#これが読めるか勇者よ -起-

#これが読めるか勇者よ -起承転結編-

登場人物


「魔王」


クッソ最弱

条件付呪い必中一点特化型

ズル賢さで生き抜く


「勇者」


無知無教養文盲

戦闘能力強制的に付与

結果、寿命は短いと思われる


【拠点統率サーバント】


世界創世の偉大なる存在と連なる

ただし今は勇者可愛い


《精霊獣》


もふもふ、時々、翼ある巨大化


[王]


勇者計画承認の加害者で被害者

そして連れ去られ魔王と勇者の先生に


<王子(新王)>


ねじくれた何かを抱えるカリスマ

巨大な蜂マオウバチが大嫌い


{姫勇者}


黒い仮面で顔を隠している

勇者を上回る戦闘能力特化型のヤバイやつ


>勇者研究主任<


勇者の関係者?故人?


[貴族]


王家軽視していた奴等はおおむね死んだ

ほんとよく死ぬごめん


[臣下]


新王体制で抜擢された人々が多い


[国民]


魔王倒せば何かがよくなると思っている


|神殿長|


宗教は富だと思ってる

神?あ、そ?程度


/巫女達/


神殿に保護されている元貧民


///////////////////////////////////////////////

-起-


{...開始しますか?}


1


「ゆ…勇者…生きてるか?」


「ま、魔王こそ…大丈夫…?」


「わ、我…甘く見てたわ…

 これほどとは…」


「俺も…こんなに…

 すごい…なんて…」


【お二人…!】


《ぎゃっ、ぎゃおお!?》


「…ふ、これほど…

 凄まじいものであったか…!

 我、油断…!」


「勇者の力も…

 役に立たないなんて…!くそっ…」


2


[ふむ…この程度で音をあげるか?

 仮にも勇者、魔王であろう者が…]*


【こ、これ以上は…もう!】


[ダメじゃ。

 これは最早、一度決めた事…!

 覆す事は…私が許さぬ]*


「ふっ…

 我は最大の誤算をしていたようだ…

 聊か、軽く考えていた…甘かっ…ガクリ」*


「魔王!おぃ、返事をしろ!」


[限界に尽きたか…

さて、勇者よ…如何する?]*


3


「こ…ここで…

 止まったら…俺は…!」


【もうやめて!よくやったわ!もういいの!】


《ぎゃおぎゃお!》


「おかあさん…精霊獣…」


[魔王も力尽きた。

勇者ももはや虫の息。引き際を学ぶ頃合かの?]


「ひ…きぎわ?」

【物事をやめる事、それを決断する時…。

 もういいの、引き際よ、勇者…見てられない】*


4


[…ふむ。ではこれで、終わり、じゃ。

よくここまでやった。

後はゆっくり眠るがよい]


「く、くそ…アフン」


【勇者!よくやったわ…あなたはほんと…!】


《ぎゃおー!》


[…ところで私は…。

何か黒幕のような雰囲気…?

に、されとるような気がするんじゃが?]*


【つ、つい…あまりにも、その…】


《ぎゃお》


5


[基本的な神造語と尊民語の単語書き取り。

それを100回をやっただけなんじゃが…]*


【いきなりハードすぎます!

 神造語だけなら兎も角…!

 尊民語は流石に数が多すぎます!】*


[いやしかしの…これを覚えてもらわん事にはの。

勇者の勉強がままならぬ。

本来であれば、計算の基礎として…。

うむ、数文字も加えたい所なんじゃが?]*


【鬼…!】


6


《ぎゃ、ぎゃおぉ…!》


【ほら!

 精霊獣もあまりの多さに目を回しております!

 もう少しレベルを下げては頂けませんか?】


[すまんが…勇者の命を考えて、ギリギリの計算なんじゃ]


【でも…これで勉強が嫌いになったら元も子も…!】


[私はこの程度での。

勇者が願い諦めるとは思ってはおらんよ]*


【!】


7


[詰め込む前提にはなっておるのは悪手と理解はしておる。

勇者だけ単独ならば、諦めも生まれるじゃろうが…。

学友たる魔王がおる。

同じ事を為す者がいるといないとでは大きな違いじゃ]*


【それはそうですが…】


[安心せい。

本当は既に今日の授業分は終わっておるのじゃ]


