#これが読めるか勇者よ -承-

#これが読めるか勇者よ

-承-

-登場人物-


「魔王/我(われ)」

「勇者/俺(おれ)」

【拠点統率サーバント/私(わたくし)】

《精霊獣/ぎゃ》

[元王の先生/私(わたし)]

{新勇者/?!■}

<元王子の新王/私(わたし)、ボク>

/巫女/

|有象無


マオウバチ/そこそこ大きい


王子(新王)のトラウマ

刺されると体が腫れ浮腫む、特に顔に症状が出る

ただ痛いこそ強いがそこまで猛毒では無い為、

死ぬ事はあまり無い

姿から名付けられたが、

実際は温厚なほうで、名前負けの蜂


pic.twitter.com/87kWhVKKNf


#これが読めるか勇者よ

{開始しますか?}


>----------------------------------<


>開始?




「わ・た・し・は・ゆ・う・し・や」


[ふむ、よく書けておる]


「ふむ、覚えがどんどん良くなってきておるな。

 同じ学友として我は鼻が高い」


【魔王様はご自身の勉学に集中を】


「だって…寂しいじゃん。

 我、さっきからずっと一人で黙々と書き取り自習よ!?」


[魔王、お主はこの勉強は不要じゃろ…]


「あまりにも暇すぎて呪い詠唱シリーズ一冊、

 書きあげてしまったわ…我」


【真面目の勉強して下さい。

 勉強すると言ったのは魔王様ですわよ】


「そうだよ、せんせいとおかーさんを困らせたらダメだよ」


「ぐぬぅ、ど正論を勇者から言われるの…きついなぁ」


[まぁ、もう少しだけ待ってくれ。魔王よ]


《ぎゃお?》


「精霊獣…お前だけは我の味方だな」


「あ、精霊獣、見て!書けたよ、俺!」


《ぎゃおー!》


「あっ…精霊獣、おまえもか…!我、孤独!」


【拗ねられても可愛くありませんわよ?】


「我もそんくらい知ってるわーい!

 でも孤独なのは辛いわーい!」


【お茶をお持ちしますので、お待ちを】


「おちゃ!おかしもある?」


【ええ、焼き菓子もありますよ?】


「やった!」


[ふむ、では授業は一旦終わりにしようかの。

私も休憩したいのでな]


「生徒が熱心で申し訳無いな、ふはは」


「学ぶって楽しいから、

 ついつい頑張っちゃうんだよね。

 せんせい、大丈夫?」


[気にするでないよ、勇者。大丈夫!]


【さ、場所を変えて気分を切り替えましょう。

 勇者、お茶のお手伝い、いいかしら?】


「はーい!いいよ!精霊獣も行こう」


《ぎゃお!》


【では一緒に来てね。

 お二人はゆっくり来て下さい。準備しますので】


[ゆっくりさせてもらおう…で、魔王]


「おうよ、先生殿」


[昨日の呪いの話の件じゃが…]


「ああ、我の呪いの」


[条件付で必中と確か言いおったの]


「最弱ゆえに工夫が必須でな。

 かからぬ呪いに何の価値がある?」


[成る程。お主らしい。

で、条件付…の所じゃが]


「…秘密、としたい所だが、察しの良さそうな先生、

 呪いを受けた貴重な経験もある、

 昨日のアレもある。気付いておるのだろ?」


[私にはの、王子に呪いがかかったようには見えなんだ。

呪いが見える訳では無いが、魔王、あの時お主は…

うっかりだろう…何かを言いかけた]


「ああ、我も焦りから安堵のタイミングで、

 口が軽くなってしまったものよ」


[…王子には痒みの呪いはかかっておらんな?]


「…そう思うか?」


[答えたのが証拠だ]


「痛恨のミス、だな、我。

 いやはや、賢い者はそれ相応に察しも良い。

 やはり招待すべきではなかったかな?」


[今なら誰もおらん。ここで私を処分出来るぞ?

最弱とは言え、老人を物理的に処理するのは可能じゃろ?]


