くだらない。

 三連休の中日、天候は引き続き曇り時々雨。

明日の予報は晴れになってはいるが、予報は逆になることも多い。

ベッドの上で転がっていると昼を過ぎていた。

起き上がり、何か水分を摂ろうとしたが何も無い。

水道水というのも気が向かないので外で何か買うことにした。

着替えてヘルメットを持ち部屋を出る。


 バイクを準備して跨がりセルスイッチを入れる。

問題無く快調に走り出した。

東へ向かうときよく立ち寄るコンビニを目標にしたが、何ということもなく到着した。

久しぶりにモンスターの白を選んだ。

相変わらず決して美味くもなく最後にはくどくなる飲み物だがたまに飲む。

次は大きめのバイク用品店へ向かった。

駐輪場にバイクを停め、ヘルメットを脱ぐ。

休憩所のほうから嘲笑が起こった。

人の笑い声自体あまり好きではないが、嘲笑というのは響きでわかる。

そちらを見ると笑っていた中年男性と目が合い嘲笑が止み、目を逸らされた。

バイクから離れるとまた嘲笑を再開していた。

嫌な感じだ。


 これといって目的があって店に来たわけではないが、先日の雨でブーツが使い物にならない状態だったのを思い出し、雨に強いブーツを物色することにした。

靴には妙に拘りがある。

本革でなくてはならないというわけでもないが、本革であるなら製法にも拘る。

一度靴を買うと何年も手入れしながら使うほうなので、主に耐久性の面で気になることが多い。

グッドイヤーウェルト製法でなければいけないというのでもないが、やはり一番丈夫だ。

マッケイ製法なら履き心地に余裕があったりと色々とあるのだが、スニーカー以外でセメンテッド製法は選びたくないものだ。

接着剤はどうも長くもたない。

どうしても底や革との接着部分が剥がれてくる。

そうなると接着し直してもそう長くはもたない。

友人などは製法にこだわりなくセメンテッド製法のものばかりはいているがそれでも長持ちすると言っているので自分の歩き方が悪いのかもしれないとは思う。

どちらにしても丈夫なほうが良いが。


 バイク用のブーツは、先端に安全靴のような芯が入っていたりひもを留めるベルトがついていたりサイドジップであったり、シフトレバーの当たる部分の革が二重になっていたりする。

ただどうも、あまり製法などに拘りの無いものが多い。

革の質感などもあまり。

普通の靴としてはこれというものが無かったので一旦諦めネットで探すことにした。


 帰ろうとしたそのとき、「あいつの顔ほんまむかつくわー」という声が自分の居た棚の向こう側から聞こえてきた。

「そんなむかつく顔なん?」ともう一人別の人間の声がして、その人物がこちらの側にまわりこんできたが、そちらに目をやるとすぐ戻っていった。

自分のことを言っているのだろうかと思い、そちらの側に行ってその二人を見た。

一人は先ほどの中年男性であった。

しばらくその中年男性の顔を見ていたが、こちらを向かずニヤニヤしていた。

反応が無いのでその場を去るとまた下卑た笑い声が聞こえてきた。

またこの手の卑怯者か・・・と思った。

ときどき遭遇するのだが、自分の見た目がある種の人間にとって恐怖や嫌悪を感じるもののようで変に敵意を向けてこられることがある。

往々にして、直接言わずにこのような発言を聞こえよがしにしてきて、何だろうかとこちらが見てもこちらを見ようとしない。

・・・くだらない。

どういう人種なのかわからないが、卑怯でくだらない人種だなと思う。

「おめぇのツラむかつくんだよコラァ」とでも言って胸ぐらを掴んでくれたほうがこちらも対応しやすいし同じ馬鹿でもよほど清々しい。

せめて直接言ってくれないものだろうかと思う。

自分の世代くらいからだろうか。

いかにもな不良は居なくなり、言葉で他人をコケにして喜ぶ下劣な人種が増えたのは。

他人を卑下するような発言自体が苦手であまり言葉も思いつかない質なので殴り合いのほうがまだマシなのだが、そうはならない。

昔の知人が、「日本人は卑怯者が多い」と言っていたのを思い出した。

何だとこの野郎と思ったがその知人も日本人だったので何か思うところがあるのだろうなと思った。

彼の言うのはこういうことだったのかもしれない。


 結局買うものは見つからず、気分も悪くなったのでもう少しバイクを走らせてから帰ることにした。

良くないことだが、少し運転が乱暴になっているのを感じつつもそれに任せた。

元が優等生走行なので本当に乱暴な運転ほど乱暴ではないが、普段はあまりしない追い越しを繰り返し、高速に乗った。

自分のバイクは直進重視の設計だとばかり思っていたが思い切れば意外とスイスイ動くことに気がついたのは収穫かもしれない。

そのままいつもより速度も高めで走っていたが途中で渋滞に遭遇して止まった。

しばらく進むと自動車事故の現場があった。

これはいかんと思い直し、いつも通りの優等生走行に戻る。

雨雲が空に重くのし掛かっていた。


 南港舞洲で高速を降りる。

ゴミ処理場の独特なデザインをした塔の姿が光を漏らす雨雲を背景に映えていた。

そのまま夢洲方面への橋へ向かう。

途中パトカーと行き違った。

先ほどの事故もそうだが、ここのところパトカーをよく見かける。

G20開催が近いこともあるのだろう。

いつもの夢洲にあるコンビニで一服した。

ぽつ、ぽつ、程度だが雨が降り始めている。

近くの空き地でアクセルターンの練習をしてから帰ろうと、空き地へ向かったがそこには大量の警察車両が並んでいた。

犯人の護送に使うようなやつである。

もしかしてここで寝泊まりして警備や見回りをしているのだろうか。

大変な仕事だなと思いつつ、練習するのも恥ずかしいので、バイクを傾けてみるだけにして帰路に就いた。

なんということもないいつも通りの帰り道だったが、大阪城付近で拳銃を奪った犯人が逃走中なので外出を控えて下さいという放送が聞こえてきた。

犯人らしきを見つけたら人生どうでもいいおじさんも役に立つことを見せるために神風アタックしてやろうと思ったが、拳銃をぶら下げたまま歩いているはずもなくそれらしきものは見当たらないまま自宅近くのスタンドでガソリンを足し、何事も無く帰り着いたのだった。


 結局たいした雨は降らないままだったので、淡路島へでも行けばよかったかな・・・何かとくだらない休日だった。

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