Epilogue

epilogue

 区域E第十三区画の統一魔術学舎、及び学舎下の街を襲った『殻の異形』による侵攻災害は、第五次『殻の異形』大侵攻と名付けられた。

 過去に大侵攻と名付けられたものの中でも最大規模の侵攻による被害は、しかし数の上では比較的少なく、死傷者は千人にも満たないとされる。その要因としては、統一魔術学舎の奮闘、そして何より三人の『龍殺し』の魔術師がその場に揃っていた事による事態の早期収束があげられる事が多い。特にライカンロープの功績は大きく、自身の命と引き換えに『殻の異形』の実に半数以上を殲滅したという説もある。

 よって、大侵攻を行った『殻の異形』の実に九割以上は統一魔術学舎を抜ける前に処理され、学舎下の街に辿り着いた少数の異形による民間人への被害は最小限で済んだ。

 以上が、今回起きた事の表向きの顛末だ。

 実のところ、それがどこまで本当なのかは俺にも判断が難しい。過程が丸々嘘で固められているのは間違いないが、学舎下の街は意外というべきか異形の侵攻からの復興は早く、俺の見ず知らずのところで傷つき死んだ人々を除けば、表面的にはすでに以前の八割ほどにまで立ち直っているように見える。案外、最小限の被害というのは正しいのかもしれない。

 そこまでが学舎下全体の事情だとすれば、俺個人の事情もまた悪いものではなかった。

 事が全て単なる『殻の異形』による災害と片付けられた以上、俺に掛かっていた学舎への異形侵入の手引きの疑いも誤認識という扱いになっていた。むしろ、異形の撃退に貢献した『龍殺し』として立場も上がり、報奨金まで貰ったくらいだ。

「はぁ……」

 もっとも、結局のところそれは、やはり表向きの事情でしかない。

 個人的な変化としては、やはり第一にエスを失った事が大きい。

 異形の襲撃があったあの日、姿を消したエスの消息は一向にわからないままで。統一政府の発表どころか学舎の噂話ですら、異形の少女の存在は一切表に出ていない。旧廃墟群、以前のエスの住居に足を運んでもみたが、期待も虚しくそこに少女の姿はなかった。

 本来は、文句を言うような状況ではないのだろう。出回っているエスの情報など、少なければ少ないほど彼女の安全に繋がる。あの時、エスが不意打ちで俺の意識を奪ったのも、自分を連れて逃げるより、あの場で被害者として倒れていた方が俺の立場が悪くならずに済むとの考えがあったのだろう。少なくとも、事実としてそうなってはいる。

 現状は、俺達の双方にとって良い方向に運んだ。だから、これはあくまで俺の我儘でしかないのだが、その上で俺はエスに傍にいて欲しかった。俺の本当の目的は、エスに借りを返す事でもエスを救う事でもなく、彼女と共に過ごす事だったのだから。

「はぁ……」

 もう何度目になるだろうか、溜息が零れた。

 エスが姿を消して以降、ほとんどが家の中でこんな時間を過ごしている。

 魔術学舎で手当てを受けたハルは、俺が彼女を尋ねる前に学舎を抜け出していた。ティアとはアトラスとの一件から、顔を合わせるのが怖くて避けている。それでも学生の立場である以上、学舎に向かうべきなのだろうが、エスが俺の前から消えた今、龍殺しを名乗るために学舎で魔術を磨く意欲すらも希薄になっていた。