「それは我の魔王としてのプライド、生徒としての禁忌。

 する訳がなかろうよ、先生殿?」


[それは良かった。

勇者にはまだまだ教え足りぬでな。条件、私が思うに…]


「一つの呪いは存在一つ限り」


[ふむ…なるほど。同じ呪いは使えない、と]


「必ず呪いをかけるには

 強力で限定するほどの制約が必須でな。

 手軽かつ確実にするには、これが一番」


[確実たる為にか]


「言わば、我自身への呪い」


[どうりで、誰にも呪いが解けぬわけよな。

世界でたった単体への専用の呪い、

解けるわけが無い。解くにも他に情報が無い。

サンプルも無い。過去に例も無く調べようも無い。

結果的に破れる訳が無い]


「非効率であるが、確実ならば我はそれを選んだ。

 ただ相手が似たような手段で解除するならお手上げだ」


[それこそ、一生を棒に振るような生き方だの。

出来る事がたった一つ、

お主の呪いを専門に解除するなどと]


「そんな事をするよりは、

 呪いの主である我を倒すほうが早い。

 誰にでも出来る。勇者が居れば確実」


[その勇者はお主は幸運にも味方に引き入れた]


「成り行きであるよ。不幸と言うべきかもな?」


[文字が分からぬ、言葉の意味も分からぬ、

それがお主の必中の呪いの条件すら無視された、と]


「読めないとは思わないじゃない?

 だから嫌なの、言葉の意味を理解しない相手は。

 我的には、適度の言葉が分かっていて、

 なおかつ無知である事を知らない、

 認めようとしない相手は、呪いに最高の相性なのだ」


[つまるところ、王子は一切の呪いにはかかっておらん、か]


「痒みの呪いになったらどうなるかを知っていたからこそ、

 上手い事、騙せたのさ。

 いやはや、済まぬな、御子息を馬鹿にするようで」


[親としてはお主に怒りが沸くが、

しかし同時に情けなくなるわい。

あれ程までに短絡的になっておったとは…]


「あれもいわば、自身にかけてしまった呪いよな。

 下手すれば我の呪いなんぞ、

 受け付けないほどの強力な歪んだ呪いかもな」


[…私のせいだな。

王族の失墜をどうにも出来なかった私の]


「王もそうやって呪いをかけるな。

 なってしまった事に後悔を重ねても、

 不味い料理に塩をかける無為な行為と同等ぞ?」


[私も若き頃は王子のように、必死になったものじゃ。

貴族の都合や陰謀で死さえ操られた亡き父の無念を思えば…。

魔王と言う存在への対策にも躍起になった]


「王家そのものがまるで呪いみたいなものよな。

 魔王もまた似たもの。

 そうであれ、という世界の認識は…どうにもならぬ」


[共通する所があったか]


「ま、そちらには嬉しくない共通事項だろうよ。

 ま、我の得意分野の呪いは、世界の認識による呪いを、

 そのまま参考にしたまで。

 カラクリを見てみれば、大層なモノで無かろう?」


[…お主の事じゃ。どうせ全ては語っておらんだろうよ]


「おや、随分と良い評価で?」


[先生は、生徒は正しく評価する故に]


#これが読めるか勇者よ

{-承- 栞} pic.twitter.com/iIOn5N0seI


/お城…私達、王の城にいるのね…/


/死ぬまで縁の無い場所、だと思ってた…/


/でも、くらい、ね/


{■…■}


/あの…勇者様…/


/私達に…何か…/


/ゆーしゃ、さま…どうしたの/


{…■}


/…もしかして、その、失礼かも、ですが/


{?…}


/声を、出せない…のでしょうか?/


{…■■}


/…そうなのですか…/


{_■}


/…私達はこれからどうなるのでしょうか?/


{■…?}


/…声を出せないのですから、

答えようがありませんよね…失礼しました/


/おしゃべり、できない?/


{…■_}


/神殿もどうなったか…分からないし、

これから、私達、どうなるの…/


/あんな神殿、神のお怒りで滅びたのよ。

魔王でもきっと滅ぼすわ…!/


/あそこ、いや、かえらない/


/そうね。

もうあそこには行かないわ。大丈夫/


{…}


/その、お答えが無くてもいいのです。

聞いて頂きたいのです/


{?_?}


/勇者様は、魔王を倒すのですよね?/


{…■!}


/それは…世界の為ですか?/


{_■_}


/…魔王が倒された後、

世界は平和になるのでしょうか?/


{?■?}


/あ、その…い、いえ、忘れて下さいませ。

巫女と呼ばれていましたが、

所詮は戦災の孤児でしかありません。

奴隷として働いていた者が、

勇者様に失礼な問いかけをしました…/


{…■}


/聞いて下さり、

ありがとうございます…

その、勇者さま…/


{_!■!_}


/え…?/


/今、何と…?/


/…こえ、ほしい、の?/


{\!■!/}


/いい、よ、あげる、これしか、ないから/


/あなた!そんなダメよ!それは…/


/今のは勇者さま、

無知なる哀れな者の浅はかな言葉、

どうかお許しを…

この子の声は神殿で一番の美しき歌の声を持つ子、

この子の文字通りの財産であります!