【え、え…!?では、まさか…!】


8


[恐ろしいほどの貪欲さよ。

勇者に芽生えてきた知的探究と好奇心は。

魔王がそれを刺激し続けるから尚更じゃ。

今日だけで明後日の分までほぼ終わってしもうたわ]*


【なんてこと…!】


[むしろ私が音をあげたかったくらいじゃよ…。

じゃがしかし、の。

学生を前に先生がそんな姿を見せるのだけは…。

しとうはない]*


9


《ぎゃおっ》


[ふぅ、すまぬの、精霊獣どの。

流石に疲れてしまったわい。

じゃが、ここまで貪欲に求められると、な。

応えてあげたくなるのぅ]*


【そうでしたか…。

 お疲れ様でした、先生様…。

 そして、ありがとうございます】


[礼には及ばぬよ。

私の勝手な罪滅ぼしじゃ。

魔王に請われたのもあるが…ふむ、意地かもな]


10


【意地…】


[王から矮小なる老い耄れになった…。

それの、ごくごく小さなものじゃよ]*


【…その意地こそが。

 今を生きる者達の武器。

 そして命の理由ですわ】


[あなたさまに言われると…。

一度死んで生き返ったような。

そんな、ありがたい気分になりますよの…]*


【おやめ下さいな。

 あくまで、大地の一つの形に過ぎませんわ】


11


[では、そう言う事にしておきましょう。

さて、拠点統率サーバントさん。

この学生たちの介抱をお願い出来るかの?]*


【ええ、承りましたわ。

 先生もゆっくり休息を。

 飲み物をお持ちいたしますわ】


《ぎゃおーぎゃおー》


[ほ、精霊獣、私に乗れと?]


《ぎゃお!》


【ふんわりしてもこもこ、休めますわよ】


12


[いやはや…長生きはしてみるものじゃ。

伝説的な存在に、こうして…。

触れる事が出来る日が来るとはの…。

どっこいしょ…っと]*


《ぎゃおん》


[すこし居眠り出来そうじゃ。

お言葉に甘えるとしよう…ふぅ]


【では私は、勇者と魔王様を一度休ませてきます。では】


《ぎゃおー》


[…ふわぁ…ではしばらく…ぐぅ]


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13


|これはこれは、新王様。

 就任おめでとう御座います。

 我が神殿の者達も新王様のご到着…。

 首を長くして御待ちしておりました…|*


<なんとも嬉しい事だ。

我が国も、この神殿の様々な神の慈愛…。

それを説いて頂けて、民ともども心が安らかになる…>*


|ほっ。

ところで…お顔の方、聊か腫れておりますが…|*


<しょ、少々、虫の毒に…な>


14


|なんと、それはご災難でありましたな…

神殿に奉納されております世界樹の水の一滴。

それで治りましょう。持って来させます|*


<いやはや、心遣い感謝する。

これには神の愛に対する感謝を示さねば。

敬虔な信心を長々と述べたい所だが、時間が惜しい。

今回は金色の財を言葉の代わりに奉納したい>


|ほっ!|


15


<何、これから頼りたい事が多々ある故。

これくらいはしないとな>


|いやはやいやはや、勿体無い勿体無い。

ですが受け取らぬのも神への感謝を断るようで。

うむ、いけませんなぁ。ありがたく頂戴致しましょう|*


<ふむ。さて、早速本題に入らせて頂きたいのだが…>


|いやいや、新王様、少し一息入れなさいませ|


16


<…ほう?>


|神の寵愛を受けた麗しき巫女達がもうすぐやって来ます故!

世界樹の一滴も一緒に持ってこさせます。

それまで、ひとつ神の果実の雫…。

いかがで御座いましょうや?|*


<いや、酒は不要。酔っては大事な話も出来なくなる>


|これはまたお堅い。

ですが、流石は新王様。これからの政も安泰でしょう!|*


17


<世辞は良い。

未だ何一つ為してはおらぬ若輩故に、な>


|いえいえ。

今後の為にも、磐石なる体制の為にも!