 それでも、抜け殻の日々はいずれ終わる。エスと過ごした時間はごく短いもので、いくらかの時間があれば薄れていくだろう。あるいは――

「――っ」

 来客を告げる鈴の音。それを聞いて、緊張で身体が跳ねた。

 俺が自ら住居を知らせた相手はただ一人、エスだけだ。

 もっとも、だからといってエスが戻ってきたと期待しているわけではない。期待が欠片もない、と言えば嘘になるが、緊張の理由の大半はそれとは別だ。

 俺は『龍殺し』の英雄として無罪放免となった。だがそれは、あくまで表向きの事情に過ぎない。そして、その事を知っている者は俺以外にも確実に存在している。

 統一政府。真実を隠し、表向きの平穏を造り上げたのはそれ以外にあり得ない。だとすれば、彼らは全てを知っているはずだ。

「誰だ?」

 扉を開け、一言問う。時間稼ぎは、おそらく無意味だ。

「エドワード・ベイカー」

 返って来たのは、原初の魔術師の名。三百年以上前に生まれた男の名前だった。

 だが、そこに立っていたのは白の少年。透き通るような白い肌、光を弾く絹糸の白髪。そして白の衣で身を包んだ少年が、俺の前で完璧な笑みを浮かべていた。

「もう一度聞く。お前は誰で、何のために俺に会いに来た?」

 少年が単なる悪戯目的の一般人でない事は、雰囲気と第一声からわかった。だが、その発言の意味までは流石に察せない。

「だから、私はエドワード・ベイカーだよ。原初の魔術師――それだけが辛うじて許容できる称号だけど、そんな異名で呼ばれている張本人。君に会いに来た理由は、一言で語るには少し複雑過ぎるから、順を追って、としようか」

「……お前が、エドワード・ベイカーだって?」

 繰り返された名前は、意図などない単純な名乗りだった。

 だが、あり得ないとは言わない。そもそも、エドワード・ベイカーは年齢を数えればとうに死んでいるはずで。彼が今も生きているという無理を認めるなら、最早その姿が老人であろうが少年であろうが大差はない。

「なら、お前もライカンロープと同じだって事か」

 それに、俺は少年の容貌に既視感があった。

 染み一つない白い肌、光を跳ね返す純白の髪に整いすぎた顔の造形。それは、俺の最も良く知る異形である少女、エスの外見と相似していた。つまり、彼もまた異形だろう。

『殻の異形』の肉体はいまだ謎に包まれている。異形の身体であれば、あるいは三百年を同じ姿のまま保つ事も可能かもしれない。

「よくわかった……と言ってもいいんだろうけど、厳密には微妙に違う。ライカンロープは完全に人造、一から造られた異形だけど、私は身体だけだ」

「身体だけ?」

「元は君と同じ、ヒトだという事だよ。そこから、身体だけを作り変えた」

 そう言って笑うエドワードの表情は、たしかにヒトのそれに他ならなかった。無表情なエスや冷淡なライカンロープではあり得ない。

「そろそろ認めてもらえたかな? 時間が足りなくなるかもしれないから、できれば話を進めたいんだけど」

「……続けてくれ」

 実際、ここで問答を続けるよりも、用件を進めさせる方が彼の素性を判断する材料も増える。統一政府の使いか、あるいは他の何かか。自称エドワードの所属や目的は気になる。

「その前に、場所を移そうか。少し歩きたい」

 提案に返事をするよりも先に、エドワードは歩き始めていた。

「統一政府は、私が作った」

 散歩ついでの雑談。そんな口調で、白の少年はそう切り出した。

「そして、『殻の異形』を生み出したのも私だ」

 だが、その内容は到底軽々しく口に出せるようなものではなかった。

「正確には、あれの作成には私は関わっていない。ただし、あれが『殻の異形』と呼ばれるようになった理由、ヒトを滅ぼす存在になったのは私のせいだ」

 エドワードの話は、あまりに規模が大きすぎた。真偽を計る以前に、俺の処理できるような問題には思えない。

「『殻の異形』は元々、現在の統一政府における第一種魔術師のような治安維持機構として造られたものだ。ヒトを殺す事に特化したのも、本来はヒトにとって危険因子となる者を処理するためだった」

 俺の反応を窺いながら、それを無視してエドワードは言葉を続けていく。

「ただし、私が魔術元素を作り出した瞬間、あれらは一転してヒトに牙を剥いた」

「魔術元素を作り出した?」

「そう、魔術というのは、私が発見したモノじゃない。特定の条件下において従来の物理法則ではあり得ない現象を発生させる、魔術元素と呼ばれるモノと、それを扱う技術体系を私が一から作り上げたんだよ」