どうか、御容赦を…/


{_■_…}


/どうか…どうか…/


{・…!}


/…あ、あの?/


{…・■}


/…虫を追いかけて…る?/


{…■_}


/まるで…何も知らない…子供…のよう…/


/本当に、勇者さま…なの?/


{_・■/□}


/もしかしたら、勇者さまって…

あんな鎧や兜に包まれているけど…/


/おこさま…わたしと…いっしょ?/


/だめ!勇者さまに聞こえたら…!/


{…□…}


<おお、愛しき姫、ボクの勇者!

すまないな、待たせた!…って、その手にいるのは…>


{□/■/}


<マオウバチ!?ナンデ!?ナンデ!?

持ってきたの!?コワイ!!ひぃぃ!?>


{/・_・/■}


<ひ、ひぃぃ!?向けないで!?

それだけは!!それだけは!!>


/あ、あの/


<!?お、おおお、おお、みみ、巫女達>


{/■}

<はははははは、は、じょじょじょ、

ジョークくくくだよよよよよ!

勇者とボクの挨拶みたいなもののののあああああ無理

マオウバチ無理だってばあああああ!?

勇者!?聞いてる!?頼むよ!!??

限界!!逃げるぅぅぅ!!!>


{___/■/}


/あ…追いかけていった…/


/勇者さま、本当に悪戯っ子みたい/


/…本当に、あれが、

恐ろしい力を持つ勇者…なの?/


/どうせもいいわ。

早く私達が救われるなら…!/


/ゆうしゃさま、ばいばーい/


/こんな世界、壊れてしまえばいいのに…/


/やめて。そんな事、言わないで…悲しくなるから/


/かなしいの?/


/ううん、大丈夫よ…ねぇ…お願い。

綺麗な声で歌ってくれる?/


#これが読めるか勇者よ -栞-2

{逃げる新王} pic.twitter.com/UFOS0hmcXa


「魔王、遅いね」


【先生とお話中なのかしら?

 まぁ、ゆっくり準備出来て良い事です】


「そうだね。

 あー、早くおかーさんのおかし食べたいなー」


【まだ待ちなさいな。皆と一緒の方が美味しいわ】


「美味しい、ってことは、

 皆で嬉しいってことだよね」


【ええ。同じもの皆で味わうのは大事なことよ】


《ぎゃーう》


「精霊獣もはやく食べたいよね。

 でも待たなきゃね」


《ぎゃう》


【さ、お茶も淹れたわ。

 それぞれの席に運んで頂戴ね】


「はーい!」


【熱いから気を付けてね?】


「大丈夫大丈夫!」


【油断はしちゃダメ。

 大丈夫と思った時こそ一番注意しなきゃ】


「わかった!」


《ぎゃうぎゃう~》


「これは、おかーさん、

 これは、せんせい、

 これは魔王、これは…あっ」


《ぎゃぅ!》


【勇者!?】


「…手にこぼしちゃった。

 ごめんなさい、おかーさん」


【そんなことはいいの!

 大丈夫!?早く冷やさないと…】


「大丈夫だよ、痛くないよ?」


《ぎゃぅ!?》


【いいえ、火傷してるわ。

 腕を出して!】


「こんな火傷で…」


【いいから!私の中に入れなさい!】


「あ、うん…」


【…いいこと?

 痛みに慣れても、体が大丈夫とはいかないの。

 いくら勇者でも、他の命と同じ。

 体を、命を大事にして?】


「…ごめんなさい」


《ぎゃぅ》


【…思った以上には深くはないようね。

 私の一部を暫く巻いておくわ】


「いいの?」


【ええ。これくらいは大丈夫。

 いい?大事にしてね?

 あなたを大事にしたいと思っている皆がいるの。

 だからお願いね、体を本当に大事にして。

 約束よ?】


「う、うん!」


【じゃぁ、もう治療は御終い。

 さ、零したお茶の分を淹れなおしましょう】


「わかった!今度は俺が淹れたい!

