第8話白い姫と五人の野獣
俺が食べ終わっても、ここちゃんはまだ炒飯を食べ続けていた。
この口の小ささじゃ、しょうがないかも。
お腹がいっぱいではなさそうだから、満足するまで食べさせてあげようと思う。
ただ、何か手持ち無沙汰だ。
ここちゃんを盗み見するのは、何故かバレるし。
それは気まずいし。
だからって、俺だけ先に部屋に戻るのは違う筈だし。
だけど引き籠りの俺に、女の子が聞いてて楽しい話題があるわけもない。
そもそも、女は苦手だ。
それにしても両手を器用に使うんだな、と思った。
ここちゃんは、左手でスプーンを、右手でペンを持っている。
「・・・・・・あ、両方使える?」
傍から見れば、行儀が悪いかもだけど。
声が出ないここちゃんと話をするのに、わざわざスプーンとペンとを持ち変えなくていい。
ここちゃんは、両利きなのだ。
『生まれた時から、そう』
「うん」
そういう人がこの世にいるのは、以前から知っていた。
いろんなものが右利き用に出来てるから、左利きの人は両手も使えたりするみたいなんだけど。
それとは、違うのだ。
敢えて、練習は必要ない。
何故なら、両手を使う方が自然だから。
「逆にしても平気なの?」
スプーンとペンとを。
『うん』
「何か、イイネ」
手を怪我した時に、困らなさそうだ。
でも、滅多にないだろうけど。
「俺は右利きだけど、三番目の兄さんが左利きなんだよね」
だから何だと言われても、其処で話は終わるけど。
「字は左手で書くけど、消しゴムを右手でかけるの見てて、いいなぁって思う」
右利きの人って、本当に右手しか使えない人が多いと思う。
右利きで不便なことってないから。
両方使えなくたって、困らないんだよね。
『ぼくもそう。ペンから消しゴムに持ち替えない』
「ですよね」
両方使えたら、持ち替えずに済む。
それって結構な時間短縮だ。
『いっくんのお兄さんは、三人いるの?』
「えっ・・・・・・、あ、まぁ・・・・・・」
俺がさっき、三番目の兄と言ったから。
兄弟がいる話は、既にしてあったけど、その人数までは言ってなかった。
ただ、それを言うと絶対引かれるって、確信がある。
きっと、誰だって思う。
何でそんなにいるの、って。
「俺の兄弟なんですけど・・・・・・」
まず、男しかいなくて。
だから、この家に女の子がいる時点で、夢みたいなんだけど。
ってか、大丈夫かな。
段々心配になってきた・・・・・・。
『外、賑やかだね』
と、ここちゃん。
「そうかな」
俺には、何も聞こえない。
「・・・・・・ん?」
(。´・ω・)ん?
言われてみれば、遠くから人の声が近付いて来てるような気がしなくもない。
「あ」
外が賑やかになったと思った、僅か二秒後。
「たっだいまー!」
玄関の扉が、勢いよく開け放たれた。
拙い、ヤバイ。
あいつらが帰ってきやがった。
寧々ちゃんの結婚式、二次会まで終わったんだ。
「ちょっ!そんな凄い音立てないでよね。五月蠅い」
「いいじゃん、いいじゃん、いいじゃん」
「良くない、良くない、良くない」
「今、帰ったよーん!絃護ちゃぁぁぁん!」
「人の話くらいは聞け!」
漫才でもコントでもない。
あの二人の日常会話だ。
「いないのーぉ?絃護ちゃぁぁぁん?」
聞いてないし。
「I'm homeだ」
「たっだいまー!!」
「てか、絃護兄さん起きてるぅ?」
あとからも、ゾロゾロ。
玄関から家の中に入ってくる。
気配は、五人。
間違いはない、五人だ。
五人も・・・・・・いる。
そう、俺の兄弟は全部で五人。
俺は恐怖の六人兄弟だった。
「絃護ちゃぁぁぁん、何処に居るのぉ?」
「透真兄さん、絃護はいつも自分の部屋にいるでしょ」
「分かってるよ、訊いてみただけ」
「無駄なことすな!」
帰宅した奴らが向かうのは、リビングだろう。
そして、その後多分、台所。
「理希ちゃん、俺の理希ちゃん!」
「俺のって言うな!」
「お兄ちゃん、喉渇いちゃった!何か持ってきてぇ!」
「何でだよ!自分で行けよ!」
「そんなこと言わずにぃぃぃ」
長男と三男の、いつものアレだ。
相変わらずだな。
