ひとつー

 一匹狼、という言葉の実態をご存じだろうか。

昔はちょっと格好良い意味があった。

変身ヒーローも基本的に一人だった。

しかし、現実の一匹狼は群れを追放された狼だ。

ボスの座を奪おうとして負けた、或いは奪われたり、群れの中でリンチに遭ったり、老いや病で見捨てられたり。

犬の群れでも同じことは起こる。

追放された犬を、負け犬と言う。

負け犬の遠吠えというエッセイか何かが売れてから、人間とくに雑誌等のメディアは貧乏人やモテない者を負け犬と蔑称で呼ぶようになったが、実際の負け犬というのはその程度のものではない。

文字通り群れから追放されているのだ。

その孤立した負け犬が、同族に遭遇したときにどんな心境になるか知っているだろうか?

単純に一つの感情ではないが、最も支配的なのは恐怖だ。

何をされるかわからない。

またリンチされるかもしれない。

そういう恐怖だ。

味方がいるかもしれないという考えは無い。

心のどこかで味方を探し続けてはいるが、恐怖に圧倒される。

それが負け犬であり、一匹狼だ。

孤独で居るときが最も安心出来るとき。

そうなってしまったものは、もうどうしようもない。


 週に一度の短い休日。

少し寝過ぎてしまった。

せねばならないことはいくらでもあるが、何もする気になれないのでバイクに乗ることにした。

毎週こんな具合で何もせず終わっている。

今日は比較的近場で以前から気になっていた紀泉高原スカイラインへ向かう。

入り口あたりまでは1時間と少しで高速料金も1000円程度だ。

走っていると、いつもエンジン音が違うように思う。

ちょっとしたコンディションの違いで変わってくるのかもしれないが、よくわかっていない。

今日はあまり良い感じではないように思った。

高速道路はこれといって感慨も無く通り過ぎる。

堺あたりの工場地帯の眺めはなかなか良いが、ゆっくり見られるわけでなし。

音声ガイドを頼りに走って、おそらくこのあたりが紀泉高原スカイラインであろうというところまで行った。

結果として細い舗装路の山道を2,3時間走ったのだが後でナビのログを見ると、紀泉高原スカイラインは横断しただけだった。

滅多に行き違う車両も無く後ろからも誰も来ない曲がりくねった山道を、30km/h程度で走っていた。

とてもよかった。

どうもスピードを出して楽しいと感じるクチでもバイクでも無いようでそのくらいの速度で走っているほうが気分が良い。

泉葛城山頂の龍王神社に挨拶してから帰路についた。

たまにヤエーもしたし、返してくれる人も居た。

行き違う一瞬のちょっとした挨拶。

してもしなくてもいい。

返ってこなくても気にしない。

自分には人間との距離はそれくらいが丁度良い。

別に人間嫌いなわけじゃない。

ただ、それくらいが丁度良い。

敵じゃあないと思ってくれたらそれで十分だ。

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不惑日記 阿蘇山紋次郎 @rebel250

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