ぼっちの進化

追跡、と言うよりかはダラダラと後ろを追っているだけだが随分と早くストーキング行為は終了した。

その理由としてはまず狐化種の生徒が自転車を乗り捨てたからだろう。

家の近くになると返すのが面倒になったのか空き地に乗り捨てて家に行ってしまった。

他人に付け入るには恩を売るのが定石、なるほど、確かに高価な自転車を返しにきてくれた場合それは恩になるのだろう。

誠はその自転車を持ち上げて自身の自転車と並走させようとするがその近くの茂みに放り捨ててある自転車も目に入って動きを止める。

確かーーと誠は豚獣種の生徒の話していたことを思い出す。


『他の人にも同じこと言って放り捨てたでしょ!』


もしかして、と誠は考えて自転車を立て直すが放置されてからまだそれほど経っていないのか軽い汚れしかなかった。

そして極め付けに自転車の胴体に名前の書かれたシールが貼られていてそのシールにはやはり高校名とその持ち主の名前が書かれていた。

つまりこの自転車はあの豚獣種の生徒のように盗まれた誰かの物だろう。


「はぁ......」


こんな重労働を想定していなかったため誠は深く嘆息し自転車を家に持ち帰った。





自転車数台で学校に登校するのは目立つので早めの時間に家を出ると校門に豚獣種の例の生徒が立っているのが見えた。

どうやら狐化種の生徒を待っているらしい、だが残念なことにあの生徒は自転車を乗り捨てていたので彼の自転車が帰ってくるはずがないのだ。

誠は静かに隣を素通りしようとすると豚獣種の生徒が両目を輝かせ(少なくとも誠の目にはそう見えた)早足で寄ってきた。


「こっこれって僕の自転車だよね!?」


「あっあぁ、そうだと思うけど、ほら持ってけ」


ここまで運んでくるのが大変で誠は疲労から吐息を吐いて、自転車を渡した。


「夢みたいだよ、絶対に帰ってこないと思ってたのに!」


「そうかそうか」


まずい、本当にまずいと誠は思った。

この状況からどうやって友人関係というのを構築すればいいんだ、と。

そもそも友人関係というのが曖昧だと誠は強く心のそこから思う。

辞書で調べようが教科書を見てみようが友人というのは信頼し合える関係とだけしか書いていない。

どうすれば第三者を信用できるのか、そもそも信用したところで何の意味になる。


「ねぇ、ねぇってば!」


「おっおう、なんか言ってた?」


誠は思わず身構えてそう問いかけると豚獣種の生徒はにっこりと笑って口を開く。


「ありがとうって言ってたんだよ!いやーあの時絶対助けてくれないなこの人って思ったんだけど良いとこあるじゃないか!」


「いや失礼すぎるだろ、世の中そんな甘くないんだよ......」


「このツンデレさんめー!!」


「誰がツンデレだ、そうだ、この自転車の持ち主も知ってたりするか?あいつが放置したところにあったから一応持ってきたんだが。生徒の名前のところが滲んで読めないんだよ」


運が良かったと誠は考え一番面倒になる人探しの作業をしないために言った。

人のクラスにわざわざ訪ねて行って誰々さにいますかーとかぼっちにはハードルが高すぎるのだ。


『君は自分の慣れ親しんだーーというか自分のテリトリー以外では喋れないタイプの人間ーー要するにクール気取りのシャイだろう』


ふとエルフのどこかの先輩の言葉が脳に過ぎる。

なるほど確かにそれは合っている自覚は誠にある。

部活内やだれか知り合いがいる状況下では普通に会話できるし問題はそこまでない。

だが一度それ以外の、行ったことのない場所や話したこともない相手に弱い。

そう考えるとあれだけハキハキと喋っていた葵はすごいなと本人居ぬところで軽く尊敬した。


「ねぇってば、僕これの持ち主知ってるって!」


「それは助かる、勝手に届けといてくれよ」


「え?」


キョトンと豚獣種の生徒は誠を見つめる。


「おいなんだその何言ってんのこの人って目は」


「いやいや、それはおかしいだろ?君が見つけてわざわざ学校に持ってきたんだから君が返してお礼を言われるべきだ!」


「お礼なんてたった一言ありがとうだし、そこまで意味ないだろ」


「とりあえず、休み時間に言って放課後に返すからさ、野球部が練習してるグラウンドの近くまで来てくれよ」


「面倒から良いって、俺にも部活あるし」


おい何を言っているんだ自分はと誠は自分が今言った言葉の矛盾に自分にツッコミを入れた。

部活といっても彼の先輩であるエルフの少女とは喧嘩のようなものをしたばかりだし、何より問題なのはこの生徒と関わって適当に鳥人種の生徒の情報を聞き出そうとしていたはずなのに断ってどうするんだ。

それに現在今誠は斜め上横を眺めている。

他人と会話する際はまっすぐ相手の顔を見ろと親が言っていた気がするが初対面の相手の顔を見て話すというのはハードルが高すぎるのだ。


そんな誠を見かねて豚獣種の生徒ははぁっとため息を吐いた。

それにつられて誠は彼の顔を見る。


「ベストフレンドなんだから相手の顔ぐらい見て話してくれよ、な?」


ーー誠は本格的に友達という定義が理解不能になった。


「あっ自己紹介が遅れたけど僕の名前は豚十郎だ、よろしく」


「そっそっか、よろしく」


ダメだもっとハキハキしゃべろ、何故今になってこんな喋れないんだ、部活で会話するように話せば良いだけだ、簡単のはずだろう。

豚獣種の彼は何も言わずにこちらを見つめてくる。


「ん」


「ん?」


豚獣種の中では“ん”という一つの単語が何かの意味を示すのだろうか。

誠は必死に今まで読んだ本の情報を掻き出すがそれに該当する情報は得られない。


「だから名前、君の名前は?」


なるほど名前か、自分が聞いたのだから相手もこちらの名前を知る権利があるのだろう。


「あっそっか、俺の名前は凡人誠だ、よろしく」


「そうかそうか凡人?へー」


こう言われるのに慣れすぎて若干やさぐれた誠は死んで数日の魚の目を浮かべる。


「ーーいい名前だね、凡人ってすごい親近感が湧くね!」


「はっ?」


彼の肯定に近い一言、バカにするでもなく嘲笑するのでもなく、ただ何気なく良いという一言に誠は唖然と両目を見開く。


「いやだから、凡人って名前さ、変にかっこよかったりすごかったりするより親近感湧くねって話し」


「はいはい、お世辞だろうどうせ」


誠はそっぽを向いてそれとなくやさぐれた返事をするがその顔は確かに緩んでいた。

怒るというよりも照れてるという表現が正しいその表情。

二人が何気ない雑談をしつつ自転車置き場に向けて歩いているのを校舎の窓から静かに、それでいて冷たくジト目でエルフの少女は眺めていた。


「そうかそうか、やはりホモだったか」


仲睦まじく(そう見える)会話を続ける二人を見て彼女は自分は間違っていなかったと確信した。

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異種族交流日記。相談部は割と協力的に多分解決します。 @Kitune13

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