すえちゃんず

snowdrop

◯ムのお歳暮

「みなさま、夜のひとときいかがお過ごしでしょうか。今宵も新人のお笑い芸人が、さびしいあなたの心に笑いを提供する番組、『大好き! たこ焼き天国』の時間がやってきました」


 頭にたこ焼きのかぶり物をした司会者が画面に映し出されている。


「本日は、これからブレイクするかもしれない新ユニット、『すえちゃんず』です。それでは、はりきってどうぞ!」


 司会の紹介とともに、おおきな拍手があがる。

 それにあわせ、二人が舞台中央へと滑り出した。


「ばそわ~、すえちゃんずのリーダー、すえです!」

 先手必勝!

 いぇ~い、と両腕を突き上げる。

 元気な挨拶はコミュニケーションの要。

 世の中生きていくためには必要だ。

「はじめましての人、はじめまして。すえちゃんずのサブリーダーのミンミンです」

 胸元で手を叩きながら軽く会釈した。


「セミ?」とすえ。

「ちがう、名前」

「お? 夏になると大変だね」

「なんで?」

「あちこちから呼ばれるんでしょ、ミンミンミンミンミンミンミンミン……」

「呼ばれるか!」


 振りあげたミンミンの手が、すえを襲う。

 甘いな、その動きはもう見きった!

 足を使った素早い動きで、攻撃範囲外に逃げると、すかさず背後に回り込んだ。


「とおぉ!」

 すえの必殺、ちょめちょめキックだ~。

「って、ツッコミよけたらだめでしょ」


 あっさりミンミンに避けられた。

 なんだとー、すえの必殺技が!


「ところで、ガムって、溶けないかな?」

「ガム?」

 いきなりか、とミンミンが首をかしげる。


「ずーっと噛んでもそのままかな。味はなくなるから、ガムにつけた香料をたのしんでるだけかな」

「まあ、そうじゃない。ガムはアメみたいに溶けないし」

「なんかもったいないよ、それを、ぺってするんだよ。いまはエコの時代、リサイクルを勧めるべきだ」

「すえにしては、まともなこと言うね」


 ひと言余計だ。

 うーん、そうだ!

「プリンターのインク容器みたいに、回収箱があって、そこにみんなでぺってする」

「おぉ!」

「それを知らないおじさんが回収して、工場に」

「なるほど」

「ふたたび味付けて、ねりねり~リサイクル商品としてお安く販売」

「ちょっとまったー!」


 うみみ? どうした、ミンミン。

 そんなおおきな声あげて。

 お腹でも痛いのか?


「落ちてるものを拾って食べるからだぞ」

「そんなことするか! 場合によっては……」

「するのか?」

 そうかそうか、すえの心の日記帳に書き記しておこう。

「いや……ともかく、そんなリサイクルはあかん。汚い。みんなが口の中に入れた物を、ぺっぺっぺっぺしたヤツ集めても、さすがにそれを食べたいとは思わないって」

「だめか……夢の発想だったのに」

「悪夢のね」


 うーん、それなら。

 すえは腕を組んで考える。


「こんなのはどうかな? 噛み終わったら、よく洗って干す」

「洗うのね」

「カピカピに乾燥したら、細かく砕く」

「ほお」

「そして鳥の餌に」

「食べるか! いや、さすがに無理だと思う」

「じゃあ、アリさんにまかせよう。きっと地中深くまで運んでくれる。そして、地中の水分すってベトベトに」

「あかんやん! どこがエコやねん」


 うみみー。

 ミンミンは怒るとこわい。

 どうしていきなり関西弁に変わるのだ。

 反則だ。

 レッドカードだ。

 ぴぴぴぴぴーで、退場だ。


「しょうがない、噛み終わったら口の中でまるめる。そして冷凍庫にいれて、アメのできあがり」

「できあがるか!」


 うぅ。

 ごめんなさい、無理でした。

 口の中に入れることができなかった。

 そのまえに、ミンミンに怒られた。


「もういい、お歳暮であげることにする」

「はい?」

「ハムの人に渡すんだ」

「ハムの人って、あのハムの人?」

「すえはすえをするから、ミンミンはハムの人だ」

「はいはい、わかりました」

 役割分担をして向かい合う。


「いつもありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、これ」

 すえはそっと差し出す。


「なんです?」

 手にするミンミン。


「つまらないものです。よかったらどうぞ」

「そうですか、ちょっと中身を……」

 受け取って箱を開けるしぐさをする。

 口を思いっきり開けて、驚愕の表情をするミンミン。


 だめだ!

 いくら温厚なハムのひとでも、刺してくる。

 こんな世知辛い時代だから、まちがいなく刺されちゃうよ。


「ガムは使い方をまちがうと、危険な食べものだ」

「危険なのは、あんただって」

「みんなも気をつけるのだぞ」

 どうもありがとうございました、と頭を下げて舞台の袖に走っていった。



 画面には手書きの『出場者募集』が映し出された。


『番組では出場者の募集をしております。ハガキに、住所・氏名・電話番号・芸名・簡単なプロフィールをそえて、画面に出ておりますごらんの宛先までご応募下さい。また、携帯電話やインターネットの受付も行っております。ごらんのアドレスのサイト画面にあります、出演者募集をクリックして、画面の説明通り入力していただきますと応募できるようになっています。ちなみに、出場した方々には、特製携帯ストラップと、たこ焼きが贈呈されますので、ふるってご応募、お待ちしております』


 アニリクてんちゃん部屋の提供でお送りしました、と司会者が手を振る姿で番組は終わった。 

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すえちゃんず snowdrop @kasumin

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