是非とも神殿も協力を申し出をしたく…。

ですが、お願いも御座いまして…|*


<言ってみよ>


|粛清された大貴族の土地を幾つか。

神殿の領地に致したく|*


<ほぉう?>


|あれらは善き信徒ではありましたが…。

ええ、敬虔では御座いませんでした|*


18


<神殿の土地を不当に切り取った、とかかな?>


|御理解が早い。

困った時は神の愛を訴えるのは致し方ありません。

しかし、利益や都合が悪ければ理由を付けて。

そう、不当に領地を奪い続けて来ました|*


<先王の不甲斐なさ、耳が痛い>


|ええ、まぁ。

優しさ故の優柔不断さが…そう。

大貴族の傲慢さを増長させておりました|*


19


<我が父ながら、やはり王たる器には足りぬ者であったよ。

神への敬虔さ、信心深さは…そう。

歴代の王の中でももっとも純真ではあった…。

王で無ければ聖者であったが>*


|卑劣なる魔王に攫われ行方知れずとか。

神の敬虔な信徒を奪うとは!

なんと魔王は神に弓引く存在か…|*


<ああ。だが私は違う。

安心して欲しい>


20


|ええ!ええ!新王様には期待はそれはもう!

神殿の者達も強く支持すべしと|


<持ち上げられても困るが、素直に受け取ろう。

で、領土の話だが…まぁ、一度接収した土地を調査させる。

過去の状況と照らし合わせ、正統な分、王家の名に誓って返還しよう>


|ほっ!それはもう願ってもないこと!

ありがたや!|


21


<…チッ>


|!?なっ、な、なな、何か?|


<いや、少し個人的に思い出してしまっただけの事。

申し訳無い、不快にさせて>


|ほっ、それはそれは…|


/し、失礼致します/


/失礼…致します/


/し、つ…礼致しま、す/


|おお、巫女達、遅かったでは無いか。

早く来いと申しただろうに!|


/も、申し訳御座いません/


22


/せ、世界樹の一滴を、新王様に…/


/ど、どうぞ、お納めを…/


|ええい、違う違う!

新王様のお顔に!

直につけるのです!ほれ、近く寄りなさい!|


<いや、私が…>


|まぁまぁ、巫女達も久しぶりの尊き方々との謁見。

緊張しておりますが、どうかお許しを。

神の寵愛を受けし清き身で、慈愛を新王様に…!|*


23


/は、はい…失礼…致します…御尊顔を…/*


/ど、どうか、どうかそのまま…/


/さ、さぁ、これが我等の神の慈愛…/


<よいのだ。

私がやるから、無理に近付かなくても>


/お、お願いします!

是非に、どうか断らず…神の…/


/そのまま、どうか…!/


/神の慈愛を受け入れて…/


|ほほっ、遠慮なさらず、さぁさぁ!|


24


<…メロ>


/ヒッ!?/


/…あ、ああ…/


/きゃぁぁ!?/


|…は?|


<やめろ…穢れた…者共が…!

清らかなボクに…!触るな…!>*


|な、何か、巫女達がお気に障る様な失礼を…?|


<一番失礼なのは貴様だ、神殿長…>


|は?はいぃぃぃ?!|


<我慢しておれば甘く見おって…!

最初から制圧するべきであった!

勇者!制圧せよ!>*


/きゃぁぁあ!!/


25


{■!■}


|な、何者っ!?誰か!狼藉者が!|


<誰も来んよ…勇者、邪悪なる魔王の手先がいた。やれ>


/お、お助けを…どうか…!/


/死にたくない…やだぁ…ママ、パパ、怖いよ…/


/ごめんなさい!かみさま!ごめんなさい!/


|気、気でも狂われたか!?

神のお膝元であられるぞ!?玉座ですぞ!?

こんな騒動を起こして…|*


26


<仮にもその神の膝元を!

王家から永く託されて!

この腐敗、堕落…魔王よりも酷い臭いだ!

マオウバチも嫌いだが!

僕が同じくらいに嫌いな環境だ!

ああ、我慢したら死にそうだ!>*


/いやっ!やだ!殺さないで!/


/お願い!私達は長に無理矢理…!/


/怖いよぉ…うえええ…/


|巫女達!余計な事を!黙れ!|


27


<貴様が黙れ。国の面汚しが。勇者、殺せ>


{♪}


|巫女ども!盾になれ!|


/ひっ!?/


/やだぁ!/


/死にたくない…!/


{!!!!■!!!!}


|あ…は、へ?なん、で、わた、し、だ…け|


/キャァァァァァッ!!??/


/し、死んでる…!/


/たすけて!だれか!かみさま!たすけて!/


{…?■?…}


/ひっ…!/


28


<勇者、その者達は殺すな。貴重な民だ>


{!■!}


/た、助かった…?/


/あ、あああ、あはは…はは…/


/うぁ…ああ…ぁぁ…血…やだ…!

