第5話ーお仕置きタイムー

奴隷商人への復讐依頼を受けて地下闘技場に降り立った勇者リュートは、闘技場の随一の戦士を瞬殺した。


ターゲットである奴隷商人で地下闘技場の経営者であるヴァンザントの前まで行くと復讐依頼の文を読み上げだした。




「ええっと…ルジャー=アウフマンさんからの依頼になります。元々はウィラード山脈の山間部の村ペトス出身で小作人として雇われた農奴だったはずが、連れてこられたのはここ地下闘技場でファイターとして殺し合いをさせられたとのことです」




「な 何をやってるんだ!さっさとコイツを殺せ!」




ヴァンザントの命令で、後ろに控えていた護衛たちがリュートにとびかかる。


護衛たちの手がリュートにかかろうとした瞬間 リュートの左手が護衛の男たちをなぎ払う。


正確には、まとわりつくハエか何かを手首から先で追い払うような動作をしただけだが、リュートの手が当たった瞬間に大柄な護衛の男たちが、左右に吹き飛んでいく。




「無理やり出場させられたルジャーさんが不甲斐ないファイトをすると、次の相手はより過酷なモンスターだったりしたそうですね。3ヶ月も経たずに、ルジャーさんは左手と右足を失うことになったそうです」




話を聞かず 客席を転げるように逃げるヴァンザント。


司会の席までたどり着くと、魔法の拡声器を取り上げて叫んだ。




「こいつ!勇者を倒した者には1000万ゴールドの報奨金をやるぞ!本当だ!」




魔法の障壁が破れた衝撃でとまどいざわついていた観客席が一瞬鎮まる。


会場中の視線が勇者リュートに集まる。




リュートはあたりを見回しながら言う。


「…あ いや あのぅ えーっと…どうしようかな…」




最初に動いたのはリュートの近くに居た男性老人だった。


老人は、リュートの袖をにぎった。




「え? あ すいません…は…放して」




リュートは腕を引いて掴まれた袖を切ろうとするが、老人はよりいっそう強く掴む。




一斉に観客たちがリュートに殺到する。




「ちょまっ…あああ」




人が人を取り巻き、人が人に乗っかり、あっという間に人の山になっていく。




その隙にヴァンザントは会場の外へ向かって駆け逃げていく。


彼の後ろをコボルトのメリディエンが慌てて続く。






地下から伸びる長い階段を肥満体型の奴隷商人やっとの事で登りきり、表に出る。


外はレクソンと呼ばれるジオグラフ王国の都の街並みが広がっている。


地下闘技場の地上部分は都の中心部に位置し、聖バルバドス教の大聖堂になっていて、敷地も高さも他の建物よりも群を抜いている。






「はぁ はぁ っ…は 早く馬車を探せ!」




「は はい!」




ヴァンザントの命令にメリディエンがどこかに走り去る。




「はぁ はぁ はぁ…うえっ…うぉえ」




激しい息切れから餌付き始めたヴァンザントの足元が、かすかに震えた。




低い地鳴りがする。




通行人たちも立ち止まりあたりを見回し始める。










突然 地面がひっくり返ったかのような衝撃と爆音がした。


同時に何かが大聖堂の中から天空へと飛び出してきた。




バラバラと闘技場の観客と思しき人間やらモンスターやらが路上に落ちてくる。




ズン!




少し遅れてリュートが降り立つ。


肩には死んで口から舌と血を垂らしているベヒーモスの巨体を担いでいた。


報奨金目当ての人々や、けしかけられたモンスターを全部ぶちのめして地下から天井を破ってきたのだった。




「ひ ひいいいいいい」




その姿を見て、怯えたヴァンザントは手足をバタつかせて逃げ始めた。




「あ あの まだ依頼文が終わってなくて…」




後ろから気弱そうな声で勇者が呼びかける。




ヴァンザントの前に猛スピードで馬車が止まり


「早く お乗りください」


メリディエンが御者の隣に座って手招きする




渡りに船と慌てて馬車の客室に乗り込む。


4人乗りの客室だが巨躯のヴァンザントが入るとやや窮屈そうに見える。




「いい いけいけいけ!とにかくぶっとばせ そこら歩いてる奴らなんか轢いちまえ!」




2頭立ての馬車は手綱の高い音と御者の気合いの声とともに全速力で走り出した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る