スケルトン特効魔法性能試験・4

 深く考えても仕方ない。今は目的の為に、この魔法を完成させよう。ヴィナドは思考を切り替えることにした。


「話を戻すと、骨の外側に何かあるって話だったな」

「そうだね。でも、見た感じ骨の表面は削れてるみたいだし、効いてないってことはなさそう」


 確かに、とヴィナドは白くなったスケルトンを思い出す。

 だが、削りきるまでに何回この魔法を打てば良いのか、正直分からないレベルだ。


「障壁や防護膜を張っているとしても粗いな」


 魔法で一般普及している障壁魔法や防護膜魔法は、魔力起因の物理干渉をある程度防ぐ壁や膜であり、そこに穴などは存在しない。

 基本的に身体を覆う魔法なので、全体で微妙に削れると言うことはないはずだ、とヴィナドは首を横に捻った。

 どうも相手スケルトンの構造が読めない。


「あの槍、防護膜くらいなら突破できるはずなんだけど」

「マジかよ、さすがミトさん設計の魔法だな」

「面に強いって言えばいいのかな。圧縮した大気と嵐並の風力で風化を急速に行うってのが想定した結果だから」

「ああ。表面を削り取っていくのは確かに面が硬いものに強いな。骨に対しても」

「そうそう。骨を折っても切っても再生したからね。選択としてはあながち間違っちゃいないでしょ?」

「まあな」


 そして黙る二人。

 防護膜も突破できる魔法をどのように防いだのか。何故微妙に防げなかったのか。

 余計に謎が深まるばかりだ。


「そういえばさ、ヴィー」

「なんだ?」

「スケルトンってどうやって動いてるの?」


 シルスが思い出したかのように、ヴィナドにスケルトンについて尋ねる。

 こういう時は基本に立ち返ることが重要だな、とヴィナドもその質問に答える。


「確か、契約した魂霊の魔力で糸を作り、筋肉の変わりに張り巡らせて、骨を動かす……だった」

「へえ、魔力糸は使うんだ。魔力の織り方は?」


 シルスが見知った内容に身を乗り出す。

 魔力糸は属性魔法にもよく使われる、属性魔法構成の基本となる形状だ。

 魔力糸に属性を与え、織ることで、魔法は属性を得て、形を無し、結果を植える土台となる。

 今回のスケルトン特効魔法も、世の中で最も普及している属性魔法で作っている。

 売れるためには、シェアは重要だ。


「属性魔法じゃないからな、魔力を織ったりはしない。あくまで筋肉の代用だ」

「あーなるほど、よく知ってるね」


 シルスが赤い眼を細めて、ヴィナドを視る。


「……魔法研に居たとき、資料を読んだからな」


 ヴィナドは、視線を合わせず、言葉にだけ応えた。


「相変わらず、魔術の造詣が深いことで。じゃあさ、その糸に魔法阻害機能が追加されて阻まれたとか?」

「ありえないな。それは」

「なんで?」

「事象構成限界の問題だ。スケルトン一体につき視覚機能、糸の形状、力を伝える性質、操作する機能だけで魔力使用量が限界に近い」


 事象構成限界とは、消費する魔力に対して加工できる工程の限界を指す用語である。

 魔力を事象に加工する際、形状、性質、機能、属性などの構成を増やしていくと消費する魔力が二次関数的に増大するという、消費魔力増大の法則。

 これはどの魔法、魔術も例外はない。

 これを逆に当てはめ、消費する魔力に対して構成できる事象の限界を逆算すると、相手がどれほど魔力を消費したのか、どれほどの腕なのかを判断する材料となる。

 事象構成限界を見極めることこそ、魔術や魔法と相対する時に必要な情報なのだ。


 それを踏まえ、今回の対象に事象構成限界を当てはめると、このスケルトンの異常さがさらに強調される。

 スケルトンのような群体を操作するような魔術は、魔力の使い方をシンプルにしないとすぐに魔力切れになる。

 眼には視覚の機能、骨を稼働させるために糸の形状と筋肉としての力を伝える性質。

 さらに、それらを操作する機能を追加すれば、それだけで中級に近い魔力が必要になる。

 操る魂霊操体の数によっては、魔力消費量は中位魔法を越え、高位魔法に届くほどだ。

 ここに防護機能をつけるなど到底無理だろう。


「私なら出来るよ?」

「聖魔導師の魔力保持量を基準にするな!」

「あははは」

「なんにせよ、だ。構成を限界まで使用してるなら、何らかの工夫はしていると考えるはずだ」

「工夫ねぇ」


 再び沈黙が場を支配する。

 視覚、糸、導力、操作。この構成の中で防御を高めることが出来る工夫は何か?


「とりあえず、そろそろ時間切れだよ」

「分かってる」


 考えがまとまらないまま、両者タイムアップ。


「社長、撤退でいいか?」

「仕方ないね。解決策が見つからない以上、ここに居る意味は無いし」


 そう言ってシルスは肩をすくめた。

 出張費用が無駄になるが、強化されたスケルトンが存在するという情報の代価を払ったと考えるしかない。


「これからの作戦目標は、ツカサとサンプルを回収しての撤退戦かな」


 サンプルとはすなわち、スケルトンウォーリアの鹵獲。虎穴に入らずんば虎児を得ず。


「了解。捕縛魔法は任せろ」

「任せた。できれば魔法構造も模写してほしいけど」

「相手が魔術だからな、出来たらラッキーと思え」

「三割程度ってことね。さっすが!」


 シルスはヴィナドに向かって親指を立てる。確かに三割だが……、と正確に当てられたヴィナドはむっと、顔をしかめた。

 かくして、彼らは墓地へと舞い戻った。

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魔法試験官のお仕事は労災無し蘇生あり。 犬ガオ @thewanko

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