 いいよね?」


【ちゃんと気を付けるならね?】


「はーい!」


《ぎゃうぎゃぅ》


「精霊獣は席で待っててね。

 今度は大丈夫だから!」


《ぎゃぉ!》


【では、まずはお湯を沸かすところからやりましょう。

 まだ魔王様と先生様は来ないようだし。

 慌てず、ゆっくりと…覚えてね?】


「うん!覚えるよ!楽しいもん!」


「おーす、お、我好みの、善き香りがするな。

 これは拠点さん特製のお茶であるな、うむ」


[いやいや、話し込んでしもうたわい。

ほほう、これは確かに善き香り]


「あ、魔王に先生!遅いよー!」


《ぎゃぉ!》


【もう、お茶が冷めてしまいますわ。

 さ、皆様、席に座って。

 勇者の分も淹れ終わった所ですわ】


「頭を使った後は、拠点さん特製茶に焼き菓子!

 うむ、我、満足である」


「あ、先に食べるのズルイ!

 俺も食べるんだから!」


「早い者勝ちであるよ!弱肉強食!」


「なにそれ!わかんない!」


[ほっほっ、まるで子供同士のやりとりじゃのう]


【ほらほら、お二人とも。

 お茶の席ではしたないですわよ?】


「うむ、我としては、

 やはり甘い焼き菓子は薄く素朴なのが一番よ。

 甘さの無い茶によく合う!」


「えー、

 俺はこのツブツブな硬いヤツがあるのがいい」


[ふむ、噛み心地が良いのであろう。

歯応えは美味さを倍増させると聞く]


【勇者はナッツなど歯応えがるものが好きなのね。

 また作るわね】


「やった!」


[さて…二人とも、次の授業じゃが]


「うげ、もう授業再開か?」


「何やるの、せんせい?」


[驚くほどの早さで文字も覚え、

言葉の意味も必要最低限で勇者もクリアー出来ておる。

次はようやく計算じゃ。

平行してお金の意味と、その使い方も学んでもらう]


「ふむ、ようやく数学分野か。また我は自習かな」


[魔王は勇者の補佐じゃ。

数学とはいえ、文の意味を理解せねば、

数字の仕組みを学ぶ事は不可能じゃ。

これだけはしっかり教えておきたい]


「ふむ、学友の為なら致し方あるまい。

 我に任せろ、勇者?」


「うん、俺も助かる!

 数を数えるの、難しいから…」


「手の指の数以上は数えられない?」


「う、うん」


「うーむ。

 しばらくは、指の数だけにとどめておくか…

 いや、いかん。だとすれば…これか?」


【それは?】


「宝石。まぁ、呪い強化用の余り物だが。

 そこそこ小さいのと大きいのがある。

 小さいのは1の桁、

 大きいのは次の10の桁用として用いてみろ」


[見た目で理解と。悪くない]


「これで数えるの?」


「両手の指の数はわかるな?」


「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10…

 だったよね?」


「そうだ。では、同じ数だけ、

 小さい石を前に置いてみろ」


「えっと…うん…うん…

 これで同じ?」


「そうだな。

 では、その10の石をこっちの大きい1に交換する」


「1個になっちゃうよ?」


「これは1個で10の意味となる」


「これで10?」


「そうだ。

 では、ここからが本題だ。先生どの?」


[ふむ。説明感謝する。

では、今の方法を用いて、

今度は20となるように石を揃えてみなさい、勇者]


「えっと…」


「まずは先程の方法で10を作ってみるのだ、勇者」


「う、うん。えっと、これで…10」


[20にするには?]


「えっと、ね…」


「もう一つ、10を作ってみよ」


「うん、なら簡単」


「さぁ、目の前にいくつある?」


「10が2つ?」


「それを合わせると20となる」


[そして大きい石に変化させると?]


「大きい石が…2つ?」


「その通り!」


「これが、20…かぁ」


《ぎゃお》


[では、これに大きい石1つ、

加えるとどうかな?]


「20に…?」


「20に10を加えると?」


「10が3つ…」


[それを30と言う]


「30…うん、分かった!」


「ならば、30に大きい石1つ更に加えてみると?」


「30に10を加える…

 から、10が4個だから、

 40…かな?」


[ふむ、そうじゃの。

その通りじゃ。拠点さんや、ちと両手を]


【あ、はい、これでよろしいでしょうか?】


[私と、勇者と、拠点さんと、魔王の手の数、

これ全部で40じゃな]


「あ、本当だ!