こんなやつ…の…汚い…/*


<この神殿は、魔王が襲ったという形にしよう。

そこを惜しくも間に合わなかった。

という筋書きに変更だ。

ああ、最初からこうすれば良かった!>*


29


{・・・}


<ああ、ごめんよ、汚い血がついてしまったね。

帰ったら綺麗にしてあげるよ…。

ああ、そうだ、巫女達よ>*


/は、はひっ/


<世界樹の一滴、渡してもらえるかな?>


/は、はひ、これで、しゅ/


<…本当に僅かな一滴か…。

あははは、いやはや、これは本当に面白い…!

こんなもので治るのかね?>


/は、はい/


30


<ふん、どうせ名ばかりの品であろうよ。

どこぞのバカ貴族が、騙されたものだろう。

名ばかりの汚れた取引の代金程度の…>*


/わ、わたしたちは…。

おたすけ、くださいますか…?/*


<ああ、貴重な我が国の民。

王である私の大事なモノだ。

モノである限り絶対に守ってやろう。

とりあえず…ここは魔王に襲われた。

そう言う事だ…。いや、そうだな?>*


31


/は、はい!

汚れた魔王の手先が神殿を襲い!

それを王様と勇者様が助けてくれた!

そうよね!?みんな!?/*


/う、うん!うん!

魔王がやったの!

でも助かったの!そうよ!/


/あはは…!

そう、ゆうしゃさま!

たすけて、くれた…はは…あはは…/*


<良い子達だ…。

さぁ、勇者、残った悪しき者どもを討伐せよ。

残らずな?>


32


{!!!■*■!!!}


<ああ、本当にキミは素直で素敵だ。

神殿を救えなかったのが本当に心残りだ。

魔王め、許さん!>


/え、ええ、ま、魔王を!

どうか倒してくださいませ!/


<勿論だとも。さぁ立ってくれ?

私の城で保護しよう。

神に寵愛受けし巫女達、君等は特別に扱おう>


/ここから…出られる/


/ああ…/


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33


「ガバァ!

ぐぬぬ…王め、侮っていたわ!」*


「あ、魔王起きた?」


「…いやー。

 我、基礎勉強不足を痛感したわー…。

 あと体力不足」*


「俺は体力ならあると思ってたのだけど…」


「はは!

 おお、勇者のくせに倒れるとは何事だ、な」


「魔王のくせに倒れるなんてザコだ、な」


「…我、ザコじゃないもん。シクシク」


34


【お目覚めになられましたか?】


「お、迷惑かけたな。

 いやはや、学びも戦いと同じくらい大変だな」


「おかーさん、お腹空いたー」


【ふふ、全く。

 頑張りすぎても身につかなければ意味はありません。

 さ、食事にしましょう。甘い物ですが】*


「やったー!」


「ふぅ、頭を使った後は甘いものに限る」


35


【貪欲に学ぼうという姿勢。

 それは、良い事なのですが…。

 無理に繋がっては水の泡です。

 お体を大事にして下さいね?】*


「はーい!」


「むう、不覚。

 文字とか呪いには必須だから…。

 と、基礎から学び直そうとする。

 で、完全にマスターしたくなるのよな」*


【魔王様はできれば…。

 勇者のサポートをして頂ければと思いますのに…】


36


「ふふん。

 我はあくまで我は勇者と同じ学生である!

 そして教師は王である!

 よって勇者と同じ目線、同じ位置で!

 同じように学ぶのが我の役目よ」*


【まぁ、それはそうですが…】


「大丈夫だよ、おかーさん。

 大変だけど、学ぶのは嫌いじゃないし。

 すっごくワクワクしてるから。

 ダメだったらちゃんと聞くよ?」*


「だ、そうだ」


37


【…ちゃんと、学びを楽しめているなら。

 私からはもうこれ以上は何も言う事は御座いません】*


「ふ、あの分量は教師側も驚いたであろうよ。

 そこら普通の戦いなど比べものにならんほど!

 なんとも激しい授業であった…」*


「うん。じっとしているのに、ね。

 大きい怪物と戦う以上に疲れた…」*


【比べる対象が少し…ちょっと】*


38


「まぁ、文字を学ぶ事で明日からは…。

 そう、勇者の勉学も捗る事となるであろう!」*


「はかどる?」


【物事が何事もなく良く進んでいる。

 うまくいっている、という意味です。

 勇者の勉強はうまくいっているのですよ】*


「そっか、俺の勉強、えっと…。

 はかどっているんだね!」


「そうそう!捗るは気持ちがいい!

