第2話 初召喚と万能魔法

「さて、召喚する前に特性について説明する。特性は召喚に最も重要なものだ。【生成】。…召喚にはこの魔晶を使う」


また言葉を唱えるとノルディスの手から透き通るほど綺麗な紫色の結晶が現れた。


「魔晶とは私たち管理者の特性を結晶化したもの。これを砕いて魔力を送ると結晶に含まれた特性に沿ったモンスターが召喚できる。召喚のために砕く結晶の量は結晶の質に直結する。質がよければ必要な魔晶は少なく済むが、粗悪なものなら大量に必要になり、モンスターの質も落ちる。自分で生成するときにはどの程度の質にするかは調節できるが稀にダンジョンモンスターからも結晶が手に入ることがあるから手に入れた時は質に注意しろ」


実際に魔晶を粗悪なものから質のいいものを用意していて、ノルディスの説明はとても分かりやすかった。

管理者の特権だろうか、魔晶を持ってみると感覚的にこれが召喚に必要な量に対してどれくらいかがわかる。

…だがノルディスか作り出した魔晶でもぴったり半分といったところだ。

ノルディスはこれが最高のものと言っていたが一個で完全に補えるほどの魔晶は作らないのだろうか?これも感覚だが全てのリソースをかければ創り出せる気がする。


「それも説明しよう。モンスターの召喚には魔晶の特性が大きく関係している。例えば私の【魔】だと魔術、魔法、魔物、魔獣…魔に関係するモンスターが召喚される。そこに別の特性の魔晶を合わせて使うことでさらに召喚するモンスターを限定できる。召喚に【魔】と【獣】の2つの比率を半々で召喚するのなら魔獣が召喚されるだろうな。このことからわかるだろうが特性を細々と混ぜ合わせても変に混ざり返ってモンスターの質を落とすだけだ。モンスターの主軸となる特性を50%、残りの50%で限定する特性を3種類以内で済ませるのが一番理想的だろうな。逆に100%同じだとあまりに不明瞭で無駄が多すぎる。さて、実際に召喚してみろ。今回は私の【魔】50%とお前の【人】50%で召喚する。魔晶を持って手に魔力をこめて握れば簡単に砕ける。砕いたら【召喚】。それでいい」

「【生成】」


俺の手に現れたのは無色の魔晶。それにノルディスから貰った紫色の【魔】の魔晶。


「【召喚】」


2つの魔晶を砕くと魔晶のかけらは落下せずに宙に浮き、光を帯びて1つに集まるとどんどん光が大きくなり視界が白く染まった。

思わず目を閉じ、光が収まり、目を開くとそこには魔晶は無く黒髪のショートボブで10代後半ほどに見える女の子が立っていた。


「はじめまして、マスター。私はケルト族、名前はユグナ。よろしく」

「ケルト族…!?しかも刻名ネームド…!」

「刻名?俺はオルタル。これからよろしく頼む。ユグナ」

「…ん、よろしく」


ユグナに手を差し出すとゆっくりではあるが握り返してくれた。

ノルディスの方に振り返って様子を伺っていると、彼女はまだ驚いた表情をしていた。


「ケルト族か…」

「ノルディスは知ってるのか?あと刻名とかいうのはなんだ?」

「ああ、モンスターの中でも優れた者には最初から名前が付けられている。例えばユグナのケルト族ならケルトと言う種族名だけになる」


ノルディスがユグナの方を向いたので俺もそちらを向くとユグナは地面に手をつけてブツブツなにか呟いているようだ。


「なにやっているんだ?」

「ケルト族はルーン魔術の使い手。ルーン魔術は万能だ。ルーンさえ刻み込んでしまえばなんでもできるとまで言われている」

「…流石になんでもは言い過ぎ。…でも、こう言うことはできる」


そう言ってにこりと笑って立ち上がるとまたなにかを唱える。

すると先程彼女が触れていたあたりから苗が芽生え、みるみるうちに成長し大樹とも言える巨大な樹木が誕生した。

俺は開いた口がふさがらず、隣を見るとノルディスも唖然としていた。


「こ、これは…?」

「ん、ここらへんの地脈を弄ってこの木に集めてから広がっていくようにした。これでこの辺り一帯栄養たっぷり。作物も良いものが早く沢山育つ」


自慢げに胸を張るユグナ。その後ろに堂々と立っている樹木にはリンゴが実っている。


「これ、リンゴか?」

「ん!この木に実るリンゴにはこの木に集まった周辺の栄養と魔力がたっぷり。これ食べれば回復も早くなるし魔力も回復する」


そう言いながらリンゴを1つ取ってこちらに差し出してきたのでお礼をし受け取り一口齧る。


「うまい。疲れが吹き飛ぶみたいだ。召喚に使った魔力も回復してきてる」

「とんでもないモンスターを引き当てたな…傷も魔力も癒える薬なんて箱庭でも数個あるかないかだぞ…?」


そうなのか?随分と簡単にやってのけたから魔術では基本なのかと。


「戦闘もできるし他にも色々できる。何もないところから開拓していくの楽しい。これからも開拓しても良い?」


本人がこう言っていることだし、無理しない程度に頑張ってもらおう。

とりあえず目先の目標は管理者の仕事の安定化だな。


「こっちからお願いしたいくらいだ。改めてよろしく頼む。ユグナ」

「ん!よろしく!オル!」


そういって笑ったユグナは今まででいちばんの笑顔だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱庭の管理者になりました 西桜 @hiroa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