 10の指が4人だから…40!」


[そうじゃ、その通り。理解が早くなってきたの]


「えへへ」


《ぎゃおー…》


[あ、すまぬ。精霊獣。お主の指の数はいくつかの?]


《ぎゃお!》


「ふむ、我らと同じく、左右で10よな、つまり?」


「10が5だから50!」


[御名答。

とりあえず、これで後は分かってくるじゃろう。

さすが、学びに一生懸命じゃて。良い子だの]


「やったー!ほめられた!」


「ま、これはあくまで序の口。

 ここからどんどん進めていくぞ、勇者よ」


「うん!もう俺、いっぱいとかたくさんとか、

 そうじゃなくて数で言うよ!」


「うむ。数を言えるのは便利だぞ?

 知っているだけで使える金のかからぬ便利は、

 いずれ尽きる財宝よりも価値は高い」


【魔王様の財宝はすっからかんですが】


「そう言う事、言わないで…

 思い出しちゃったジャン…

 今月、諸々リソース赤字ぃ」


「大丈夫?数数える?」


「余計に心がしんどくなるから…!」


[う、うむ…

赤字を数えるのは…やめておこう、な!]


「王も辛いよな…」


[…丸投げしたくなるよの]


【王共通の頭痛い問題で…】


「大変だね、魔王もおうさまも」


《ぎゃおー》


[…まぁ、とりあえず数の講義は続けよう。

魔王は少し心の傷を癒すがよい]


「先生…

 我、その優しさに、ちょっと泣いてくる」


#これが読めるか勇者よ -栞-3 pic.twitter.com/17y9ZkJ9Ed


【…分析終了】


「で、どうだ?我の予想していた結果か?」


【勇者の血は、別の何かの血が混ざっています】


「…その血から、仮構築は可能か?」


【それに関しては出来ますが、

 実行はしたくはないのが本音です】


「死者を冒涜するからか?」


【然り】


「大地の女神、

 大陸母王、

 世界始祖竜の意地か?」


【…ええ】


「その血は、勇者の血と共に流れている。

 なれば、生きている、と扱えるのでは?」


【その定義で私が意地を覆すと?】


「…勇者の中に別の誰かの血があると言う事は、

 勇者が命の危機となるほど血が必要となり、

 それを助けたいと思い血を与えた者がいた」


【しかし】


「聞け。

 続きがある」


【はい…】


「その者の行為で勇者は生き長らえた。

 そして、血を与える事で生き長らえると、

 そういう知識を持つ者であったとすると…

 そう、医者、専門家の類で…

 勇者の体を知っている者と予想する」


【ですが】


「勇者を愛おしいと思っておるのだろう?

 拠点統率サーバントとして!

 あの勇者を!子の様に!」


【ッ…】


「あえて言う。

 僅かでも救える可能性があるならば。

 愛情を一度でも抱いたのであれば!

 始祖の一部である貴女が!

 始祖の意地に縛られるのは理解する!

 が、今の貴女は!拠点統率サーバント!

 勇者を愛する母でしかない!」


【詭弁です】


「我からも勇者の命が少しでも…

 永らえるのであれば…こう」


【…あ…頭を…お上げ…下さい!

 魔王とあろうものが…そんな姿を!】


「拒否する。我の意地だ。

 一度差し出した首、

 落とされるか、望みの言葉を聞くか。

 あとは貴女に委ねる!」


【私は…!

 全ての命の死…その尊厳を…護るもの…

 冒涜するもの、例外なく…】


「拠点さんなら一撃で落としてくれるな?」


【…また…ッ!

 そう言う事を…それこそ、

 侮辱として…その報いを…!】


「我の首を落としたら、即刻、勇者を連れて、

 勇者と魔王の話など知らぬ僻地にでも辺境でも行くが良い!

 時短き宿命だろうが、親子水入らずで朽ち果てるが良いさ!

 怒りを我に!罪に罰、我の首を持っていけ!

 創世の欠片よ!」


【!】


「…どうした、首はここだぞ?」


【まだその首は…落としません。

 落とせません…落とせるわけが無いでしょう!

 首を落として、あの子にどんな顔をすればいいのです!?

 勇者に、勇者の為に、命の為に!