 楽しい!嬉しい!だ」*


39


「よーし、これでガンガン覚えて!

 魔王が読ませようとしたあの文字を!

 絶対に読んでやる!」*


「ふふん、そう上手くいくかなぁ?

 ま、意味も理解できねば、折角の学びも意味は半減。

 しっかりと学べよ勇者?」*


「魔王こそ、途中で眠そうにしないでね?」


【ええ、確かに】


「ぐぬぅ。バレてたか…眠くて眠くて…我」


40


【毎日、睡眠時間が不定すぎるからです。

 これからはちゃんと決まった時間に寝るように。

 ええ、そう致しましょう】*


「うげっ、それはちっと我的に…」


「魔王、おかーさんを困らせちゃダメだよ。

 魔王の事を考えてくれているんだよ?」


「ぐぬ、ぬ」


【規則正しい生活あっての勉学。

 勇者の学友を名乗るなら是非に】


41


「あー、何でこんな事に…」


【魔王様が提案した事でしょう?

 最後まで責任持ってくださいませ】


「せきにん?」


【やらねばならない事、ちゃんとやるべき事。

 この場合は魔王様が自身で決めた事、約束事。

 それを最後までちゃんとやってもらうこと…。

 それが責任、でしょうか】*


「ぐっ、勇者に解説ありがとう御座います。

 はーい、分かりましたーよー寝ますー」*


42


「じゃ、じゃあ」*


「何だ?勇者?」*


「えっと、魔王、責任とって、ね?」


「 」


【 】


「…?あれ、今の変?」


「その使い方は…ダメだな…。

 我的に、一瞬、マヒする所だった…。

 ねぇ、拠点統率サーバントさ…」*


【 】


「おかーさん?」


【 】


「て、停止しておる…!?

 我、こんなの初めて見た…!?

 って、おーい!起きてー!?

 しっかりー!?」*


//////////////////////////////////////////////


43


[…ふむ。

心地よすぎて、それなりに寝てしもうたか]*


《ぎゃーう》


[精霊獣どの、善き時を感謝する。

今まで経験した事の無いほどに、もふもふ、であったよ]


《ぎゃうん!》


[さてと、生徒達は復活しおったかの。

明日は少しペースを抑えての授業にせねば。

私の方が先に倒れては示しがつかぬ]


《ぎゃぅ》


44


精霊獣どの、明日も疲れたら頼み申しますぞ]


《ぎゃうぎゃう!》


[ありがたい。

では、身支度を整えなおして…おや?]


《…ぎゃう?》


[あの山の向う…あれは…火か?

かなり遠くでも見える…大規模の火災か?]


《ぎゃお!》


[…あれほど燃えるのは…

どこぞの規模ある場所…山…もしや…]


《ぎゃう!》


45


[その前にじゃ!気付かなかったわい…!

ここと城が近いとは…!

魔王の城と言うから、もっと奥地だと思っておった…]*


《ぎゃう?》


[見覚えある!

王国の大貴族の土地の中ではないか…ここは!

そして燃えているアレは…記憶が正しければ…神殿…!

何事が…起きておるのだ!?]*


《ぎゃう!?》


[神の膝元が何故!神の玉座が!

なにゆえ燃えておるのだ!?]*


////////////////////////////////////////////////////////


46


「…生きている者はおらぬな」


《ぎゃお…》


[虐殺じゃ…これは]


「神のお膝元と言われているこの場所…。

 ここを襲うバカがいるとはな。

 我でも悪手として絶対にやらないリスト上位3に入るぞ?」*


[魔王、お主の仕業ではないな?]


「リスクがあり過ぎる。

 襲ったところで旨みが無い。

 信心深い群れは厄介すぎる」


47


《ぎゃぅ…》


「疲れている所、飛んでもらってすまないな。

 精霊獣」*


《ぎゃぉ》


[…少なくとも、ここを襲う利益はあるまい。

魔王、お主の言う通りじゃ]


「時間的にはアンタの授業で疲れ果てていた時間だろうな。

 それについては、拠点さんに聞いてくれ。

 身内ではあるが、な」


[ほ、信頼するわい]*


48


「というかな、物理的に我がこんなこと、無理だわ。

 勇者ぐらいの物理的特化ぐらいでないと…。

 こんな一日でも普通無理ぞ?」*


[ふむ。

確かに呪い特化の、お主のやり口ではないな]*


「精霊獣に命じたとかは思わないか?」


[私は精霊獣の上で居眠りしておったからの。

それは真っ先に否定じゃ]


