The way to be a friend
部活内の事情は部員に聞くのが手っ取り早い。
虐めが起きるてるとか明らかな差別を受けてるとか、後は女子がうざいとか男子の誰々が妬ましいとか。
特に劣等感を感じているような部員は話しかけやすく、同類意識を芽生えさせれば会話しやすい。
会話しやすいのだがーー
「ボッチがどう話しかければいいって話だよな」
誠はボソリと呟いて誰かを待ってるフリをしながら校門で野球部の出待ちをしていた。
出待ちをしていたのであった、つまり過去形、既にある程度野球部の部員は家への帰路についている。
コミュ障を拗らせていることが恨めしい、もっとクラスでキャリキャリした感じの男子のように話しかけられればいいのだが野球部は複数人で家に向かっているのだ。
要するに
第三者が介入する余地もなければ一人で帰るような人間はそもそも野球部にいない。
野球は集団戦であり上手い下手の優劣が部活内で嫌な雰囲気を作り出すことがある。
重要なタイミングでのミスだとか、有り得ない行動など、たったひとつのミスが部活内で不穏な空気を作り出す。
なので周りに溶け込めない、いわゆる日陰者のような生徒は野球部に残ってなどいない、そういうことだ。
「帰るか......」
日陰者とか言っておきながら間違いなく自分がその日陰者の同類であると言う現実が中々に応えて、誠は家に帰ることを決めた。
仲がいいわけでもない第三者に話しかけると言うのは難易度の高い物として自分の脳内に刻まれていて彼はとても話しかけられなかった。
今日は諦めて一先ず自転車を取りに校舎近くの駐輪場に向かうと誰かの叫び声に似たものが耳に入った。
目を向けると昼間に見かけた野球部の豚獣種の小太りの部員と
誠は堂々と見て見ぬ振りを決め込んで顔を逸らして自分の自転車の鍵を外し始める。
その間にも狐化種の生徒が声を荒げて豚獣種の部員を脅してるようだ。
「だからやめてくださいって!!」
「いやいやいいじゃん、返すって言ってんだろ?」
「それ絶対に返さないやつですしあなた他の人にも同じこと言ってどっかに放り捨てたでしょ!!」
ちらっと豚獣種の生徒は誠を見る。
あきらかに今目があったが華麗にスルー、やってることは下衆だ。
「うっせぇな、はよ寄越せや、こっちは急いでんだよ!」
「嫌だって言ってるでしょう!他を当たってください!」
チラッチラッ
「お前うるせぇんだよ、とっとと寄越せや!!」
「いっいやだぁ!!誰か助けて!!」
「大袈裟すぎんだよ!!」
チラッチラッチラッ
いい加減鬱陶しくてしょうがない、世の中の一般常識として弱者は虐げられると言うのが定石、ただただチラ見して誰か助けてと繰り返すのは意味がない。
自分はこの場合第三者であっても不特定多数の誰かではないので返答する必要性はない。
誠は堂々とスマホを取り出して時間を確認する。
時間は午後五時四十九分、寒さ残る初夏の夕暮れはまだ遅く日が彼を照らす。
この後本屋に寄るつもりなので閉店前に行きたい、誠は助けを求める少年に踵を返して自転車の跨る。
哀れな野球部の部員よ強く生きろ、そう適当に心の中で呟いて誠は自転車を漕ぎ始めた。
子供の頃からよく行っている書店の前に自転車を止めて誠は店の中に入った。
古めの本から新しい本までありとあらゆる本を店主の趣味で扱ってる『亀蔵』と言う店だ。
相変わらず客が少なく、
一メートル以上ありそうな背の甲羅に二足歩行に進化した際に得た三本指の特徴的な手があった。
今この世界にいる種族は大きく見て二種類に分けられる。
亜人か獣人か、その違いだ。
亜人は所謂
例えば翼や耳などがあろうが顔や体の作りは人間と一緒である。
だが獣人は容姿が違う、体の作りが違う。
亜人と獣の中間点にいるような存在であり、過去から今にかけて差別の対象とされている。
この老人は
誠は店主の下までダラダラと歩いていくと彼は老眼鏡を外して誠の方に視線を向ける。
彼の浮かべる笑顔は孫か何かを見るような優しいものだった。
「おぅ、来たか......本なら届いてるぞ」
よっこらせと大柄な体を動かして彼は下の戸棚から梱包された本を取り出してカウンターに出す。