 原初の魔術師の名を持つエドワード・ベイカーは、この世界に漂う魔術元素へ干渉し、魔術現象を発生させる手段を確立した存在として知られている。だが、エドワードを名乗る少年は、そもそも魔術元素は自分が生み出したものだと主張していた。

「ただ、結果として魔術元素は私の想定外の機能を持っていた。その中でも、最大のものが『殻の異形』の暴走だ。もしくは、あれは暴走したのではなく、今もヒトを守るためにヒトを殺しているのかもしれないけど……まぁ、同じ事だね」

「……どうして、それを俺に?」

 自称エドワード、白い少年の語る内容は公には秘匿されているようなもので、ともすれば世界の根幹にすら関わりかねないが、事この場に限ってはそれが何らかの意味を持つとは思えない。俺に世界を救えとでも言うなら、流石にそれは的外れが過ぎる。

「誰かに、話したかったんだ」

 そして少年の告げた言葉は、無意味を認めるものだった。

「統一政府は、人類の滅亡を防ぐために私が作った。だけど、その頂点の連中にすら、この事実を話した事はない。精々、『殻の異形』がヒトの作ったものである事までだ」

 それは、保身のためというよりは組織を成立させるためなのだろう。自身が全ての元凶である事を知られれば、目的がどうあれ信頼など得られるわけもない。

「だから、ずっとそれを話す相手が欲しかった。君が選ばれたのは、ただの偶然だよ」

「なら、本題は何だ?」

 白の少年の感傷を切り捨て、こちらから踏み出す。彼の語る偶然が、賽の目のようなただの確率であるはずはない。エドワードには俺を尋ねる本題があり、そのついでで馬鹿げた規模の身の上話を零しただけに過ぎない。

「私は『殻の異形』の作成に関わってはいないと言ったね。でも、例外もある」

 エドワードの視線の先、俺達の進行方向には見慣れた名が掲げられていた。

「ライカンロープ。あれは、統一政府が統一歴以前の技術を掻き集めて造り上げた異形の魔術師だ。その作成には私も多少の力を貸した」

 ライカンロープ記念庭園。『龍殺し』の魔術師にして異形の名を冠した巨大な庭園が、エドワードの向かっていた場所だった。

「あれを殺した責任を求めるつもりなら、お門違いだ」

「そんなつもりはないよ。そもそも、あれは失敗作だ。私の目論見とは違って、あれの目的は『殻の異形』を壊す事になってしまった」

「それじゃあ駄目なのか?」

「駄目ではないけど、効率が悪い。それに、想定外の作品の怖さは良く知ってるからね」

 エドワードは大袈裟に頷いて見せるも、そうなると俺には更にわからない。

「なら、結局お前は何がしたい?」

 エドワードの目的、俺をどうしたいのかがいまだに一切伝わってこない。はぐらかすような言葉は楽しげだが、まさか本当に歓談のために俺を訪れたとでもいうのか。

「君はエスをどう思う?」

 再三の迂遠な切り出しは、しかし本題だろう。

 原初の魔術師、彼曰く『殻の異形』の元凶であるエドワード自身と違い、俺の特別性はエスとの関係の一点に限られる。エドワードが俺を訪れる理由は、エスに関する事である可能性が最も高い。

「……どう、って?」

 だが、それでもやはり問いは迂遠に過ぎた。どんな類の答えを求めているのか、それさえ少年の言葉からは定かにはならない。

「君はエスを使いたい? それとも遠ざけておきたい? あるいは、殺したい? 彼女をどう思って、どうしたいのかを聞きたいんだよ」

 下らない質問だ、と思った。

 結局のところ、エドワードの話は無駄が多い。この問いですら、単なる会話であり彼の好奇心を満たすものでしかない。本題に入るつもりがないのか、それとも本題など存在しないのか。もしくは何か別の意味があるのか。どれにしても不愉快で、俺としてはただ焦れるばかりだ。