「そいつはぁ不幸中の僥倖であったな」


49


[しかし、誰も生き残ってはおらぬか…。

仮にも周辺国の信仰を集める神殿。

山の半ばにあり、自然の要塞。

王城に匹敵するほどの防衛力はあるのじゃ。

それが簡単に陥落するとは思えん]


「…中に密偵か工作員による…。

内からの破壊とかの可能性もあるぞ?」*


[だとしても、どこの誰が?

周辺国の信仰の象徴を攻め滅ぼす?]*


50


「信仰そのものが邪魔、とか?」


[魔王、お主は神への信仰は?]


「無い、とは言い切れないな。

 我の都合の良い時だけの信者、程度の敬虔さかな」


[結構な信仰心じゃて。

お主は神に関してはむしろ中立か?]


「残念ながら、何かをされた訳では無いのでね。

 恨む理由も無い。

 かといって仲よくする訳もない」


51


[周辺国がこの国に手出ししにくいのはの。

この神殿が内側にあったからじゃ。

神の膝元とされる地を荒らす事は…。

聖地巡礼する多くの信者の暴動を招く。

何より、神殿の号令の元、国の中に敵が突如発生する。

怖くて他の国も、この国も逆らえぬ]*


「てことは、特別なひとつの国…。

 そんな扱いになっていた、と?」*


52


[昔は…。

弱者、貧者、追放されし者達を神の子らとして。

匿い救済する聖なる地であった。

同時に、過去の時代時代に現れる、勇者にの。

祝福を与える場所でもあった]*


「えー、我も、魔王にも祝福ほしいなー」*


[魔王を永遠に辞めて心から敬虔な信者になれば。

少しは祝福されるかも知れんぞ?]*


「…が、そんな不可侵の場は今や、廃墟と」


53


[…最近の神殿の横暴さを考えれば…。

神からの怒りを喰らったのかもしれんの]*


「ほう?」


[大貴族と癒着し、王家と国を脅し。

信者達をいいように扱い、神の名の元に寄進を要求し。

表向き弱者を養うと言っては奴隷同然に扱う。

神に心から祈りを捧げる者からしたら…。

そう、何ともおぞましき魔窟じゃ]*


「言うね」


54


[私が王であった時には、最早、どうにもならぬ程…。

醜悪に強大になっておったよ。

荘厳で美しき神殿も、中はどうにもならんほど。

そう、腐り果てておった。

神への祈りが救いであった私には…絶望であったよ]*


「…ほんと、無力だな。元王よ。

 生まれが違えば、多くの学生に囲まれる…。

 うむ、賢者であったかもしれぬな」*


55


[ふ、学生ならお主と勇者がおるではないか?]


「ほう。

 なれば、あんたは先生ではなく…。

 賢者と呼ぶべきかね?」*


[先生で充分じゃ。

罪深く、優柔不断で、知らぬ事ばかり多く。

周囲に対して、賢く生きられなかった私には。

賢者なんてあまりにも重過ぎる、無知すぎる]*


「…ふむ。

 そういう話はもうやめておくか」


56


[兎に角、こんな事が起きてしまっては。

この国どころか、周辺国も黙ってはおるまい。

下手をすれば、これを理由に戦争の一つや二つ。

簡単に起きてしまうかもしれん]*


「魔王、勇者、そんな世界の危機の中でも…。

 戦争はやはり起きるか。

 なんと罪深い者達だよ…我、戦争、ゴメン被る」


[然り。今の状態で戦争など意味…]*


57


<それがあるのですよ、父上>


[その声は…王子]


<ふふ。王子ではありませんよ?

今やあなたに代わり、この国を過去の強大なものにする!

皆の期待の星!希望!新王でありますよ?

愚かなる裏切り者!>*


「…何時の間に来てやがった?」


<はは、最初からここに居ましたよ。

この神殿で起きた始終を見届けた証人としてね>*


[一体、何があった。国の兵は何をしてた]


58


<動く前に、既に終わってしまっていたのですよ。

私や勇者の迅速な行動をもってしても!

数名の生存者以外は救えず!

神殿の者達を殺した醜悪な怪物を!

ただ屠る事しか出来なかった…なんて悲劇!>*


[いくら神殿とて、防備は備えておったはず。

それをここまで壊滅状態に出来る存在がおるとでも?]


<おるのですよ、ええ。実に!>


59


「…まさかテメェ。

 我、そして勇者、と言うつもりか?」


<ふ、察しが良いのは好きですよ。

ええ、なんとも卑劣な魔王よ>


「褒め言葉かよ。

 で、始終見てた、と言ったな。つまり、そういうことか」


[王子…まさか]


<はは、事実はね!

大衆がそうだと認識されれば!

歴史にそう正しく残されるのですよ!>*


「へぇ」


60


<卑劣なる魔王は捕らえた勇者を操り!

事もあろうに世界創世の神の膝元たる!

大地の玉座を破壊し尽くした!

駆けつけたる新たなる真の勇者が見たのは!殺戮!

魔王は勇者を恐れ怪物を残し逃げ去り!

我々は怒りに震えつつ怪物を倒した…!

そして、めでたしめでたし、と>*


「ふ、御大層な物語だな。

 物書きになれば?」


61


[それを大衆が信用すると?]


<私なら信用させる事が可能なのですよ。

足を引っ張るしか能の無い大貴族はほぼ粛清した。

周りは私が信頼するものを置いた。

麗しき勇者にして美しき姫を携えた私が!

大衆の前で喧伝すれば…>


「無理がある」


<…多少はごり押しはしますよ、多少はね。

信じさせますよ、ええ>


62


「で、怒りの矛先を我と勇者に向けると」


<ついでに言えば、死んだはずの父上も…。

無念ながら、ついでに始末される筋書きですよ>*


[王子、お主は!]


<神殿を腐敗させ続けた!

愚王どもに名を連ねる貴様に!

このボクを!批判する権利は無いッ!>*


[…ぐぬ…]


「だがいいのかい?

 周辺国家もバカじゃない。

 これを機会に攻めて来るぞ?」


63


<いいえ。むしろ、戦力として取り込みますよ。

多少の餌をチラつかせ、魔王討伐共同戦線として。

で、きっちり、損耗させますから。

あー、損耗させるのはそちらですがね>*


「だが、断る!…と、言ったら?」


<拒否権はありませんよ。

私の掌の上で転がるコマなのです、お前達は>


「ゲーム気分か。まだまだお子様か?」


64


<…私をあまり挑発しないほうがいい。

これは慈悲…。

戦争に備える時間を与えてあげようとしているのに…>*


「へぇ。

 今ここで我を討たぬ、と?

 あの勇者におぞましい武器を使わせないと?」


{…!…}


「気付かないと思ったかよ?

 我、最弱ではあるが、魔王ぞ?

 天敵の感知程度は嗜みぞ?おい?」


<おぞましい…と>


65


「あ?」


<ぶ…ぶ>


「ぶ?」


<ブジョ…ッ…ぶっ…>


「ぶじょ?」


<侮辱するかああああ!!!

下賎で卑劣な低俗な存在の癖に!!!

ボクの姫を!!!ボクの勇者を!!!

ボクが勇者に与えた闇と光を併せ持つ至高の聖剣を!!!

侮辱するかぁぁぁ!!!>*


「…え?キレた?」


<このボクをキレさせるとは…!

やはり始末すべきか!>


66


{?■?}


「…あちらの勇者さん、怒っていないようだけど?」


<いいや、ボクには分かる!

怒りを我慢している!むしろ侮辱されて涙を堪えている!

美しく汚れ無き僕の姫、麗しく強い勇者を!

魔王、貴様は泣かせた!万死に値する!>


[…すまんの、魔王。

王子は、その若干、昔から…]


「…情緒不安定か…」


67


{…:・・Σ8}


<ああ、泣いているんだろう!?

ボクが不足なばかりに!!

キミに悲しい思いを!!>


{…Σ8・}


「虫と遊んでるんだが?」


<あれは!!

勇者なりの!!

心の慰め方だ!!

見て分からないのか!?

心が無いのか貴様は!?>


[…私の教育が足りぬばかりに…]


「泣くな。あそこまで育ったら自己責任」


68


<予定は狂うが!

先に魔王を処理しても手直しは幾らでも出来る!

ボクの栄光の物語の結末は決まっているのだから!

さぁ、勇者!侮辱で傷付いた心を癒すために!

あの魔王を血祭りにするんだ!

