第4話 ハプニング調理体験

 待ち合わせの時間より少し速く図書館を出て調理室に向かうと割と人気な部活動であるのか既に受付を行っている場所にはそこそこの列が発生していた。

「あっ、やっときた!こっちこっち!」

 声のした方向を見ると既にあずきが水塔とともに列に並んでいることが確認できた。

 列の半ばほどだが知り合いが元から並んでおり、あずきが3人で待つ旨を列整理を担当していた上級生に話していたこともあり、途中からだが並ばせてもらった。

「悪い、待たせたか」

「ううん、そんなに待ってないよ」

「嘘つけ、5分近く待ってただろ」

「え…?どうしてそれを…もしかしてエスパー?」

「列の途中あたりの状況から察した」

「葉月が言ったとおり大体5分くらい前から待ってたわ」

「水塔も一緒だったか」

「…あずき1人だけだと何をしでかすか分からないから着いてきたわ」

「…それは俺も同意する」

「ちょっと!わたしそんなに料理ができないわけじゃないよ!」

 それは過去に起こした事件を思い出してから言ってほしいものだが。という言葉を飲み込む。

 因みに過去に起こした事件の内容はカレーにチョコレートを入れるとコクが出ておいしくなる。という情報を誤った形で仕入れたのか甘いのではなく苦くて辛いカレーを作り出したことなどを筆頭に数多くある。

 主に知識量不足や味の暴力的な足し算が原因だが本人は悪気はなく、その度にかなり反省をしているためこちらも本気で怒りにくい。

「12時になりました!準備ができましたので体験入部希望の生徒は係員の指示に従って入って下さい!」

 そこそこ希望者がいるため人数制限が設けられており俺たちはすんなりと入ることができた。

「今日はちゃんと先輩方の言うこと聞くんだぞ」

「まかせて、とびきり美味しいの作るから!」

 小さく両手でガッツポーズをする、どうやら今日は本当に張り切っているようだ。

「皆さん今日はお集まりいただきありがとうございます。調理研究部部長の神崎楓かんざきかえでです!」

 前の教卓にこの部活動の部長が陣取る。

「綺麗な人だな~」

「おい、それよりあずきは調理説明の方に注目してくれ」

 注意をすると真面目に注目する。実際顔立ちは綺麗な人だとは思うが…。

「それでは調理研究部の体験入部ということで今日はパンフレットに書いてあるとおりクッキーを皆さんに作ってもらおうと思います!部員もしっかりサポートしますので分からないところがあれば質問して下さい!」

 レシピを見ると簡単なプレーンクッキーな様で確かにこれなら比較的短い時間で体験できるから回転率も良いだろう。

 しかし問題としては割とこの部活が人気なのか外には待っている人が多く教室の中にまで声が聞こえてくることと、周りに女子しかいないことだろうか。

「…気まずい」

「まぁ察するわ」

「頑張っていこう!」

 こうして3人でのお菓子作りが始まった。

「まずは生地作りだが…分量は最初から量ってあるんだな」

「面倒な作業がなくてありがたいわね」

 この体験入部の形式は人数ごとに材料の分量を配布し、それで生地を作り、それを型にとって部員が部室内のオーブンで焼くというものなのでよほどのことがなければ失敗もない。

「夕ボール取って」

「はい」

 ボールとともに泡立て器も渡す。本当なら攪拌かくはんしていくと固まってくるため、へらのようなものも渡した方が良いのだが一緒に渡すと混乱しそうなので様子を見ることにしよう。

「出来た!」

「「つ、つかれた…」」

 少し時が流れクッキーの完成の段階になった。出来映えはというと結果的には大成功で綺麗にラッピングされた普通のクッキーができあがった。

 しかし、その過程で様々なトラブルに見舞われた。

 まず、なぜか分量事で分けられているものを小分けに入れようとしたり、泡立て器で強くかき混ぜだして溢しそうになる。

 レシピが書いてあったのだが、それに書いてあることから外れてバターや牛乳の入れる順番を間違える。

 部員の方のサポートもあったのでセーブできたが正直俺と水塔の補助だけでは精神がもっとすり減っていただろう。

「2人ともごめんね、私が色々間違えちゃったりして」

「いや、良いけど…本当に気をつけてくれ…目が幾つあっても足りない」

「今回は私達がいたから良いですけどレシピを確認するくらいは気をつけてよね…」

「俺としては水塔が割と料理できる方だったのが驚きだったぞ」

「私は弟たちにお弁当を作ってあげてるからね」

「いやー…精進します」

 反省はしているようなので次回以降の作品に期待しておくとしよう。

「でも、やっぱり私料理について勉強したい…」

「好きにするといいじゃないか、あずきは真っ直ぐやりたいことをやるといい。俺はあずきにそうあって欲しい」

「私もそれに賛同するわ、あずきは好きにすると良いわ。何事もそうやってぶつかってきたでしょ?」

 俺たちの言葉を聞くとあずきの落ち込んでいた目はやる気の満ちたものに変わる。

「今は出来ないかもしれないけどいつか美味しい料理作れるようになるためにここで頑張りたい」

「その意気だ、あずきは元気が取り柄なんだからそうでないとな」

「うん!」

 ずっと見続けてきたからこそ幼なじみのこの表情がとても好きだ。俺にないものをたくさん持っていてとてもうらやましく感じる。

「今日はあずきと軽音楽同好会の方を見に行こうと思うけど、葉月はどうする?」

「俺は気になってる部活動があるからそっちに行く」

「じゃあまた後で」

「帰るときに一応連絡するから都合合えば一緒に帰ろう」

「了解!」

「これで付き合ってないって…まぁいいわ」

 こうして俺たちはここでおのおののやりたいことのために別れることにした。

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青春不感症候群 釣場 亜蓮 @allen9630

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