第4話ーターゲットー

地下闘技場 奴隷商人へ復讐依頼をうけた勇者リュートは、奴隷へけしかける為のドラゴンをいち早く退治した。



「なに!?勇者だと?なぜ勇者がここに?復讐屋?俺にか?」

奴隷商人のヴァンザントは突然のことに混乱している。



「ご ごめんなさい みなさん盛り上がっているところお邪魔してしまいまして…ええっとどうしようかな…」


ドラゴンの死体と、大観衆の前に出てまごつく男の登場で観客たちは状況が飲み込めず、ざわめいている。


「…ふむ いや これはこれで面白い!よし 司会に伝えろ!」


ヴァンザントが勇者を見つめながらなにやら考えをめぐらしている。

司会の男が指示を受けてしゃべりだす。


「なぁーんとここでルール変更です!」


会場中の視線が司会に注がれる。


「ドラゴンを倒したのは なんと かつて魔王ベリアスをたった1人で倒したという男!勇者リュージだったのです!勇者リュージが本日のゲストファイターとしてエントリーされましたぁ!」


歓声と拍手が巻き起こる。


「あ いや あの リュートなんですけど…」

リュートのむなしい抗議の声は誰にも届いていないようだった。



誰かがコールを始める。


「リュージ!リュージ!リュージ!」


さざ波が大波になっていくように『リュージコール』が会場に広がっていく。



「これよりスペシャルマッチをとり行います!チャレンジャー勇者リュージを迎え撃つのは当闘技場きってのファイターであり別名死刑執行人!」


別の歓声があちこちから上がる。


「幾多のファイターを葬ってきた死神!戦士ギャルズナーー!」


闘場の壁面に据え付けられた鉄の扉が開いて大柄な男が入ってくる。

隆々たる肉体で上半身は裸。

頭部に黒い布をかぶり顔の部分が荒く編み込まれていてそこから視界を確保しているようだった。

巨大なカマを背負っている。


「あの ご ごめんなさい。僕はヴァンザントさんに用があるのですが…」


「勇者だって?このホラ吹き野郎が! それともヴァンザント様がこの俺の名声を高めるために演出してくださってるのか?おい」


「いや あなたと戦う気は…」


「おおかた そのドラゴンも死んでたやつを持って来たんだろう!演出のためにな。んで 勇者役なんだから ある程度の強さあるんだろうな?え?勇者リュージさんよぉ」


「え? えーっと…」


「ちっ 素人丸出しだな!かませ犬らしく 派手にふるまえよ!クズが!」


「クズ…」


ギャルズナーがカマを抜いて構える。


「俺はこの闘技場で今までに100人の首を刈ってきた。使い物にならない奴隷どもの処理役ってわけだ」


「ああ じゃあアナタは奴隷ってわけじゃないんですね?」


「ふざけんな あんな臭せえ馬鹿どもと一緒にするんじゃねえよ!てめえも…」


パァーン


何かが破裂したような大きな音がした。


その場にいた誰もが何が起きたかわかるまでしばらく時間がかかった。


リュートはギャルズナーが話している途中で 音もなく一瞬で踏み込み顔に平手打ちを喰らわせた。

破裂音は、勇者の平手打ちで粉々にはじけたギャルズナーの頭部のものだった。


はじけてバラバラになったギャルズナーの頭部だった肉や血は闘場とそれを囲む魔法障壁にべったりとこびり付いた。

それに気づいて前方に座っている観客たちが悲鳴をあげる。


「な! まさかギャルズナーが一撃で…ええい。さっさと次のファイターを出せ!」


先ほどの喧騒が嘘のように静まり返った会場でリュートはあたりを見回しヴァンザントと思しき人物を見つけたようだった。


「あれかな?」


小走りに闘場の端から壁をよじ登るが、魔法の障壁にぶつかり動きが止まる。

それを見てヴァンザントが先ほどの驚きから復帰したのか言う。


「何やってんだあいつは。馬鹿なやつだ。ドラゴンの炎すら通さぬ障壁だ。通れるわけがない」


「よいしょ」


軽い掛け声とドアをノックするかのように障壁を叩くと衝撃が全体に伝わり魔法障壁が消えた。

その衝撃で広い会場が激しく振動し、観客から低い悲鳴があがる。


「な!?」


ヴァンザントは驚愕の表情で数歩後ずさりをした。


リュートは小走りに階段を上がりヴァンザントの前まで行く。


淡々としたリュートの動きと起きたことのインパクトのギャップが大きすぎて、奴隷商人もそれに雇われた護衛たちも動けない。


「あ あの…リュージじゃなくてリュートです。名前…まあ いいんですけど…一応」


「…え? あ ああ。何だと?何を言ってる?」


「あ いや なんでもないです…すみません。さっきちょっと気になったもので…」


「???」


混乱するヴァンザントを見て、何と言っていいかわからなくなったのかリュートは、手に持っていた紙に書かれている依頼文を読みだした。

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