データ化された「流行」の罠

蒼風

0.「流行を追う」の違和感

 先日Twitterでこんな話題を見かけました。


「流行っていると思われていた○○はもう若い人には流行っていなくて、今は△△が人気。編集者もそういう作品を作ろうとしている(意訳)」


 それから、作家を目指すにあたって、高頻度で授けられるアドバイスに、このようなものがあります。


「作家を目指す上で重要なのは最近の流行をチェックしておくこと」


 流行。トレンド。作家を志望する人が(自分の体感では)かなり気にしていると思われるこのフレーズなのですが、自分はどうにも違和感を覚えました。

いや、別に良いんです。流行の作品に取り敢えず触れてみる事は新しい発見にもつながるかもしれない。そんな部分まで否定するつもりはありません。しかし、作家目指す上で、そして編集者が「流行」を追いかける事がそこまで重要なのだろうか。そんな疑問をずっと持ち続けていました。


 今、「何が流行っているか」という情報は簡単にフィードバックされます。例えばネット小説であれば、どのジャンルが読まれているか、どういうタイプの作品がより人気を集めているかは、データとして集めればすぐに数値化できます。販売サイトによっては18禁の人気ジャンルを年齢や性別ごとに集計しているようです。


何が流行っていて、何が流行っていないのか。どの年齢の人が、どんなジャンルを好むのか。そんな事が数字としてはじき出され、分かりやすい形で明示される。そして、それを活用する。だからこそ「流行」を追いかける編集者が生まれる。しかし、その形は果たして本当に「売れる」ものを作れるモデルなのでしょうか。


 上記のような流れは決して限られた出版社や、限られた編集者のみが知っている秘匿情報では恐らく無いはずです。大きな会社なら、ある程度のデータ収集と分析はしているでしょうし、そこから「次はこういうのが受けそうだ」という予測を立てている事でしょう。


しかし、少し立ち止まって考えてみてください。皆さんは漫画やライトノベル、果てはアニメやゲームで、「なんだか似たようなジャンルの作品が次々に出てくるなぁ」という感想を覚えたことは無いでしょうか。


もっと具体的に行きましょう。料理マンガという訳でも無く、「ただ単純にキャラクターが料理したり食事する漫画」が、多くは無いでしょうか?


 もう一つ行きましょう。題材は上記の料理ものでも構いません。「あるヒットした作品」の「劣化コピーとも捉えられそうな作品」を見たことは無いでしょうか。見たことが無い場合はその手の本(先に述べた料理系の方が早いと思います)を是非検索してみてください。もし暇があるのならば、全体の作品数(調べられるかは不明)と、その手の作品の比率を年ごとにはじき出してみてください。面白い数字が出るのではないかと思います(あくまで仮説です)。


 これらは全て「データ化された流行」を追いかけた結果生まれたものだと自分は見ています。ある作品が売れた、じゃあそれに近い作品を作ろう。更にここに「失敗したくない出版業界心理」を付け加えると「有名作品のキャラが料理を作ったり食べたりする漫画」が出来上がるという訳です。


 勿論、「流行を見る」ことは決して悪くありません。時代に全くそぐわないものを出してしまえば、売れないのは確実でしょう。そういう失敗を防ぐという意味では有効かもしれません。しかし、実際にはどうでしょうか?上記のような後追い作品は、必ずしもいい結果を残しているでしょうか?恐らくは「大爆死」と言って良い部類の作品も必ず排出しているはずです。


 本稿では、そんな「流行」と「データ」の関係性をざっくりと見つめなおした上で、「数字」との付き合いかたを模索していきます。少しの間、お付き合い頂けたら幸いです。



【ざっくりポイントまとめ】

・「流行」を追いかけるのってそんなに重要?

・「流行」は「データ化」され、数字としてはっきり明示されるようになった。

・「後追い作品」が増えているような気がする。

・「データ」が必ずしも成功を導き出していないのは何故か?



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