「樂埜兄さん、僕も喉が渇いたから、ジャスミンティーお願い」
「じゃ、ジャスミンティー?そんなもの、うちの冷蔵庫にあったか?」
「ないなら買ってきて。コンビニで」
「ええええええええええええええええ」
「オ・ネ・ガ・イ💛可愛い弟の頼みじゃーん」
「わわわ、解った!」
帰ったばかりなのに、次男が玄関を出て行こうとしている。
末っ子、あの小悪魔が。
兄を良い様に使ってやがる。
「樂埜兄さん。ジャスミンティーなら、俺、もう買ってきたよ!」
と言ったのは、四男だ。
「買ってきた?いつ?」
「今」
「今!」
「バビューンって行ってきた」
「は、早いな!」
「( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」
四男の足の速さは、人間の其れではない。
兄弟たちはそれを全部、幸望(兄さん)だからで済ましてしまう。
深く考えるのは沼だ。
「・・・・・・」
拙い、ヤバイ。
やっぱり、大丈夫じゃない。
此処に居たら、確実に見つかる。
俺が、見つかる分には構わない。
引き籠りが部屋の外に出てるくらいのツッコミで済む。
それに、引き籠りは決して自分の部屋から出ないわけじゃない。
冷蔵庫を開けて、食べ物を探しに来る奴だって引き籠りだ。
ヤバイのは、ここちゃんが居ること。
あいつら、皆、年齢=彼女いない年数だ。
つまり、女に飢えたDT野郎。
少女と言えど、女は女。
此処は、野郎(しかもDT)ばかりの住処だ。
そんなの、狼の群れに、ウサギを放り込むのと一緒じゃん。
俺は、あいつらの誰にも、会わせたくなかった。
誰の目にも触れさせたくなかった。
この子には、絶対、指一本触れさせない。
それは、もしかしなくても独占欲?
違う。
ただ、護りたいだけだ。
・・・・・・どうすればいい?
考えてる余裕すらない。
俺に出来るのは、キッチンの出入り口前に駈けつけること位だった。
「!」
危うく、理希兄さんと激突することろだった。
「あれ?何だ、絃護・・・・・・其処に居たんだ?」
「ああ、まぁ・・・・・・ソウデスネ」
「何で片言?」
「深い意味はナイデスヨ。そんなことより、何か用デスカ?」
「機械生命体かよ・・・・・・まぁ、いいや。透真兄さんが、喉渇いたってって五月蠅くて」
「ソウデスカ」
「うん。だから、台所に入れて?」
俺の隙間を縫って、入って来ようとするので、
「いや、駄目デス」
俺も体をずらす。
「え?駄目なの?何で?」
「何が何でも、デス。此処から先は、一歩でも立ち入り禁止デス」
「え?え?え?何の番人??」
訳が分からない、と理希兄さん。
だけど、決して俺にキレたりはせず、
「今度は、台所に引き籠ることにしたの?」
「そうではアリマセン。俺がいいって言うまで、中に入らないでクダサイ」
「何で?意味が分からないんだけど?」
「スミマセンガヨロシクオネガイイタシマス」
「せめて、理由説明して?絃護」
自分でも、無理があるとは思ってる。
でも、本当のこと言ったら、目の色変えるだろ。
あんただって例外じゃない。
十八歳未満は、子供?
野郎の欲の前に、そんなの存在しないだろうが。
「理希ちゃぁぁん?まぁだぁ??」
多分、リビングだ。
透真兄さんの声がする。
「透真兄さん、五月蠅いしさ。飲み物取るだけ。そしたら、出てくからさ」
「あっ!」
立ち塞がったけれど、間に合わない。
細いくせに、理希兄さんは結構力がある。
理希兄さんは昔が昔だし、片や俺は引き籠りだし。
腕力じゃ勝負にならない。
「何だよ、お前、別に何もないじゃ、ない・・・・・・か」
いつものつもりで、中に入ってきた。
まったく、いつも通りではないのに。
「・・・・・・」
いつもの台所が、いつもとは違う状態だった。
俺以外に別の人間が、もう一人、想定外に存在した。
それは、明らかに俺の残像ではない。
小さな小さな、女の子だ。
「えっ・・・・・・誰?」
『・・・・・・!』
急に現れた男に、彼女も驚いている。
お互いが、お互いの存在を理解できないでいる。
「絃護、おまっ・・・・・・!」
誘拐して来たとか、思われてる?
昨今の引き籠りが起こした事件が強烈過ぎて、引き籠り=犯罪者の構図が当たり前になってる?
「黙って。理希兄さん。これには深いわけが・・・・・・」
俺は、誘拐して来たんじゃない。
本人の同意がなかったのは、事実だけど。
「深いわけって何だよ?」
「深いわけは、深いわけだよ」
簡潔に述べろと言われても難しい。
あんな、空から降りて来たなんて話、実際に見てなきゃ誰も信じたりしない。
「兎に角、静かにして」
理希兄さんは、もうしょうがない。
他の連中にまでバレたくない。
「で、でも・・・・・・だって」
理希兄さんは、予想通りの反応だ。
可愛い女の子には、弱弱だ。
「こ、こ、こんな・・・・・・こんな可愛い子ががががががががが!!」
「声が大きいんですけど」
黙れって言ったのに。
どうして、逆に大声を出すの!
みんなに聞こえたらどうするの。
てか、
「女の子!?」
「何?Girlだと?」
「マジで?」
「ええっ?」
既に遅し。
バタバタと足音が四人分。
台所に雪崩れ込む、野郎ども。
全員、俺の兄弟だ。
「おぉぉぉぉぉっ!女の子じゃん!!可愛いなぁ!」
「Oh,Little Angel!So, very very cute!」
「( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \スッゲェね?可愛いなぁぁぁぁぁぁ」
「うわぁぁぁ、とっても可愛いね💛お人形さんみたいだね(⋈◍>◡<◍)。✧♡」
勢いが半端ない。
別に女を見たことがないわけでも、接したことがないわけでもないのに。
今日の結婚式にだって、新婦の友人の女がいただろう。
まぁ、DTなんか相手にされないだろうけど。
「え?何何?何で此処に居んの?何処から来たのぉ??」
「My Little Angel?きみの名前は、何というのかな?」
「どうしよう、可愛すぎるぅぅぅぅぅっ」
「ねねね、今から俺と、やきうしない?」
「幸望兄さん、こんな時間に野球なんかしに行かないでしょ。それより僕と、お茶しない?其処のカフェで♪」
俺が止める間もない。
五人が五人とも、其処に集まった。
『???』
驚いて、立ち竦んだここちゃんの周りを囲んでる。
しかも、代わる代わる、ここちゃんの手を取ったりする。
背の小さいここちゃんと目線を揃える為に、跪いて。
俺はただ一人、外側からそれを眺める羽目になっている。
「・・・・・・」
やっぱり、見境がない。
ただ単に女の子を珍しがったり、優しくしたり、愛でたり、親切にしたりしてるだけなんだけど。
それは、飽く迄も表側。
俺には、ちゃんと聞こえてるよ。
奴らの裏側の声が。
分かるんだよ。
俺、兄弟だから。
(こりゃまた、随分ちっこいなぁ。ちっこ過ぎて、入んねぇんじゃねぇの?)
(入んない言うな、このクズ長男。ちっこいからこそ、そそるもんがあるんだろーが!)
(うわ、理希兄さんえげつな!でも、小っちゃくて具合が良さそうなのは事実だよねぇ?)
(セクロス、セクロス!セクロース!!)
(うわぁぁぁぁ、マジか。本物の女の子来たぁぁぁぁぁっ!!)
・・・・・・やっぱりね。
兄弟のそういうの見たくないし、聞きたくないんだけど?
てか、普通に犯罪だ。
体中の血の気が引くのが、自分でも分かった。
「皆、皆!待って。待って。待って!?」
何とか隙間から割り込んだ。
慌てて、兄弟たちとここちゃんとの間に、自分の体を捻じ込む。
「小学生(?)相手にそれは拙いって!」
「合法ロリってあるじゃん?」
「それは、見た目ロリでも実際は成人女性とかでしょ!」
何言ってるの、俺!?
自分にツッコミたい衝動を、我慢する。
何故なら、まだ終わってないからだ。
「ちっこいだけの中学生かもしれないし?」
「いや、小学生じゃなくても未成年は駄目だから!」
物理的に可能でも、駄目なものは駄目!
「てか、お前だってまだ小学生!!」
「てへへぺろっ☆彡」
「可愛い子ぶっても、許されないからね!?」
ショタ好き姉さんにしか、通じないから。
てか、誤魔化されないから。
「大丈夫だ、絃護」
「何がだよ、クソ野郎?」
「バレばきゃいいんじゃないか?」
「はぁ?」
「捕まらなけれな、犯罪じゃない」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!?」
「証拠さえ残さなければ、perfect!そう、一生此処から出さなければ・・・・・・」
「怖っ!怖っ!!怖すぎるよ!!なんなのその思考!?どうなってるの?どうかしてるの??サイコパスなの!!??」
俺、こんなのと兄弟なの?
今すぐ、兄弟をやめたいんだけど!?
俺も大概、どうしようもないゴミだと思ってたけど。
生きる資格がないとか、知ってたけど。
此処まで頭おかしくないわ!
てか、イカレ過ぎだろ、俺の兄弟!?
衝撃の為に、次の言葉が浮かばない。
開いた口が塞がらないというか、顎関節自体が外れたというか。
「・・・・・・!!」
いや、でも駄目だ。
俺が此処で、戦闘放棄したら。
戦うのを諦めたら。
一瞬だけ、背中に庇ったここちゃんを見る。
『????』
更に疑問符が増えていた。
逆に幼すぎて、男共が何を言っているのか全然理解していないのだろう。
まだ意味を理解してないことだけが、救いだ。
だって、あまりに可哀想すぎる。
「なぁなぁ、どうする?」
「どうするって、何だ透真?」
「だからぁ・・・・・・分かるだろ?」
「分からん」
「そりゃ、長男様からだよねぇ?」
「ノンノンノン!何を言っているんだ。お前は駄目だ。論外。言語道断だ。もっと相応しいNice Guyがいるだろう、此処に!!」
「え~?誰誰誰?そんな人いるかなぁ??」
「其処は、ほら、僕がいいでしょ♪歳も一番近いみたいだし💛」
「はぁぁぁぁ?どーしてそうなるんだよっ!?」
「ぼくが一番、女の子の扱いに慣れてるから、優しくしてあげられると思うんだよねっ☆」
「知りませんー!そんな法律あるんですかぁー?」
「クソダサ~い兄さんよりはマシでしょ?」
「てめぇふざけんなよ!表出ろや!!」
「あーやだやだ!そうやってすぐに暴力を振るおうとするとか!野蛮人だよねぇー」
「上等だコラ!顔面グッズグッズにして泣かせんぞ!!??」
「アアン?やんのか?アアン!!??アアン!!!???」
「( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \セクロース!!」
『!!!???』
何だかよく分からないけれど、大変なことになっているらしい。
此処に来て、遂にここちゃんが怯え始める。
当然だ。
俺もとっくに怯えてる。
自分を取り囲むのが、一人を除いて大人の男な上に、凄まじく物騒な雰囲気をもろ出している。
これで逃げたくならなければ、危機意識がないというか、意識そのものがないとしか思えない。
『・・・・・・!!・・・・・・・・・・・・』
ここちゃんの手が、ギュッと俺の伸び服の裾を掴んだ。
野郎共が大暴走なのに、同じ野郎の俺へ助けを求めている。
こんな頼りない、汚いゴミ屑の俺を、頼ってくれている。
そのことが、俺には泣けるくらいに嬉しかった。
信じてる、俺じゃなきゃ駄目だって、言ってくれているみたいで。
・・・・・・誰がこの子を、護るというの?
俺しかいない。
俺が護るしかない。
どんなことをしたって。
兄弟だからって、関係ないと思った。
俺の中では今、血より涙の方が断然重たくなった。
「絃護ちゃぁぁぁん?」
「な、何?」
酔ってんじゃねぇの、と思うような調子で絡んでくる長男。
「お前も、お兄ちゃんに譲ってくれるよねぇ??」
「はぁ?何を??」
「お前、お兄ちゃんのこと好きだもんねぇ?」
「だから何が??」
勿論解ってるけど。
「ひっどいよねぇ?絃護兄さん??」
今度は、末っ子が絡んできた。
小学生が酔っ払ってる・・・・・・わけではない。
「末っ子だからって、いっつも僕が虐げられてんじゃん!」
「嫌なら他所行け、他所!!」
「此処は、平等にジャンケンで・・・・・・」
「ね!やきうで決めよ!やきう!!」
野球がしたいだけなのか、野球しか知らないのか、どっちだ?
・・・・・・野球なら自信があるからだろう。
馬鹿なふりして、四男も侮れない。
「・・・・・・ふざけるんじゃねぇよ!!」
我慢の限界だった。
気付けば、滅多に出さないくらいの大声を上げていた。
「何なんだよ!口を開けば、セ○ロス、セク○ス、セクロ○、○クロス、セクロス!!そういうことしか頭にねぇのか、このクソDTどもがぁぁぁぁぁっ!!!」
「イッチー、最後伏せてない・・・・・・」
「うるせぇ、黙ってろボケクソが!!!」
相手は兄だが、クズでクソでダサくてバカ共なんかに敬意なんて払う分けねーだろ!
「てめぇらは、DTならDTなりのプライドとかねぇのか!!??」
DTのプライドとは。
「あるわけねぇか!?ねぇのかよ!!ちっ、マジで有り得ねぇ!!このゴミカス共が!!!」
実はその台詞そのものがブーメランで、俺自身を深く抉ると解っていた。
でも、俺は平気だった。
ただひとつ、俺には捨てていないものがあった。
「だから、てめぇらはいつまでも永遠に、DTなんだろうがぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」」
「「「「「・・・・・・ス、スミマセン・・・・・・・・・・・・」」」」」
あまりの剣幕に、兄弟たちは全員がその場に直り、身を小さく縮めている。
「ちょっとふざけただけなんです、スミマセン許してください絃護様」
「だって、あまりにも可愛いGirlで。歯止めが利かなく・・・・・・絃護様、どうか殺さないでください」
「僕が本気でそんなことするわけないよね。この常識人の僕が・・・・・・申し訳ございません非常識でした」
「おっ、俺・・・・・・・・・・・・ご、ごめんねぇぇぇぇぇ、イッチー」
「いけないことしたって思う。反省してるよ、絃護兄さん」
「・・・・・・土下座」
トーンを落とした声で、俺は兄弟たちに告げる。
「「「「「えっ?」」」」」
「土下座しろ、もっと頭を床に擦り付けろ、寧ろ、めりこませろ!!」
「「「「「は、はいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」」」」」
全員が一斉にそうしたので、物凄い音がした。
激しく額を打ち付け、煙がプスプス出ている。
いい気味だ。
本当は、まだ全然足らねぇ。
次は、何をさせようか?
『・・・・・・』
ぐいっと、手を引っぱられた。
振り返ると、ここちゃんだった。
涙目になって、ぶんぶんと首を横に振っている。
もういいよ、と言っているみたいだった。
「許してあげるの?」
こくこく。
「殺してもいいんですけど」
ぶんぶん。
「そうですか」
人が死ぬのはもう、見たくない。
というよりは、
『いっくん、兄弟の人殺したら駄目』
「・・・・・・そうだね」
ここちゃんがそれでいいなら、そうしよう。
俺だって、こいつらをこれから殺すのはめんどくさくないわけじゃないし。
「だけど、いつ襲われるか分かんないし、ここちゃんはずっと、俺の傍に居てね」
『・・・・・・』
そうしたら、何故か、大きな目をもっと大きく丸くして、
『いいの?』
と訊いてきた。
「いいよ。当たり前じゃん」
だって、俺がここちゃんを、あの五人の野獣から護りたいんだもの。
「絃護兄さん・・・・・・大胆だね」
と、末っ子が顔を上げて、ニヨニヨ笑っている。
「ずっと俺の傍に居てって、・・・・・・何それ、永遠に死ぬまでってこと?」
「えっ、えっ・・・・・・・・・・・・あっ!」
気付いてなかった、言われるまで。
そうとも取れる、というかそうとしか取れない。
照れ隠しに、
「お前、誰が顔を上げていいって言ったんだよ」
「あー、ハイハイ」
総てお見通し、といった風に肩を竦め、元の姿勢の戻る。
「ふっ、深い意味じゃないからっ・・・・・・」
慌てて末っ子の指摘を否定する。
こんなゴミとずっと、一緒に居なくていいんですよ。
必要なくなったら、捨てちゃっていいんですよ。
ゴミなんだから。
でも、やっぱり、ちょっと・・・・・・寂しいかな。
一度必要とされたから、いざ捨てられるとなると、辛いかな。
『・・・・・・』
うん、と、ここちゃんが頷いた。
俺は、自分の発言が恥ずかし過ぎて、後ろをまともに見られなくなっていた。
もし見ていたら、ここちゃんがどういう表情で頷いたのかが分かったのに。
彼女の本当の気持ちを、知ることが出来たのに。
Requiem_cobalt 霜野 結姫 @YUUKi_SHiMONO
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