 それで首を落とされたなんて…言える訳が!

 あの子と共に生きる事が…出来るはずないでしょう…!】


「我、首はまだ繋がってよし…と。

 いずれ、全てが終わったとき、

 貴女への侮辱に対する裁きの為に残しておこう」


【不要で御座います】


「すまない、とは言わぬ。

 我こそは魔王なれば、方法は如何なる手段を以ってしても、

 迷いなく行使し、そして結果を得る」


【…分かりました。それが、勇者の為に…】


「では、勇者を呼び、万全の支度の後、開始せよ」


【はい】


「精霊獣!」


《ぎゃお!》


「万が一に備えて我と共に儀式に出よ。

 吉と出るか凶と出るか、今は計りかねる故!」


《ぎゃお》


「成功するか失敗するかは、その時に考えよう。

 狙い通りであれば…良いのだがな」


《ぎゃお》


「否!成功させる!」


「…どうしたの?」


【勇者、これからあなたの体を調べます。

 命を繋ぐために】


「…痛い?」


【ええ。おそらく。嫌なら…】


「やるよ。大丈夫」


【…疑わないの?】


「今までみんな、俺に、何かをする時、黙ってた。

 何も言わないし、何を聞いても答えが無かった。

 でも、一人、いたけど…だから、うん」


【万が一、失敗したら…死ぬかもしれないわ。

 それでも、いいの?】


「いいよ。

 他の誰かの為じゃなくて、

 俺の為に、やるんでしょ?」


【そうよ。でも、苦痛は伴うわ。

 正直、私は…怖い。

 もしかしたら、あなたを…

 早く死なせてしまうのではないか…と】


「でも、おかーさんがいるんでしょ?」


【ええ、いるわ】


「魔王は?」


【いるわ】


「精霊獣も?」


【ええ。何かあった時に備えてくれるわ】


「せんせいは…いないほうがいいかな?」


【そうね。外で待っていてもらうわ】


「…俺、少しでもいい。

 ちょっとでもいい。みんなと一緒にいたい」


【ええ、私もよ】


「その為にやってくれるなら、

 がんばるよ、俺」


【ほんと、いい子…

 ありがとう、優しくて…

 私と会ってくれて、愛しき私の子】


「うん。

 みんなと、生きたいから、心配しないで。

 俺、勇者だもん、丈夫だから」


【ほんと、ほんとうに…ごめんね…】


「泣かないで、おかーさん。

 俺は、乗り越えるよ。

 皆、いるから、心強いよ。

 一人じゃない、五人いる」


【魔王様】


「うむ…勇者よ、すまないな。

 今からお前に仕掛けられた余計な物をぶっこ抜く。

 同時にお前の血に流れている誰かの記憶を引きずり出す。

 そしてお前を助ける方法を見つけ出す。

 その間、お前の全ては危険なものになる」


「いいさ、魔王。俺の為にやってくれるんでしょ?」


「ああ、そうだな」


《ぎゃお》


「万が一、仕掛けで危険が発生した時は精霊獣が対応する。

 その間の生命維持はお前を最初治療した時のように、

 拠点統率サーバントが行う。

 ただし、今回は前回とは違って、

 死ぬか生きるか、どっちかしかない。

 むしろ、死ぬ方が大きい」


「それでもいい」


「…一応、我は魔王ぞ?いいのか?」


「いいや、魔王は今は魔王では無いし、ただの俺の学友だ。

 そんなヤツが、俺を簡単に死なせるって思わないよ」


「…ふ、そうだったな。

 お前には勇者を一時辞めろって言ったのは我だったな。

 そして我自身も魔王を辞めて…我こそ覚悟を決めよう。

 勇者、覚悟は良いか!?」


「うん、!頼むよ、俺の…」


【眠りなさい、私の上にある命よ。

 等しくも愛しき命の一つよ。

 私の揺り篭にて、ひと時の幸福を。

 新たなる転生の為に…】


「ぉ…や…すみ…」


「…勇者の体に定期的に生命賦活付与状態に。

 生命活動を可能な限り低速に。

 流動する金属を代用血液に一次変換し、

 必要な血液と交換…開始!」


【了解です】


《ぎゃぉ…》


「勇者としての呪縛を物理的に断ち切ってやる…

 その為に、我は世界の天秤を憎み、

 そして消滅を願って、最弱魔王として、ここまで生きてきた。

 歴代の魔王、歴代の勇者という、

 この世界のバランスを破壊する…!」


【…目的の血液に接触、分離。

 これより情報を取得、仮初の体を構築します】


「さぁ、来い…望みであれ、我は願うぞ。

 こういう時にこそ、神よ、汝に助力を願おう!