「俺はエスの傍にいたかった。それだけだ」

 それに、何より、エドワードの感傷に流されるかのように、自分の内にあった感情を口にしていた自分が下らなく思えた。

「そうか。なら――」

 風の音が聞こえた。そう、それだけだった。

「――安心した」

 そして、白の少年は倒れた。

 倒れた少年の奥、そこに立っていたのは彼に良く似た白い少女だった。



「エス」

 その顔に、見覚えがあった。白い髪と肌も、人形のような無表情も。

 そして、彼女がここに来た理由もわかる。エスはただ一つ、目的としてエドワード・ベイカーを殺す事を掲げていた。だからそれを実行した事実も、それを可能とする力も、全てが目の前の少女がエスである事を裏付けている。

「……ルイン」

 少女は俺の名を呼び、しかし踵を返した。

 逃げられる、と思った。手を伸ばしてもわずかに届かない距離、そしてエスの運動能力は俺のそれを優に超える。今ここを逃せば、追走でエスに追いつくのは不可能だ。

 本当は、わかっていた。エスの唯一語った目的、エドワード・ベイカーの殺害はここで成された。ならば、もうエスが偽の『龍殺し』である俺の傍にいる理由はない。エスがそう望むのであれば、立ち去る彼女を止める事はできない。

「少し……待ちなよ……エス」

 そして、駆け出しかけた少女の足を止めたのは、地面に這いつくばったままで足首を掴んだ少年、エドワードだった。

「――――」

 反転、そして手刀。一撃がエドワードの背を叩き、少年の腕が落ちる。

「……助かっ、たよ……ルイン

君」

 更に続いた二撃目は、俺がエスの腕を掴んで止めた。

「お前は、どうしてまだ生きてる?」

 振り解こうとするエスを止めながら、警戒の目はエドワードへと向ける。

 エスの力は、自らが触れた異形を問答無用で殺す。それは相手が龍であっても、あるいはライカンロープのような人型であっても、だ。

 だが、目の前に転がる白い少年は死んでいるとは言い難い。だが、異形の身体であるというのが嘘だったにしては、身体的な被害は大きすぎるようにも見える。

「私は……元は人間だ。だから……身体の……っ、全てが異形ではない。今は……辛うじて元々の……身体の部分が動いてる……だけ、で……数分としない内に……死ぬよ」

「そうみたいね」

 俺の拘束を受けながらも、強引に蹴り抜かれたエスの足がエドワードの腕を弾く。力無く跳ねた少年の腕は明後日の方向へと曲がるも、本人の反応は鈍いものだった。

「おめでとう……エス……これで、君の仕事は終わり、だよ」

「ええ、そうね。私は、あなたを殺すためだけにあなた自身に造られたのだから」

「そう……君に与えた……目的は、それだけだ」

 エスとエドワード、両者が告げるのはエスの誕生の経緯。

 他ならない張本人である二人が口にしたのだから、それは事実なのだろう。エドワードは自らを殺すためにエスを造るという、遠回りに過ぎる自殺を行っていた。

 それは贖罪のつもりなのかもしれないし、長い年月の中で生きるのに疲れたのかもしれない。ただそういう趣向があっただけ、という事もあり得る。ただ、理由がどうであれ、エドワードにはそれを全て告げる時間は残っていないだろう。

「なのに……君は……なぜ、去ろうとする?」

 抑揚すら聞き取れなくなりつつあるエドワードの声は、だが疑問というよりはあらかじめ知っている答えを引き出そうとしているように聞こえた。

「――――――――」

 そして、エスは止まる。

「立ち去る……理由は、ない……はずだ。それこそ……君は、ここで止まってもいい」

 答えを出せないエスに、エドワードは更に問いを重ねる。

 エスには、もう俺の傍にいる理由はない。だが、同時に俺から逃げる理由もない。

 エドワードに造られた存在、身寄りも経歴もないエスには、まともな生活を送る事は難しいはずだ。かつてのように『殻の異形』観測区で生きていく事はできるだろうが、それが俺を頼り学舎下の街で暮らすより恵まれた環境だとは思えない。

