害物たちと、人を避けながら風を切って走っている。
「追いつかれるぞ!何か武器ないのか 武器武器武器!」
「護衛用のライフルと拳銃がそちらに!」
御者言う通り背もたれの後ろから、銃を取り出したメリディエンとヴァンザントは、爆走する馬車から身を乗り出す形で、追手の勇者に狙いをつけ猛然と撃ちだす。
リュートは動じず、走る速度をゆるめない。
肩や脚にいくつか弾が当たることもあるが、ダメージは無い。
当たった銃弾は甲高い金属音と共にあらぬ方向へはじかれていく。
「くっ…頭だ頭を狙え!」
ヴァンザントが拳銃で、メリディエンが客室の屋根に身を預けてライフルで狙う。
リュートの耳の横を銃弾がかすめヒュン ヒュンッと風を切り裂く音が鳴る。
メリディエンの狙いすました一発がリュートの顔の中心をとらえた。
一瞬、銃弾の衝撃で顔が『がくん』と上を向く。
「良し!」
メリディエンが思わず会心の声をだす。
リュートはすぐに前を向き直す。
口を開き前歯で受け止めた銃弾をビスケットのように噛み砕く。
「バケモノめ…」
ヴァンザントとメリディエンが恐怖に顔をひきつらせた。
リュートは速度をあげて馬車に近づくと、飛び上がる。
馬車の客室の屋根に取り付くと、素手で屋根を壊し始める。
「うわあああ」
「や やめろバカ!そこは入り口じゃない!」
声は届かず、みるみるうちに屋根も壁面も剥ぎ取られた。
リュートは後部座席の上に仁王立ちになって言う。
「馬車を壊してごめんなさい。でも ヴァンザントさん あなたに用があるんです」
「わ 私はお前になど用は な ない!」
声は震わせてヴァンザントが応える。
「そこに入れ!」
メリディエンが御者に叫ぶ。
馬車が右に曲がる。
遠心力を受けて車部分が左側へ傾く。
「おっと あの もうちょっと優しく運転して…」
リュートが前方の御者に目を向ける。
目の前に石壁が現れた。
グシャ
という何かが潰れたような音がしてリュートは壁面に衝突した。
馬車は低い橋の下をくぐり走り抜けていく。
御者とメリディエンは体を低くして橋の高架下をギリギリでくぐれたが、リュートは座席に立っていたので高架下の天井にあたる橋の壁面ぶつかったようだった。
馬車の後ろに落とされる形で地面に仰向けに倒れるリュート。
ヴァンザントは倒れて後方に小さくなっていくリュートを見て。
「よし!でかしたぞメリディエン!このまま館に向かえ私兵を全員集めて迎え撃つぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます