あと、少しで家へ帰り着く。でも、アレは間違いなく自分の方へ向かってきている。あのままだと家の中にもアレが来るんじゃないか。

 まずは、アレの正体を考えよう。そもそも、なんであれは自分で追ってきているんだろうか。結果には原因があるに違いない。アレが追ってくるようになった時、何をしていたか。


「夜に口笛を吹いたらいけません。」


 ふと、頭の中で声がした。いや、昔言われた言葉を思い出した。

 口笛、それが原因かもしれない。口笛を吹くと、泥棒が来るとか、蛇が来るとか、幽霊が来るとか、そういう言い伝えがあった気がする。そのとき、頭の中である考えに思い至った。

 

蛇だ。アレは蛇かもしれない。


 自分を追ってきているアレは、一匹一匹が小さい蛇の幽霊とか、そんなものなのかもしれない。蛇の苦手なもの、蛇避けになるもの、走りながら見渡した。なにか、ないだろうか?もしかしたら、蛇の苦手なものなら効果があるかもしれない。

 目についたのは、コンビニの前においてあるタバコの吸殻入れだった。蛇はタバコのヤニが苦手だって聞いたことがあるな。タバコの吸殻入れには、運良く水と、大量の吸い殻が入っていた。それを無我夢中でアレの通り道へとぶっかけた。

 さっ、とアレは散っていき、追ってこなくなった。


「おい、なにしてるんだ!そこのガキ!」 

 その声でやっと今までの日常に帰ってこれた気がした。コンビニの店長の怒鳴り声が少しうれしかった。結局、店長に謝って、散らかしたタバコの吸殻を片付けて、家に帰った。もう、これきり自分を追ってくるものはいなかった。


「夜に口笛を吹くと、蛇が来る」というのは、口笛が近所迷惑になるから、それを子どもにやめさせるための言葉だったに違いない。しかし、そんなしつけのためのただの言い伝えも、潜在意識の中で残っていて、たまたま幻想を生み出したのだろう。あれはただの幻だったと、信じている。いや、そうであってほしい。

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夜の口笛 伍一 降人 @syero

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