ずるくてむりやり
小石原淳
第1話 ずるくてむりやり
「犯人はあなたですね?
「穴黒が犯人? どうしてそうなるんだ」
「第二の殺人のダイイングメッセージを直訳しただけのことですよ、刑事さん。『ブラックホールフォーエーバー!』」
「なるほど、単純すぎるくらい単純だ。と言うことは、こっちも直訳でいいのか。第三の殺人における『スターダストエモーション!』てのも」
「いえ、そちらは偽装です。犯人の穴黒さんが、ダイイングメッセージのストレートさをごまかすために、似た雰囲気の、でも意味のないフレーズをわざと書いたのです。よね、穴黒さん?」
「……その通りです」
あっさり認める穴黒を目の当たりにして、傍観者の僕は心の中で「秒殺かよ!」と突っ込んでいた。証拠がまだ出てないのだから粘れよっ。
「逮捕してもいいんだが、何も証拠がないし、ダイイングメッセージの解釈以外に、犯人特定の理屈も聞いてない。地元警察の顔も立てる必要がある。いまいち不安だ」
そうそう、刑事の言う通り。……休暇旅行中、事件に遭遇した割に主導的に捜査してるよな、この人。
「では、動機を話すとしましょう。最初の被害者、
「うむ。確かに桐崎さん殺害の動機は大きな謎だ」
「分かってみれば簡単だった。彼女のある言葉を、穴黒さんは聞き間違えたのです」
「ある言葉って何だ。『こんなの初めてかも』か? あの台詞は結構衝撃を受けたぞ。中年女性がちくわを食べるなり、乙女声で『こんなの初めてかも』と言うもんだから」
「違います。『そういえば似てるわね』です。これを『総入れ歯、煮てるわね』と聞き違えたのです」
「な、何だいそれは? 総入れ歯?」
「二十年前に発生した殺人の被害者、
「……よく見抜いたわね」
また秒殺かよ!
「山根はなさんは、当時の穴黒さんの共犯者だった
「入れ歯の歯って、本物じゃないんだからそんなことをしても無意味だろうに」
「ところが山根さんは、約150~200年前の入れ歯に拘ったみたいでしてね。他人から本物の歯を密かに集めて、入れ歯にして使っていた」
「気持ち悪いな。臭いそうだし」
「大昔に使われていた当時も、そんなに評判のいい物ではなかったみたいですね。それはさておき、不運をカバーできるだけの僥倖に助けられ、二十年前の事件は迷宮入りした。もちろん穴黒さんは伊川谷さんも始末して、うまく逃れたようですねえ。ところが二十年が経過して安心しきっていたところへ、桐崎さんの台詞です。聞き間違えなければなんてことなかったのに、この女は過去の秘密を知っている、と穴黒さんは思い込んだ」
「何という悲劇だ」
刑事の感極まったような言葉に、穴黒永遠はその場で膝をつき、おいおい泣き始めた。
完全に無関係で傍観者を決め込んでいた僕でも、「なんだこれ」と思わずにいられなかった。
「なんか帰りたくないな」
推理ショーが終わったあと、会場となった部屋でもたもたしていたら、探偵のそんな呟きが聞こえた。刑事の耳にも届いたらしく、反応している。
「何を言ってるんですか。事件は解決した。あなたのおかげだ」
「いや、それが名探偵としての悲しい能力が、今もまだ作動しているみたいです。連続殺人が片付いたばかりだというのに、新たな事件がここで起きるような、そんな予感がするのです」
「ははは。いくら何でもそれはないでしょう」
刑事が笑い飛ばしたところへ、その部下が部屋に転がるように入って来た。
「ど、どうした?」
「大変です。また死体が出ました!
「何?」
刑事と探偵が顔を見合わせる。
「殺しなのか? もしや、またダイイングメッセージが残されてるんじゃないだろうな」
「あの、それが……こう読める血文字がありました。『なんだかんだで、饅頭うまい』と」
「何ぃ? 前にも増して意味不明だ。そもそも死にかけで『饅頭』と漢字で書くか? 名探偵、分かりますかね?」
「うーむ。饅頭こわいなら落語やお茶が連想されるんだが……ああ、そうか!」
探偵は閃いたらしく、左の手のひらを右の拳でぽんと打った。
「分かったかもしれません。このダイイングメッセージの意味は――」
「意味は?」
勿体ぶる探偵に、刑事が合いの手を入れる。
* * * *
「ん?」
PCで小説投稿サイトにあるアマチュア作品の一つを、くだらないと思いながらもついつい読んでいた私は、最後のページに進もうと矢印をクリックした。だが、動かない。
かちゃかちゃと何度やってもだめ。でも他のサイトは問題なく表示される。ていうことは――。
と、ちょうどそのタイミングで、小説投稿サイトのマスコットキャラが画面に現れ、合成っぽい声で言った。
『緊急メンテナンスなのです』
終
ずるくてむりやり 小石原淳 @koIshiara-Jun
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