 そして神の太っ腹さを魅せて見ろ!

 我は呪いを授ける、血の主よ、今一度世界に復元せよ!

 汝はまだ生きる者なり!」


【目的の血液、反応、仮初の体と融合開始…

 ただし、血はあまり多くありません。維持は10分が限界】


「体にあるのはそれで全てか?」


【勇者の生命維持に最低限残す血液にまだ含まれていますが…

 これ以上は不可能です】


「後少し…あと僅かで良い!

 捻出は出来ないか。10分では時間が足りない!」


【勇者自身の血だけでは生命維持が困難。

 私の代用血液では完全な生命維持には不可能…!】


「なれば…」


《ぎゃお!》


「精霊獣、お前はダメだ。

 勇者に何かあった時の抑えがお前だ。

 僅かな消耗も許されない。故に、故に!」


【まさか】


「まさかだよ。我の血を使えるか?」


【…少し分析の時間を!】


「許す!勇者の体に適合すれば存分に使え!」


【…私の代用血液と混合させてみます。反応…これは…】


「いけるか?」


【…ダメです。完全には合いません。拒絶の可能性大】


「…くそっ!」


【無理です…これでは】


「勇者に血を与えた者は、死ぬ覚悟で分け与えた…!

 それほど、勇者の血は失われていた…のか」


【10分で…

 10分で終わらせるしかありません】


「無理だっ…!」


[すまぬ…入るぞ]


【王…!】


[魔王の血では駄目であれば…。

この、私の血ではどうだ?]


「王よ…いいのか?」


[私がここに来た運命は、恐らく…

こういう時の為であったのかも知れぬ]


「だが、使える保証は無いぞ?」


[試さねば分かるまい。

時間が惜しいのであろう。

さ、今すぐ、使え。

老体の血ではあるが…万が一に賭けたい。

勇者を…今度は私が助けるのじゃ]


【王…】


[勇者はこの私の傷を心配し、

治療まで行おうとしてくれた。

あれは私への罰であったと思っておったが…。

あの、勇者の純粋な願いは罰では無い。

あれは私が恩を受けたのだ。

だからこそ、今こそ、恩を返すべき時…!

時間が無い、血を存分に抜け!]


「死んでも文句は言うなよ?」


[言うものかよ]


【なれば…失礼】


[ぐむっ…!

私の血で助かるならば…勇者…

いや今は一人の教え子!

それを救わずして何が…教師じゃ!]


「適合しそうか?」


【…お待ちを…】


[ぐ…遠慮するな。

老い先短い老人、血を抜かれて死んでも、

私は善き死を迎えられたと、

か…神に会った時に笑って言い放って…やるわい!]


【…適合!】


「王よ!汝の運命は今!

この時の為であったと思うぞ!頼む!」


[ 心 得 た ッ ! ! ! ]


【開始します…気を失うかもしれませんが…御容赦を】


[構わぬ…神よ!

私の命尽きるまで、どうか意地を支える為の加護を!

助力を!]


「生きろよ!王!

 勇者が生きる意味の為にな!」


【王の血液と代用血液を融合…

 充分な生命維持の量…これなら】


「では…仮初の再生を開始する!」


【仮初の体を構築…意識の器を構築…

 簡易骨格、血管、筋肉…

 構築完了…血に残る自我を刺激…】


「勇者の血に残る自我よ、

 意志を持ちうるなら我が問いに答えよ!

 汝は我が呪いにて世界に今、戻る…!」


【完全構築、自我…反応…!】


「我は問う!我が声を聞け!

 我が望みを知れ!汝は何者か!

 汝は勇者を知る者か!」


>…■■…<


[…その…姿…もしや…

いや、そうであったか…そうでろう…

唯一の…勇者の味方であった…納得じゃ…]


【覚醒します、お気を付けを!】


「汝、勇者に仕掛けられた全てを排除出来るか!否か!?」


#これが読めるか勇者よ


{-承- 終了、転へと続く}

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#これが読めるか勇者よ(これよめ/よめゆう) うゆま@豆腐卿 @uyuma

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