なんといってもボクもすっきり出来る!>*


「他力本願かよ、ヒモかよ、クズかよ」*


<ふ、何とでも言え!

貴様が物理的に弱いのは知っている!

呪いだけしか能が無いってのもな!>*


69


「ほー。で、備えはしたのか?」


<勇者には呪いが効かぬ事は!

あの時に経験済みであろう!

学ばずの愚か者めが!>*


「…え、王子、お前は備えているのか?」


<…は?>*


「というか、我、仕掛けていたのだが。

 あ、かかっておるなー?

 これ、我が術中に。

 呪われたなー、お前ー?」*


<な、何を…何を根拠に?>


「根拠?

 じゃ、もう一度聞く?備えは?」*


70


<い、言う必要は…無い!>


「王子、新王を名乗るにはまだまだだな。

 あの勇者を使いこなすのも下手糞だ。

 少しは評価していたが、拍子抜けだ。

 肝心の備えが疎かとは、我、残念残念評価」


[何時の間に…魔王]


「そう言う訳だ。

 お前の慈悲に甘えて今はここで引き上げてやるよ。

 精霊獣、帰るぞ」


《ぎゃお》


71


<に、逃がすか!>


「おーっと、そっからそれ以上動くなよ?

 そこから一歩でも動くか、勇者に何か命令するとな?

 呪いのトリガーとなって…な?」*


<…ヒッ!?>


「全身に永遠に痒みが発生する呪いが発動するぞ?」


[…!]


<ヒッ…ヒィ…!?>


「我がお前を見続ける限りは、呪いはいつでも発動出来る。

 動くなよ?何せ、卑劣な魔王だからなー?」


72


《ぎゃおん!》


「精霊獣、翼を解放する。

 その背に我等を乗せよ。

 自由なる天空を汝の物とせよ!」


《GYAOOOOOOOOOOOOOOO

 -OOOOON!!!》


<ヒッ!?ヒィィィッ!?>


「お前の筋書きに乗ってやるよ!

 面白い展開で無ければ、痒みの呪いをかけるからな?

 では、バーイセンキュー!」*


73


{‘…‘}


「…こっちを見てるが。

 襲っては来ないか…やはり命令型か?」


{ヾ!//}*


[あやつ…手を振っておる…!?

私達を敵とみておらぬのか?]*


「さぁて、な。

 襲って来ないなら素直に逃げるが勝ち、だ!

 精霊獣!ゆけ!」


《GYAOOOOONNNN!!》


<ヒィ…ヒィイ…ヤダ…ノロイ…カユイ…ヤダァ…!>


74


{‘!‘…}


<…い、いなくなったか!?

魔王は、いないか!?

…ひ、ひぃ…痒みの呪いだけは…あんな惨めな姿には…!

魔王、汚い!捕らえて!

肉塊になるまで拷問して殺す!

ボクを馬鹿にする奴は皆死ね!

ボクはこの世界を統一する王だぞ!

その血統だ!えらいんだ!

ははは、そう!これは神からの試練だ!

そ、そう魔王を倒すための!>*


75


/あ、あの/


<ヒッ…!?

…コホン…な、なんだね?

出て来ては危険だと言っただろう、巫女達。

君達は貴重な証言者だ。

魔王は卑劣にも逃げた。

今回はここまでにしよう。

城に帰ろう>


/え、あ…はい/


<いいか。

お前は何も見てもいない、聞いてもいない。

余計な事は喋るなよ?

目と耳と舌を…潰されたくないだろぉ?>*


76


/ひっ!はい!何も見ていません!

聞いていません!喋りません!/


<ふむ…それでこそ、私の民だ…特別に扱ってあげよう。

私を世界統一の王として!

君達は語り継ぐ役目を担うのだからね?>*


/わ、分かりました!

あなた様の事を語り継ぎます!

ですから、命だけは…/


<大丈夫。君達の忠誠がある限りは…ね?>*


77


《GYAO-》


「…」


[魔王…その、だな…]


「フ…フゥ…」


[魔王?]


「フ…ハハ…はー、ヤバかったー」


[ヤバ、カッタ?]


「いやー、先生、てか、王。

 あんたの前でアレ、すまない事を言ったな」*


[ああ、痒みの呪いか。アレは私の罪に対する罰じゃよ。

で…王子にもかけたのか?]*


「あー、それなんだが」


//////////////////////////////////////////////


{-起- 終了-承へ続く}

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