未完性アポカリプス

機動戦士ガンジス

プロローグ1999

 西暦1999年、僕が生まれるほんの少し前のこと。


 この街、東京都辰見台はにわかに世界の注目を浴びることになった。


 きっかけは、当時の市長の元へ届いた一通のメッセージである。

 差出人は日本国総理大臣、先進国の各国首脳、およびNASA長官の連名。何やら物々しいメンツである。

 恐る恐る封を開ければ、中には薄いメモが一枚。


「誠に遺憾ながら、そこにアレが落ちてきますよ」


 迂遠ながらも察してほしい、そして適切な対処を求む──親切ぶったモノ言いながら、その実忖度を強いる文面。

 いったい何が落ちてくるのか? 世界的に世紀末なこのご時世、ンなもんアレに決まっている。


 恐怖の大王。


 つまりは終わりの始まり始まり──大昔のポエマーの予言が、ものの見事に的中したのだ。


 市長は直ちに会見を開き、人類滅亡の危機と各国首脳のハラスメント行為を全世界に暴露した。



 直後の人類の反応は大まかに分けて3つ。


 1.ンなアホな、とあきれるもの。

 2.お終いだ、と嘆くもの。

 3.世紀末の血が騒ぐ奴。


 とりわけ日本の若年層には就職難をこじらせたタイプ3が多かった。が、そうはいっても滅亡まではいましばらく時間がかかる。

 それまではどうにか生きなきゃならないし、滅びが来るなら阻止するのが行政のおしごとって奴である。


 直ちに対・黙示録プロジェクトが発令され、各国軍隊を再編成した人類軍の創設と辰見台の要塞化が急ピッチで進行した。併せて各ご家庭にトゲ付き肩パッドを配布。きたる滅亡と『その後の世界』に備えていただき準備は完了。


 そんなこんなで7月7日の午後22時、恐怖の大王はやってきた。

 直径およそ20キロほどのダークマターっぽいなにかは鼻歌交じりに辰見台直上3万メートルに飛来、意気揚々とダイブを敢行──光速の十数パーセントで突っ込んだ破滅の塊は、ほどなくして撃墜された。


 撃墜したのは辰見台在住の小学校一年生、瀬間イツキちゃん(当時6歳)。クラスで一番かけっこが早いのが自慢の、元気いっぱいの女の子。

 なんでも七夕だったのでお願いしたら、夢がかなったそうである。


「からてがつよくなりたい」

「セーラームーンみたいになりたい」

「まちのみんなをまもりたい」


 どこのどいつが聞き入れたんだか。とにかく人類史の土壇場で、魔法空手少女ジャスティフィストが爆誕。イツキちゃんは大喜び。やったね!


 そして彼女がマジカルチンクチを込めて放った対空アッパーは人々の夢と希望と未来を乗せて上昇中完全無敵の奇跡を起こし、破滅の化身の自尊心と肉体を木っ端微塵に粉砕&爆砕。かくして人類滅亡の危機は過ぎ去り、セカイに平和が訪れた。


 勝利者インタビューで本人曰く──見てから昇竜余裕でした。

 捕獲された恐怖の大王(残骸)は、留置所の隅で『ぅわょうじょっょぃ』とうわ言のようにつぶやき続けたという。

 

 それから丁度20年──ここ辰見台に新たな脅威が現れたことを、人類の大半はまだ知らない。


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