誠はその金額分の小銭を取り出してカウンターに置いた。
本のタイトルは『第三者に付け入る方法』だ。
老人は首を傾げて一言。
「こんな本読むのかのぉ?タイトルが気になるんじゃ」
「第三者と会話できないんですよ」
「それで付け入る本かぁ......何か間違ってるとは思わなかったのかのぉ?」
「?」
誠は真面目に首をかしげる。
「きづいてないのか......」
「他人を貶めるにはまず他人との会話力を鍛えなければいけないと思って」
「それは他人を貶めるための会話力じゃろ?」
「それでも第三者に話しかけられない俺にとってはこれでも役に立つと思うんですよ」
本を読む前に普通に話しかけるという選択肢はないのか、そうツッコミを入れそうになるが老人は口をつぐむ。
「本に頼る前に老人に聞いてみようとは思わないのかのぉ?」
「えっ頼りになる老人......どこにいるんですか?」
「ふむ、お主がどのように儂を考えてるかよくわかる言葉じゃな」
「いや真面目に言って今にも潰れそうで客の来ない店の店主に人間関係を聞くのって良いんですかね?」
「失礼じゃの、儂は昔はぶいぶい言わせてたもんじゃ」
「そんなに信用ならない発言久しぶりに聴きましたよ」
「一先ず話しかければ良いんじゃよ」
「それができないから言ってるんじゃないですか。聞いてくださいよ!この本には他人にどうやって恩を売ってこっちに相手側から話しかけさせる方法百選が載ってるんですよ!」
はぁと深い嘆息。
誠は眉を顰めて大きく溜息を吐いた老人を見つめる。
「良いか?他人と会話するのなら相手の趣味を知ったりして話しかけるんじゃよ」
「話しかけられないぼっちに何言ってるんですか?」
「ぼっちもなにもそれは甘えなんじゃよ」
「前ぼっちに喧嘩売ってますね」
「いいか?自分から話しかけないと相手が話しかけてくるわけないじゃろ?」
「なら話しかけないのが正解ではーー!?」
はぁと深い溜息。
誠は眉を顰めて老人を又しても見つめる。
「良いかの?まず相手が困ってたら積極的に話しかけるんじゃ」
数十分前堂々と誠は困っている豚獣種の生徒をシカトしこの店に来た。
なるほどあの時話しかけるべきだったのか、誠は考え直すがやはりその考えも考え直す。
種族的な違いがあれば、相手に暴力を振るわれればとてもじゃないが耐えられない。
無論精神的な話ではなくて物理的な話だ、人間種の彼ーー誠が狐化種の同年代の男に殴られれば首の骨が折れかねない。
自分すら守れないのに誰かを助けようとする人間はただの愚者で余計なお世話。
彼は逃げたのではなくてーー自衛したのである。
そう自分に言い聞かせて誠は後ろめたく目をそらす。
老人は頭をぽりぽりと掻いて口を開いた。
「心当たりがあるんじゃったら今からでもやり直せば良いんじゃ」
「そうですか?」
「そうじゃ、ゆっくりでも良い、じゃがな、人間関係というのは難しいんじゃ。だからこそやらなければいけないことはきちんとやるんじゃ」
「難しいんじゃって......」
確かに見て見ぬ振りは酷かったなと誠は思い直して老人から目を逸らして背後を見ると先ほど見かけた狐化種の男が鼻歌交じりに自転車に乗ってるのが見えた。
あの自転車は豚獣種の生徒から借りると称して奪った自転車だろう、鼻歌を歌ってはいるが盗難行為である。
間違いなく恥ずべき行為であり正しい行いではない。
老人は誠の視線を見ていたのか口元を歪めて小銭を仕舞う。
「さてとな、こんなゴミのような本は置いといて儂のおすすめの本を売ってやろう。時間がかかりそうだから外で散歩でもしてくると良い」
「わかりやすいっすね」
「わかりやすいとはな?」
「あーもう、行けばいいんでしょ行けば!?ちょっと行ってきますね!」
「行け行け、老人は気が短いんじゃ」
なるほど気の長い種族と知られる亀老種もそんな冗談を言うのか。
誠は散歩がてら何故か同じ進行方向に行った狐化種の生徒の後ろを自転車で走るのであった。
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