「――私達の契約は終わった」

 しばらく遅れて、エスはそう答えを出した。

「だから、ここにいる事はできない。私は――危険だから」

「たしかに……そう、だろうね」

 エスの答えに、エドワードの首がわずかに揺れる。

「君の……性質は……唯一だ。統一政府に、反体制派……君の存在を、知れば……欲しがる組織や、個人は……いくら、でも……いる」

 ライカンロープから奪った制御装置が効力を持っているのか、今は『殻の異形』を無制限に引き寄せる性質は鳴りを潜めているようだが、それでも本質的にエスの持つ力と性質が変わったわけではない。いずれは、エスの正体に気付き接触しようとする者も現れるかもしれない。そして、そういう類は大抵、平和的な手段に徹しようとはしないものだ。

「でも……つまり。君は、もう……わかって、いる……はずだ」

 エドワードの掠れた声が、意味すら曖昧になった言葉を紡ぐ。

「後は……任せ――」

 そして、そこで声は完全に途切れた。

 エドワード・ベイカー。原初の魔術師にして、エスの産みの親。世界に、そして俺にとっても最重要な人間の一人であったはずの男は、あまりに呆気なく息絶えていた。

「……エス」

 だが、初対面であり、言いたい事だけを語っていったエドワードの死に、俺は何かを感じるような関係性には至っていなかった。

 それよりも問題は、目の前に生きるエスだ。

 直接捕まえられる距離にはいるものの、力比べで俺が勝てる保証はない。そもそも、力づくでエスを傍に置いたとして、そこに意味はない。今、ここでの対話をもって、エスと俺の納得のいく結論を出すしかないのだ。

「エス、俺と来い」

 そして、俺の答えは決まっている。

「私は――」

 対照的に、エスは言葉を選べずにいた。長く、会話の間ではない沈黙が続き、その間中ずっとエスの表情は欠片も動かない。

「――私は遺物。エドワード・ベイカーを殺すため、彼自身に造られたモノ。あなたは、ルインは私を使いたいの?」

 ようやく紡がれたのは、そんな問いで。

「違う」

 俺は、即座にそれを否定する。

「誰に造られたのかも、お前の力も関係ない。俺は、エスの傍にいたいだけだ」

 告白紛いの言葉を口にして感じるのは、わずかな気恥ずかしさと奇妙な充足感。

 そう、最初から、それを伝えるべきだったのかもしれない。俺にエスの考えが読めないのと同じように、きっとエスも俺の考えなど口にしなければわからない。俺は、何を差し置いてもエスの傍にいたいだけなのだと伝えるべきだったのだ。

「――――――――――――」

 沈黙は、今までで一番長く続いた。

 長く、永く感じられる沈黙。体感はもちろん、時間で数えてもおそらく長過ぎる考慮の最中、エスはただ無表情に固まっていた。

「――私は、ルインを死なせたくなかった」

 呟くような声を、俺は聞き逃さずに済んだ。

「私は、あなたの命の恩人だから」

 思えば、それが始まりだった。

『殻の異形』観測区。龍に殺される寸前の俺を、エスは助けた。

 あの時から、きっとエスに難しい打算は要らなかった。そもそも、最初、彼女は俺に対して何の見返りも口にしなかったのだから。

「だから、あなたの傍に置いてほしい」

 エスの目的はすでに達成された。だとしても、俺達の契約はまだ終わってはいない。

 命の恩人が俺に出した要求は二つ。『龍殺し』を名乗る事、そしてもう一つの要求を再び口にして、少女は微かに笑みを浮かべたような気がした。

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『龍殺し』の嘘と罪 白瀬曜 @sigld

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